親愛なる我が黎明へ 其の三十
親愛なる我が黎明へ 其の三十
「っ!!」
京極はあえてスキルを使わずに前へと踏み込む。
それは、「京 極 ( アルティメット ) 」ではなく「 京極 ( きょうごく ) 」として……龍宮院流の剣士としての一挙一動には、本来あり得ない加速や機動は不要と断じたが故に。
あるいは今まさに跳ねるように踏み込んだその一歩が……龍宮院流でありながらも現実現代のそれではなく、架空の幕末に拠るものであるが故に。
(加速は今じゃない、 あの ( ・・ ) タイミングで、現実じゃないからこそできる緩急を……!)
想起するのは京極が出会った中で祖父という強さの指標とは全く異質の、それでいてあるいは祖父に並び得るのではないかとすら思えた「幕末」最強の 剣士 ( プレイヤー ) 。
京極から見て「ゲームにおける対人戦という括りにおいてはプロゲーマーにも匹敵しているのでは?」と思わせるサンラクをしても「レイドボスさんは強さの段階が違う」と言わしめたプレイヤー……ユラ。
……
…………
体系化された剣を修める京極の目から見ても素人剣術のはずであるのに、その太刀筋は面白いように敵の首を斬り飛ばし弾丸を斬り落とす。
無論、ユラが現実でもそれが出来る人物だとは京極も思っていないが……では何故「幕末」で自分にも同じことができないのか、と思うのは至極当然な流れであった。
"物真似"が随分と得意なサンラクに一度問うたことがある。何故アレを真似ないのかと……返ってきた答えは実にシンプルであった。
───あの人は俺たちのコントローラーには存在しないボタン操作で動いてるから見様見真似でも上っ面すら真似できねえぞ。
匙を投げたような 古臭い ( ・・・ ) 例えを用いた回答に、しかしなるほど確かにと妙な納得を感じたのを京極はよく覚えている。
子供が枝を振り回しているかのような児戯を児戯のまま神技に昇華したような異質感。
まるでユラの敵対者がわざと攻撃を受けに行っているようにすら見える意味不明な光景。
錆びたなまくらがユラの手にかかれば神をも断ち切る斬鉄斬首の妖刀に化ける。
きっとあれは常人には認識すらできない何か、彼のみが独占する摂理に基づく"レイドボスさん"のみに許された剣技なのだろうと。
だがしかし、「それそのもの」にはなれないからこそだろうか。
中国拳法が虫や動物の動きに武を見出し取り入れたよに、上っ面の見様見真似であっても……絶技の一瞬であっても切り取り学ぶことはできるはずだ。
…………
……
(レイドボスさんの アレ ( ・・ ) ……すり抜ける横薙ぎ!)
ユラの斬撃は防ごうとしても防げない。
確かに刀を立ててその軌道を塞いだはずなのに、気づけば首が斬られている。
如何にゲームであろうと……否、ゲームであるからこそ実装されていないモーションができるはずもない。にも関わらず、ユラの刃がすり抜ける理由。答えは単純明快。
(減速と加速を混ぜて刀で刀を避ける……!)
狂人の理論でしかない。だがそれは事実、机の上ではなくその身で受けたからこそ京極はそれが可能であると知っている。
手首のスナップと、交差する推進力。
それを無理やり理解できる形に噛み砕くなら、攻めの受け流しとでも言えばいいのだろうか。
相手の攻撃を刃の上で滑らせて受け流すように、自らが前へ進めば待ち構える相手の防御は 自分に迫る刃 ( ・・・・・・ ) と見なすことができる。
故に前進しながら手首を捻って刃を流し、交差する瞬間に防御の奥に刃を再び差し込み首を斬る。
それを一秒も満たない一瞬で、複数人を相手に片手で成し遂げるユラのレイドボスたる所以に畏怖しつつも……見て盗み、試して学び、今こそ実践の時。
(素面じゃまだできない、でもシャンフロなら……!)
スキル「 瞬刻視界 ( モーメントサイト ) 」が京極の目に光を灯す。
引き伸ばされた視界の中で、なお速く真横に薙いだヨゾラの刀を避け、己の振るう刃をその先へと差し込む。
(……こんな差し込み方、土壇場で出来たとしても巻藁すら斬れるか怪しいだろうに)
実際にやるからこそ分かる。
言ってしまえば「一旦振るのを止めて相手の防御を避けた後にもう一度振る」としか言いようのない奇行。
それも相手の首の前から再スタートしているのだから、こんなもので何が斬れるというのか。
だがそれでいいのだ。
京極は龍宮院流をひけらかす為にシャンフロをやっているわけではない。
ならば、こんなこともできる。
スローモーションの世界が等速へと戻りつつある。
そんな中で、京極は己が会得したスキルを次々に起動してゆく。
二足三紊 ( にそくさんもん ) 、 風雷怒濤 ( ふうらいどとう ) 、 切り込みの極意 ( トップスラッシャー ) 、剣舞【 威閃 ( いっせん ) 】……
時間が戻る、等速の世界では思考する時間すらもはやない。であれば最後に使用を念じるスキルはただ一つ。
「 八種追閃 ( やくさついせん ) ……」
シャンフロのスキルは、プレイヤーの戦いを基に進化する。
それはただの経験値の蓄積ではなく……何と戦い、どう振る舞い、何処を目指したのか。
全ての「経験」を基にスキルは異なる形へと変質し、また新たに萌芽する。
例えばサンラクが狼の名を含むスキルを習得したように。
そして京極の場合においては……無視できぬデメリットと、それを補う速さと切れ味を齎す雷光の斬撃を好んで用いていたからこそだろう。
握りしめた刀に琥珀の雷が這いずり回る。
勢いを失ったはずの刀身が見えぬ力に峰を打ち据えられたのかの如く再加速、さらに踏み込む京極自身もまた速度を上げたことで本来は破綻しているはずの奇行が一撃必殺として息を吹き返す。
京極にはユラの……幕末のレイドボスのような理解不可能な絶技は使えない。だからこそ、シャンフロのスキルで補強する。
───秘技一閃。
シャンフロで人を斬り続けた雷光は、雷の神の名を冠した絶技を編み出し今ここに振り抜かれる。
「……「 土雷 ( つちいかずち ) 」!!」
ヨゾラから見れば、迎撃がすり抜けたかのような……あるいは、幽霊を斬ってしまったかのような。
振ってしまった刃は戻せない、戻すにしても遅すぎる。
今何が起きたのか?何をされたのか?何をすべきなのか? それは自分に ( ・・・・・・ ) もできるのか ( ・・・・・・ ) ?
彼女の根幹にあるものは求道。
強さを、生きる意味を、全てに疑問を抱き追い求める彼女の致命的な欠点。
未知に対する好奇心、それが彼女の動きをわずかに鈍らせた。
そして、その一瞬の隙は琥珀の雷によって斬り裂かれる。
破壊の力によって断たれた首が、胴体から離れて転がり落ちて……
レイドボスさんの認識する世界は全てがQTEで構成されてる、というのが一番近い。
朝起きて瞼を開くのも、起き上がるのも、立ち上がって一歩踏み出すのも、会話のタイミングにも、なんなら水滴が落ちるのにもレイドボスさんから見ると「理想のタイミング」がありそれを外すと不快感を感じる。
特に会話が鬼門でレイドボスさんからすると言葉のキャッチボールで相手の返球が全部ノーコンで拾いに行かされてる気分になる。
要するにユラの生きる世界は全てがQTEで構成されてるし、他人がQTEに失敗してる光景を24時間常に見せられてるような感じ。
だから自分の理想のタイミングを押し付け続けてるだけでいいし、文通で仲良くしてくれる幕末が理想の楽園という。
・八種追閃「土雷」
雷のワードを含むスキルや魔法を頻繁に使い、なおかつ刀をメインにしていると発現しやすい刀剣スキル。
サンラクも前者の条件を満たしているものの、あいつは刀を言うほど使わないので習得チャンスを毎回逃している。