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10-5.迷宮へ

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

10-5.迷宮へ

※10/12 誤字修正しました。

サトゥーです。ゲームだと所持アイテム数に制限があるせいで、クエスト中に手に入れたアイテムを泣く泣く捨てるという事がよくありました。取捨選択で、悩んだのも懐かしい思い出です。

◇

「もう! せっかくの生着替えなのに、どうして覗かないのよ」

着替えを覗かないとか、実に当たり前なのに、酷い言われようだ。

着替え終わったアリサ達が、宿の一階にあるロビーに下りてきた。この宿の一階には酒場は無い。このロビーも、席料を別に取られるような高級宿だ。ルルが淹れるのに匹敵するくらい、美味しいお茶を淹れてくれる。

この宿は、探索者ギルドの裏手にある。

本当は、ギリルの言っていた館に行こうかと思っていたんだが、すぐに住めるかどうかも判らないので、とりあえず馬を預ける為にも宿を取った。

ちなみに魔動馬車は、馬丁が場を離れた隙に、見た目がそっくりの普通の馬車に交換してある。汚れ具合が少し違うが、証拠隠滅スキルに活躍してもらったので大丈夫だろう。

「さて、それじゃ行こうか」

「ご主人様、僭越ですが防具を付けるべきです」

「装備は重要だと、具申します」

「今日は様子見だからね。ナナやリザに守ってもらうよ」

このローブもユリハ繊維でできているし、マントや靴にはクジラの皮を縫いこんであるので、大抵の攻撃は止めてくれるだろう。

念のため薄手のグローブをはめながら、ソファーに立てかけておいた妖精剣を手にして立ち上がる。

正門から西門までは、馬車が2時間おきに出ているらしいので、それに乗って西門へ向かう。本来なら、もう1時間後に出発らしいのだが、定員の8人を満たしたので、そのまま出発してくれるらしい。なかなか、融通が利くね。

「えへへ~ リアル迷宮って初めてよ。やっぱ、スプリガンの試練場とは違うの?」

「ぜんぜんちがう~?」

「あんな遊び場じゃないのです! ニクワキチーオドル本物のセンジョウなのです!」

「2人共、そんな調子では、迷宮で怪我をしますよ。気を引き締めなさい」

「らじゃ~」「なのです!」

アリサに先輩風を吹かせていたポチとタマを、リザが窘めている。ミーアは緊張しているのか、言葉少なだ。ナナは平常運転なので、大丈夫だろう。

「士爵様、申し訳ありませんが、もうお一方乗せていただけないでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

馬車といっても座席だけで屋根のないタイプで、2人席が4つ並んでいる。ミーアなら余裕で3人並べそうだ。乗り込むときに、女性職員にそう頼まれた。タマを膝の上に乗せれば、もう一人くらい問題ないので了解した。

「無理を言って申し訳ない。ダリル士爵の子、ジーナと申す」

「初めまして、ペンドラゴン名誉士爵と申します」

焦げ茶色の 硬革鎧 ( ハードレザー ) に丸盾とフレイルを装備した、16歳くらいの少女だ。背丈は俺と同じくらい。鎧で押さえつけられているので、正確なサイズは判らないが、ナナに匹敵するサイズを持っているようだ。肩にかかるくらいの赤毛に鳶色の瞳、少し日焼けしている。騎士の家系なのか、歳の割にレベル6もあるし、スキルも盾と片手棍がある。

フレイルは、1メートルくらいある鉄の棒に、2つの金属塊が鎖で繋がっている。遠心力で金属塊の威力をアップさせるのだろう。ゲームではよく見かけたが、こちらの世界では初めて見た。

◇

ジーナ嬢は亜人が嫌いというか怖いようで、リザ達の傍に座りたがらなかったので、ルルとアリサに挟まれて座っている。狭くないか?

「ジーナ様は、探索者なのですか?」

「うむ、さっきなったばかりだがな。同郷の者が探索者をしているので、西門の近くで探してから、一緒に迷宮に挑むつもりだ」

アリサが丁寧な口調で話しかけている。ジーナ嬢は、生来なのか、そう演じているのかは判らないが、騎士っぽい男口調だ。

アリサの口調に若干違和感を覚えるが、勇者の時も猫を被っていたし、そのままにしておこう。

富裕層の領域を抜けると、歓楽街らしき素敵な通りに出た。それまでの落ち着いた町並みから打って変わって、猥雑な雰囲気を醸し出している。特に美女が楼閣から手を振っているわけでもないのに、このわくわく感はなんだろう。少し、迷宮を楽しみにしているアリサの気持ちが分かった気がする。もちろん、言葉には出したりしないが。

その歓楽街を抜けると、小さな店舗が、 犇 ( ひし ) めき合うように 軒 ( のき ) を連ねている。その店舗では、探索者らしき武装した男女が何やら値段交渉をしている。

「うわっ、みんな派手な鎧ね~」

「はではで~」

「トリさんみたいなのです」

「歌舞伎者?」

勇者ダイサク、エルフの里で何を語った。それからアリサ、猫が剥がれているぞ。

それにしても、魔物の部位を使った鎧なのだろうが、あの無駄に見える装飾にはどんな意味があるのだろう? やはり、威嚇の為なのかな?

それにしても、探索者達の装備は独特だ。公都の試合に出ていたヤツらは、割と普通だった。探索者でもTPOを弁えたりするみたいだ。

歳の若い人ほど、謎装備の人間が多い。服に木片を縫い付けて防具にしている人間とか、石斧や黒い石の槍を武器にしている人間とかがいる。プタの街の魔狩人の方が、まだまともな装備だったよ。

◇

西門前の探索者ギルド前で、馬車を降りる。

こっちの探索者ギルドは、人が一杯だ。目の前に迷宮へと続く西門があるこちらの方が便利なのだろう。

「よう、そこの新人探索者の貴族さま。どうだい、迷宮の地図はいらないですかい? 一枚銀貨3枚だよ」

相場は大銅貨1枚だ。ボッタクリにも程がある。横でジーナ嬢が、「そんなに高いのか」とか愕然としている。

地図屋の男は、銀貨に怯まなかったオレを鴨だと思ったのか、更に売り込みのセリフを言ってくる。適当に聞き流して、まずは値切りからはじめよう。

「大銅貨1枚なら買うよ」

「おいおい、それは値切りすぎじゃないですかい?」

「それ以上なら別にいらないよ」

「まった、今回は特別に大銅貨1枚でいいよ。うちは迷宮都市で一番正確な地図を売ってるんだ。この地図が役に立ったら、是非とも次からもウチで買っておくれよ」

大銅貨1枚と、地図を交換する。地図の端には、汚い字で、第一区画と書かれている。地図は線と変な記号で一杯で、読み方が判らない。

「どう読むんだ?」

「読み方は大銅貨1枚――」

「それくらい、さっきの料金の内だ」

更に小金を掠め取ろうとする小男の言葉に被せるように、サービスを強要した。地図は平面の紙に、立体的な地図を描き記す為に色々と試行錯誤しているようだ。

「この印は何だい?」

「これは、標識碑ですよ」

小男の要領を得ない説明を纏めると、標識碑というのは昔の探索者達が、迷宮の探索済みエリアに設置したもので、一定の間隔で迷宮に配置されている。この標識碑には、「区画番号」「入り口からの距離」「通し番号」という3つの情報が刻まれている。

さらに、もう一つ重要な機能がある。魔物が近寄ると赤い光を出し、人が近寄ると青く光るそうだ。暗い迷宮で、探索者の同士討ちを防ぐ役割を果たしているらしい。

「でも、若様。標識碑が青く光っているからって気を許しちゃいけませんぜ?」

「どうしてだい?」

「迷宮の中には、 迷賊 ( めいぞく ) って呼ばれている魔物を狩った後の探索者を狙う盗賊がいるんですよ」

なるほど、PKありのMMOでも、そういうヤツらはいた。

「そんなヤツらに襲われたら、どう対処すればいい?」

「そいつあ、難しいところだねぇ」

向こうから斬りかかってきたら、殺すなり捕まえて犯罪奴隷として売り払うなり好きにしていいらしいのだが、友好的な振りをされると普通の探索者と区別が付かないらしい。その為、他の冒険者と出会った場合は、顔見知りでもない限り、お互いに距離を取るまで警戒を解いてはいけないそうだ。

でも、オレやアリサはともかく、相手が犯罪歴持ちかどうかなんて判らないと思う。それは、迷宮の出口にあるヤマト石で判定できるらしい。相手が人を殺す前に捕縛した場合、看破スキルや真偽スキル持ちの職員が常駐しているらしいので、彼らが判定してくれるそうだ。

アリサ達が焦れてきたので、情報収集はこのくらいにしよう。

思ったより色々情報を聞けたので、こっそり大銅貨をもう1枚握らせておいた。

◇

ジーナ嬢は、知り合いを探すと言って、探索者ギルドの建物へ向かったので、そこで別れた。

東門と違って西門は、普段は閉まっているそうだ。

門番に木証を見せると、門を少し開けてくれるらしい。ここの門番は、なかなか大変みたいだ。

西門に近づくと、丈の短い服を着た子供達が寄ってくる。

物乞いか、孤児か?

そう思って調べたら、職業欄が「荷運び」となっていた。なぜか、女の子が多い。

「貴族さま、雇ってください」

「雇って、1日賤貨2枚でいいよ」

「あたし、1日賤貨1枚でいい!」

「ちょっと、割り込まないでよ」

「ご飯をくれるなら、お金なんていらない。何でもするから!」

うわっ、勇者ハヤトが聞いたら「NOタッチだ、サトゥー!」と叫びそうな光景だ。オレの服を掴もうとした幼女は、リザが槍の石突でやんわりと押し返してくれた。

リザが一睨みしたら、子供達は少し距離を取ったが売り込みは続いている。

どの子もレベル1~2だ。危なくて迷宮には連れていけないよ。

クルクルと可愛いお腹の音を鳴らす子供達に同情したのか、ポチとタマが何か言いたそうにしている。仕方ないな。

近くの串焼きを売っている店に子供達を連れていって、1人に1本ずつ串焼きを買い与えた。東のギルドの人の話だと魔物の肉らしいが、他の探索者達も普通に買い食いしているし大丈夫だろう。けっこう大きな串なのに、1本銅貨1枚と格安だ。

「うあ、迷宮蛙の串焼きだ」

「ご馳走だね」

「おいしい。いっぱい働くよ貴族さま」

「うん、久しぶりのご馳走だよ」

君ら普段何を食べているんだ。

ポチ達も食べたそうにしていたので、ついでに買い与えた。

幼女達をその場に残して、迷宮に行こう。なぜか、幼女達が付いてこようとしたのだが、連れていけないと置き去りにした。

「幼女達が仲間にしてほしそうに、こちらを見ている」

やかましい。

アリサが、何かのゲームのシステムメッセージのような事を言っているがスルーだ。

オレ達を通した西門が閉まる向こう側で、幼女達が名残惜しそうな顔をしていたが、心を鬼にして引き返さなかった。