LNCrawler

6-幕間4:夏の日の夢

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

6-幕間4:夏の日の夢

※6-20でサトゥーが見た夢のお話です。

※8/13 誤字修正しました。

それは夢、いつかあったはずの、遠い日の夢。

◇

「君も一緒に遊ぼうよ」

神社の賽銭箱の後ろから、恥ずかしそうに見ている 同い年 ( ・・・ ) くらいの女の子が気になって、 ボク ( ・・ ) は、勇気をだしてその子を遊びに誘ってみた。

「ボクはイチローっていうんだ。君は?」

「わたしは○○○」

「へ~、神社の子っぽい名前だね」

ボクはその子の手を引いて、境内で遊んでいた従弟妹達の所へ連れていった。始めは大人しかったその子も、 花一匁 ( はないちもんめ ) やかくれんぼをしている内に打ち解けて、綺麗な赤い髪の毛に負けないくらい明るい笑顔で笑うようになった。

楽しい時間は、あっという間に過ぎる。もう夕日が山の間に隠れそうだ。

「みんな、そろそろ帰ろう。○○○も途中まで一緒に帰ろうよ」

「わたしの家はここなの」

その子はそう言って、神社の社の方に帰っていった。

確かに聞いたはずの彼女の名前を、どうしても思い出せない。

◇

「そこに王子さまが、現れ、悪い竜を剣の一振りで倒してしまったのです」

「その話、きらい」

ボクが頑張って読み聞かせた絵本は気に入らなかったみたいだ。

すこし膨れっ面になった 年下の ( ・・・ ) 女の子が、赤味がかった橙色の髪の毛先を弄りながら唇を尖らせる。

「この神社は、りゅうの神様を祭っているのよ。水花姫っていうの」

女の子は胸を張ってちょっと得意げに言う。

この神社は、 天之水花比売 ( あまのみずはなひめ ) という神様が祭られている。

「そいでね、そいでね。水花姫は虹を渡ってやってきたの。この神社のある山の上で舞っているところを村の若者に見られて怒っちゃうの」

「どうして怒るの?」

女の子は、ちゃんと覚えていなかったお話を突っ込まれて口を尖らせる。

「う~、知らにゃい。きっとヘタだから怒ったのよ! 練習中はみちゃダメって」

「恥ずかしがり屋さんなんだね」

「そうなの、きっとそう!」

細い手で不器用に腕組みした女の子は、自分の話に納得するように、うんうんと頷く。

「そいでね! 怒った女神様は龍に変身して空に昇っていって3日3晩雨を降らせ続けたの」

「へ~、デコピン一発で許してくれてもいいのにね」

「う~、いいの! これは昔話なんだから!」

余計な突っ込みは禁止のようだ。

「舞をみちゃった若者はこの山の上で女神様に必死で謝ったの。そいで女神さんは許してくれて若者と結婚するの」

わけがわからないよ。

何? その超展開。きっと間の話を端折ったんだね。

◇

昼の社務所の縁側、耳に痛いほどの蝉時雨を聞きながら、ボク達はスイカを食べている。 少し年上 ( ・・・・ ) の彼女は綺麗な顔が台無しになるような勢いで、豪快にスイカに齧りついては種を庭に吹き出している。

「ちょっと、女の子なんだから手のひらで受けて皿に戻しなよ」

「イチローはバカね! こうやって食べるからスイカは美味しいんじゃない! こんな事できるのは子供のうちだけよ。賢しい事を言ってないでアンタもやんなさい」

肩にかかるスイカと同じ緑色の髪を振り乱しながらオーバーアクションで力説する。

彼女はいつも元気だ。

◇

夜の境内、蚊取り線香の匂いに守られながら、ボク達は花火を楽しんでいる。

浴衣を着た彼女は大人っぽくて、編んだ薄い紫色の髪と首筋の後れ毛が色っぽくてドキドキした。

「知ってる一郎君。この神社の祭神の 天之水花比売 ( あまのみずはなひめ ) はね。昔一人の人間の若者と結婚していたの。でも相手は人間だから先に死んでしまうのよ。彼は死ぬときに水花比売に約束したの。『いつか再び生まれ変わって貴方の下に帰ってきます』ってロマンチックだと思わない?」

彼女は、少しうっとりしたように囁きながら、座った姿勢からボクを見上げる。

ボクより 遥かに大人 ( ・・・・・ ) な彼女が見せる子供っぽいイタズラっ子のような表情にドキリとする。

「生まれ変わりなんてあるのかな?」

「あるわよ」

ボクの言葉にはっきりと断言する彼女。

「でもね、生まれ変わるだけじゃダメなの。神と人では寿命が違うわ。また離れ離れになってしまう」

「好きな人を神様にしちゃえばいいんじゃない?」

「好きに神格を与えられるほど神様も万能じゃないのよ」

クールな彼女には珍しく言葉が熱っぽい。

「一人分の魂じゃ足りないの、幾つも縁り合わせないとね」

その言葉が少し怖かった。

◇

お爺ちゃんが飼っている犬のサトゥーを連れて境内へと続く階段を上る。

へんな名前の犬だけど、お爺ちゃんに犬をくれた人の名前が佐藤さんっていうらしい。うちの家族らしい適当な名前の付け方だ。

赤くない石の鳥居を潜って境内に入る。

「おう! 待っておったぞ、サトゥー」

「もう、ゲーム中以外はイチローって呼んでよ」

「ふふん、わしは犬の方を呼んだのじゃ」

「そうなんだ、じゃあ今日はゲームは止めて外で犬と遊ぼうか」

ボクが意地悪してそう言うと、彼女は偉そうな態度を崩してワタワタと焦りだす。

「ま、待つのじゃ、ワラワがやらねば誰がトロイア連邦をアカイア帝国から救うのじゃ」

「はいはい、遊ぶのは日陰に行ってからね」

僕たちは境内の風通しのいい日陰の縁側に並んで座る。リードを外した犬のサトゥーは夏の暑さにも負けず境内を駆け回っている。

ボクは鞄から取り出した2台の携帯ゲーム機――ジオポケのうちの1台を彼女に渡す。

コントローラーを動かすときのカチカチいう音が彼女のお気に入りだ。いつも電源を入れる前に小さな指でカチカチ鳴らして楽しんでいる。2台のゲーム機を通信ケーブルで繋いで電源を入れた。

「おお、始まったのじゃ」

ゲームはトロイア戦争をモチーフにした宇宙戦争モノのシミュレーションゲームだ。

子供向けにもかかわらず、索敵範囲や補給の概念まである。

「むぅ、また索敵範囲外から奇襲をかけよって。そんなだからキサマはサトゥーなのじゃ」

すごく理不尽な事を言われている。

「じゃあ、次のマップからハンデで『マップ探査』を1回分あげるよ」

「やったー、なのじゃ。どうせなら『彗星弾』も付けてたもれ」

「えー、『彗星弾』はダメだよ。一気に戦況が逆転しちゃうじゃん」

「そこがいいのじゃ! 1発だけ。の? 1発だけでいいから~付けてほしいのじゃ」

藍色の髪を振り乱して懇願する彼女に結局承諾させられる。泣く子と地頭には勝てないって言うもんね。地頭が何かは知らないけど。

「ふははは、くらえー なのじゃ」

彼女は楽しそうに『彗星弾』でボクの主力を駆逐していく。

そして、航行能力を失ったボクの弩級戦艦を鹵獲してホクホク顔だ。

「あー『彗星弾』は気持ちいいのう。オマケにお土産の戦艦まで手に入ってしまったのじゃ」

上機嫌の彼女だが、戦艦を自陣に引き込んだところで驚愕に変わる。

このゲームはトロイア戦争をモチーフにしている。当然、「トロイの木馬」に該当する戦法もあるのだ。

「うあ、戦艦からロボが湧き出てくるのじゃ。ああ、その空母は完成したばかり。だめじゃ、そっちの工場は手をだしたらダメなのじゃ~~」

ロボ達が内部から攻撃し補給設備が潰された彼女の軍に、伏せてあった本当の主力部隊を突撃させる。ギリギリだったが、戦いはなんとかボクの勝利に終わる。

「うう、酷いのじゃ。小さな女の子への配慮がないのじゃ」

「ほら、戦いは全力じゃないと相手に失礼じゃないか」

「ふーんなのじゃ、サトゥーなんて嫌いなのじゃ。一生ツルペタにしか好かれない呪いをかけてやるのじゃ」

冗談でも酷い呪いだ。うちのクラスでも巨乳アイドルが一番人気なのに。

ここは別のゲームを出して話を逸らそう。

「はいはい、次は別のゲームでもやろうか?」

「どんなのじゃ?」

「これはねRPGって言って、弱いキャラが雑魚を倒して強くなって最後に魔王を倒すゲームなんだ」

我ながら身も蓋も無い説明だ。

「おお、魔王を倒すのか! すごいのう! ところで魔神は倒せんのか?」

「このゲームは隠しボスが何種類かいるんだけど、神様や魔神も確かいたはずだから倒せるよ」

「それはいい! さあ、やるぞサトゥー! はやく起動するのじゃ!」

いつも高いテンションが、今日は振り切れている。彼女に付き合って、その日も日暮れまでゲームで遊んだ。

ゲームは1日1時間までなんて、守れるわけないよね。

◇

境内の隅、ちいさな泉のほとりで彼女は分厚い本を読んでいた。

「おはよ、今日は何を読んでいるの?」

「うむ、『神は死んだ』とか寝ぼけた事が書いてあったので興味を引かれたのじゃが」

「へー、神様って死ぬの?」

「うむ、死ぬぞ。じゃが、死ぬだけだ。放って置けば勝手に蘇る。神は不滅じゃからな」

「それは死ぬって言うの? 単に仮死状態なんじゃ?」

「いや肉体的には死ぬのじゃ。一度死んだ後で、精神体になった神が、己の魂を作り、新しい体を作り上げて復活を果たすのじゃ。もっとも、上位の神であれば、そんな面倒な手順を踏まんでも、あまねく世界に遍在する故、死んでも一瞬の後に復活を果たすのじゃ」

そこでクフフと笑う少女。

「まるでお主のようじゃ」

意外な言葉にボクは目を丸くする。

「そうじゃ、お主はどの世界でも、どの時代でも、いつもイチローじゃ。まるで時空を超えて遍在するように、我がいかに変わろうと同じように友になり、接してくれる」

彼女の不思議な言葉の意味を聞く前に、彼女の母親が、彼女を呼ぶ声が聞こえてきた。

「ふむ、時間だな」

彼女の神秘的な青い色の髪が、墨を垂らしたように黒く染まっていく。

彼女の髪が違う色に見えるのはボクだけらしい。

そして黒髪になった彼女は、いつも別人のように丁寧な口調で話しかけてくる。

「ねえ、鈴木君。良かったら私のカグラ舞いを見ていかない?」

カグラ舞い? ああ、神楽舞いか。

オレのシャツの裾を恥ずかしそうに引っ張る彼女のはにかんだ笑顔に惹かれて、神社の舞台へと付いていく。

巫女装束に着替えた彼女が、舞台の上で舞う。

「ヒカルの舞いも上手くなってきたでしょ?」

「はい、本職の巫女さんみたいです」

「うふふ、お金を貰っていないから職じゃないかもしれないけど、あの子は本物の巫女よ。舞は神をその身に降ろすためのモノなの。よく見て目に焼き付けておきなさい、 サトゥー ( ・・・ ) 。いつか貴方の役に立つ日がくるわ」

食い入るように舞を見つめるオレの横でそう語ったのが、彼女の母だったのか、それ以外の 何か ( ・・ ) だったのかは判らない。

そんな謎めいた言葉より、ボクは、一心に幼馴染の少女の舞を見つめていた。

◇

オレ ( ・・ ) は俯瞰した視点から、自分の夢を見つめる。

もう名前も覚えていないが、オレの幼馴染は黒髪だったはずだ。年もオレと変わらなかったはず。

きっと大学時代に作った、神社を舞台にした自作ギャルゲーの記憶と過去の思い出が混ざったに違いない。あんなにカラフルな髪でもゲームなら普通だ。

だが、ゲームに無いセリフは何だったんだろう?

『忘れなさいイチロー、必要なその時まで。私達の想い出は心の奥にしまっておきましょう』

幾人もの少女が重なるようにオレに囁きかける。

その懐かしい声にオレの意識は、深い眠りに沈んでいった。

謎めいた回でしたが、最終章まで伏線の回収予定はありません。

また、謎っぽいセリフの全てが伏線というわけではないのでご注意ください。あくまで夢です。

元々は第一章の序盤につける予定の話だったんですが、当時は上手く書けなかったので保留していた話です。当時と言っても3ヶ月しか経ってませんけどね。