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8-23.勇者とサトゥー(2)[改定版]

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8-23.勇者とサトゥー(2)[改定版]

※9/15 誤字修正しました。

※8/12 改稿しました。

サトゥーです。格闘ゲームは必殺技が楽しそうで始めたのですが、次第に対人戦での技の読み合いに魅かれるようになりました。

さすがに、自分自身が格闘ゲームの様に動ける日が来るとは思っていませんでしたけどね。

◇

「迎えに来たぞ、マイハニー!」

扉を開けて入ってきたのは、勇者ハヤトだ。膝の上で丸くなっていたタマがビックリしてヒザに爪を立てる。ちょっと痛い。左右のポチとミーアも固まっている。

平和な絵本タイムに乱入とは、困った勇者だ。

「なん……だと」

そして、なぜお前が愕然としてるんだ、勇者ハヤト。

いったい、何に驚いているのやら。

別に変な事は無い。ポチにせがまれて絵本を読んでいただけだ。大き目のソファーに腰掛けて、久々のノンビリとした午後を楽しんでいた。タンクトップにショートパンツと涼しげな格好だが、私室だし問題ないだろう。

足元の絨毯の上で寛いでいたルルとナナは、薄手とはいえワンピースなので露出が多いという事もない。瞑想するような姿勢で目を閉じて絵本の朗読を聞いていたリザが静かに立ち上がる。ほんの少し目元に怒りを感じる。意外にリザも絵本の朗読とかを聴くのが好きだからな。邪魔されれば怒るか。

ミーアがハヤトの視線を怖がって、オレの背もたれの後ろに潜り込もうとしていてくすぐったい。

「あら、勇者さま、ノックも無しに入室するなんて、お行儀が悪いですわよ?」

お澄ましな喋り方も、オレの足を撫でた姿勢のままだと少し滑稽だ。まったく、絵本の朗読を聴く振りをしたセクハラはいい加減止めてほしいものだ。

「勝負だサトゥー! 貴様は俺を怒らせた!」

血の涙を流さんばかりの顔で絶叫する勇者を、後ろから追いついてきたリーングランデ嬢達が押さえ込んでいる。

まったく、訳が分からないよ。

◇

メリーエスト皇女に失礼にならないように、動きやすい騎士服に着替えて中庭に出る。勇者と勝負するつもりは毛頭無いが、勇者達が待っている以上出向かないわけにはいかない。

「本当に勝負するんですか?」

「するわけ無いよ」

心配そうに聞いてくるルルに、軽い調子で返す。

勝負しても実力がバレるだけで、何のメリットも無いからな。

「ようやく来たかサトゥー!」

本館の巨乳メイドさんに 傅 ( かしず ) かれていた勇者が、中庭の東屋からアロンダイトを肩に担いで出てきた。

「いざ、尋常に勝負だ!」

「お断りします」

アロンダイトを真っ直ぐこちらに向けながら、勝負を挑む勇者に、にっこり笑顔ではっきりと断った。

断られると思っていなかったのか、呆けた顔になる勇者。なぜ断られないと思ったのか小一時間問い詰めたい。

だって、勝負してもデメリットしかないよね?

「理由を聞こう」

「勝負する 旨味 ( メリット ) が無いからです」

「へー、勝てないからって言わないのね」

勇者への答えを、メリーエスト皇女に突っ込まれた。

「もちろん、勝ち目が無いのもありますが、万が一勝てた場合でも 旨味 ( メリット ) がありません。勝負する甲斐がないでしょう?」

「勇者と剣をあわせた事があるなんて、帝国でもめったに無い栄誉よ?」

あなたは、勇者とオレを戦わせたいんですか?

「その栄誉は、騎士達や武闘大会に参加するような戦士達に与えてあげてください」

「あなた、ハヤトに勝てないとは毛ほども思っていないでしょう?」

「メリーエスト様、その決め付けは無理がありますよ。彼は勇者様ですよ? 魔王と匹敵するような存在に勝てるわけ無いじゃないですか」

なんでもありならともかく、歴戦の勇士と普通の剣術の勝負で必ず勝てるとは思ってはいない。実際、ドハル老との立会いでも実力を隠していたとはいえ、詰め将棋のような立ち回りで敗れている。

「そう? あなたは、絶対強者に対する崇拝も、羨望も、嫉妬も、そして恐怖すら抱いていない。違うかしら?」

まあね。

「おい、メリー。難しい話で俺様の勝負をジャマするな」

「あら、ごめんなさい。この子の反応が珍しくて、つい、ね」

さて、本題に戻ってしまいそうだが、どうしたものか。

そういえば、アリサが静かだな。

「ぐふふふ、『私の為に戦わないで』とか、なんて美味しいシチュかしら」

こっちは小声とはいえ何を言っている。

「よし、こうしよう。お前はアリサ姫を賭ける。俺様は俺様にできる事ならどんな望みでも叶えよう」

大きく出たな。

なら、彼の船とか欲しいな。

「次元潜行艦や彼の聖剣、聖鎧は帝国からの貸与品だからダメよ」

オレの内心を感じ取ったのか、メリーエスト皇女が釘を刺す。ムーノ男爵の長話では、勇者は召喚時に聖剣を持って現れると聞いたんだが、実際は違うのかな?

情報の収集とかはナナシでできるから、別段サトゥーで収集する必要はない。そうだな、いつかオレだけじゃ対応できない事態が起こったときの保険になってもらうか。世界の2箇所で同時に魔王が発生したら対応できないからな。

それにサガ帝国にコネができたら、シガ王国に居られなくなった時に匿ってもらえそうだ。

◇

結局、勇者と立会いをする事になってしまった。

オレから出した条件は3つ。

1つ、オレ達の決闘は誰も見ていない場所で行う事。

1つ、勇者はユニークスキルやアクティブ系の戦闘スキルを使用しない事。

1つ、アリサの所有権譲渡は 強制 ( ギアス ) の解除後にアリサの意思を優先する事。

ただし、メリーエスト皇女が難色を示したので、各々見届け人を1人だけ連れていく事になった。リーングランデ嬢も付いてきたがったが、彼女に見られると色々面倒な事になりそうだったので、阻止した。

2つめの戦闘系スキルは、オレも無しになるはずだったのだが、アリサの公平じゃないという主張が認められてこうなった。

オレたち4人は、公都地下にある見捨てられた闘技場にやってきている。

地下道で暮らす知り合いに教えてもらった場所で、100年前までは、闇格闘大会が開かれていた場所だそうだ。

メリーエスト皇女の光魔法で、部屋が照らされる。

高さ10メートル、半径20メートルほどの広い空間だ。観客席も含むので、実際に戦える場所はもっと狭い。

ここに来る前に少しアリサの真意を聞いたが、やり過ぎない範囲で友情を深めて情報交換するべきと言っていた。アリサと勇者の間だけで十分な気がするのだが、どーしてもと懇願されたのに絆された訳ではないが、秘密にしすぎるとアリサの時みたいに、かえって事態が悪化するので、説得に乗った。

勇者相手に「やり過ぎない範囲」というのが難しいが、寸止めという事なので、ストレージの武器を使い捲くったり、中級魔法を乱打したり、相手の剣を素手で受け止めたりしなければ大丈夫だろう。

「ここなら、多少派手に戦っても大丈夫みたいね」

ここに来る前に、白い革鎧に着替えてある。

「ちゃんと寸止めするから安心しろ」

「はい、信用してます」

礼儀としてそう答えたが、その肉食獣みたいな表情の何を信じろと。

「勇者様、寸止めですよ。相手を殺したら負けですからね。その時は私もサトゥー様の後を追わせていただきます」

「うむ、手加減なら得意だ、任せろ」

アリサが釘を刺してくれているが、勇者はデレデレとしているだけで本当に分かっているのか疑問だ。

「3本勝負で2本先取した方の勝ちとします」

メリーエスト皇女が勝敗について伝えてくる。

「わざと負けるのは、禁止ですよ!」

「当たり前だよ、マイハニー。結婚したら帝都に白い家を建てよう。庭には大きな犬を飼うんだ」

アリサは、たぶんオレに言ったんだろうけど、勘違いしたハヤトが何か語りだしてしまった。意外に乙女な趣味だな。

「ほんと~に手抜きはダメよ! わたしだけじゃなく、ルルまでセットで居なくなると思いなさい!」

小声でオレに念を押すアリサ。

どういう理屈かは知らないが、ルルを引き合いに出さなくてもアリサを譲る気は無い。アリサが本当に望むなら笑顔で送り出すが、それ以外なら傍にいればいい。

「大丈夫だよ」

不安そうなアリサに頷く。しかし、変な所で自分に自信の無いヤツだな。

◇

勇者はユニークスキルだけじゃなくアクティブスキルも禁止か。公平にする為に、オレもメニューを閉じた方がいいかな。メニューをOFFにしても交友欄の最後の設定は維持されるみたいだし、いいだろう。

久々に、メニューをOFFにする。

視界が広い。

オレは妖精剣、ハヤトは聖剣だ。自重しろ勇者と言ってやりたいが、慣れた剣の方が寸止めしやすいと言われては否応もなかった。

「両者位置について、コインが地面に落ちたら試合開始よ!」

アリサがコインを上に弾く。

魔王との戦いの後に、色々な事を学んだ。

視線の動き。

体の重心の位置。

筋肉の動きを映した僅かなシルエットの変化。

そして呼吸――

アロンダイトの切っ先の下を潜り妖精剣を心臓に突きつける。

コインが石畳を打つ澄んだ音色が消える前に勝負はついていた。

「一本目、サトゥーの勝ちぃ♪」

おい、審判。

「何をやっているのハヤト! 大して速い動きじゃないのに、わざと相手に一本与えるなんて、相手を侮辱しているわよ」

外野のメリーエスト皇女がハヤトを叱っているが、彼の耳には届いていないようだ。

「驚いたな、本当にレベル30の動きか?」

驚く勇者以上に、オレは自分の動きにビックリしていた。いつもより体が軽い。何かのスイッチが入ったかのように、驚くほど、鮮明に情報が入ってくるような気がする。

勇者のアロンダイトの一撃も、軌道やタイミングが予想通りだった。黄肌魔族と勇者の戦いを観戦してハヤトの癖は知っていたが、それ以前にまるで未来が読めるように動きが予測できた。

その感覚を確認するために、2本目を戦う。

横斬りを、最小限のスウェーバックで避ける。

異常な速さで返ってきた剣を、剣を持つ手と逆側の手甲で跳ね上げる。

僅かな隙を見せた俺のわき腹を勇者の蹴りが襲う。

予測し、捌き、時にはわざと攻撃を受け止めて相手のバランスを崩す。

格闘ゲームで強いプレーヤーと戦った時のような気分だ。もう一度、ドハル老と戦ってみたい。今度はもう少し手玉に取られずに戦えるはずだ。

もっと、もっとだ。

剣を振るう前の僅かな切っ先の揺らぎ、剣の柄を握る微妙な力加減、情報はどこにでも存在する。

勇者との戦いを体の隅々で味わう。

そして――

楽しい時というのはあっという間に終わった。

>「先読み:対人戦スキルを得た」

>称号「剣の舞手」を得た。

※絵本のシーンにリザのカットを加筆しました。

※8/12 改稿しました。

⇒ アリサはハヤトに対してお澄まし口調のまま。

⇒ サトゥーはハヤトとの対決に乗り気じゃない&断る

⇒ 対決への流れの変更。

⇒ 対決場所は地下迷宮では無く、地下通路の先にある闇闘技場。

⇒ アリサのユニークスキルは未公開。歩いて闘技場へ。

⇒ メリーエスト皇女も対決の場に参加。

⇒ 対決の条件の変更。

※感想の返信について

感想返しが追いつかないので、個別返信ではなく活動報告で一括で返信させていただいています。