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9-27.害虫退治(4)

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9-27.害虫退治(4)

※9/8 誤字修正しました。

サトゥーです。ゲームをROMカセットやCDなんかの媒体で販売していた時代は、マスターアップ=開発終了でした。最近はバージョンアップなんかの仕事もあるので、終わりが無くて大変です。内容を忘れた頃に依頼が来るのが一番困るんですよね。

◇

鼻をくすぐる髪の毛の感触に、眠りから引き戻される。

これはミーアだな。

もう少し寝かせてくれよ。

ミーアの悪戯を止めるべく、手探りで捕まえて抱きしめる。

あれ~?

これは違う。ミーアじゃない。「あうあう」呻いている相手は、きっとハイエルフ様だな。この柔らかな感触がミーアには出せない。

これはギルティ判定されそうだが、この手を離せるほどの理性が回復していない。まどろみの中、ステキ感触と可愛い声で耳を楽しませながら、もう一度、至福の眠りに落ちる。

◇

「起きろ~!」

「むぅ」

「ご主人さま、朝です。あの、起きてください」

髪や頬を引っ張られる感触に、少しずつ深い眠りから覚醒していく。

「疲労度が高いと推測します。休養を」

「たしかに、ご主人様が、朝起きるのが遅いのはめったにありませんから、お疲れなのでしょう」

リザやナナが心配してくれる声がしてる。大丈夫、ちょっと眠いだけだから、あと5分。いや、10分でいいから寝かせておいて。

「おつかれ~?」

「ゼナを呼ぶのです?」

ゼナさんを呼んでどうしろと?

「むぅ、アーゼ」

「そうよ、エロフ。いつまでも、楽しんでないで退きなさいよぉ~」

「うう、だって、だって、動けないんだもん。仕方ないの。だって、動けないんだもん」

何やらミーアとアリサにアイアリーゼさんが怒られている。また、つまみ食い用のおやつ入れを空にしちゃったのかな?

そういえば、アイアリーゼさんの声が近いな。

薄らと開けた視線の先には、真っ赤になったアイアリーゼさんの顔があった。ちょっと、近くないか?

「おはようございます」

「お、おはよう」

どういう状況だろう。

ベッドで寝ているのに、体の上にはアイアリーゼさんが乗っかっている。視界にはアリサやミーアも入っているから、現在進行形で襲われ中とかじゃないだろう。

「いつまでも抱きしめてないで、離しなさいよぉ~」

「サトゥー」

オレの手を掴むアリサとミーアの動きに従って手を移動させる。あれ? 寝ぼけてアイアリーゼさんを捕獲しちゃってたのか?

「これは失礼しました」

「い、いえ、寝ボケていたら、し、仕方ないです!」

オレの拘束から逃れても、上手く起き上がれないアイアリーゼさんを補助してベッドの上に座らせてあげる。

オレが立ち上がれるようになるまでの間、アリサ&ミーアのギルティ祭りが開催された。寝ボケていたんだから情状酌量の余地は与えてほしいな。

◇

「それで公都での目的は果たせたの?」

「ああ、バッチリだ」

ちゃんと福神漬けはゲットしたしカレー粉の調整もバッチリだ!

なぜか、アリサからの視線が白い。

ここで福神漬け云々というと「正座」とか言われそうなので、巻物工房で手に入れたスクロールをチラ見せしておいた。

ちゃんと何度か公都から「 遠話 ( テレフォン ) 」の魔法で連絡しておいたじゃないか。この魔法の有効距離はスキルレベルに依存するのか、アリサからの「 遠話 ( テレフォン ) 」は、遠すぎて届かなかったようだ。

朝食には、フレンチトーストもどきを作ってみた。

バニラエッセンスが無いが、それ以上にパンが固いのでイマイチな感じだった。最近、ゴハン食ばかりだったので、パンが食べたかったんだよ。

「柔らかいパンがいいんですか?」

「クーアに聞いてみたら? 天然酵母がどうとか言っていたっけ?」

なんと柔らかいパンがあるそうだ。

そういえば、オレの料理を振舞うばかりで、エルフの里の郷土料理を食べていなかったっけ。今度、ルルと一緒に、ミーア母にレシピを伝授してもらいに行こう。

◇

朝食後にやってきたルーアさんから、展望台での観測結果を教えてもらう。クラゲの事はあまり公にしたくないそうなので、リビングではなく応接室に案内した。ルーアさんだけでなく、まだ顔の火照りの取れないアイアリーゼさんも一緒だ。

「――という訳で、氷の檻が1日半、石の檻が2日の間、クラゲを拘束できたそうです。アーゼ様の空間魔法の檻は、中級、上級の双方の魔法共に健在です」

ふむ、やはり空間魔法の結界は強力みたいだ。ルーアさんに空間魔法の檻を作れるエルフの数を確認してみたが、起きている者では、アイアリーゼさんと長老の中の一人だけしか使えないそうだ。眠っている者を合わせても百人ほどしかいないらしい。

「でも、眠っている者は数に入れたくないんですよ」

「どうしてですか? 世界樹の危機なんだから、起こしても文句は出なさそうですが?」

「彼らは、忘れたくない思い出の為に、自分の時間を止める事を望んだ人達なんです」

ルーアさんの言葉が今一つ理解できない。それを察したのか、彼女が少し詳しく話してくれた。

エルフは、千年間隔で古い情報の記号化が行われるらしい。

オレの語彙で言うと、記憶の中でも「エピソード記憶」の部分が「陳述記憶」に変わってしまうという事だろう。簡単に言うと、千年経過した「思い出」を「『思い出』という短い文字」に不可逆変換してしまうという事らしい。

もちろん、「意味記憶」も整理されるらしいのだが、こちらは問題が起こるほど研究に没頭するエルフがいないそうなので割愛する。

この為、どうしても記憶を薄れさせたくないエルフが、長期の眠りに就くのだそうだ。あの眠るエルフ達がいた場所は、寝床というよりは墓場的なイメージなのだろう。揺り籠というよりは棺桶なのか。

もちろん、魔法で記憶を強制的に残す方法もあるらしいが、記憶の混乱や整合性が取れなくて情緒不安定になったりするそうで、長老会の許可なしに処置をする者はいないそうだ。

長生きするのも大変なんだね。

「ハイエルフの7人は起こしても大丈夫だけどね。あの子達は『飽きた』とか言って寝てるだけだから」

ハイエルフ達は、世界樹に記憶が預けられるので記憶が劣化しないそうだ。ただし、世界樹に繋がらないと思い出せないので、それほど万能でもないらしい。

「私は直接お目にかかったわけではありませんが、エルフ以外の人類を嫌っている方や過激な方もいらっしゃるそうなので、できれば起さずに済ませる方法を考えたいです」

「ま~ね、イフルエーゼとか絶対に『ああん? 害虫だと? そんなの炎で焼き払えよ。くははは、祭りだぜ!』って言ってノリノリで『 爆炎地獄 ( デル・インフェルノ ) 』とか連発して大火事にしそうだわ」

なるほど、ビロアナン氏族だけが特殊という訳ではないみたいだ。

アイアリーゼさんの暴露話をなかった事にしたいのか、ルーアさんがコホンと咳払いをして、話を変えてくる。

前に長老に問い合わせてもらっていた件も結果が返ってきたそうだ。

「まずですね、クラゲが嫌悪したり苦手とする物質は、調査しているものの未発見だそうです。誘引物質は、マナ以外に見つかっていません。魔力を充填した魔法道具やウィスプなんかの擬似生命体を近くに放つと、そちらに魅かれて触手を伸ばすそうです。ただ、世界樹から引き剥がすとなると、世界樹を超える魔力が必要になるそうで、現実的ではないだろうという回答でした」

クラゲホイホイは作れないのか、残念だ。

一応、クラゲに対する実験報告書みたいな書類は、後で熟読させてもらおう。見落としがあるかもしれないからね。

「サトゥーさんに提案していただいたクラゲの檻作戦ですが、研究好きのベリウナンとブライナンの両氏族だけでなく、ズワカナン氏族も興味を持ったそうで、実験や考察に協力していただけるそうです」

誰でも考え付きそうな案だったのに、試した者はいなかったそうだ。

案外、思いついても言い出せなかったのかもしれない。

初出のズワカナン氏族だが、ビロアナン氏族と同じ大陸に住んでいるそうだ。なるほど、失敗はできないわけだ。

「えーっと、他には」

ルーアさんが、報告書の紙を捲りながら、問い合わせてもらった他の件を報告してくれる。

クラゲを一定距離まで引き離したところで他のクラゲに邪魔された件だが、周辺のクラゲたちが一斉に雷撃を放ってきたのだそうだ。その時に、引き離されていたクラゲは触手を丸めて電磁バリアのような結界で自分を守っていて電撃を防いでいたらしい。

強力な電撃を放つときに、必要な魔力を世界樹の枝から奪うらしく、クラゲが掴んでいた枝が幾本も枯れてしまっていたそうだ。

オレが懸念していた、クラゲ駆除後の再発防止策だが、ビロアナン氏族が既に行なっていた。ハイエルフ達が作成した擬似生命達が世界樹の外側を巡回しているらしい。

「擬似生命ってベヒモスとかですか?」

「うふふ、それは無いですよ。ベヒモスは飛べないはずですから、ビロアナンなら 魔炎王創造 《 クリエート・イフリート 》 で呼び出したイフリートか 魔炎蝶創造 ( クリエート・パピヨン ) で呼び出した炎の蝶とかのはずです」

あ、ベヒモスじゃなくウィスプと言うべきだった。ルーアさんの横で、耳まで赤くなったアイアリーゼさんが羞恥にプルプルと震えている。

可愛いから放置でいこう。

「でも、継続時間が短いのでは?」

たしか虚空ではマナが少ないとか言っていたはずだ。

「はい、最初に多めに魔力を充填しておけば、10日は維持できるので、クラゲを惹きつける目的で巡回させているそうです。もちろん、戦闘が始まれば短時間で魔力が枯渇してしまうので、クラゲ退治自体は船で行うそうです」

なるほど、誘蛾灯というか釣り餌か。

見つけたクラゲは、展望台から出発した船で退治するそうだ。光船という名前らしい。

「どの世界樹にも8隻の光船があったんだけど、ボルエナンには4隻しか残っていないのよね。千数百年ちょい前くらいにゴブリンの魔王が暴れる事があってね。その時にはまだ勇者が居なかったから、魔王を倒すまでに3隻沈んじゃったのよ」

あれ? もう1隻は?

「それは魔王退治のご褒美に、勇者にあげちゃった。代々乗り継ぐって言ってたから、今でもサガ帝国にあると思うわよ」

ジュールベルヌと同型船が、あと4隻もあるのか。

「そ、そんな目で見てもダメ」

アイアリーゼさんに先に釘を刺されてしまった。

「わ、わたしは身持ちが固いんだから!」

ああ、そっちでしたか。

クスクス笑っているルーアさんには、オレの内心がバレている気がするが、ここはアイアリーゼさんの勘違いを訂正しないようにしよう。

でも、他の世界樹より数が少ないなら、駆除後のクラゲ防衛線維持の為の戦力を何か考えておいた方が良さそうだ。

カレーは次回の予定です。