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それは、満月のような

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それは、満月のような

白砂家に再度宿泊した日のことだ。「先日烏丸様は当家でとんだ災難に見舞われてしまったから、ぜひあらためておもてなしをさせてほしい」と親切な使用人たちが透を通して打診してきた。

その頃には自称実子の遺体運び・現場の清掃・警察の現場検証が終わっていた。透の怪我も癒えた頃に、あらためて白砂家へ招待をされたのだ。

俺は当主を救った大恩人として盛大に出迎えられ、客室に通された。仕立ての良いディナージャケットからドレスシューズまでが用意されており、俺は前世ぶりに全身をかっちりと決めた服装に身を包むことになった。

整髪剤で髪型を整え、革靴で食堂に足を踏み入れた俺に、透は眩いばかりの微笑みを浮かべて拍手を送った。透自身はミッドナイトブルーのディナースーツを着用している。

「よく似合っているね。それはわたしたちからの、心ばかりのお礼の品だよ。私が見立てて、細かいオーダーは屋敷で働く彼らが一つ一つ行ったんだ」

周囲を見ると、目の合ったメイドたちがニコ!ニコ!と微笑んでいく。俺は少し目を細めて会釈をした。

「そうか。お前と、ここの人たちが……。その厚意をありがたく受け取るよ」

「ふふ。こちらこそ、先日はわたしを……わたしたちを助けてくれてありがとう。では、食事にしようか」

夕食会では執事さんがその腕を振るい、食堂長机には赤ワイン仕立てのソースのローストビーフ、アスパラガスのソテー、彩り鮮やかなハーブサラダ、オマール海老のスープなどが並んだ。楚々としたメイドたちが次々と銀皿を運び、また下げていく。

血生臭い現場ではなく、日常生活を営む使用人たちの姿がそこにはあった。彼らは主人とその親友たる俺を、自分たちにできる仕事をもってもてなしてくれた。そのことが嬉しかった。

満腹の腹を抱えて煌びやかな大浴場で入浴を済ませ、透の寝室に向かったときのこと。

透は風呂上がりの清潔な手を俺に向かって伸ばした。透の髪に結ばれた水色の大きめリボンが揺れる。俺と、色違いだ。

「ね、弥咫郎くん。もう一つ、君に言っておくことがあったんだ」

なんだろう、と首を傾げて親友を見つめる。透は続けた。

「ここでは、目を伏せなくても大丈夫だよ。みんな、君の綺麗な瞳を見たいと思っているはずさ。もちろん、わたしもね」

俺は目を見開いた。透の双眸には、丸くなった俺の赤い目が映っているはずだ。透は軽く指を鳴らして、微笑んだ。

「そう、それくらい大きな目で良いのさ。良かったら、明日の朝食では心持ち大きめに、直接彼らを見てあげてくれるかな」

嬉しい。鋭い目はよく怖がられるから、対面ではなるべく伏し目にするように心がけていた。まさかこの歳になって、他人からそのように指摘されるとは。その心遣いが嬉しく、たまらなかった。

「わかった。お前がそういうなら、この眼は開けておこう。明日の朝食も楽しみにしているよ」

親友の肩を叩きながら、俺は慣れない洋館の廊下を歩いた。その足取りは、先ほどよりも更に軽くなっていた。