LNCrawler

辿るように追うように逃げるように

シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

辿るように追うように逃げるように

リキャストタイム実質四倍というデメリット、実際に戦ってみた事でわかったのは致命的ではあるが致命傷ではない……という感じか。

確かにスキルが実質一回しか使えないってのは早急に解決しなきゃならんが、それはそれとしてスキルそのものが使えないわけではない。それにレベルアップやユニーク、レイド、エクゾーディナリーとのエンカウントや撃破で得たステータスポイントをぶち込んだステータスがある。

スキルが無くともサラブレッドトリケラトプス程度なら翻弄できる程度にはフィジカルによるゴリ押しができるってのは朗報といえば朗報か。

「うーん………」

「修理はいるか?」

「あ、うんタダならやって損はないだろ」

しかしなんだろうな、それだけじゃないんだよな。なんか 妙な違和感 ( ・・・・・ ) がある。フィジカルの話じゃない、妙に気が散るというか………寝不足?

「うーん……?」

「修理終わったぞー、生産武器じゃないのは分かってるが見れば見るほど超えたくなる造形だ……どうやったらこんな触れるだけで微ダメージが発生する刀身が作れるんだ?」

「ん、ああサンキュー」

アラドヴァルの耐久も戻った事だし先に進むとしよう。

基本的にこの樹海の攻略はプレイヤー達の間である程度のチャートが完成している。俺一人でなおかつスキルを専用のものに変えていれば臨界速で 跳び ( ・・ ) 抜ける事ができるわけだが今回はパーティ攻略だ、テンプレートに従うのが安牌だろう。

といってもその安牌も「色、性質、強さを問わず三つ首のティラノサウルスに遭遇した時点で全力で逃げる」なんてそれ攻略法なのか? と聞きたくなるようなものだが。

「とりあえずドラクルス・ディノサーベラスは近くにはいないっぽいですねー、例の赤い あいつ ( ・・・ ) が近くにいたらこんな平穏な樹海じゃないですもんね」

「最近は黒い方も増えてさらに運ゲーって話らしい」

「黒い………あー、エクゾーディナリーの方だっけか」

イムロンと火酒夏氏の会話に混ざる形で俺はあの少々熱の篭りすぎたシャウトを放つ兄弟の姿を思い浮かべる。

話を聞いた限りじゃ攻撃に対する耐性獲得と中々強力な個体であるらしいが、どうにも死にかけるほどタフネスになる" 緋色の傷 ( スカーレッド ) "を知っているから部位ごとにタフくなるだけのエクゾーディナリー君に危機感を感じないんだよなぁ……兄弟、あれ絶対体力残り一割がタフすぎて実質総HP2倍くらいあるタイプのボスキャラだろ?

下手したら鉛筆の聖槍みたいな防御の完全貫通でも耐えそうなヤバさがある。VITじゃないんだよな、HPの密度で1ドットすら減らないタイプのやつ。展開の盛り上がりとかでごまかそうにもゲンナリするクソボス寄りの存在。

「さっさと樹海を抜けちまおう、少なくとも沼地にはアレみたいなやばいのはいないんだろう?」

「安全ではナイ、が……アレほど危険ではナイ」

でしょうね、この樹海は今、そこそこな数がいる通常個体と倒されても時間経過で再び一体出現するエクゾーディナリー個体と例の兄弟がうろつく三つ首ティラノが環境の頂点に君臨している。

懸念があるとすれば貪る大赤依戦の時に一度だけ見かけたあの変な一つ目のサイクロプスか……多分レイドモンスターなんだろうが、奴の一撃はまだ兄弟が「傷だらけ」だったとはいえ一撃で九割九分九厘の命を消し飛ばしていた。レイドモンスターが本格的に活動している以上、あのサイクロプスも樹海にいる可能性は高い。大赤依が記録していたってことは樹海にいた、という可能性が高いのだから。

「まぁ、無用な戦闘は避けたいし急ぎつつ進んで行こうか」

……

…………

この樹海、兎にも角にも広いのでどれだけ頑張って駆け抜けてもいつかは三つ首ティラノのいずれかに遭遇するという面倒なエリアなのだがそれでも暇な時間というものはある。

このゲーム、恐ろしい事に一定歩数歩いたらエンカウントとかではなくモンスターが個々に活動しているので一体のエンカウントを皮切りに周囲のモンスターが寄ってくる事もあれば、全くと言っていい程エンカウントしない事もある。で、今は後者であった。

「で、教えてよ」

「何が?」

「オルケストラの報酬よ、真理書だけってわけじゃないんでしょ?」

「…………」

イムロンの言葉に半目で目を逸らす。聞かれるだろうなとは覚悟していたものの、今はあまり思い出したくない類の記憶であるのは事実だ。

「まぁそんなむくれないで、ホラ私控えめに言ってプレイヤーの中じゃ頭ひとつ抜けた鍛治師でしょ? 偽典報酬の武器に関してライブラリから意見を聞かれた事があって」

それ故に正典の報酬が気になるってことか。偽典と正典で報酬が違うってのは知ってたが……うーん。

「これ」

「何これ、ペストマスク? 悪趣味な金色だけど」

そう言ってられるのも今の内よ、これを装備すると……

ボボボボボッ!!

「うわきもっ!!」

「酷くない?」

今のはイムロンではなく 火酒夏 ( カシューナッツ ) 氏の方だ。イムロンは未知の頭装備に興味津々なので黄金のペストマスクを顔に装備した瞬間、仮面から湧き出た炎の中で見開かれた焔眼なんてものを見て「キモい」と声を上げるよりも優先されるものがある。

「やっぱこのゲーム、生産装備の自由度が高い以上にどういう原理で再現できるのか分からない非生産装備が多すぎるわね……」

「えー、蓮コラ一歩手前ですよこれ〜。もしかしてこの眼一つ一つに視界があったりするんですかね?」

「お、鋭いな火酒夏氏。これ色々検証したんだけど何処かの「眼」が塞がれてない場合、本体の目が潰されても視界が塞がれないんだよ」

スイカ割りで無敵になれるなこの仮面、とか思ったけどフラッシュバンみたいな閃光による視界潰しだと他の焔眼も影響を受けるから視界に関して無敵ってわけでもない。

「まぁ、今はちょっと使いづらいから装備しないんだけど……」

真界観測眼 ( クォンタムゲイズ ) や 星幽界導線 ( アストラルライン ) もレベル150の到達と同時に新たなスキルへと進化したわけだが効果時間の増加と共にリキャストタイムが長めになっているのだ。つまり今の体感四倍のリキャストタイムでは視覚系スキルの発動回数で効果を発揮する「 渡り鳥 ( ミグラント ) 」が活かせないので今のところインベントリアの肥やしだ。

そんなことを話しているうちに樹海を構築する樹々が太く高いものから低く細くなり、いつの間にか地面は腐葉土の柔らかさではなく水気を帯びたぬめる泥の地面に変わっていく。

「我が懐かしき沼地、我が愛しき沼地……」

ラダー氏のしんみりとした呟きを耳に入れつつも、VRとしては異常なまでに再現されている泥臭い湿った空気を吸い込む。

「こっち方面に来るのは初めてだ」

「私も、です……」

夜空の星を映す一面の沼。旧大陸の沼荒野よりもさらに広く水気を帯びた光景は現実ではそうそうお目にかからない幻想的なもので…………

ざばぁ。

その余韻を全部ぶち壊して泥の中から巨大な蟹が現れた。

甲殻類如きがエモさを台無しにしてんじゃねぇ! 逆位置の補正喰らってたってテメー如き蟹鍋にしてやるわァ!!!

・ラダー

「黒」の竜人族、蜥蜴人族との確執こそあったものの、「赤」の竜人族と比較するとノワリンが放任主義なので驚くほど待遇が良かったメンタル的にはちょっとくたびれたリーマンくらいな人。

「赤」の竜人族は乳首ジェットもといサンラクの二個上の兄(兄ではない)が嫁いびりの姑が美少女に見えるレベルのクソドラゴンだったので知り合いがいるラダー氏は竜災大戦以降、心配で彼らの様子を見に行きたい。

これが「黒」の竜人族によるユニークシナリオ「友を案じて」……要するに「はよ火山行けや」とゲームシステム側からせっつかれているのである

なお、このシナリオ中であれば三つ首ティラノとのエンカウント率が著しく下がる事は誰も知らない