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SS:練習風景

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

SS:練習風景

※活動報告にアップしていたSSの再掲載です。

「アン、ドウ、トロワ! アン、ドウ――ストップ! ポチ! 手と足がバラバラよ! それに右足は踵から、左足は爪先からよ! タマも、もっと指先まで意識して! 2人とも、ジャンプするときはお互いを見て着地するときはお客さん達の方を向くように身体を捻るのを忘れないで! 観客の方にお尻を見せて着地なんて絶対ダメよ」

手拍子をしていた腕を止めて、ポチとタマの踊りにダメ出しをする。

今のままでも十分見れるけど、やっぱり大勢の前の舞台だもの、もっとクオリティーをあげたいものね。

「ゆび~?」

「アリサ、一度にポンポン言われても分からないのです! もうちょっと、ゆっくりと一つずつ教えてほしいのです」

わたしが指示を急ぎすぎたのか、ポチが涙目で訴えてくる。

タマも指をわきわきするばかりだ。

危ない危ない、 前世 ( まえ ) の時みたいに一人で熱くなって失敗するところだった。

落ち着けアリサ。

ゆっくりと噛んで含めるようにポチとタマに説明する。

だけど、2人には上手く伝わっていないみたい。

ああ、もう言葉で教えるのって難しい。

教育スキルは使い道が少なそうだし、そうだ! 光魔法を使おう。

レベルアップで使い道を迷ってたスキルポイントで、光魔法をスキルレベル1まで上げる。

前に一度リセットしたのをもう一度取るなんて無駄な気もするけど、迷宮だとスキルレベル1だけでも結構使えるのよね。

気のせいか必要ポイントが少ない気がする。前に一度覚えた事のあるスキルだからなのか、レベルが上がったからなのかは判らないけど、検証は後でいいや。

今は舞台の練習の方が大事だ。

「2人とも、ちょっと見て」

「ちいさいポチ~?」

「ちっちゃなタマもいるのです」

「むぅ、いない」

「ミーアは、後で出してあげるから」

光魔法で出した3頭身にデフォルメしたポチとタマの幻影に、歌に合わせたステップを踏ませる。

「よく見てて、こっちがさっきポチとタマがやってたステップで、あっちのが正しい動きよ」

2つ並べて違いを見せる。

「なるる~」

「分かったのです!」

良かった。

スキルポイントを使った甲斐が――

「でも、どう直したらいいか判らないのです」

――無かった……。

ああ、もうどうしろってのよ。

◇

途方に暮れる私を救ったのは愛しのマイダーリンだった。

おお! 白衣! 白衣じゃないですか、先生!

うあ、うあ~。

アイテムボックスから取り出した眼鏡を、両手でそっと差し出す。

「なぜ、メガネ?」

「是非、是非とも掛けてくだされ」

「アリサ、言葉が変だよ?」

ああ、違うのポケットじゃなくてちゃんと耳に掛けてよ!

でも、そのスタイルも捨てがたい。

デジカメが欲しすぎる。

「アリサ、何か変な事を考えてないか? 顔がニヨニヨしてるぞ」

「うそっ?!」

そう指摘されて慌てて口元から頬を撫で付けて表情を整える。

「それで、このイメージ通りにポチとタマにステップを教えればいいんだな?」

「うん、できる?」

「簡単だよ。こうすれば、ホラ」

うわ、なんて力業。

まさか「 理力の手 ( マジック・ハンド ) 」の魔法でポチとタマを操り人形みたいに動かしてステップを教えるとか……普通思い付かないわよ。

「あやつりにんぎょ~」

「ポチとタマはご主人様のなすがままなのです!」

「ほら、変な事を言ってないで、動きを覚えるんだよ」

「あい~」

「はい、なのです!」

それにしても、1回見ただけでポチとタマを同時に踊らせる器用さがあるのに、どうして詠唱が上手くできないのか不思議すぎるわ。

たま~に、誰も見ていない迷宮の奥とかで、一人でこっそり練習してる姿を想像すると萌える。

そりゃ、もう押し倒したいくらいに!

「アリサっ。よだれ」

呆れたあいつの言葉に慌てて口元をぬぐう。

若いと身体が正直過ぎて危ない。危ない。

「衣装は、どうする? 新しいのを作ってあげようか?」

「そうね~、ドレスでもいいけど、ポチとタマは飛び回るから……」

「忍者装束~?」

「それは、ちょっと」

「なら、羽妖精の衣装がいいのです!」

ああ、エルフの里で空中ダンスしたときのか。

たしかに、合うかも。

「よっし、それでいきましょう! 御主人様には飛ぶ時に羽から光がこぼれるギミックの追加をお願い!」

「ああ、それは綺麗だね。あまり特殊でない素材でできるか調べておくよ」

これで衣装はおっけーね。

「さあ! みんな! 今度は通し稽古行くわよ!」

「ん」

「あい~」

「らじゃなのです!」

ミーアが演奏を始めた音楽に併せてポチとタマが踊り、わたしの魂を込めた熱唱が練習スタジオに響き渡る。

◇

そして、本番がやってきた。

舞台の前には黒山の人だかりだ。

もっと閑散としてるかと思ったのに、みんな意外とヒマみたい。

わたしは観客に向かって、開始の言葉を絶叫する。

「わたしの歌を聴けぇぇ!」

ああ、素敵。

これで今世でやりたい事リストがまた一つ埋まった。

次は是非とも、愛しのマイダーリンを押し倒したい。

いいえ! きっと押し倒させてみせるわ!

※11章パレード後に幼少組が行った舞台の練習風景です。