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9-1.魔狩人の街へ

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

9-1.魔狩人の街へ

※8/11 誤字修正しました。

サトゥーです。小さい頃は 仕事中毒 ( ワーカーホリック ) の父は夜遅くに帰宅し、早朝に出勤していたせいかあまり顔を合わせた記憶がありません。もっとも、結婚をする前に同じような立場になるとは思いませんでした。

◇

久々の馬車の旅だ。馬車自体は公都の移動で毎日乗っていたが、綺麗に整地された公都の大通りと、未整備の片田舎の細い道では趣が違う。大河へと続く支流が街道と並行して流れているので、街道を進む馬車は他に数台しかいない。大抵は、支流を使って小船で輸送するようだ。

「がたごと~」「ゴトゴトなのです!」

街を出てからポチとタマが、やけに楽しそうだ。さっきから、揺れにあわせてオレの袖を左右から引っ張って揺らすので、メニュー内に表示している本が読みにくい。

「も~、何がそんなに楽しいのよ」

「わからないのです?」

「アリサはマダマダ~」

「ダメダメなのです~」

「むっか~、ポチとタマの癖になまいき~」

どこかのガキ大将みたいな事を言っているアリサだが、台詞ほど気分を害しているわけではなさそうだ。

御者席で前を向いているルルは、さっきからクスクス笑っているのを見ると理由を知っているようだ。

「ルル、笑ってないで知ってるなら教えてよ」

「だ~め、『くいず』なんだから人から正解を聞いちゃダメじゃない」

アリサはルルの答えに「ぐぬぬ」と乙女らしからぬ唸りを上げている。ルルのセリフはアリサがいつも皆に言っていた言葉なので、反論できないのだろう。

でも、オレにも判らないし、ヒントでも貰おうかな。

「ごめん、ポチにタマ。オレにも判らないんだけど?」

「がーん」「な、なのですぅ」

タマ、口で擬音は止めて。信じていた主人に裏切られた子犬みたいな顔で見上げる2人の頭を誤魔化すように撫でる。なんだろう、オレが悪いのかな?

「ご主人様をドクセン~」「一緒なのがいいのです」

「なるほど」

そういえば、公都にいる間、特に後半は、食事と就寝のときくらいしか一緒じゃなかったからな。滞在後半は皆が寝静まってから帰ってくる残業お父さんみたいな状態だったし、少しくらい甘やかしてあげよう。

「サトゥー」

リザやナナと一緒に 無角獣 ( つのなし ) で斥候に出ていたミーアが帰ってきた。 無角獣 ( つのなし ) からピョンと馬車に飛び移ってきたので、受け止めて馬車に下ろす。少し脂肪が付いてきたみたいだけど、まだまだ軽いな。アリサみたいにカロリー制限はしなくても大丈夫そうだ。

「ご主人様、この先で倒木が街道を塞いでいます」

「マスター、倒木の倒れ方が不自然です。作為的なモノを感じます」

倒木は盗賊達が馬車を止める為に配置したのだろう。リザ達が偵察に行く時に、街道から少し離れた低い崖の上に盗賊たちを見つけていたので、「 誘導気絶弾 ( リモート・スタン ) 」で既に排除済みだ。やはり魔法は便利だ。

「ポチ、タマ、作業服に着替えなさい。倒木を排除します」

「らじゃ~」「うけたまわり~なのです」

魔法で排除するとリザに言ったのだが、倒木を魔物に見立てた訓練をしたいとの事だったので許可した。みんなの魔剣の性能の確認をしたかったから丁度いいだろう。盗賊相手だと、よほど上手く手加減しないと確実に相手を殺してしまうからな。

「ご主人様、ちゃーじしてほしいのです」

「ダメ~」

「タマの言う通りだよ。自分で魔力を籠めないと訓練にならないよ」

上目遣いで小魔剣を差し出してくるポチのお願い攻撃をなんとか回避した。タマの援護がなかったら危なかったかもしれない。

リザのように魔刃を使える者は他にはいないが、ナナとタマも問題なく魔剣に魔力を充填できるようになった。 ただ、ポチだけが上手くいかないようで苦戦している。アリサの考察によると、魔力が少ないわけじゃなく、瞬間的に操作できる魔力量が多い為に上手く制御できないでいるようだ。もっともMP総量自体は、タマとポチに差は無いみたいだ。

「やった、できたのです!」

ようやく小魔剣に魔力を充填できたポチが、こちらを振り返って「褒めて」オーラをだしているので、「良くやった!」と褒めて頭を撫でておく。尻尾が千切れそうだ。

「1番、ナナ行きます。『殻』」

ナナが身体強化の理術で底上げされた筋力を存分に発揮して、体より大きな盾と片手半サイズの魔剣を構える。

ナナ、ポチ、タマの三人の魔剣はサイズこそ違えど、同じ魔法回路を持つ。

魔力を充填させた後に 合言葉 ( コマンド ) を唱えることで、剣に仕込まれた魔法回路が働く。『殻』は魔剣の軸を中心に円筒形の魔力フィールドを発生させる。

本来は盾や鎧に仕込まれるべき回路なのだが、剣を鈍器のように使ったり、酸や腐敗性の体液を持つ魔物と戦うときなどに役立てるために試用してみた。

はじめは炎を発生させる魔法回路を組み込んだものを作成したのだが、炎の熱で刃に悪影響がでるらしく、試し切りでポッキリと折れてしまったので、もっと熱に強い素材を用意できるまで保留中だ。長時間使っていると持っている手まで火傷しそうになるので断熱素材も探す必要がありそうだ。

地味な魔法回路だが、今回のような倒木の排除には、うってつけだったのだろう。

ナナの一撃で、オレの胴回り3人分くらいある倒木が中ほどから折れて真っ二つになっている。

「2番、タマいく~」

「3番、ポチなのです!」

武術大会の影響か、タマが小剣二刀流になった。二刀流スキルが無いとは思えないくらい上手くバランスを取っている。ポチは以前と同じく小剣と小盾のスタイルのままだ。

タマは2本の小魔剣の重さに振り回される事無く、いや振り回される慣性を上手く利用して踊るようにクルクルと小魔剣を倒木に叩きつける。一撃毎はナナの2~3割の威力しかないが、手数が多いので細い倒木や枝が次々に切断されていく。

ポチは愚直に小剣を構えて突撃だ。ちゃんと強打スキルで威力アップをしている。それでもナナの8割程度の威力しかないのは、体格の差か武器の差か。

「4番、リザ参ります。『魔刃』『強打』」

赤い残光を残してリザが低い姿勢で突撃する。刺突スキルを使わなかったのは、貫通よりも打撃力を重要視したのだろう。

だが、やはり槍の貫通性能が高すぎるために、倒木に大きな穴を開けるだけで、ナナ達のように倒木を砕いたりするのは苦手なようだ。

リザにも貫通耐性があるような敵用の武器か、リザの槍用の追加アタッチメントを設計しておいた方が良さそうだ。

4人の攻撃で、細かくなった倒木は、ミーアの 膨張 ( バルーン ) とアリサの 斥力 ( レプルジョン ) の魔法で路肩に排除された。

途中で気絶から回復したらしき盗賊は、もう一度、「 誘導気絶弾 ( リモート・スタン ) 」で眠ってもらった。彼らの武器は 理力の手 ( マジック・ハンド ) で既に回収済だ。大したものは無かったので、溶かして新しい武器の素材にでもしよう。

◇

「あんたら、村に何か用か」

「いや、特に立ち寄る気はないよ。何軒か焼け落ちているようだけど、盗賊の襲撃でもあったのかい?」

途中にあった農村の傍を通過する時に、武装した農民に 誰何 ( すいか ) されてしまった。その農民は手や足に火傷を負っているようで、その後ろの農民達も何がしかの怪我をしているようだ。また、彼らの持つ武器は、即席というのもおこがましいほど雑なつくりだ。先端を削っただけの木槍や、黒曜石を砕いて穂先を作った石槍などだ。

農民達の目には憎悪と怯えがある。

「と、盗賊たちより、よっぽど 質 ( たち ) が悪いさ。お貴族さまだよ」

はき捨てるように告げる青年。遠くに見える家の中からこちらを窺う視線を感じる。情報を得たらすぐに退散するか。

「この辺の貴族かい?」

「いや、見た事がないよ。獣人を匿っていないか聞かれて、知らないと答えたら、魔法で家を燃やされて、白状しろって脅かされたんだよ」

獣人を追いかけている火魔法を使う貴族。

すごく思い当たるな。闇オークションで白虎姫を買おうとしていた他国の貴族っぽいな。名前を記憶していなかったので、ここから周辺の町までの空間を限定して検索してみた。オレ達が向かう先にあるプタの街に滞在しているヤツみたいだ。マーキングだけしておこう。タマが間違われて襲われても困るからな。

「それは災難だったな。オレ達も絡まれないように注意するよ。これは情報料代わりだ、受け取っておいてくれ」

馬車の小物入れから、下級ポーションを3本ほど取り出して青年に渡す。訝しげな顔をされたので、安物の魔法薬だと告げて相手が何かを言う前に馬車を出発させた。

「気前いいわね~」

「あれは、行商用のダミーに作ったやつだから、本当に安物だよ。原価は1本銅貨1枚もかかっていないんだから」

「安っ~う」

闇オークションで買った錬金術の本で、物資の足りない軍での魔法薬の量産の仕方や手抜きの仕方が色々と載っていた。さきほどの下級ポーションは、普通に作った下級ポーションを希釈液で20倍に薄めたものだ。それでも、市販品の下級ポーションと遜色ない効果がある。ただ、希釈液の製造に 魔核 ( コア ) が必要がないだけで、手間暇を考えると普通に魔法薬を量産した方が手っ取り早い。

だが、この方法で作った「水増し下級ポーション」は、効果が薄いので気軽に売却したり人にあげたりできるので重宝しそうだ。

◇

そして、大河沿いの街を出発して3日目に、ようやくプタの街が見える場所まで来た。この街は、 魔狩人 ( まかりゅうど ) と呼ばれる魔物を狩って 魔核 ( コア ) を収集する職業の人間達が集っている。強そうな職業名だが、殆どの人間は10レベル以下だ。この公爵領には、プタの街と同じような 魔狩人 ( まかりゅうど ) 達が集まる街が幾つかある。

この辺の事情は、巻物工房のナタリナさんに教えてもらった。プタの街から入荷する 魔核 ( コア ) は小さい上に純度が低くて使えないとぼやいていた。

このプタの街の近隣の山林には、百匹未満のデミゴブリンの巣が10数キロほどの間隔をあけて8箇所ほど存在している。十匹未満の小規模の巣はあちこちにあるようだ。恐らく枯れないように、そして増えすぎないように調整しながら狩っているのだろう。

もっともデミゴブリンを狩っているのは、人だけではないらしく、デミゴブリン達の巣の近くにはヘビや蛙、トカゲなどの魔物も数体徘徊している。

今も数組の魔狩人達のパーティーが、デミゴブリンを求めて森の中を徘徊しているようだ。そのうちの一組が、丁度、プタの街に帰還するところのようで、俺達の馬車から見える場所で何やら揉めている。

まったく、この世界はトラブルが多い。

※感想の返信について

感想返しが追いつかないので、個別返信ではなく活動報告で一括で返信させていただいています。