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10-1.海の旅

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

10-1.海の旅

※9/22 誤字修正しました。

サトゥーです。クジラと違い、イルカを食べるというと眉を顰める人が多い気がします。自分も犬や猫を食べる話を聞くと気分を害するので、やはり食文化の違いなのでしょう。

◇

「野郎共! キャプテンアリサ様の出陣だあ~」

「いえっさ~?」

「あいあい~」

「ん」

海賊のコスプレをしたアリサ達が、船首で遊んでいる。アリサは、船長役らしく横長の帽子に裾の長い上着、下には白いズボンとシャツだ。腰にはレイピアを差している。

ちょっとレトロな海賊だな。てっきり海賊王の方のコスをするかと思ったんだが、ちょっと違ったようだ。

ポチとタマは、海賊の子分ファッションで、縞模様の半そでのシャツに7分丈のズボンを着ている。2人とも昨日オレが作った眼帯を装備中だ。普通の眼帯だと楽しくないので、それぞれ犬猫をデフォルメした小さなお面みたいな外見にしてある。

ミーアは海兵っぽいというか、白いセーラー服に白いズボンだ。

「ご主人さま、お茶の用意ができました」

「ありがとう、ルル」

操舵用に一段高くなっている操縦区画から降りて、甲板の上に並べた簡易テーブルに着席する。ルルがアリサ達にオヤツの時間だと告げると、海賊ゴッコを中断して駆け戻ってきた。

「あれ? ここは日差しが柔らかい」

「ふふん、ルル達が日焼けしたら可哀想だから、日差しやUVをカットできる『 陽光防御 《 サンライト・プロテクション 》 』を作ったんだよ」

前に公都で巻物を注文するときに、追加したやつだ。

何のための魔法か判らなかったらしくて、ナタリナさんが困惑していた。

「風もない~?」

「本当なのです。上は風が吹いているのに不思議なのです」

「魔法だよ」

「なるる~」

「なるほど、なのです」

風は、普通に 気体操作 ( エア・コントロール ) の魔法だ。帆に風を送るのと同時に、ここは風が凪ぐようにしてある。

そうしておかないと、ルルやナナのスカートが捲くれて大変だった。特にルルの服はワンピースだったので、おへそまで見えてしまっていた。もちろん、公式には見ていない事になっている。

帆船は、現在、湾内を航海中だ。

湾内には、ほとんど魔物もいない。

「イルカ! 今、イルカが跳ねた!」

イルカが船を並走してきたのを、すばやくアリサが見つけた。口に物を入れたまま喋るのは止めてほしい。お盆サイズの 自在盾 《 フレキシブル・シールド 》 を発動してお菓子の破片を防ぐ。

アリサは、オレの後ろ側の舷側に駆け寄る。釣られた年少組だけでなくルルやナナも駆けていった。

リザは? と視線を向けると、階下の倉庫へロープ付きの銛を取りに行っていたようだ。どうやらリザにとっては、漁の獲物扱いらしい。

「ちゅーがえりしたのです!」

「えもの~?」

「何言ってるのよ、イルカを食べるなんてとんでもないわ~ あれは愛でるものよ」

アリサには、以前に和歌山県の民宿でイルカを食べた事があるとかは、言わない方が良さそうだ。まあ、確かに可愛いから愛でるのもいいか。

ナナが一番反応するかと思ったが、あまり好みではなかったようだ。ルルも「大きい魚ですね」と言っているが、あれは調理法を考えている時の表情だ。

「ですが、美味しそうです」

リザが背中に銛を隠しているが、隠しきれていない。

アリサ以外はイルカを捕食する気まんまんみたいだったが、ここはアリサに免じて見逃してあげよう。

身の危険を感じたわけでもないと思うのだが、しばらくするとイルカは船から離れていった。

◇

午後のオヤツが終わる頃には、船は無事に湾を抜けて外海に出た。

「うわっ、揺れるわね」

「飛行船よりも揺れますね」

「ん」

アリサ、ルル、ミーアの三人は、船の揺れが不快なようだ。この大きさの船にしては揺れていないはずなんだが、川に比べれば揺れるから仕方ないだろう。

「大丈夫ですよ、下は水です。落ちたら泳げばいいのです」

リザが静かにそう諭す。飛空艇の時と随分違う。

「ん、泳げる」

「無理、犬掻きで10メートルくらいしか泳げない」

「私は山育ちなので泳いだ事がありません。あら? アリサも泳いだ事はないんじゃ?」

なるほど、アリサとルルは泳げないのか。今度、海岸に寄った時にでも泳ぎ方を教えてやろう。その前に水着が必要か。

「にゃはははは~」

「タマ、揺れすぎなのです、大変なのです! ご主人さま、落ちるのですぅ~」

湾を出る前まで、メインマストの上にある物見櫓に登っていたタマとポチの楽しそうな声が聞こえてきた。ポチの声は若干悲鳴っぽいが、微妙に声が楽しそうだから大丈夫だろう。落ちそうになったら「 理力の手 ( マジック・ハンド ) 」で受け止めるから大丈夫だ。

そんな感じで、みなのリアクションを楽しんでいたんだが、レーダーに魔物が映った。

このまま会敵したら危ないので、船を浮上させよう。

操舵席の舵輪の中央にある操作板に触れる。魔力を供給して空力機関を起動する。船底が海面から出た後も浮上を続け、波頭に触れないくらいの高さまで上昇する。

「あら? 揺れがおさまった? げっ?!」

舷側から下を覗き込んだアリサが絶句している。

あれ?

この帆船が飛行可能だって言ってなかったっけ?

アリサ以外は、船が飛ぶ事に疑問がないのか平然としている。ボルエナンの森に行く時も飛行船で飛んでいたからね。原理を知らなければ、飛行船が飛ぶのも、帆船が飛んでも同じだと思えるのだろう。

「まさか、この船って飛空艇なの?」

「そうだよ。高空を飛べるほどの出力は無いけどね」

精々、地表から100メートル程度までしか上昇できない。推進器も搭載していないので、風を受けて進む機能しかない。

アリサが「ぐぬぬ」とか「チートヤロウめ」とかブツブツ言っている。ちゃんと色んな人から教わった事を応用して作ったのに、酷い物言いだ。

船の揺れが収まったのを確認したポチが、スルスルとメインマストから垂れたロープを伝って降りてくる。タマも何かを見つけたのか、ポチを追いかけて降りてきた。

「大きな影が近寄ってきてる~」

「影なのです?」

タマが見つけたのは、この船に接近中の首長竜だ。竜と付くが竜族ではなく、魔物の一種だ。

◇

海面を割って、長い首が現れた。

「うっはー、ネッシーよ! リアルネッシーじゃない。ピュイとか鳴かないかしら?」

アリサのテンションがおかしい。

UMAとかでも有名な部類だから、気持ちは解る。でも、鳴き声が「ピュイ」っていうのはどこから出てきたんだろう?

「蒲焼よ! 我が胃袋の前にひれ伏す事を推奨します!」

「HUROOOOUNN!」

蒲焼って。前の 角蛇 ( ホーン・スネーク ) は確かに絶品だったけどさ。

ナナの挑発に食いついた 首長竜 ( ロングネック ) が、咆哮をあげる。後ろでアリサが、「あんなのピュイ吉じゃない」とハンカチを引き裂いている。小芝居なのは判るが、後でリザとルルに叱られるぞ。

「撃て!」

俺の掛け声で、ルル、ポチ、タマの三人がショットガンの引き金を引く。的が大きいのもあるが、円錐状に広がる魔力の散弾が30メートル先の首長竜に命中する。

「……■■ 水縛 ( ウォータ・ホールド ) 」

3人に遅れてミーアの捕縛魔法が発動して、首長竜を拘束しようと水のロープが纏わり付き始めた。相手のレベルが高いせいか、イマイチ拘束仕切れていないみたいだ。

「……■■■■■■ 空間切断 《 ディメンジョン・カッター 》 」

アリサの放つ空間魔法の刃が、首長竜の胴体に深い傷を作る。

その傷を物ともせずに、首長竜の巨大な牙が大盾を構えるナナに迫る。

ナナが理術で撃ち出した魔法の矢が、首長竜の両目に突き立つ。視界を奪われた首長竜が、そのままナナに突撃してくるが、ナナは、素早く横に避けた。

そのまま首長竜に突撃されて船が壊れたら嫌なので、 自在盾 《 フレキシブル・シールド 》 で船の甲板を守る。

槍に魔力を溜めていたリザが、自在盾に阻まれて動きの止まった首長竜に魔槍の突きを叩き込む。そこにショットガンを甲板に投げ出したポチとタマも加勢に入った。

動きの止まった首長竜の長い首に、アリサの空間切断が突き立ち、その傷を抉じ開けるようにミーアの 水破裂 ( ウォーターバースト ) が炸裂した。千切れかけていた首長竜の長い首の左右に、リザの魔刃を発動した魔槍とナナの鋭刃で強化された魔剣が命中し、ようやく倒す事に成功した。

首長竜は船と同じサイズだったので、解体作業は「 理力の手 ( マジック・ハンド ) 」と「 自在剣 ( フレキシブル・ソード ) 」の魔法を使って遠隔で行なった。

角蛇ほどじゃなかったが、首長竜もなかなか淡白で美味かった。ヒレを使った料理が、公都で買った料理本に載っていたはずなので、今度チャレンジしてみよう。

海の旅は、もう1話だけ続く予定です。