LNCrawler

12月19日:敗北の先に、勝利の先に

シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 — ncode.syosetu.com · All chapters

12月19日:敗北の先に、勝利の先に

ちょっと短めだけど伸ばすのも蛇足かなと

◇

「………完敗だ」

単純な力比べ以前の時点に問題があったが、それを差し引いてもぐうの音も出ない完敗だった。

特殊状態「調伏」は命を奪わないが、代わりにスタミナゲージを消費するような行動を一定時間禁止する。物理的にスタミナが殆ど全損状態というのもあるが、この特殊状態はリスポーンすることでしか解消されないのだ。

とはいえ、地面に仰向けに倒れているカイソクが立ち上がりもしないのは、「調伏」の効果以前に精神的な理由によるものだ。

「得難い経験だった。きっと次は無いだろうからね……」

全米一位、と呼ばれているがその強さが北米大陸一つに収まっていないことなど、誰もが分かっている。

間違いなく世界最強のプレイヤーとの対戦経験はカイソクの人生における生涯の中でも屈指の 思い出 ( かがやき ) になるだろう。だが、何故だかカイソクは「それ以外」の感情が胸中にあることに気づいた。

「ふふふふふ」

と、勝利者である アージェ ( シルヴィア・ ) ンアウル ( ゴールドバーグ ) がこちらを見て笑い出した。敗者を嘲笑う類の笑みではないことはなんとなく感じ取れた。だが何に対して笑っているのか。

「なにか………僕が面白いポーズで倒れていたかな」

「いいえ、違うわ。でも貴方を見て笑ったのは事実ね」

カイソクは自身を省みる。少なくとも跳ね起きて走り出す、というのは「調伏」の効果で難しいが身体を動かすことそのものが不可能になったわけではない。その上で、身体を動かさずとも自分が大の字で倒れていることくらいは分かる。一体何が彼女の琴線に触れたのか…………少なくとも自分の何かを見て笑ったのは事実なのだから。

だが、カイソク自身が自覚していない答えをアージェンアウルはあっさりと答えた。

「だって………「次はどう戦えば勝てるか」って考えてる顔してるわよ」

「………………えっ?」

に、と笑顔を見せるアージェンアウルに、カイソクはそこで初めて………自分がアージェンアウルとの戦闘を反芻し、その動きを読み取ろうとしていたことを自覚した。思い出を優しく抱きしめて撫でるような、そんな 温い ( ・・ ) ものではない。先の戦闘における一挙一動を思い出し、あの時どうしていれば現在の結果を塗り替えられただろうかと………ずっと、自分がそれを考えていたのだと。

「アメリアも、レオノーラも、クォンもケイも………負けた時や再戦する時にその目をしてる。次は負けない、今日こそ勝つ、そんな目……ファイティングスピリットね」

「そうか…………………………そう、か」

まだ自分にもそれが残っていたのか。いや違う…………まだ、圧倒的な格上に対してそれを燃やせるだけの熱が残っていたのか。シルヴィア・ゴールドバーグと戦って、そこで満足するものだと思っていた。それどころか、対戦が終わった瞬間プロゲーマーとして満足しきってしまうのでは、とすら思っていた。

だが、どうやらまだまだ自分も完全燃焼しきってはいなかったらしい。

「Ms, アージェンアウル」

「何かしら?」

「きっと……いや、間違いなく僕の方が先に引退するだろう」

「そうね」

それはプロゲーマーとしての寿命もあるし、単純にいち生物としての寿命でもきっとカイソクが先に去る側になる。

「それまでに、また貴女の前に現れるよう努力しますよ。今度は……ギャラクシア・ヒーローズで」

だがそれは、逆説的にカイソクが去るその日までシルヴィア・ゴールドバーグが現役であるという事でもある。ならば挑もうではないか、何度でも………ゴールがあるとしても、どこでスタートするのかは自分で決められるのだから。

己と比べればはるかに格下の、そも彼女が戦うフィールドに一度しか足を踏み入れたことのないチャレンジャーの意思表示に、しかしアージェンアウルは笑みを浮かべた。ギラギラと、ともすればカイソク以上に闘志の熱を帯びた太陽のような笑顔で。

「勿論。その時は私も受けて立つわ」

そこで終われば再戦を誓う爽やかな終わりにも見えたかもしれないが………そこで、カイソクはふと思い立った。これでも一応新王陣営に属していた身、シルヴィア・ゴールドバーグが所属しそうな前王陣営と敵対していたからとこちらに所属したが………主義主張の善悪はさておき、あちらから見ればこちらが敵なのは事実だ。

その上で、正々堂々と戦って負けたのならば……… 敵役 ( かたきやく ) として、なにかこうすべきではないのかと。

魚臣慧 ( オイカッツォ ) に対して情報をリークしていたのは間違いなく裏切りのそれだが………こうもはっきりすっぱりすっきり負けたのならば、多少あちらに情報を渡してもそれは潔さではないか、と。

それはある種英雄的なアージェンアウルと戦ったからかもしれないし……本気でヒーローとヴィランが戦うゲームで生計を立てていたからかもしれないし、あるいは単純に改崎自身がギャラクシア・レーベルのファンであるからそういう お約束 ( ・・・ ) に弱いからとも言える。

「ところでアージェンアウル。王城の警備に”穴”があるのは知っているかい?」

ので、カイソクは新王陣営として作戦会議に参加していたからこそ気づいた重要情報を、綺麗さっぱり吐き出すことにした。コミックのヴィランがやるようなことを、自身がその立場になってやることに感動しながら……………

カイソクに一つだけ……そう、一つだけ誤算があるとするなら。

それを聞いたアージェンアウルがオイカッツォにその情報を共有することで、最終的に………そう、よりにもよって 誰に ( ・・ ) 情報が届いてしまうのかを、知らなかったという事だ。

へぇ、新王陣営は本拠である王城に警備を固めていると。まぁそれは当然だね、流石にそこを手薄にするのは奇策過ぎるし

何々?でも新王陣営は万が一の際、迅速な逃走をするために意図的に封鎖が甘い城門がある…………へぇーそうなんだぁ……………前王から聞いてた秘密の抜け道はブラフで爆弾系アイテムが敷き詰められている、ねえ…………そうなんだ…………

そうなんだ。

ああそうだ大公閣下、それにトルヴァンテ陛下。ちょっとお聞きしたいんですけどぉ…………王城って対空兵装とかってあるんですか?