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8-8.トルマ邸にて

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8-8.トルマ邸にて

※2015/4/4 誤字修正しました。

サトゥーです。日本人の家はウサギ小屋と評される事がありますが、一人暮らしだと1LDKで十分だと思うのです。広すぎても掃除や片付けが面倒ですからね。

◇

「今度は何を作ってるの?」

「ワイヤーだよ」

今日の工房見学は午後からの予定なので、暇な時間を工作に費やしている。ワイヤーと言っても、単なる鋼糸ではない。麻糸に 魔液 ( リキッド ) を絡めた物と縒り合わせる事で、任意に動かす事ができるようにしたものだ。なかなか自在に動かせないので、編み方を考えた方がいいかもしれない。

さっきから膝の上のタマがワイヤーに絡んでくるので、なかなか作業が進んでいない。ミーアに頼んで毛糸で釣ってもらうのだが、ワイヤーの方が楽しいみたいだ。

ミーア、飽きたからと言って、タマと一緒になってワイヤーに絡むのは止めてくれ。

「ふっふっふー、何を作ろうとしてるかわかったわ!」

ほう?

「ズバリ、蛇腹剣ね!」

なんだ、そりゃ?

ワイヤーと何の関係があるのやら。

「普通にワイヤーとして使うつもりなんだけど?」

「えー、つまんないー」

アリサのいう蛇腹剣は、とあるアニメに出てきた武器で、剣をぶつ切りにしてワイヤーで鞭状にしたり剣に戻したりできる空想武器なのだそうだ。三節棍みたいなものだろう。

およそ実用的な品物には思えない。

アリサにそう言ったら「ロマンなのよ」と返された。ロマンなら仕方ないな。

もっとも、任意に操作できるワイヤーも術理魔法にある「 理力の手 ( マジック・ハンド ) 」や「 理力の糸 ( マナ・ストリング ) 」があれば不要になりそうなので人の事はいえないかもしれない。

◇

午後からの工房見学が思ったより早く終わってしまったので、先日約束したトルマ邸へ顔を出しに行く事にした。

随行者は、ナナとアリサ、それから何故かカリナ嬢とメイドのピナを含めた4人だ。ポチとタマが来たがらなかったのは当然として、他の皆もトルマには会いたくないそうなので置いてきた。えらく嫌われたなトルマのおっさん。

リザはついてくると言っていたが、ルル達に護身術を教えてやってほしいと頼んで置いてきた。へたに連れていっても不快な思いをさせる可能性が高いからね。

そうしてやってきたトルマ邸だが、シーメン子爵邸の敷地内にある離れという話だったので、3LDKくらいの小さな家を想像していたのだが、オレ達が借りている館なんて目じゃないくらいの豪邸だった。トルマ邸の近くの勝手口からお邪魔したので本邸は見ていないが、きっと立派な建物なのだろう。

儲かってるなシーメン子爵。いや、代々の権勢の賜物と考えるべきだろう。

「ご無沙汰しています、ハユナさん」

「お久しぶりです、サトゥーさん。あら、サトゥーさんなんて呼んじゃダメよね。爵位を賜ったのだから家名で呼ばないといけないのかしら」

久々に会ったハユナさんは、気安さはそのままに貴族の奥方然とした衣装に身を包んでいた。けっして華美ではないが、品の良い高級な仕立てだ。マユナちゃんは乳母っぽい中年メイドさんがあやしている。

「幼生体よ、わたしは帰ってきました」

ナナがマユナちゃんを指でつつくと、小さい手で、その指をキュッと掴む。その仕草に、ナナの表情がとろけそうな感じになっている。

一方、その様子を興味深そうに見つめるカリナ嬢だが、決して赤ん坊に近づこうとしない。

「カリナ様も抱いてみますか?」

ハユナさんがそう水を向けてくれるが、カリナ嬢は、フルフルと首を横に振るばかりだ。そういえば、トルマの前だと大人しいな。案外、初恋の相手だったりするのかもしれない。

◇

「カリナ様は、歌劇場は行きましたか?」

「いえ、なかなか機会が無くて……」

「是非、行くべきですよ。妖精シリルトーアの奇跡の歌声は一度聴いておくべきです!」

「へー、妖精ってエルフ?」

「妖精の区別はつかないけど、たぶんエルフだと思うわ」

オレ達は、テラスで軽食とお茶を摂りながら雑談をしている。

借りてきた猫状態のカリナに気を使ったハユナさんがいろいろと話題を振っているが、なかなか合わないようだ。ハユナさんが空回りしないようにアリサがフォローしている。もちろん、ナナは、赤ん坊に夢中だ。

「そうだ、サトゥー殿」

「何でしょう?」

この後のトルマが何を言おうとしたのか、それは永遠に謎のままとなった。

植え込みを掻き分けて現れた彼女が場の空気を染め変えたからだ。

「あら、トルマ兄さん、駆け落ちしたって聞いてたけど、帰ってたの?」

「やあ、リーン、久しぶりだ。すっかり綺麗になったね」

現れたのはリーングランデ嬢だった。トルマの事を兄と呼ぶのは幼少の頃の癖らしく、実際は従兄弟らしい。今日は鎧や大剣は持ってきていないようだ。赤い騎士服っぽい衣装に細剣を下げている。しかし、登場の仕方から見て誰かに追われていたのかな?

「トルマ兄さん、悪いけどしばらく匿ってくれないかしら」

「いいとも。リーンの頼みを断った事なんてないだろう?」

「ありがとう、兄さんはいつも頼りになるわ――」

トルマに親しげに礼を言いつつ、周りの人間に目を配るリーングランデ嬢だが、オレを視界にいれるなり、 眦 ( まなじり ) を決して詰め寄ってくる。

「あなた、セーラに言い寄った挙句に、今度は外堀から埋めるつもりですの?」

言いがかりも甚だしい。大体、セーラの説明で誤解が解けたはずなのに。

アリサがチラリと視線を送ってくるが、口を挟まないようにジェスチャーで抑える。

「恐らくセーラ様の事を仰っているのでしょうが、下町の炊き出しの手伝いでお会いしただけですよ」

オレが根も葉もない誤解だと伝えるのだが、KYな彼はやはり要らない事を言う。

「サトゥー殿の狙いは、セーラだったのか、てっきりムーノ領から連れてきているからカリナと結婚するつもりだと思ってたんだけど。8人もいてまだ足りないのか、若いっていうのは羨ましいね」

「トルマ兄さん、今の話は本当ですか?」

「うん? 大体本当だよ」

オッサン、誤解を生むような発言は控えてほしい。8人って、カリナ嬢を数に含めるのは止めてください。

「可愛いセーラを9人目の愛人にですって? 許せないわ」

「え~っとリーングランデ様? 何度も言いますが、誤解ですよ?」

彼女は細剣を抜いてこちらに突きつけてくる。

「言い訳無用。一度、性根を叩きなおしてあげるわ。それとも、その腰の剣は飾りかしら?」

飾りなんだけど。

そう言ったら怒りそうだ。言わなくても怒りそうだけどね。

アリサはニヤニヤ笑いを噛み締めて「やっちゃえば~?」とか無責任に煽っている。ハユナさんは状況がよくわからなくて困り顔だ。ナナはキリッとした顔で「マスター、御武運を」と言った後、赤ん坊の相手に戻ってしまった――信頼されていると思おう。

こういうときに一番に絡んできそうなカリナが静かだ。まだ猫を被っているのかと思ったら、何やら険しい顔をしている。小声で「リーングランデ? 従姉妹のリーン? アレが勇者の仲間になった天才魔法使い?」とかブツブツ言ってる。これならいつもみたいに「勝負ですわ」とか言われた方がマシだ。

何か確執があるみたいだから関わらないでおこう。

「分かりました、力不足ですが一手ご指南頂きます」

仕方ない。

せっかくだから、戦い方を教えてもらおう。魔王にもバカにされたところだから丁度いいだろう。

彼女の立つ中庭に進んで妖精剣を抜くと、リーングランデ嬢やハユナさん達が息を呑む。「綺麗」と呟いたのは誰だったのだろう。

魔力は篭めず、軽いままの状態の妖精剣を振るう。

リーングランデ嬢の細剣が、予備動作無しに突き出される。頬を掠めるコースだ。軽い細剣だけあって、その突きは素早い。

それを下段に構えた妖精剣で軽く払う。

妖精剣が触れるより早く引き戻された細剣を抱き込むようにして、妖精剣を振り上げて無防備になったオレの懐に潜り込みながら、細剣を突き上げてくる。

ちょっとリーングランデ嬢? それって心臓を貫くコースですよね?

寸止めするつもりだとは思うが、セーラ嬢に付きまとう虫は死んでもいいとか考えてそうで怖い。

妖精剣を持つのとは逆の手で短杖を抜きつつ、細剣を捌く。もちろん、短杖で細剣を受け止めたら、短杖なんて簡単に斬り飛ばされるが、とっさの動きで短剣に見えたらしく、リーングランデ嬢が細剣を引き戻して距離を取る。

「ふむ、なかなかやりますわね。伊達にミスリルの剣を持っているわけではなさそうね。バレバレの視線で素人の振りをしたのね。まさか次の手の布石だとは思いませんでしたわ」

そうか視線か。気にしてなかったな。

その後の数合で視線を利用したフェイントなんかの使い方や、呼吸の読み合いなんかのスキル外の技を色々と学ばせてもらった。

誤解されるのも、たまには良いものだ。

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