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10-21.新しい狩場(2)

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

10-21.新しい狩場(2)

※10/12 誤字修正しました。

サトゥーです。甘い話には裏があるのです。最近は用心深い人を騙すためか、微妙に甘くない話を混ぜ込んだ手の込んだ詐欺話もあるようです。そして、異世界でも、人を唆す人はいるようです。

◇

「ミーア、合図したら精霊魔法で照明を作って。アリサは、ミーアと同時に無詠唱で火球をゴキブリの中央に。オレが火球の着弾にあわせて、ゴキブリを他の探索者達から離すから、リザ、ポチ、タマは突撃してゴキブリ共を各個撃破してほしい」

「ご主人さま、照明を打ち出す前に彼らに声を掛けた方が良いのではないでしょうか?」

リザが小さく手を挙げて意見してくれた。確かに、その通りだ。

「助けに来たのに、迷賊と間違えて攻撃されるのは嫌よね」

「そうだね。声を掛けるのはリザに任せる。ミーアは相手が了承するかリザの合図で魔法を唱えて。

アリサは悪いけど、最初の1発以外は無詠唱禁止で、あと空間魔法も控えて。ルルも銃系は目立つから、今回は術理魔法中心でお願い。ナナはオレと留守番ね」

「不服が立腹だと訴えます」

残念だけど、ナナには盾役を我慢してもらう。何と言っても、オレとナナは迷宮にいない事になっているからね。

皆からの了解の言葉を待って作戦がスタートした。

位置的には、探索者達のいる一角を包囲するようにゴキブリ達がいる。オレ達は、丁度ゴキブリ達の側面から攻撃する形になる。

「こちらは、『ペンドラゴン』です。加勢します!」

「おう助かるぜ! 無事に生き延びたら、酒場ごと酒を奢るぜ!」

揉めるかと思ったが、向こうのリーダーは即決でこちらの加勢を認めたようだ。やはり、けっこう追い詰められていたのだろう。

まず、ミーアの精霊魔法で打ち出された光球が、天井付近から戦場を照らす。間髪容れずに、アリサの火球がゴキブリ達の中央に命中し爆発した。直撃を受けたゴキブリは炎上し、その周囲のゴキブリたちにも燃え移る。

オレは、その爆風に紛れて、探索者達を追い詰めていたゴキブリ達を、「 理力の手 ( マジック・ハンド ) 」で少し離れた場所に投げ飛ばす。

「うげっ、キモッ」

「むぅ」

アリサとミーアの気持ちはよく分かる。オレも同感だ。投げ飛ばした空中で、姿勢を正して飛行するとは思わなかった。さすがゴキブリだ。

獣娘達3人が、魔刃の赤い光の尾を曳きながら、戦場に突撃する。

それは一方的な蹂躙だった。

ポチの小魔剣の一撃が、ゴキブリの体力を根こそぎ奪い。タマの双魔剣の斬撃が、一方的にゴキブリの体力を削りきる。アリサの火球で、敵の体力が減っていたといっても、たいしたものだ。

リザに至っては、地上のゴキブリを魔刃で斬り裂き、飛翔して襲ってくるゴキブリは魔刃砲で撃墜してしまう。正に鎧袖一触を体現していた。

『すげぇ、あの滑る外皮を、軽々と切り裂いてるぞ』

『ちっ、オレにも魔法の武器があったらアレくらいやれるさ』

『無理だっつ~の。オレの蟷螂刀もっ、魔剣の一種っ、だが、見ての通りっ、のありさまさ』

聞き耳スキルが向こうパーティーの声を拾ってくる。

彼らのもとには捌ける程度の数しか行かないように、「 理力の手 ( マジック・ハンド ) 」でゴキブリ達の進路を制限していたので、会話する余裕ができたようだ。

会話から察するにリーダー氏の使っている魔物の素材から作った武器も、魔剣の一種らしい。特に赤い光が漏れていないので、気が付かなかった。蟷螂系の魔物の鎌で作れるみたいなので、暇ができたら同じものを作ってみよう。

◇

もちろん、前衛陣だけでなく、アリサ達後衛陣も活躍していた。

「ふははは! ゴキがゴミのようだ~ いや~ 油虫っていうだけあって、よく燃えるわね~ さあ、もういっちょ。今度は 火輪 ( ファイア・サークル ) 行ってみよ~」

アリサのテンションが危ない。

それでも、詠唱してから使っているし、獣娘達や向こうのパーティーを巻き込まない位置に撃つくらいの分別は、ちゃんと残っているようだ。

アリサの派手な火球や火弾が目立っていたが、ルルの「 理槍 ( ジャベリン ) 」も着実にゴキブリを仕留めていた。

ルルの魔力はアリサやミーアほど多くないので、オレの傍に留まってもらって、魔力が減るたびに「 魔力譲渡 ( トランスファー ) 」の魔法で魔力回復させてやっている。

ミーアは、獣娘達やアリサがこじ開けたスペースを移動してもらい、向こうの探索者達の治癒を担当してもらった。オレやアリサと違って、ミーアには探索者達のステータスが見えないので、オレが「 遠話 ( テレフォン ) 」で指示した者に「 毒消し ( クリア・ポイズン ) 」や「 軽治癒 ( ウォーター・ヒール ) 」を掛けてもらう。

『痛みが引いていくぞ』

『おお、傷が治っていく、これなら、まだ戦える』

『なんだ、痺れていた手足に感覚が戻ってきた』

『オレもだ』

『ありがとう! 魔法使いの子!』

ミーアはフードをしているので、エルフとは気が付かれなかったようだが、華奢な体躯はすぐに判るので、探索者達はミーアが少女あるいは子供と受け取ったようだ。ここからは見えないが、ミーアが照れながら頷いている様子が手に取るように判る。

麗しの翼の愛嬌さんの方が、ゴキブリの攻撃をモロに受けたのか、上半身に大きな傷を負っていた。ミーアの魔法で回復したみたいだが、服を裂いて包帯にしたらしく、麗しの翼の2人は上半身が露出して、なかなか眼福な姿になっている。ミーアに事前に頼んでおいたので、ちゃんとマントとシャツを渡してあげたようだ。セーリュー市で昔買った安物だが、何も着ないよりはいいだろう。

ミーアの魔法で、戦闘不能で後に下がっていた探索者達が、少しずつ前線に復帰している。そのお陰で、向こうの戦線も安定してきた。

さて、ゴキブリ退治も、終盤に入ったようだ。

レベルの足りていない探索者達も、集団で1匹を狙う事で順調にゴキブリを倒している。戦いながら無駄口を叩く者も出てきた。

『ベッソのヤツめ、何が美味しい狩場だよ』

『ここはハグレの迷宮油虫が単独で迷い出てくるから、安全に狩り放題だなんて言いやがって』

なるほど、ベッソがトレインを擦り付けたのかと思っていたが、口車に乗せられてしまった面々だったのか。

『あんなに大挙してやってくるなんて、死ぬかと思ったよ』

『ペンドラゴン様々だな』

『さすが、ギルド長が 赤鉄証 ( アイアン ) に抜擢するだけあるぜ』

獲物の横取りとか、変な逆恨みはされていないようで一安心だ。

◇

アリサとミーアが戻ってきた。

「ねえねえ、向こうのリーダーから聞いたんだけど、この辺って、あんなにゴキブリが出ない場所だって言ってるの」

「言ってた」

「そうみたいだね」

オレは、マップで周辺の広間や回廊を確認しつつ、2人に魔力を譲渡する。アリサはやたらと「フラグ」を連呼していた。そして、アリサのご要望どおり、大物が接近中だ。

「アリサ、予想通りなら、あと4~5分で、オレから見て最奥の壁に湧穴ができる」

いや、「フラグ、キター!」とかはいいから聞け。

「種類は『 狩人蟷螂 ( ハンター・マンティス ) 』。レベルは35とカマキリ系にしては強めだから注意してくれ」

「おっけー、リザさんたちに伝える」

「ん」

残り数匹になったゴキブリ達を探索者達に任せ、アリサ達は、湧穴予想地点で迎撃準備をしている。スタミナなどの回復薬を飲んだのか、皆の各種ゲージが最大値まで回復したようだ。オレとナナも暗闇や物陰に隠れて、アリサ達の近くに移動した。

湧穴から現れた狩人蟷螂君は、なかなかの巨体だった。全高5メートル超えなので、2階建ての民家くらいの大きさだ。兵蟷螂と比べても倍の高さだ。ちょっとした怪獣だね。普通のカマキリと違って鎌のある腕が左右2対に、足が10本ある。

オレは思うところあって、湧穴を「 理力の手 ( マジック・ハンド ) 」で閉じないように押さえてみた。予想通り、ある程度の障害物があると閉じないようだ。

その巨体を見た探索者達が、慌てて広間の出口――さっきオレ達が入ってきた場所だ――に殺到する。向こうのリーダー氏が、大声で指示しているので、ぎりぎりパニックにならずに済んでいるようだ。

主回廊との境まで避難した探索者たちだが、レベルの高い数人がこちらを見守っている。危なくなったら加勢するつもりのようだが、自分たちが足手まといになるのが判っているのか、今のところ戦いに参加する様子はない。

◇

「ポチ、タマ、今回はナナが不参加です。アイツの注意を、後衛に逸らさないように注意なさい」

「なんくるないさ~」

「らじゃなのです!」

相変わらず間違っているタマが、横薙ぎに襲ってきた狩人蟷螂の大鎌を背面飛びで避けた。踏み潰そうと真上から落ちてきた狩人蟷螂の足を、ポチは瞬動スキルで前に避ける。

リザは、真上から踏み潰そうとする狩人蟷螂の足を、魔槍で迎撃している――さすがに無理だったようだ。傷を付ける事はできたみたいだが、足を一本奪おうとしたリザの目論見は叶わなかった。

「この距離ならバレないから空間魔法混ぜていいよね?」

「マスター、砲撃支援の参加許可を」

アリサの希望を承諾する。暇そうなナナにも、ルルの陰から魔法攻撃する許可を出した。同じ術理魔法系だからバレないだろう。

狩人蟷螂は予想以上に硬いうえに、胴体が高い位置にあるために魔法やリザの槍でしか攻撃が届かなくて苦戦しているようだ。

足を登ろうとしたタマとポチだが、狩人蟷螂の別の足に蹴られて地面に叩き落とされている。めずらしくタマも直撃を受けてしまったようだ。

「あいたた~」

「カマキリの人は、大きいくせに大人げないのです!」

うん、無傷だ。

防御を強化しただけある。さすがに大鎌の直撃を受けたら傷を負いそうだが、足の一蹴りくらいなら何とかなるようだ。戦闘中は面防を下ろしているので表情はわからないが、ジェスチャーが大きいので、ポチが憤慨している様子は充分に伝わってくる。

今度はリザが、狩人蟷螂の腹の下に潜って魔槍で刺そうとするが、普通のカマキリとは違い腹部も背甲並みに硬いようで、さほどの傷は負わせられなかったようだ。むしろ、ゲームのモンスターばりの怒涛の踏みつけ攻撃が来るので、別の場所を狙った方がよさそうな感じだ。

「……■■ 炎 ( フレーム ) 」

ミーアの精霊魔法で生み出された炎が、狩人蟷螂を焼く。レジストされているのか、ダメージはあまり通っていないようだ。

それでも熱かったのか、狩人蟷螂は背甲や翅を広げてこちらを威嚇している。

「ぽちー!」

「たまー!」

納刀した二人が、狩人蟷螂の背後で何かやろうとしている。両手を組んでしゃがんだポチに、タマが駆け寄って――ジャンプ! ポチがタマを上に投げ上げる力と、助走をつけたタマ自身のジャンプ力が重なって、見事に狩人蟷螂の背中に着地できたようだ。

タマが双剣を抜いて、狩人蟷螂の無防備な背中に突き刺す。

慌てて背甲を閉じる狩人蟷螂だが、その行為はタマの双剣を背中にめり込ませるだけの悪手だった。吹き零れる血を利用して、ミーアが「 急膨張 ( バルーン ) 」の魔法で背甲をこじ開ける。その勢いで、タマが空中に投げ上げられてしまったが、空中で背甲を上手く掴んで無事だった。

無防備になった背中に、アリサの「 空間破壊 ( スマッシャー ) 」の魔法とリザの魔刃砲が決まり、狩人蟷螂の体力を大きく殺いだ。この時、背甲を開閉する腱を切ったのか、片方が閉じなくなったようだ。

その背中に身体強化したナナが、こっそりポチを放り投げる。

ポチとタマの魔刃乱舞の活躍で、狩人蟷螂はついに力尽きて地面に崩れ落ちた。

「大勝利~」「なのです!」

ポチとタマが、狩人蟷螂の背中で勝ち鬨をあげる。遠くから探索者達の歓声が聞こえてくる。

このままだと狩人蟷螂の素材を回収できないので、狩人蟷螂を「 理力の手 ( マジック・ハンド ) 」で操り人形のように動かして、開けたままにしておいた湧穴の向こうに退場させる。見えなくなったところで、狩人蟷螂の遺体をストレージに回収した。

オレは「 遠話 ( テレフォン ) 」の魔法で、リザに退場案を伝え、オレの代わりに探索者達に告げてもらう。皆にも小声で説明した。

「我々は、逃げた狩人蟷螂を追います! ここには戻ってこないので、私達の事は待たずにセリビーラへ帰還してください!」

オレ達が入りきると、背後で湧穴が閉じた。

こちらは、標識碑が無いようなので、ミーアの作り出した灯りを頼りに細い回廊を進む。

マップで経路を確認したら、新しい狩場までのショートカットになる事が判った。

ちょっと敵が多いが、雑魚ばかりなので予定よりは早く着くだろう。