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9-13.ボルエナンの森(2)

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9-13.ボルエナンの森(2)

※7/15 誤字修正しました。

サトゥーです。マンガなんかでは親と娘を見間違うシーンをよく見ますが、実際に遭遇した事はありませんでした。やはり皺や肌艶は誤魔化せませんからね。

でも、長命種のいる異世界では、割と普通に見かけるみたいです。

◇

「■■ ■……■ ■ ■ ■■■■■ 森乙女召喚 ( サモン・ドライアド ) 」

ミーア父、呪文の時は流暢だよな。

彼の呪文に呼ばれて、長い緑色の髪と肌をした小さな少女が、木の幹から現れる。彼女は、トラザユーヤの迷路の近くで見たドライアドにそっくりだ。レベルが30もあるので別人だろう。

だが、ドライアドと目が合うと、彼女は気さくに話しかけてきた。

「少年! 久しぶり」

「もしかして、枯れ山で出会ったドライアドかい?」

もしそうなら、すごい速度のレベルアップだな。

「そうとも言えるし、まったく違うとも言えるかな。この体は寄り代にする木の格によって替わるけど、中身は共通なの」

PCが違っても動いているソフトは同じとかっていう事かな?

「ドライアド」

「ちょっと、待って」

ミーア父が、ドライアドに呼びかけるが、彼女はミーア父を適当にあしらって、オレとの会話を優先する。おや? 召喚主に逆らえるのか。

ドライアドは、少し空中に浮かんで、オレの首に手を回して体を押し付けてくる。顔が近い。近いって。

スキンシップ過剰なドライアドの体を押し戻す。

「あの時は美味しかったよ。また、味わいたいな」

「ちょ、ちょっと、浮気? 浮気なのかー!」

「ご、ご主人さま」

「むぅ」

恐らくわざと「魔力」という言葉を省略したドライアドの言葉を聞いて、アリサが「うがー」と吼えながらオレに詰め寄る。

事実無根なのにルルからは哀しそうな目で見られ、俺の背後に隠れていたミーアに背中をゴリゴリされている。

そのドライアドが、オレの脇の下から覗き込むようにミーアに顔を向ける。

「おや~? おやおやおや~? そっこに居るのは幼子ちゃんね?」

「人違い」

「違わないよ~? そろそろ対価を払ってもらおうかな~?」

ドライアドが、鼠を追い詰めるネコのような仕草で、オレの背後に隠れるミーアを追い詰める。2人でオレの周りをグルグルするのは止めてほしい。そのうち溶けてバターになるぞ?

ドライアドの対価という言葉を聞いてミーアの両親までミーアを問い詰め始めた。

「ミーア!」

「ちょっと、ミーア! あなたまさかドライアドにお願い事をしたのね? したんでしょ? だから、あれほど注意したのに! 注意したわよね? ――」

「むぅ、緊急事態」

ミーア母の長々とした言葉とリザからの補足で、ムーノ市の事件の時に森をショートカットするのにドライアドの力を借りたらしい。ミーアの母がドライアドと交渉しているが、なかなか折り合いがつかないようだ。

このままではドライアドに魔力や生命力を吸われてミーアの干物ができてしまうらしい。それは見たくないな。

「ドライアド、対価というのは魔力でいいのか?」

「もちろん、いいよ~ 体力まで吸っちゃうのは魔力が足りないせいだから。少年の魔力なら大歓迎だよ」

「わかった。なら吸ってくれ」

ドライアドが唇を奪いにくるのを、ミーアの両親とアリサの声が止める。

「待て」

「そうよ、待ってサトゥーさん。ドライアドは大食らいなの、いくらでも食べちゃうのよ? ちゅーちゅー吸われるの。 まだ若いのに干物みたいになりたいの? なりたくないわよね ――」

「ギャー、ダメダメダメー! その唇は私のぉ~~~」

「むぅ」

オレの唇はオレのだ。

ミーアが、オレとドライアドの前に割り込む。オレを守ろうとしてくれているみたいだが、小刻みに体が震えているところをみるとドライアドに吸われるのは怖いらしい。

ミーアをゆっくりと脇に避けながら、ドライアドに問いかける。

「ドライアド、唇以外から吸えないのか?」

「吸えるよ? えっちなのがいい?」

ドライアドの「えっち」という言葉を聞いた瞬間アリサが沸騰する。話が進まないので素早く手で口を塞いだ。

「エッチなのは無しで」

「なら、心臓の上に口付けして吸うのは、どう?」

絵的には犯罪臭がするが、それくらいならいいか。

オレは、騎士服の上着とシャツを脱ぐ。アリサやルルからの視線が、オレに向いている気がするが、気のせいだろう。いつも傍で着替えているのに、なぜ見る。

ミーアの両親が心配してくれるので、前にも一度、魔力を譲渡したという話をして安心してもらった。

「じゃあ、いっただきま~す」

うぉ、ミーアの両親が「大食らい」と評するだけはある。

凄い勢いで魔力が吸い上げられていく。前の時と違い魔力感知スキルを持つせいか、魔力の流れが判る。さらに魔力操作スキルに慣れたお陰か、ドライアドに流れる魔力の流れを調整して無駄を省けるようだ。実際、調整を始めてからドライアドが力を吸い上げる効率が良くなった気がする。

ドライアドが吸い上げた魔力は、森に還元されるらしく、木々の根を通って広がっていっている。

しかし、どこまで吸う気だ。

このまま放置したら全部吸われそうだったので、合計1500MPほどになったところで止めた。

「ああん、もっと」

「この辺にしておけ」

周辺の木々が、花満開になっているぞ。木の種類によっては果物がたわわに実っているものもある。さっきまでは無かったはずだ。ドライアドが調整したのか、雑草が伸び放題になったりはしていなかった。

「いや~ こんなに食べたの久々よん。森の中で手助けが欲しくなったら言って。2~3回なら対価なしで助けてあげる」

「そりゃ、どうも」

むしろ、雑草の街道の時に手伝ってほしかったな。

>称号「森の客人」を得た。

>称号「森乙女の恋人」を得た。

誰が恋人だ。

◇

特に汚れていたわけではないのだが、ルルが濡らしたタオルで胸元を拭いてくれるというので任せた。そんなにゴシゴシ擦らなくていいよ? そう思ったが、真剣なルルの表情に気圧されて口にはしない。

ナナがドライアドのマネをしようとしていたが、アリサに止められていた。珍しい、いつもならアリサの方がマネしそうなのに。

オレが服を着終わる頃には、ミーアやミーアの両親の驚きの表情が収まったようだ。

さっきからポチとタマが静かだと思ったら、リザに口を押さえられて両脇に抱えられていた。視線で助けを求めてきたので、リザに離してやるように言う。

「門を」

「そうそう、忘れていたわね。ちょっとだけよ? ボルエナンの里までの道を作ってもらうために呼んだのだったわ。そうよね?」

「そうだ」

「りょうか~い。 森よ導け ( アルフ・ロード ) 」

ミーア父に促されてドライアドが魔法を使う。

森の間に道が開かれ、地面から湧き上がる無数の蛍火が空間を金色に染めていく。

なかなか綺麗だ。

「さあ、行って~ そんなに長く開いてないわよん」

「行くぞ」

ミーア父の先導に従って、黄金の道に足を踏み入れる。

>「森魔法スキルを得た」

亜空間に作られた道のようで、マップを開いても「マップの存在しないエリアです」としか表示されない。

「後ろを振り返っちゃダメよ~ 迷子になるわよん」

そういう事を後ろから言うのは止めてほしい。オレの両手に掴まっているポチとタマが不安そうだ。後ろを振り返ったらダメとか、オルフェウスやイザナギの黄泉路みたいだな。

これは後から知ったのだが、後ろを振り返っても問題ないらしい。ただ、振り返ったときに足を踏み外すものがいるから、そう警告するようにしているのだそうだ。

道を抜けたとき、オレ達は、ボルエナンの森の中央付近にいた。

◇

「ふわああ、ま・さ・に、エルフの住む町ね!」

いつもならアリサが絶叫するのを止めるのだが、これは無理だ。

目の前に広がるのは、巨大な樹木の内部に居住区がつくられた家々だ。中央の広場には青い水晶でできた幾何学的なラインの噴水があり、その泉の周りには、手のひらサイズの小さな 揚羽妖精 ( フェアリー ) や 透羽妖精 ( ピクシー ) が飛んでいる。

羽妖精達を見たナナがフラフラと歩み寄り始めたので、リザに目配せして左右から押さえる。

樹木の家は、噴水を中心に建っている。1本あたり20階建てのビルくらいの大きさがある。樹木の家と家の間には、蔦と葉で作った渡り廊下が掛けられているようだ。

家々の背後には、雲間に霞むような超巨大な樹が見える。

それは世界樹だった。

ちゃんと下のほうは樹木なんだな。良かった本当に軌道エレベーターとかじゃなくて。

樹木の家から顔を出したエルフ達が、ミーアの名前を呼びながら手を振っている。ミーアが律儀に一人ひとりの名前を呼び返しながら手を振る。その目尻が少し濡れていた。

おかえり、ミーア。

森耐性というスキルはありません。

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