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SS:ムーノ市小話

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

SS:ムーノ市小話

※サトゥー視点ではありません。

ムーノ男爵領執政官のニナさんの視点のSSです。

「に、ニナ様、ペンドラゴン士爵様からのお手紙を持った馬車の一団が城門前に来ているのですが、どうしましょう」

「馬車の『一団』? その手紙とやらはどこだい?」

「これです」

手紙の封蝋は確かにサトゥー殿の印だ。

ユユリナに馬車の一団を中庭に入れて、待たせるように言いつけて封蝋をはがす。

何だ? 目録か?

そこには目を疑うような大量の食品の目録が書かれている。

テラスへ足を運んで眼下を見下ろすと、この目録が嘘ではないと判るだけの数の荷馬車が駐車していた。

「まったく、これで市民を飢えさせずに済むが、いったい幾らかかったのやら。借金の総額がいくらになるか計算するのも億劫になるね」

ユユリナの代わりにやってきた文官のミソナに目録を渡して、商品が目録と一致するかを確認に行かせる。この子は融通が利かないだけに、こういった作業に非常に向いている。

◇

行商人達から聞かされたあの男の話は耳を疑うものだった。

グルリアン市を襲った魔族を退治しただと? 下級魔族という事だから分からなくもないが、それでも犠牲も無く倒せるなど聞いた事もない。カリナ様も一緒に戦っていたそうだが、あの娘はまったく。立派な体をしているんだから、さっさとサトゥー殿を篭絡してくれないものかねぇ。

それよりも公都で築いた人脈の方が驚異的だね。今回の保存食もホーエン伯から格安で譲ってもらったらしいし、どうやってあの気難し屋の伯爵に取り入ったのやら。

オリオン様も、うかうかしていると、サトゥー殿と主従が逆転してしまいそうだ。サトゥー殿に出世欲や支配欲が無かったのが救いだね。

これだけ食料があるなら、少しは村落にも回せそうだね。賦役としてムーノ市の区画整理と開墾をさせる代わりに食事を与えるって方向で纏めるとするか、詳細を詰めるのにミソナとユユリナにはしばらく死ぬ気で頑張ってもらおうか。

◇

だが、私はあの男をまだ見誤っていたようだ。

その後、同程度の馬車便が三度も届いた。

それだけでも十分すぎるのだが、帰還したカリナ様の携えていたサトゥー殿の手紙や書類に書かれていた内容は驚愕に値する。

そこには幾つもの工房で、ムーノ市からの留学生を受け入れると書かれてあったのだ。技術の流出を防ぐためにも、外部からの留学生の受け入れを捻じ込むのは並大抵ではない苦労がいるのに。

まったく「特別渉外官」への任官を断っておきながら、実質やっている事は同じ――いや、予想より遥かに大きい功績だ。

料理長のゲルトが持ってきた「ムーノ巻き」とかいう菓子を味わいながら、私は、この功績にどう報いたものか頭を悩ませていた。

金銭や宝物は無い。爵位も既に与えてしまった。名誉士爵を士爵にするというのが妥当だが、あの男は興味を持っていなかった。これ以上の陞爵は国王陛下に推薦するくらいしかできない。あとは、女か。

男爵様が後妻でも娶ってくれたらねぇ。

幼い娘を嫁にできるとなったら、あの男も断らないだろうに。

いっそ、ペンドラゴン村のトトナとかいう娘を男爵様の養女にでもしてもらおうか。

そんな冗談の方が可能性があるように思えるのが辛いところだ。

「全く、もう少し、まっとうな方向で頑張ってくれないものかね」

私は、窓の外から聞こえてくるゾトル卿とカリナ様の組み手の掛け声を聞きながら、そうボヤかずにはいられなかった。

私があと20歳くらい若かったらねぇ。

そんな馬鹿なことを思いながら、一つ吐息をついた。

領地の経営が改善する程、悩みが増えるなんて、難儀な事だよ。

※2013/08/09 の活動報告に掲載したSSの再収録です。