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幕間:上肉串とペンドラゴン

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幕間:上肉串とペンドラゴン

※5/19 誤字修正しました。

「おっちゃん、上肉串を5本くれ」

「あいよ、上串とは羽振りがいいね。何か大物でも狩れたのかい?」

「ああ、狙ってた 双首蜥蜴 ( ツイン・ヘッド・リザード ) を狩れたんだ!」

「そいつあ大したもんだ」

店主は感心しながら、少年の注文通り金網に上肉串を並べて焼き始める。

並串と違って、高価な上肉串は常に売れるわけではないので焼き上がった串がないのだ。

探索者は外見では判らないというが、店主に話し掛けるのは成人したての兎人族の少年だ。彼の仲間達も同じくらいの少年や少女達だ。

その彼らが迷宮の奥深くに潜む双首蜥蜴を狩ったというのだから、さぞかし才能に溢れた者達なのだろう。将来は赤鉄証だって取れるかもしれない。

「はは、オレ達なんてマダマダさ」

「本物の赤鉄は、化け物揃いだぜ?」

「ポチさんやタマさんに言ってやろ」

「あ、バカ、やめろラビビ! 2人に泣かれたら、他の『ぺんどら』達に殺されちまうよ」

彼らの会話を聞いて店主は、彼らの噂を思い出した。

迷宮都市に彗星の様に現れて、瞬く間に探索者達の上位集団に躍り出た「ペンドラゴン」に 縁 ( ゆかり ) の者達だ。

慈善家の「ペンドラゴン」のリーダーが設立した探索者育成校の卒業生だろう。

その卒業生達は、ペンを持つ竜の意匠が施された揃いの青いマントを着ていると言う。

「あんた達が噂の『ぺんどら』かい?」

「へへっ、そうさ!」

兎人の少年が照れ隠しに鼻の下を擦る。

ピンと立った耳が誇らしげだ。

「ペンドラゴンの人達って、やっぱり凄いのかい?」

「すっごいなんてもんじゃないよ!」

噂話の好きな店主が、上串が焼けるまでの繋ぎに小さな並串を「ぺんどら」の子達に与える。

この並串は噂話の対価だ。彼はココで仕入れた噂話で、飲みに行った酒場で他の酔客から酒を奢らせて元を取るのだ。

「ポチさんの一撃は、兵蟷螂の胸甲だって貫くんだぜ?」

「タマさんなんて、戦闘中に接近した影小鬼だって、火に迷い込む小虫みたいに退治しちゃうんだ」

「ミーア様の魔法も凄いじゃない。治癒魔法で傷跡すら残さないんだから」

上串の脂が焼ける匂いが漂い始めても、少年達の「ペンドラゴン」自慢は止まらない。

「あれもナナさんの防御力があってこそだと思うよ? あれだけ、敵を引きつけて、怪我一つしないんだから。同じ盾役としては、差がありすぎてどこから真似ればいいかも判らないよ」

「攻撃担当の俺も同じだよ。リザさんに槍術を教えてもらったけど、あの領域に辿り着いた自分が想像できないよ」

「ああ、あのヒトは別格だから……」

楽しげに聞き役に徹していた店主が興味を惹かれて、問いを発した。

「どう別格なんだ?」

「魔刃って知ってるかい?」

「シガ八剣の人達とかが使う奥義だろ? オレも若い頃は探索者をしてたんだ。蟻羽の銀剣を手に入れた時に三年ほど修行してみたけど、一向にできる気がしなかったよ」

「へー、おっちゃんも探索者だったんだ」

「青銅止まりだったがな」

店主のように危険な探索者に見切りを付けて、他の職に移る者は多い。

探索者は見た目で強さが判りにくいと言うが、この迷宮都市ではしがない露店主さえ騎士並の強さを持つ者が紛れている。

それ故に露店の店先で盗みを働く食い詰め者は滅多に出ない。

リスクが大き過ぎるからだ。

「で、その魔刃がどうしたんだ?」

「リザさんが使うんだよ」

「魔刃をか? この迷宮都市に赤き四天王以外の使い手も居たんだな」

この迷宮都市には魔刃の使い手が、知られている者だけで4人いた。

「紅の貴公子」「赤牙の獅子」「朱剣の狼」「緋炎の魔女」、赤系の二つ名を持つ4人の事を、迷宮都市の人達は「赤き四天王」と称賛を篭めて呼んでいる。

黒槍のリザが栄えある5人目に並んだ訳だが、ペンドラゴンには他に三人も使い手がいる事や、彼女達が更に上位の「魔刃砲」を使える事は知られていない。

店主は焼き色が付いた上肉串を手際よく裏返していく。

並串を食べて小腹が落ち着いたはずの少年少女達も、その匂いに鼻をひくひくとさせている。

「そうだ『若様』はどんな人なんだ?」

「優しい!」

「訓練校に居たときは美味しいお菓子とか、いっぱい差し入れしてくれたの!」

「女の子達にモテモテだよ」

「でも、モテてもあんまり嬉しそうじゃないよね」

「士爵様は、大きなオッパイが好きだから……」

彼らの言葉は街の噂とも一致する。

総じて人々は「お人好しの道楽貴族」と「若様」を評する。嘲るのではなく、少しの呆れと称賛を篭めて彼の噂をする。

「そろそろ焼けたんじゃない?」

「素人は黙ってろ、ここからが腕の見せ所だ」

店主は焼き加減を見つめ、焼き音に耳を澄ませる。

これは市場で知り合った「若様」のメイドから教えてもらった「上手い肉の焼き方」の極意だ。

出会ったばかりの人間に極意を教えてしまうとは、お人好しの「若様」に仕える者らしいと店主は思う。

最良のタイミングを捉えた店主が素早く金網から串を引き上げ、期待に満ちた笑顔の少年少女達に手渡す。

「へい、おまち!」

「美味そう」

「くぅ、待ってました!」

口の中を涎で満たしていた少年少女達が、熱々の上肉串に食らいつく。

彼らの牙が芳ばしく焼けた肉の表面を突き破る。

牙と肉の間を通って、旨味のタップリ詰まった肉汁が彼らの舌を楽しませる。

舌から伝わってくるあまりの美味しさに、表情をくるくると変えてお互いに無言でうなずき合う。

「うめぇ」

「さすが大銅貨1枚もするだけあるぜ」

一切れ目を咀嚼した少年達が絶賛する。

少年達が串を伝って手を汚す脂を舐め取る。この旨い滴を振り払うなんてとんでもないと言わんばかりだ。

「ああ、美味し過ぎる」

「赤鉄になったら毎日こんなお肉が食べれるのかな?」

「きっと食べれるよ! だって、ポチさんやタマさんの話す士爵様のお家の料理ってもっと美味しいらしいもん」

「これより美味しい物なんて想像もできないよ」

ようやく口の中の肉を飲み込んだ少女達も肉串の絶賛に参加した。

もっとも、冷める前に食べきらないと勿体ないので、称賛の声はさほど続かずに残りの肉の攻略に戻っていった。

「あら? ウササ達じゃない。美味しそうなもの食べてるわね」

「よう、アリサ。メチャメチャ旨いぜ!」

「アリサちゃん、おひさ。ここの上串美味しいよ」

「ルルがお勧めしてた店ね。夕飯までまだ時間があるし、あたしも一本頼むわ」

「あいよ! 大銅貨1枚だけど大丈夫かい?」

「それくらい余裕よ」

身なりの良い子供の場合、探索者に憧れる貴族の子女がお供を連れずに歩き回っている事がある。彼らは得てして金銭を自分で支払った事がないので、先に確認する事は重要なのだ。

少年少女と会話するこの幼い娘が、先程まで噂していた「ペンドラゴン」の最後の一人だと店主は最後まで気がつく事がなかった。

※次回更新は、5/11(日)予定です。

※階層の主討伐の少し前のお話です。

※アリサをオチに使うのはそろそろ自重しないと……。

色々な人視点のペンドラゴン士爵のお話を考えたのですが、プロットの段階で1話に収まらなかったので、ウササ二連発に。