LNCrawler

10-41.魔法金属

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

10-41.魔法金属

※11/10 誤字修正しました。

サトゥーです。困難な作業も、小さい単位に分割すると意外に簡単な事があります。大規模なプログラムでも、上手く分割すると急に難易度が下がるのです。もっとも、その分割を上手くするのが大変なんですけどね。

◇

「じゃばら~」

「バラバラなのです!」

ポチとタマが、お遊びで作った蛇腹剣のウィップモードを試している。魔法の刃が5センチ幅くらいに分割して、最大で5メートルほどの長さまで伸びる。今回は練習用の試作品なので、怪我をしないように魔法回路の術式を変更してある。

蛇腹剣を持て余していたポチが、ついに体に巻き付けてしまってスマキ状態だ。予想通りとまでは言わないが、ポチらしい。

「た、助けて! なのです」

「ほい、っと」

しばらく、もがいていたが、諦めてこちらに助けを求めてきた。蛇腹剣を触って魔力を抜いてやる。すぐにポチが、拘束状態を解かれて自由になった。

「ありがとなのです!」

ポチが、う~んと伸びをする。

「ぽち~、こうっ!」

タマが2本の蛇腹剣を巧みに操って枝に絡めて樹木の上に登ったり、木の上から地面の上に置いた木桶を絡めて手元に引き寄せたりしている。まったく、どこの探検家だ。

タマにはアレで良いとして、ポチには、本当の新装備を渡してやる。

「ポチはこっちの方が向いているかもね」

「すごいのです! おっきいのです!」

ポチの持つ小剣から3メートル近い大きさの刀身が生まれる。理力剣と同質の魔法の刃だ。良く切れる反面、脆い。また、重さがない為に、大剣のように叩き切るような使い方ができない。ゆくゆくは慣性を操作するような回路を構築して、普通の大剣なみの攻撃力を発揮できるようにしたい。

遊びで作ったのは、蛇腹剣だけではない。ドリル機構をつけたランスや、ロケットパンチっぽい篭手、パイルバンカーという杭打ち機を盾に組み込んだ各種ロマン武器も作ってみた。アリサは始終大はしゃぎだったが、実用性という所では皆に首を傾げられた。まあ、そうだよね。シンプルなのが一番だ。

ドリルは、トルクを強化した設計図をドーアとキーヤ夫妻に贈った。彼女達のゴーレム戦車にドリルが装備されるのも遠い先の事では無いだろう。

他にも、パイルバンカーの杭打ち機構の部分だけが欲しいとレプラコーンのシャグニグに頼まれたので、普通の杭打ち機に仕立て直してプレゼントした。

今度は、 死神の鎌 ( デスサイズ ) や逆刃刀でも作ろうか。

◇

「それにしてもサトゥーさんは、ミスリルが好きですよね」

「好きと言うか、手持ちの金属だとミスリルが一番魔法剣に向いているんですよ」

ポチ達の新装備を眺めていたルーアさんが、不思議そうな顔をして聞いてくる。鉄や鉛だと魔力が拡散して使えないし、真鍮や銅や銀だと魔力伝達がいいものの柔らかすぎて武器としてはイマイチだ。青銅だと硬いが、銅や銀ほど魔力伝達が良くない。結果、消去法でミスリルしか残らないのだ。金はミスリル並みに魔力伝達がいいが、銅や銀以上に柔らかいしコストが高すぎるしね。

「あら? 神金 ( オリハルコン ) なら武器でも防具でも使えて便利よ?」

「そうですね。頑強さや耐熱性を取るなら 日緋色金 ( ヒヒイロカネ ) ですし、かなり重いですが、武器にするならダイヤより硬い 真鋼 ( アダマンタイト ) がお勧めです。魔法道具としての機能を重視するなら 真銀 ( ティルシルバー ) なんかもありますね」

この「パンが無ければケーキを食べればいいのに」と言わんばかりの空気感は、何なんだろう。

アーゼさんとルーアさんが気軽に挙げたのは、いわゆる伝説の金属だ。ヒヒイロカネは、ドワーフの里でミスリルの精錬用の高炉に使われていたのしか見た事がない。

「オリハルコンは、サガ帝国の勇者から分けてもらえる話になっているんですが、他の金属は入手の当てが無くて」

「練成すればいいのに」

な、なんですとー?!

気軽にのたまうアーゼさんの両手を、包むように握って尋ねた。

「練成で作れるんですか?」

「ええ、か、簡単よ? オリハルコンは、銅と真鍮と賢者の石から作れば――」

チョイ待った。賢者の石って。

「アーゼさん、さすがに賢者の石は気軽に使えませんよ」

「前に何個かあげたじゃない」

あれは、もう使用済みだ。リビングアーマーと飛空艇の予備回路に使ってしまった。リビングアーマーの方は、一度外すと経験がリセットされてしまうので、使うなら飛空艇の方か。

「なら、もう1個あげるわ」

「いいんですか? そんなに気軽にポンポン配って」

「い、いいのっ」

いや、そんなに可愛く拗ねたように言われても。

「アーゼさまが仰るなら、本当にいいと思いますよ。それにサトゥーさんが活躍してくれたお陰で、千個単位で他の氏族から賢者の石を貰える予定ですから」

「あ、忘れてた。ハイエルフの会合で、サトゥーが賢者の石を欲しがってるって言ったら、分けてくれるって」

「いや、欲しがったからってくれるようなモノなんですか?」

「普通はくれないけどね。自覚していないみたいだけど、あなたはそれだけの事をしてくれたのよ」

最後は魔法でゴリ押しだったけど、自分の仕事が誉められるのはなかなか照れくさい。

というか、他の氏族にはどうしてそんなに余ってるんだろう?

「昔ね、イフルエーゼ達がフルー帝国っていう国の遊び道具に嵌っちゃってね」

その遊び道具というのが高価な魔法道具だったらしく、その対価に賢者の石を支払っていたらしい。傾国の美女ならぬ、傾国の遊技機か。

一度に支払うのは数個だったらしいが、数十年の間にストックしてあった賢者の石の殆どを使い込んでしまったらしい。ハイエルフも色々のようだ。後で、その遊び道具というのを見せてもらおう。ゲーム開発者としては、とても興味がある。

「もっとも、それも千年ほどで回復してきたんだけど、今度は光船を失った例の魔王戦を支援するのに大量消費しちゃったのよね。その後は、壊れた光船を修復するのに余分な賢者の石を使っていたから、貯蓄がなかったのよ」

なるほど。

でも、フルー帝国か。どこかで聞いた名前だと思ったら、竜の谷で手に入れた大量の貨幣を使っていた国の名前だ。そういえば、珍しい貨幣があったっけ。話のネタになるかと1枚取り出して2人に見せる。

「サ、サトゥーさん、その硬貨は?」

「ええ、以前手に入れたフルー帝国の紅貨っていう物らしいです」

「あら珍しい」

取り出した紅貨をルーアさんに「綺麗な貨幣でしょ?」と言いながら手渡す。長生きなアーゼさんは知っていたようだ。

ルーアさんは、紅貨を光に翳して色々な角度から眺めている。「良かったら差し上げますよ」と言う前に、ルーアさんが爆弾発言をした。

「これって、賢者の石ですよね?」

「そうよ」

え?!

ルーアさんの問いを、アーゼさんがあっさりと肯定する。

「賢者の石そのものじゃなくて、ちょっと加工してあるみたいだけど、触媒として使うなら、このままの方が使い易いんじゃないかしら? 賢者の石に戻したいなら、長老に頼めば十年くらいでやってくれるはずよ」

十年って、気長なエルフらしいタイムスパンだ。

「ひょっとして、この貨幣を使って魔法金属とかが作れるのですか?」

「ええ、元々、魔法金属を作る触媒にしたり、魔法の威力を増強するために加工してあるはずよ。知りたいなら、後で教えてあげるわ。今は覚えてないけど、世界樹に戻れば記憶庫の中にあるはずだから」

オレは、お言葉に甘える事にした。アーゼさんと一緒に世界樹に同行して、紅貨の使い方や、魔法金属の練成の仕方を教えてもらう。記憶庫の中のアーゼさんは、前にレリリルが言っていたように、亜神と言ってもいいほどの神々しい美しさと人知を超えた知識を披露してくれた。まあ、こっちのアーゼさんに始めから会っていたら、美人と思いこそすれ惚れる事はなかっただろう。やはり、あわあわしてこそアーゼさんだ。

その対価という訳ではないが、エルフの里でも役に立ちそうなので紅貨を千枚ほど贈った。感情の薄い長老さん達の驚く顔が見られたので、ちょっと得意げな気分だ。

◇

最初に作ったのはアダマンタイト製の金床とハンマーだ。今度はソレを使って、オリハルコン製の剣を鍛える。鍛える手順やこの時に使う触媒の作り方は、アーゼさんの記憶の中にあったので初回から失敗する事無く剣を打つ事ができた。

それほど気合を入れたわけじゃないが、魔力を流していない素の状態で、切れ味も耐久度も妖精剣より数段上の物ができてしまった。金属や道具が違うだけで、ここまで違うのか。

今度、この金床とハンマーのセットをもう一組作って、ドハル老にプレゼントしよう。きっと喜んでくれるに違いない。もちろん、魔法金属各種も一緒にだ。

試作した剣を持って、アーゼさんに修行を付けてもらっているアリサとミーアの邪魔をしに行く。

「うわっ、派手な剣ね」

「金色」

「綺麗な剣ね」

「こんなものも作ったのですが、いかがですか?」

オレは、剣を作るついでに作っておいたオリハルコン製のアクセサリーを、3人に見せる。細い鎖のネックレスを始めとして、イヤリングや髪飾り、指輪類など10種類くらい作ってきた。エルフの間で流行っているという耳に被せるように着ける耳飾りも作ってみた。

「耳飾り」

「あ、ミーアずるい。私もそれがいい」

「ダメ」

「うぅ、ミーアの意地悪」

小さい子の取り合いのような2人と違い、アリサは指輪を手に嵌めてウットリとしている。薬指には大きすぎたのか、人指し指に嵌めているのが少しさまにならない。アーゼさんの指を想定して作ったから、ちょっと大きかったようだ。ルルならギリギリ薬指に嵌められるサイズかな。

アーゼさんには、後で耳飾を作ってあげると約束して、本来の目的に戻る。

先ほど鍛えたオリハルコン製の剣を、剣を型取りした台座の上に置く。その横に同じ型の台座を置いて薬液を入れ、そこに 青液 ( ブルー ) を流し込む。

準備が完了したので、ミーアにオリジナルの水魔法「回路形成:タイプ021」を唱えてもらう。この魔法は、さきほどの台座に流し込んだ 青液 ( ブルー ) を誘導して、21番魔法回路を形成する為のものだ。応用が全く利かない代わりに、専用の型に流し込んだ 青液 ( ブルー ) をミクロン単位で精密に操作して、緻密な魔法回路を形成してくれる。

「アリサ、頼む」

「おっけー」

アリサが、同じくオリジナルの空間魔法「回路転送:タイプ021」を無詠唱で発動する。この魔法は名前から判るように、ミーアが先ほど完成させた魔法回路をオリハルコンの剣の中に転送する呪文だ。ミーアの唱えた呪文と同じで、決められた型に置かれた剣に回路を転送する機能しかない。今回の魔法剣を作成するためだけの専用魔法だ。

汎用でやろうとすると、ミクロン単位の操作を自前の脳みそでイメージしないといけないので、実現性が低くなってしまう。現に、トラザユーヤの考えていた魔剣作成手順は、その辺りで解決策を見いだせなくて挫折していた。

そこで、プログラマーっぽいアプローチを考えてみた。汎用にするのが難しいなら、汎用にしなければいい。そう考えて作ったのが、先ほどの2つの魔法だ。機能や使える条件が限定されている代わりに、術者の能力に左右されない。職人芸の世界から、工業製品的な世界への移行と言えるかもしれない。

完成した剣に魔力を通す。

複雑な魔法回路に、スムーズに魔力が流れる。魔法回路が起動し、予め登録していた魔法が発現した。

うむ、成功のようだ。

「うあ、青い薔薇だ」

「綺麗」

「ええ、綺麗ね」

好評のようだ。この剣は、魔力を通すと剣の周りに茨と小さな薔薇の花が出現する。薔薇も茨も幻影の様に触れないが、斬った相手を麻痺もしくは昏倒させる追加効果がある。さらに、合言葉を唱えると10メートルほどまで茨が伸びて、対象にした者を拘束する。この術式は「 茨姫の棘 ( スリーピングソーン ) 」というエルフ達の古い魔法を元にしている。拘束された相手が棘に触れると、麻痺した後に魔法の眠りに落ちる。なお、薔薇の花は単なる飾りなので、特に特殊効果は無い。

この剣は、ポチの師匠のポルトメーア女史に贈る事になった。アーゼさんは剣を使わないし、オレ以外は小剣、大剣、槍と、誰も片手剣を使う者がいなかったので、早い者勝ちという事で、彼女の物になった。

彼女がやたらと見せびらかすので、ボルエナン滞在中に、同じ仕組みの魔法剣を大量生産するはめになってしまった。全部鍛造で作ると大変なので、真鍮製の鋳造魔剣で勘弁してもらった。こちらの鋳造魔剣は、小剣サイズに統一してあり魔力を流すと赤い薔薇が出る。

身内の分は、刀身は小剣サイズに変更したものの、オリハルコン製の鍛造のモノにしてある。なぜか、アリサの懐剣とルルの包丁にも組み込むことになった。

オリハルコン製の包丁で作った刺身は、美味かった。

真鍮 ( しんちゅう ) =黄銅(銅と亜鉛の合金です)

そういえばダマスカス鋼で武器を造るのを忘れてますね。

次回更新は、11/17(日)予定です。

先週の中頃にタマSSを活動報告にアップしてあるので、未読の方は良かったらご覧ください。