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10-34.魔人薬(4)

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10-34.魔人薬(4)

※10/19 一部加筆修正。

※2/11 誤字修正しました。

サトゥーです。暗殺者と言えば毒がメインだった気がします。いつの頃からか、ワイヤーでの絞殺や長い針での急所攻撃とか、バリエーションが増えました。今は、どんな武器が暗殺界の流行なのでしょう。少し気になります。

◇

「ソーケルだな?」

「き、君達は何者だ?」

「ただの使い走りさ」

ソーケル卿が監禁されている太守公館に、侵入した賊の数は2人。どちらも顔をすっぽり隠す濃い茶色のマントを纏っている。その手には、怪しい輝きを放つ抜き身の剣が握られている。

「誰の?」

「殿下に決まっているだろう」

その問いかけで、ようやくオレの存在に気がついた賊が、慌てて剣を向けてくる。一人がオレを牽制している間に、もう一人がソーケル卿を抹殺する算段だったのだろう。不確定な言い方だったのは、手前の賊を蹴飛ばして、奥の賊にぶつけて止めた後だったからだ。少し強く蹴り過ぎたのか、男達が石壁に半ばめり込んでいる。もうちょっと強く押したら、向こう側の部屋に抜けそうだ。

「ごはっ、なんと重い蹴りだ」

「噂に聞くミスリルの探索者か」

「ハズレだ」

お前ら、実は余裕があるだろう?

普通なら気絶するはずの攻撃を受けても、男達は平気のようだ。咳き込む唾が赤い色をしている気がするが、立ち上がって武器を構える気概はあるらしい。

どちらもレベル30で、種族は「人族」、状態が「魔身付与」となっている。恐らく魔人薬を飲んでいる状態なんじゃないかと思う。

その証拠に男達は、呪文を唱えたわけでもないのに、体から紫電を漏らしたり、体の周りに炎を纏ったりしている。

「何者か知らヌが、その男と共にココで死んでもらうゾ」

「死への手向けに教えテやろう。我らは魔人。殿下の築ク新世界の守護者となるモノだ」

男達の言葉にヘンなアクセントが入る。一瞬見えたフードの下は、異形が隠れていた。顔の半分が亀の甲羅のようになっている者と両目が昆虫のように複眼になっている者だ。様々な亜人を見慣れた今でも、十分異形に見える。

異形でも種族が人族になっている事だし、不殺でいこう。せめて、それくらいの線引きをしておかないと、それこそオレ自身が魔王になってしまいそうだ。

オレの当身を受けて昏倒しないような頑丈な相手なので、 誘導気絶弾 ( リモート・スタン ) ではなく、普通の 短気絶 ( ショート・スタン ) を打ち込む。最初は手加減して20発ずつ。前に甲虫に撃った時は20発くらい耐えていたので、このぐらいからいこう。

1人目は魔法をモロに受けて、後ろの壁を突き破って隣の部屋に吹き飛んでいった。2人目は勘で数発かわしたようだが、残りの弾に追いつかれて不自然な姿勢で外壁にめり込んで止まった。ここの外壁は、なかなか丈夫みたいだ。

どちらも意識を失っていない。ブースト薬としては優秀なようだ。1回限りとかなら戦場で飲むやつも居そうだ。

どうしたものか……あっ、そうか。うっかりしていた。

試しに一人目で実験する。

成功だ。当身を受けて昏倒したまま起き上がってこない。

「き、貴様、何をした?」

「タネを敵にバラすわけないだろう?」

相手の攻撃を避けながら、「 魔法破壊 ( ブレイク・マジック ) 」で相手の強化状態を破壊し、続けて「 魔力強奪 ( マナドレイン ) 」で根こそぎ魔力を奪う。武器に流していた魔力も、武器に手を添えて漏れなく頂いた。魔人薬がどんなに優れた魔法回路を使い手に与えるかは知らないが、燃料である魔力が切れたら働くはずもない。

最後に魔術的に丸裸になった相手を、当身で昏倒させて終了だ。レベル相応の頑強さは残っていたが、先ほどのような非常識なタフさは失われていた。

男達を魔封蔦で拘束する。これは、さっき工房で作ってきた 棘蔦足 ( ソーン・フット ) の蔦から作ったもので、魔封じの鎖と同様の効果がある。いつもと違い、今回は製作者をナナシではなく、クロにしてある。

太守公館の方は片付いたと、アリサに遠話で報告しておいた。

◇

ようやく騒ぎに気がついた太守公館の衛兵達が、この部屋に向かってくる足音が聞こえる。

『ごはっ』

『なんだ? ここに見えない壁があるぞ?』

『賊に魔法使いがいるんだ。お前達は別の階段を。お前は魔法使い殿を呼んでこい』

彼らには悪いがしばらく通路は封鎖だ。

「さて、ソーケル卿。命の恩人の質問に答えてくれるかな?」

「ああ、教える。教えるから、オレを安全な場所に保護してくれ」

「分かった。お前が正直に答えるなら当面の安全を保障しよう」

必死な様子でオレに縋り付くソーケル卿に、黒幕の事を聞いてみた。

「殿下は、シガ王家の血族だ。成人したくらいの男性だと思う。会合には必ず認識阻害の覆面をしてくるので、正体は知らない」

「よく、そんな人間の命令で、魔人薬なんて危ない薬を作ったもんだ」

「彼の後見人がケルテン侯だからだよ。彼も顔を隠していたが、特徴的な喋り方ですぐ判った。八侯爵の一人、それも軍に絶大な影響力のあるケルテン侯が後ろにいるなら、協力すれば士爵、上手くすれば准男爵の位だって貰えるかもしれないって思ったんだよ」

それってクーデターフラグな気がするんだけど、次の王国会議は大丈夫か?

「実際は使い捨てだったというわけか」

「そうさ、笑ってくれ」

力なく自嘲するソーケル卿から、殿下の体型や喋り方など、認識阻害の覆面でも誤魔化せない幾つかの情報を聞き出す。やはり第三王子とは別口か。トルマメモを見る限りでは、第四王子が18歳、第五王子が14歳、王弟の第二子が15歳だから、この辺が怪しいといえば怪しい。認知されている庶出の王子はいないようだが、先王や王弟が色欲の強い人らしいので、その辺も加えると凄い数の候補が出てきそうだ。

さて、聞くだけ聞けたし、保護してやるか。

衛兵達が入れるように「 理力壁 ( マナ・ウォール ) 」を解除してやる。

「キサマ! 何者だ」

「しばらく、ソーケル卿は保護させてもらう。そちらの男達は、殿下と呼ばれる黒幕が寄越した刺客だ。高レベルのうえに魔人薬まで使用している。気絶していても油断するな。少なくとも下級魔族くらいの強さはあるぞ。迷宮都市なら高レベル犯罪者用の牢があるだろう? そこに拘留しておけ」

彼らの言葉を意図的に無視して、賊の目的などを一方的に伝える。口調もサトゥーの時とは変えて、すこし高圧的な物言いにした。

せっかくの変装なので、一応「クロ」と名乗っておく。

伝え終わった時点で、オレはソーケル卿を彼の座るベッドごと転移させた。行き先は迷宮の中だ。魔人薬の畑の中でも一番奥地にあった場所へ連れていった。ここなら報知システムが複数あるしね。

「こ、ここは?」

「迷宮の中だ」

「何? わ、私を始末する気か?!」

「そんな気は無い。ここは安全地帯だ。湧穴も無いし、変な作物が植えられている以外は、魔物も人も来ない。匿うには最適な場所だ」

拉致されていた人々が暮らしていた長屋に連れていく。迷宮内に雨は降らないが、たまに天井に見える根から水滴が落ちてくるので、屋根は必要なのだ。

比較的広い場所に、先ほどのベッドを置く。空間魔法がどうとか言っていたので、適当に肯定しておいた。日用品に食糧や水などを 宝物庫 ( アイテムボックス ) から出して、部屋の隅にあったテーブルに積み上げた。あと、不要だとは思うが、安物のナイフとナタを置いておく。どれも、拉致された人たちが使っていた品だ。

一見至れり尽くせりだが、自炊もできない貴族を一人では出られないような迷宮の奥地に置き去りにするなんて、鬼畜の処遇に思える。だが、迷賊達にこき使われていた人々の不安や辛さを、少しでも味わってほしかったので監禁場所をここにした。

安全地帯とは告げてあるし、事実そうなのだが、ソーケル卿は小動物や小虫の揺らす草の音に怯え、魔物が突然襲ってくる恐怖に耐えて眠れぬ夜を過ごす事になるだろう。

「では、次は10日後くらいに食糧の補充に来る。節約して喰わないと、飢えても誰にも助けてもらえないから注意しろ」

何か抗議してくるソーケル卿を置き去りにして、蔦の館に帰還する。

◇

蔦の館に戻ったオレの視界に、遠くに立ち上る炎と煙が目に入った。

『こちらアリサちゃん、オーバー?』

アリサからの遠話が入ってきた。ようやく家電っぽくなくなったが、今度はトランシーバー風だ。もう少し普通に話してほしい。

「オレだ。炎なら見た。あれは西ギルドか?」

『うん、さっき太守公館を襲ったヤツと同じ服装の男達が、空から降ってきたの。背中に羽が生えてた』

「了解、急行してみる。太守公館の方も、引き続き監視を頼む」

『らじゃー』

天駆で迷宮都市の上空を飛ぶ。空からだと、ギルド会館の一角が燃えているのがわかる。ギルドの襲撃者のステータスを見て首を捻る。魔人薬を服用しているのはわかるが、スキル構成を見る限り、魔法使いではなく暗殺者寄りだ。魔法も使えるみたいだが、風魔法なので、あの炎の原因がわからない。

地上から ( ・・・・ ) 火炎が伸び上がる。

オレのスキルで強化された視界に、炎を避けて飛翔する焦げ茶衣装の男が見えた。

おいおい、あの炎ってギルド長の魔法か。自分の拠点を燃やしてどうする。どうして、こう火魔法使いは放火魔が多いんだ。

これ以上の延焼は避けたいので「 誘導気絶弾 ( リモート・スタン ) 」の魔法で、空を飛ぶ賊を地面に叩きつける。普通なら墜落死確定なんだが、本当に頑丈なヤツラだ。ギルド会館から出てきた大盾のジェル達、高レベル探索者達が、賊を捕縛している。

君達ちょっと行動が早い。

賊が魔人薬のもたらす怪力で、ジェル達を強引に投げ飛ばす。ヤツが再び空に舞おうとしたところに、ギルド長が放った「 多段炎弾 ( マルチ・フレイム ) 」の炎の弾丸が殺到した。賊は、周りの地面ごと無数の火炎弾丸に焼かれて地面を転げまわる。

さすが50レベル。当たれば凄い威力だ。

さらに「 火炎地獄 ( インフェルノ ) 」を唱え出したので、介入する。さっきのもそうだけど、街中で使う魔法じゃないってば。

火を消し止めて立ち上がる賊の背中に、空から閃駆で着地する。少し勢いが付きすぎて相手の骨が何本か折れてしまった感触がした。幾ら丈夫な相手でも、これは少々やりすぎだったらしい。太守公館で捕まえた連中と同じく、強化魔法を解除して魔力を奪い取り、魔封蔦で縛り上げる。わずか数秒の簡単なお仕事だ。

「何ヤツ!」

「そんな事より、コイツを牢屋に入れておけ。迷賊とやらを退治しに来てみれば、おかしなヤツらが跋扈しているようだな。さすがは迷宮都市といったところか」

呪文を中断して誰何してくるギルド長を適当に流し、縛り上げた賊を彼らの足元に放り投げた。そのまま空に舞い上がり、ストレージから海水を出して、燃えるギルド会館を消火する。概ね鎮火したのを確認して、蔦の館へと帰還した。

まったく、一番の被害を出したのが、ギルド長とか笑えないよ。アレでよく左遷されたりクビにならないもんだ。

※10/19 最後のあたりを少し修正しました。