LNCrawler

10-49.狗頭の魔王(2)

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

10-49.狗頭の魔王(2)

※2014/12/4 誤字修正しました。

※2014/12/30 称号を追加しました。

サトゥーです。人間が二人いると必ず諍いが起きると何かの本で読んだことがあります。学生時代には友人カップルの喧嘩の仲裁を頼まれる事がありましたが、たいていは相手の話を聞かない事に起因する誤解から始まっている事が多かったのです。やはり、コミュニケーションって大切ですよね。

◇

「魔王の戯れ言に耳を貸してはいけませんわよ?」

突然現れたのは、こんな場所に不似合いな5~6歳の童女だ。

AR表示では「UNKNOWN(正体不明)」とだけ出ている。

だが、どこかで見たことがある顔だ。

「まさか、我が君の前に自ら現れるとは! 臆病な貴様らしくないな――パリオン!」

この童女が勇者を召喚するっていうパリオン神なのか?

魔王が先程の「燃焼」の玉を生み出し、グレイブの刃に変えて童女を切り裂く。

童女はペーパークラフトの模型の様に一瞬で燃え尽きた。

あれ? 神様って弱い?

「失礼ですよ? 私の勇者。この姿は、魔王に籠絡されそうなアナタを救うために生み出したのですから?」

そう訂正しながら、いつのまにか姿を再生させた童女が 窘 ( たし ) なめる。

ひょっとして心を読まれてないか?

「我が君が勇者だと?」

「あなたは少し黙ってらっしゃい」

魔王が空中に現れた一枚の絵の中に閉じ込められる。

そうか、どこかで見た顔だと思ったら、公爵城の廊下の絵画の中から手を振っていた童女だ。

「ようやく思い出したようね」

まてよ、あの時点でオレに接触してきたって事は、サトゥーがナナシの正体だと知っているって事か?

「そうよ、だって私はずっとあなたの傍にいたのだから」

まさか、神様がストーカーだったのか。

「ひどいわ、せめて守護霊とか守護神とか言ってほしいモノね」

心の声と会話するのはやめてください。

おっと、そんな事より問いたい事がある。

「神よ、あなたは魔王の言うように、文明を抑制していたのですか?」

「少なくとも 私 ( ・ ) は人の営みには興味はないわね。私が興味を持つのはいつだってアナタだけよ」

何か煙に巻かれている気分だ。

ここは、もっと問い詰めよう。

「活版印刷や熱気球なんかを伝播しないように、人心を操ったりはしていないと?」

「していた神もいたみたいよ? でも、活版印刷を阻害するのはどうしてかしら? 地球で最大のベストセラーは何? 思い出してご覧なさい」

ベストセラーって言うとアレか。

だとすると、阻害した神の狙いはなんだ。

「では、災害を起こしたり、自作自演で信仰心を集めたりはしていないのか?」

「 私 ( ・ ) はしていないけど、他の神々はやっていたみたいね。天変地異の加減が難しかったらしくて、途中からは戦いを司る神々がお互いの信徒に代理戦争をさせて楽しんでいたみたいよ」

彼女は、どこか他人事のように言って小さな肩をすくめてみせる。

たしかに神様のしそうな行いだが、戯れ言と断じていた割に、魔王の言う事を肯定していないか?

「それも魔神が現れてからは自重しているみたいね。だって、自分達がしなくても、魔神が代わりに『魔物』や『魔王』という災害を引き起こしてくれるのだもの。神々は何もせず左団扇で、流れ込んでくる信仰を浴びて悠々自適な生活を送っているわ」

何か違和感がある。竜神に頼んで勇者召喚の魔法を教えてもらった神話の中のパリオン神と齟齬がある。絵本と現実の違いなのだろうけど、ひどく気になる。

「いいこと? 私の勇者。アナタはいつまでもアナタでいいの。私の隣に並べるくらい、いつも強くありなさい」

彼女はそれだけ告げると空に溶けるように消えてしまった。

◇

絵を突き破って魔王が復活してきた。

「まんまと騙されたぞ、神の番犬よ!」

「そっちが勝手に勘違いしただけだろう?」

絵の中は大変だったのか、紳士然とした先程までの姿とは違い満身創痍だ。180センチほどだった体も、2段階変化でもしたのか5メートルの巨大な狼男じみた姿に変わっている。剥き出しの牙で今にも噛みついてきそうだ。

「なあ、魔王」

「黙れ番犬!」

魔王の吐く分解のブレスを、自在盾で防ぐがほんの一瞬耐えるだけで消えてしまう。閃駆でブレスの圏外に避けるまでの時間稼ぎにしかならないか。やはり、詠唱スキルをゲットして上級魔法が使えないと本当に強力な攻撃は防げないね。

「地球で一番売れたベストセラーって知っているか?」

「ふん、聖書だろう? それとも毛主席語録やコーランを挙げてほしいのか?」

そう、活版印刷の一番の恩恵を受けたのは聖書なんかの思想を広めるための本なんだよね。

「だからさ、どうしてこの世界の神殿は、地球ほどの権力を持っていないんだろうね」

「それがなんのっ――」

オレの疑問をとにかく否定しようとした魔王だったが、どうやら言いたい事が通じたようだ。

そう、神の目的が信仰心を集める事なら、神権国家や宗教国家がはびこっていないとおかしい。

シガ王国もサガ帝国も、日本人が建国しただけあって信仰の自由がある。

神が実在する世界なら、神がバックにいる国があってもおかしくないはずだ。

だが、パリオン神国やガルレオン同盟、テニオン共和国の三国を除いて宗教国家は存在しない。そして、どれも中堅国家ではあるが、大国とはとても呼べない。神がバックにいるなら、もっと強大な国家になるはずだ。

少なくとも魔王を簡単に絵に閉じ込められるような神がいれば、シガ王国を侵略するのは訳ないはず。

そして、話が戻るが、布教に一番便利な経典を量産する為の活版印刷が普及するのを妨げる理由は、神には無いと思うんだよね。

「つまり、キサマは、文明進歩を妨げていたのが我が君だというのか!」

「他の第三者の可能性も少しあるけどね。神に敵対する者が、普及を邪魔していたと考えた方がわかりやすいんじゃない?」

「ばかな……」

これは説得できそうかな。

「バカァァぬぁぁぁ、デは僕がシていたのは? ……この長い闘争の日々は間違ってイタというのか?!」

あ、しまった。

「クルルルォウ、なんノ為に、泣き叫ぶ巫女達をこの手に掛けたノダ? 神への信仰を捨てぬ木訥な農民ヲてにカケタのはァァあァ」

「落ち着け」

ああ、そんな言葉で落ち着く訳ないじゃないか。

どうやら、オレも少し焦っているみたいだ。

「僕は、レいセイだ。そうとも沈着冷静ナ、原初の魔王ナノダ!」

ああ、変形し始めちゃったよ。

狗頭の魔王は、狗男フォームから獣そのものの魔狗フォームへ移行したらしい。全長100メートルの巨大な魔狗が天に向けて吠える。

もう、何を言ってもオレの言葉は届かないようだ。

仕方ない、フルボッコにして意識を取り戻してもらうか。

閃駆で256方向からの「 爆裂 ( エクスプロージョン ) 」乱れ撃ちと、16方向からの聖散弾での射撃を混ぜて叩き込む。地形が凄いことになっているが、砂だし風が吹けば元に戻るだろう。

さらに雷雲から呼び出した128本の「 落雷 ( サンダー ) 」の魔法を叩き付ける。

どうやら魔王の脅威度評価は、魔法より聖散弾の方が上みたいだ。

絶対物理防御を張って聖散弾を受け止め、他の魔法は鱗状の小盾群と無数の眷属達に受け止めさせるつもりらしい。幾つかの爆裂が、魔王の防御を突き抜け、その体を穴だらけにする。

魔剣を咥えた眷属達が襲いかかってくるが、魔王本人でないなら余裕でいなせる。たとえ、その魔剣が森羅万象の「消滅」の効果を帯びたものであっても当たらなければ問題ない。

眷属や軍団召喚で産み出された魔族達を殲滅しながら、魔王を正気に戻らせるべくフルボッコにしてみたが、状況は芳しくないようだ。

一度やり過ぎて殺してしまったのだが、猪王と同様にすぐさま復活してしまった。やはり魔王は一筋縄ではいかないね。

「クハ、クハフハハハハ、こんナ世界など、滅びてしまえば良いノダ」

あ、何か短絡しだしたぞ。

もう一回、殺した方がいいのかな。

「神もヒトも魔モ、等しく滅ベバ良いノダ! 『 神喰魔狼 ( フェンリル ) 』」

ちょっと待て犬頭、玉砕とか無理心中とかは止めてくれ。それに、いつから狼になった。

ヤツを中心に、分解の光が広がっていく。その動きは遅いが砂漠が球状に消滅していっている。

試しに「 魔法破壊 ( ブレイク・マジック ) 」を掛けるが、魔法とは違う仕組みなのか「魔法破壊」自体が分解されてしまっている。「 魔力強奪 ( マナドレイン ) 」で魔力を奪おうとしても、その触手となる 魔素 ( マナ ) が分解されてしまって上手くいかない。

ちょっとまずいね。聖散弾やレーザーも飲み込まれるだけで、効果が無かった。

神剣なら対抗できそうだけど、刃の長さ的にオレの体が分解されて終わりそうだ。特攻は趣味じゃないので、他の手を考えよう。

砂丘を分解しているときに少し、分解の光の浸食速度が遅くなっていた。試しにストレージに大量にある瓦礫や海水を叩き込んだらさらに速度が落ちた。

これなら行けるか?

マップ内に誰かいないか再チェックしておく。あれだけ長時間、天変地異が続いたせいか、誰もマップ内にはいないようだ。地虫や砂丘蠍のような魔物はいるが、人的被害がなければ別にいいや。

オレはデュランダルを収納し、魔力タンク代わりになっている魔剣を交換しながら 魔法を使う ( ・・・・・ ) 。

動かずに砂漠を飲み込み始めた魔王を中心に半径数キロくらいの所に、海水を出しながら氷壁を築いていく。

もちろん、こんなもので魔王のユニークスキルを止められるとは思っていない。

氷壁を築き終わったオレは、砂漠の外れにある山小屋に帰還転移で離れる。

そして、数分後にソレはやってきた。

暗雲を裂き――。

光の尾をたなびかせて――。

圧倒的な質量を魔王に叩き付ける。

流星雨――かつて竜の谷を滅ぼし、最強の竜神を殺した魔法だ。

百を超える流星を浴びてなお、分解の光は消えない。

うん、想定の範囲内だ。

分解の光に向けて星が降る。

消えようが砕けようが、星は降り続ける。

総計1000個を超える巨大隕石が砂漠に降り注ぎ、やがて分解の光がクレーターの底に消えていく。

せっかくだから、魔剣に貯めてあった魔力を使って10連射してみたんだよね。

周辺の国に影響が出ないように、氷壁を張っておいたけど少しは砂が漏れそうだ。少しくらいなら、それぞれの国がなんとかしてくれるだろう。魔王が暴れるよりはマシだよね。

>称号「魔王殺し『狗頭の古王』」を得た。

>称号「女神の寵児」を得た。

>称号「地裂の魔術師」を得た。

>称号「天崩の魔術師」を得た。

◇

「負けたよ?」

「あいつがじゃまするから」

「ひどいよねー」

「あぅ、苦しい?」

「へんだね、ふらふらする」

「ふらふら~」

「帰れる? かえろー」

帰さないよ?

流星雨の穿ったクレーターの底に現れた紫色の光を、神剣であっさりと始末する。

今度は砕いた光を監視していたお陰か、神剣に吸い込まれるのが確認できた。やはり神剣にはなんの変化も無い。封印具の類いも兼ねてるのかな?

狗頭の魔王を破滅させてしまった事に多少の罪悪感があるが、気にしない事にした。

亜神らしいし、そのうち勝手に蘇るだろう。ユニークスキルが残っていないだろうけど、魔王の心配なんてするだけ無駄だろう。神の欠片が抜けて正気に戻ってるかもしれないしね。

さて、魔王も片づいたし大体の情報も回収できた。

心配してるだろうし、皆の所に戻ろう。

ひょっとして、もうフロアマスターは倒しちゃったのかもしれないな。

念の為、流星雨の痕跡をストレージにしまって、迷宮へと帰還した。

すみません! 称号を後で追加しようと思ってたのに忘れてました。

次回はアリサ視点のフロアマスター討伐話です。

たぶん、次回で10章は終了となります。プロット通りなら11章は、のんびり観光主体の予定です。

早ければ1/2~3の間に、遅くても1/5(日)に次話を投稿します。

※流星雨は、魔法と使い捨てアイコンの2種類があります。魔法の方の流星雨は魔力の有る限り回数制限はありません。アイコンの方はあと2回分残っているはずです。