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9-33.ボルエナンの森に別れを

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9-33.ボルエナンの森に別れを

※9/15 誤字修正しました。

サトゥーです。仕事が繁忙になるとカロリーバーとサプリメントの生活をしていた日々が、遠い過去のようです。バランス良く食事を取るのって、難しいですよね。

◇

「サトゥー、味ヘン?」

ミーアが、ハンバーグを食べて不思議そうな表情をしている。

「美味しい~よ?」「ハンバーグ先生にシツレイなのです!」

タマとポチが、ハンバーグの擁護をしている。フォークを持った手を振る前に、ソースをちゃんと舌で拭うあたりルルやリザの教育の賜物なのかもしれない。

今日のミーアのハンバーグは、何の変哲もない普通の豆腐ハンバーグだ。オレやルルも同じものを食べているが、特に雑味も無いし、なかなか会心のできだと思う。

「口に合わないかい? こっちの皿のを食べてごらん」

オレは、お代わり用に作っておいた、予備のハンバーグの皿を保温魔法具から取り出してミーアの皿と交換してやる。見分けが付き易いように皿の色を変えてある。

「ん、美味し」

その皿のハンバーグを1切れ口に運んで、ミーアは満足そうに頷いて、はぐはぐと食べ始めた。ミーアの残した豆腐ハンバーグは、ポチとタマが分け合って食べていた。ポテト以外の付け合せの野菜は、きっちりミーアに押し付けている。

そろそろ告知の頃合か。

ミーアがハンバーグを食べ終わるのを待って、真実を告げる。

「ミーア、君に言わないといけない事がある」

「ん」

神妙な顔でミーアに話しかけたのだが、何故か目を瞑って口を突き出してきた。アリサに毒され過ぎだと思う。誤解を解くために「ハンバーグの事だ」と前置きして話を続ける。何故かすごく不服そうな顔をされてしまった。

「ミーアがさっき食べたハンバーグには、肉が入っています」

というか半分以上は、脂身を取り除いた赤身の肉を使っている。

案の定、前に魚肉ハンバーグを食べた時のポチのように、裏切られたと言わんばかりの劇画調の表情をしている。

「ぎるてぃ」

「うん、ごめんね。さらに言うと、ミーアが最初に食べたハンバーグには肉が入っていませんでした」

「むぅ」

何かの葛藤をしているミーアに、最後の一押しをしてやる。

「ミーア、お代わりはどっちのハンバーグにする?」

「むむぅ、こっち」

ミーアが指差したのは肉入りハンバーグの方だった。

まだ、普通の肉だけのハンバーグは食べられないみたいだが、少しは忌避感が減ってくれたと思いたい。

ポチが差し出した肉汁たっぷりのハンバーグは、嫌そうに手で押し返していた。

いきなりは無理だよね。

◇

展望台から、光舟に吊り下げられたカカシたちが虚空へと出陣していく。

今回、ロールアウトしたカカシで、予定数の半分だ。設計図を送ったベリウナン氏族とブライナン氏族によって改良されたので、後半作成したカカシほど索敵効率がアップしている。残りのカカシは、ソトリネーヤさんの工房に作成を任せた。

この10日の間に、5つの世界樹から無事にクラゲが除去された。

抜け駆けしてクラゲを駆除していたベリウナン氏族だが、ライバルのブライナン氏族に先んじるために無茶をしたそうだ。案の定、ベリウナン氏族の世界樹にも卵が残っていたらしい。後から伝えたオレ達の情報のお陰で、二次被害を未然に防げたと感謝の言葉が贈られてきた。

これは、炎で排除したビロアナン氏族の世界樹にも言えることで、彼らの世界樹にも卵が残っていたらしい。

今回の功績の対価として、バレオナン、ザンタナン、ダヲサナンの3つの氏族からボルエナン氏族に、光船が1隻ずつ贈られる事になったそうだ。1隻欲しいかと、長老さんに聞かれたのだが、持て余しそうだったので散々迷った挙句に断った。必要になったら借りに来よう。

「ねえ、サトゥー。今日、アリサ達がスプリガンの修練所を制覇したら、森を出ていってしまうの?」

「ええ、そのつもりです」

今日は珍しくルーアさんがいない。

隣の椅子に三角座りして膝の上に顔を乗せるアイアリーゼさんの質問に、オレははっきりと答える。

「一緒に来ませんか、アーゼ」

オレは少し震える声で彼女を旅に誘う。100%負けが確定した賭けでも、引く事はできなかった。一瞬、アイアリーゼさんの顔が輝いたように見えたのは、気のせいではないと思いたい。

「ごめんなさい」

そう呟いたアイアリーゼさんは、膝に顔を埋めてしまって表情が見えなかった。

◇

傷心を誤魔化すように、オレは、飛空艇の最終チェックを行う。この船は光船にそっくりだ。300年ほど前に、光船を自分達で作ろうというムーブメントがあったらしく、その時に作られたフレームを譲ってもらったのだ。フレームは、世界樹の中にある保管区画に大量にあった。

全長30メートルほどの小型のモノだが、積載量は異常に大きい。それもそのはずで、居住区や貨物倉庫は空間魔法で拡張してあった。この拡張の維持にも賢者の石が使われているそうだ。

空力機関は未搭載だったので、二重反転ディスク式の空力機関を8器載せた。推進器には4本の加速筒を搭載した。空気を圧縮して後ろに噴き出すだけのシンプルな装置だ。今回搭載した機関は、どれも静音性を追求してある。

さすがに次元潜行機能は搭載していない。

闇夜でも目立たないように、勇者のジュールベルヌと違って漆黒の塗装をしてある。ステルス性をアップするために、電波吸収塗料ならぬ魔力吸収塗料を使ってみた。この技術を開発した過去のエルフ達に何があったのか、少し気になる。

動力機関は、 動く人形 ( リビングドール ) のと同じ動力炉を1機搭載している。もちろん、空力機関を起動するだけの出力は無い。世界樹の樹液を結晶化させて作った小型のバッテリーに、最大まで魔力を蓄えた状態で、ようやく30分だけ飛行できる。

本来の主動力は、言うまでも無くオレ自身だ。動力機関は、船内の照明や索敵などの機器を制御するためや、オレに何かあった時に不時着するために搭載してある。

船の名前に、偽光船1号と付けたら周りから猛反対を受けたので無名のままだ。

乗り物は、他にも2つ。

低出力の空力機関を搭載した木造の帆船が1隻と、自走機関を搭載した小型の箱馬車が1台だ。どちらも見た目は、普通の帆船や箱馬車にしか見えない。帆船は、陸上に上陸させる事も考えて、着陸脚が出せるようにしてある。水上で誤作動した時に沈没しないように配慮してある。

馬たちのうち、セーリュー市で買った老齢の2頭と、 無角獣 ( つのなし ) はボルエナンの森に置いていく事にした。なんと、 無角獣 ( つのなし ) は、おめでただった。 一角獣 ( ユニコーン ) の手の早さにビックリだ。

◇

「じゃあ、ミーア、ご両親と仲良くね」

「ん、サトゥー」

ミーアが、おでこにかかる髪を両手で避けてココにキスをしろと圧力を掛けてくる。お別れの挨拶に、おでこにキスくらいはいいだろう。

軽く触れるか触れないかのキスをする。

きっと、後で全員にキスをするはめになりそうだ。

「まあ、やるわねミーア。策略家だわ」

「むむ、承知」

勝ち誇って後ろの両親に、勝利のサインをしている。

「同行する」

はい?

「同行する」

2度そう繰り返した後、ミーアが久々の長文を続ける。

「シガ王国のサトゥー、貴方が婚約の儀式を受け入れてくれた事を嬉しく思います。ミサナリーア・ボルエナンは、死が貴方を連れ去るまで、貴方の片翼として存在する事を誓います」

ひょっとして、嵌められた?

「まあ、素敵ね。サトゥーさん、ミーアを宜しくね」

「守れ」

これは、少しやらかしてしまったみたいだ。ミーア母によると、エルフ達にとって、額にキスする事が婚約の申し出で、受けた側が相手の額にキスする事で了承するのだという。道理で「婚約者」とかいつも言っていたはずだ。

ミーアの両親には、その風習を知らなかったと伝えて分かってもらえたのだが、ミーアは確信犯のようで「聞こえない」と耳をふさいでイヤイヤをしている。

あれ? それだとオレは初対面のアイアリーゼさんに婚約を申し出た事になっていたのか? 彼女の情緒不安定なまでの反応が少し理解できたかもしれない。

ミーアの両親の後ろで、見送りに来ていたアイアリーゼさんが、面白くなさそうに膨れている。そんな顔を見せられたら、迷宮都市からでも足繁く通っちゃうよ?

◇

ミーア父に呼ばれたドライアドが、オレ達をボルエナンの森の南端、マーメイドたちの隠れ里近くまで 妖精の道 ( アルフ・ロード ) を開いてくれる。

ここは、少し暑い。

予め、入り江に浮かべておいた帆船が見える。

「では、ここでお別れです。また遊びに来ますね」

「いつでも帰ってきて。ボルエナン氏族は、いつでもアナタ方を歓迎します」

どさくさ紛れにアイアリーゼさんとお別れの握手を交わしたが、今度ばかりはギルティ判定はされなかった。

長老さんに許可を貰って、「 帰還転移 ( リターン ) 」の魔法の目印に使う刻印板をボルエナンの森の樹上の家に置いてある。到達距離が足りるかは微妙だが、届かなかったら閃駆や魔法で加速して飛んでくればいいだろう。

「何か変なのです」

「変な臭い~?」

磯の臭いが初めてなのだろう。ポチとタマが鼻を押さえている。アリサが、これが潮の香りだと教えてあげている。このあたりは気温も高いみたいだし、一度、海水浴でもさせてあげよう。

みんなや馬達は、 理力の手 ( マジック・ハンド ) で持ち上げて帆船に移動させた。

ミーアを運ぶ時に、両親の元に残らないか再確認したが、「行く」と言ってダッコを強要された。オレはミーアを抱えると、天駆で帆船の甲板に乗り移った。

先に 理力の手 ( マジック・ハンド ) で、船に乗せた面々からブーイングが出たので、後のフォローが大変そうだ。

見送りの人達に手を振りながら、畳んだ帆を 理力の手 ( マジック・ハンド ) で広げる。「 気体操作 ( エア・コントロール ) 」の魔法を発動して、帆に風を吹き付けて船を出港させた。

寄り道は終わりだ。

このまま岸に沿って西に進み、王都の南西にある貿易都市タルトゥミナ付近で上陸して、迷宮都市を目指そう。

これでボルエナンの森編は終了です。

数回の幕間を挟んで迷宮編になるはずです。たぶん。