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OPENING PHASE
◆Opening00◆炎と刃
――熱い。
それはどうしようもない熱だった。
周囲の気温ではない。何かが燃えているわけでもない。
熱は、少年の体内――心臓から発されている。
ブレザーのジャケットごしに自分の胸を握りしめつつ、少年は目の前の男から目を離せない。今、離せばこの男は即座に自分を殺す。そう確信があるからだ。
視線の先の男は白く染まった髪の下で、じとりと少年を睨めつける。男の周囲には黒い風、としか思えない何かが渦巻いていた。黒い風に触れた草木が塵と化してゆく。尋常のモノではない。
「ちくしょう、なんだってんだ一体……!」
少年がうめく。
命を狙われる理由など、わからない。あの男が誰なのかもわからない。そして――。
この胸の熱がなんなのかも、わからない。
「ビビったか。じゃあ、死んじまえ」
男の言葉と共に、黒い風が広がってゆく。風は周囲を塵と化しつつ、少年に迫る。
――熱い。
炎が少年の胸でうごめいている。ぎゅう、と再び心臓を握りしめた
「……冗談じゃねえ」
彼の手が、ずぶりと自身の胸に入り込んだ。
「姉ちゃんを探すんだ。俺がやらなきゃならねえんだ」
自分の異変に、少年自身は気がつかない。
「こんなところで、死ねるかよ!」
叫びと共に蒼い炎が走った。
少年が自らの心臓から抜き放ったのは、蒼炎を纏った一本の刀。
刃の一閃が、黒い風を吹き散らす。
それは少年――不知火蒼牙が、日常の裏側に踏み出した瞬間。
彼が本当に超人(オーヴァード)になった、その第一歩。
そして、時間は少し巻き戻る。
◆Opening01◆春巻リッカ
焦った顔で少女は走る。必死の全力疾走だ。
ピンクの髪は跳ね飛び、大きな目はギュッとゆがみ、短く履いたスカートの裾は危ういめくれ方をしている。しかし、そんなことを気にしている暇は無い。
「やばいやばいやばいやばい……!」
つぶやきと共に、最後の角を曲がる。
行けるはず。あと数十秒は余裕があるはず。ギリギリ駆け込めるはず――!
「ああああ……!」
そんな少女の淡い期待は、今まさに閉められた校門によって打ち砕かれた。
彼女は 春巻 ( はるまき ) リッカ。H市高校に通う、遅刻の確定した高校二年生だ。
リッカ:ち、遅刻確定……! 終わった!
GM:ガシャン、と生活先生が校門の鍵を閉める。そして門の前に立ちはだかった。遅刻の生徒を叱るために。
リッカ:う、うう。
GM:まだ先生には見つかっていない。サボるも言い訳するも自由だけど。
リッカ:サボったら後で怒られるし。でも説教とかもイヤだよう。ええと、ええと。
GM:どうする?
リッカ:GM! 学校の壁とかに隙間ない? 十円玉くらいの大きさで良いから!
GM:そのくらいなら、探せばまああるだろう。
リッカ:それじゃあ――
壁に少し空いた穴を発見して、リッカは左右に視線を飛ばす。
誰もいない。見つかることも無さそうだ。
リッカ:よし。いや、ほんとはよくないけど……!
リッカは決意し、壁へと走る。
――それから数分後。
リッカ:ふう、危なかったー!
何故か生活指導の教師に見つかることなく、リッカは学校の下駄箱にいた。
GM:では、無事にリッカは下駄箱にたどり着く。すると、横合いから「おや、リッカくん?」という声が。
リッカ:うわひゃっ!?
GM:振り向くと、そこにいるのは生徒会長。名前は 岩清水晴虎 ( いわしみず・はるとら ) 。
七三に整えられた黒髪、ピンと伸ばされた背筋、生真面目そうなメガネ姿。
いつでも真面目な姿しか見たことがない。そんなクラスメイトであり、生徒会長こそが、岩清水晴虎という少年だった。
リッカ:な、なーんだ。晴虎くんかー。どうしたの?
晴虎(GM):「いや、ずっと正門にいたんだが、キミの姿を見ていなかったからね」
リッカ:え? そ、そう? 普通に入ってきたよ?
冷や汗が落ちる。
晴虎(GM):「では僕の見逃しか? 全校生徒に挨拶してから教室に向かう、というルーティーンは破れてしまったのか……?」
リッカ:いやいやいや! 全校生徒って! 真面目すぎるでしょハルくん!
晴虎(GM):「いいや、そんなことはないよ。生徒会長としては当然のことさ。むしろ、目指すべき生徒大会長の座にはほど遠い」
リッカ:……ん? 生徒会長はハルくんなってるじゃん。
晴虎(GM):「ああ、僕は生徒会長だ。でも、生徒大会長を目指しているんだよ」
リッカ:生徒、大、会長……?
晴虎(GM):「ああ、僕の高校生活をかけての目標だ!」
リッカ:それ、なに? あたし知らないんだけど……。
晴虎(GM):「ふむ、では教えてあげよう! 生徒大会長とは、生徒会長の器に留まらない、偉大すぎる人に与えられる称号だよ!」
GM:いっぺんの曇りもない眼で、晴虎は言い切る。
リッカ:…………。
晴虎(GM):「……リッカくん?」
リッカ:う、うん。がんばってね晴虎くん! 応援はしてるから!
GM:理解するの諦めたな……(笑)。
リッカ:うるさいな!(笑) とりあえず教室行く! もう授業だから! 早く!
晴虎を慌てて引っ張って、リッカは自分の教室へ入っていく。すると。
「よっ、遅かったじゃねえか。ギリギリだぞ」
声をかけてきたのは、制服を着崩し、首にヘッドフォンを下げた少年だ。目つきの悪さから不良のようでもあるが、顔に似合わぬノリの良さと優しさを持っていることを、リッカは知っている。
彼の名は 不知火蒼牙 ( しらぬい・そうが ) 。リッカのクラスメイトだ。
蒼牙:ハルはともかく、リッカがギリギリなんて珍しいな。寝坊か?
リッカ:おはよーソウちゃん。そーなの! 昨日夜更かししちゃってさー。
蒼牙:で、慌てて来たってわけか。……前髪ぐしゃぐしゃだぞ?
リッカ:うっわ、サイアク! ソウちゃんあっち向いて!
蒼牙:なんで俺だけ名指しなんだよ!? ハルもいんだろ!
リッカ:な・ん・で・も! ふう、これでよし……。
蒼牙:こっちが言っといてなんだけど、前髪ひとつで大騒ぎなヤツだなぁ。
リッカ:女の子は日々、必死に可愛いを作る生き物なの!
晴虎(GM):「その気持ちは僕にもわかるな。毎日鏡の前で、僕は生徒会長だ、今日もやれるやれるやれるやれるよし! と暗示をかけてから登校してきている」
リッカ:そんなことしてるの!?(笑)
蒼牙:すげえ心に悪そうだぞ! 大丈夫か!?(笑)
晴虎(GM):「ふっ、僕なんかどうでもいい。それよりも大事なことがあるだろう」
リッカ:あんまりどうでもよくない気がする(笑)。
蒼牙:それには同意だが(笑)。まあ置いておこう。大事なことって、なんかあったかハル?
晴虎(GM):「――誕生日、おめでとう!」
リッカ:え!? ソウちゃん、今日誕生日なの!?
蒼牙:…………あー、そういえばそうだった。
リッカ:なにその抜けた反応。
蒼牙:俺にとっては、姉ちゃんの誕生日ってイメージだからなあ。
リッカ:お姉さん?
蒼牙:そう、一個上の姉ちゃんでさ。 真白 ( ましろ ) って言うんだけど。
蒼牙は力一杯言葉を溜める。
蒼牙:すっっっっっっっっっっっっっっっごい、出来た姉ちゃんなんだよ!
リッカ:……え?
蒼牙:学力は常にトップ、あまりにトップを取り続けるから模擬試験から出禁をもらっている。運動も新記録を連発。世界的には「真白禁止」がささやかれててな。絵や音楽は世界を変えると言われた。身内の俺が言うのはなんだが、もちろん容姿だって抜群だ。一目見れば荘厳な音楽が流れてくるんだ(一息で言い切った)。
リッカ:(唖然とする)
蒼牙:そんな姉がいれば、自分の誕生日を忘れるくらいはするだろ?
リッカ:そんな当然、みたいな顔で言われても……。
蒼牙:ま、リッカも姉ちゃんに会えばわかるよ。
晴虎(GM):「そうだな。会えばわかる」
リッカ:ハルくんまで!?
晴虎(GM):「真白さんは僕の目標でもあるからな。なので、僕は平等にふたりにプレゼントを用意したぞ。真白さんにはラブソングを。蒼牙、お前にはライクソングを」
蒼牙:ライクソングってなんだよ!(笑)
リッカ:ラブほどじゃない好意の歌……とか?
蒼牙:それ普通の歌だろ!(笑)っていうか、しっかり差が付いてるじゃねえか!
晴虎(GM):「それでは聞いてくれ。岩清水晴虎で『友情~言葉にしなくても~』」
GM:と、バイオリンを取り出す。
蒼牙:どっから出てきたそのバイオリン!(笑)
GM:バイオリンの音色と共に、晴虎の歌声が朗々と響く。
晴虎(GM):(演奏を終えて)「ふう……。蒼牙、どうだった?」
蒼牙:……ま、まあ、ありがとな。俺はいい友人を持ったよ。ビックリしたけど。
晴虎(GM):「喜んでもらえてよかった。来年も期待していてくれ」
リッカ:っていうかさ、ふたりとも。
リッカが頬を膨らませる。
リッカ:ソウちゃんたちの誕生日のこと、初耳なんだけど!
蒼牙:まあ、俺自身も忘れてたからな……。
リッカ:もう! プレゼントくらい買わせてよ! 放課後買ってくるから、学校で待ってて! 絶対だからね!
蒼牙:俺の誕生日より姉ちゃんへのプレゼントを!
リッカ:ふたり分買ってくるに決まってるでしょ! まだ会ったことないけど!
そんないつものやり取りをしながら、リッカの頭はフル回転している。
こういう時、普通は何をプレゼントするのだろう? どのくらいの値段が常識的で、ドン引きされずに喜んでもらえるものなのか。
(何を渡したら、ソウちゃんは喜んでくれるかな……?)
GM:……と、その時。教室の端で、リッカにアイコンタクトを取ってくる男子生徒が。彼は廊下に出て行きます。
リッカ:むー……。ごめん、ちょっとお花摘んでくる! と言って、その子の後を追う。
リッカが教室から飛び出し、向かったのはとある空き教室だ。
「おはようございます、春巻さん。ずいぶんとご機嫌なようで」
眼鏡を光らせるのは、折り目正しく着こなした制服の第一ボタンまで留めた、神経質そうな顔立ちの少年―― 切島右近 ( きりしま・うこん ) だ。
切島は目を光らせて言った。
右近(GM):「僕らの『任務』のこと、忘れたわけじゃあないですよね」
リッカ:……!
空気が張り詰める。そう、春巻リッカには秘密があった。
蒼牙にも、晴虎にも明かせない。隠し通さなければならない、任務が。
リッカ:……大丈夫だよ。忘れたりなんかしてない。
右近(GM):「本当ですか? 『任務』のことを考えれば、一般人との不用意な接触は避けるべきでは?」
リッカ:あたしは仲良くしておいて損はないと思うんだけど。
右近(GM):「そうですか? 学校生活を楽しんでいるだけ、に見えますが」
リッカ:任務と学校生活、どっちも両立してるのー! ……右近くんは逆に肩の力抜いたら? せっかくの機会なんだし。
右近(GM):「不要です。僕たちには『任務』がすべてだ」
リッカ:任務も学校も、どっちも大事だと思うけどなー。
右近(GM):「ともあれ、気を抜かないように」
リッカ:はあい。
少し寂しい気持ちになりながら、リッカは自分の教室に戻る。教室ではクラスメイトたちが他愛のない話を、とても楽しそうに花咲かせているのが見えた。
任務は重要だ。それはリッカにだってちゃんとわかっている。
それでも――。
蒼牙:おーい、リッカ! そろそろホームルームが始まるぞー!
リッカ:うん、行く行く!
――この日常を楽しむことだって、今のリッカにはとっても重要なことなのだ。