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12-12.王都の屋敷(2)

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

12-12.王都の屋敷(2)

※8/3 誤字修正しました。

サトゥーです。必要は発明の母と言います。楽をする為に努力をするプログラマーの工夫に通じるものがあると思うのです。

◇

「魔力が要らない点火器具だと?」

「はい、その自称発明家が言うには点火棒よりも簡単に着火できるとの事で、彼の持ち込んだ試作品を試したところ比較的簡単でした。少々コツは要りますが、火打石よりは格段に楽でしょう」

工場の事務室でポリナからそんな話を聞かされた。

キックボードに触発されたのか、下町の自称発明家達が色々と発明品を持ち込んでくるのだそうだ。

大抵は愚にも付かない物が多いが、少しでも目新しいものがあったら買い取るようにポリナに伝えてある。

アイデアと試作品もしくは設計図の買取に銀貨1枚。エチゴヤ商会で発売する場合は売り上げの1割を発明者に支払う取り決めにしてある。

ポリナが17番と書かれた箱を棚から持ってくる。

番号できちんと分類しないとどこに何が置いてあるか判らなくなるので、工夫したそうだ。

箱の中にはヘアスプレーほどのサイズの ライター ( ・・・・ ) が入っていた。

契約前の試作品を置いていくなんて無頓着すぎると思う。

少々無骨だが、オレの知っているオイル・ライターと同じ構造だ。

正しくは、以前、公都の闇オークションで手に入れた手帳に書かれてあった、ライターの構造と一致する。

王都に転生者やチート付きの転移者らしき存在はいないから、きっとメネア王女関係の転移者だろう。さしずめ、死んだはずの転移者の誰かが「実は生きていた」とかだろう。

「便利そうなのですが、致命的な欠陥があるのです」

ライターを興味深そうに眺めるオレに、ポリナが言いにくそうに問題点を述べた。

――それは生産コストだ。

他の都市ならば充分な採算が取れる商品なのだが、迷宮都市から潤沢な 魔核 ( コア ) の供給を受ける事ができる王都だと、意味が違ってくる。

迷宮都市ほどではないが王都でも、ライターの試算コストよりも点火棒の方が安いのだ。

当然、商売である以上、その試算コストに利益を上積みするわけだから値段という面で太刀打ちできない。

しかも、菜箸程度の点火棒に比べて、試作ライターは重く大きい。

台所で使う利便性でも点火棒の方が勝ってしまう。

現状のままなら好事家達のコレクターズアイテム止まりにしかならない。

「ポリナ、その発明家の連絡先は聞いてあるか?」

「はい、伺っています。お会いになるなら、『いつでも都合を付ける』と先方が申しておりましたので、クロさまの都合の良い日時を仰っていただければ連絡を付けて参ります。お会いになる場所は工場の応接室でよろしいですか?」

「ああ、それで頼む」

段取りが良いな。

元々ポリナは元運搬人とは思えないほど聡明だったが、工場長になってから磨きが掛かった気がする。

よほど色々な経験が積めたのか、出会ったときよりも3レベルも上がっているしね。

日時を伝えるとポリナが隣室に声を掛けて、使いの者を出した。

当日の楽しみに発明家の名前は聞かなかった。

さて、用事も済ませたし、土産も渡した。あとはネルの顔を見たら帰るか。

昼休みだし、休憩室か食堂にいるだろう。

◇

「ひゅ、ひゅろはま」

誰が「ひゅろ」だ。

口いっぱいに麺を啜っていたネルが無理やりに「クロ様」と言おうとして変な発音になっている。

「口の中のものを飲み込んでからでいい」

「ふぁい」

ズルズルと麺の残りを啜るネル。

この香りに麺の色から察するに――。

「もしかして、蕎麦か?」

「う、うぐっ。は、はい、蕎麦っす」

醤油ダシのソバか。

王都で蕎麦を食べる習慣があるのは聞いていたが、 蕎麦掻 ( そばがき ) が主流で麺料理として蕎麦を食べたりしないという話だった。

その話をネルに振ってみると――。

「一小月ほど前に流れの料理人が行きつけのメシ屋に来てから、変な料理が色々と食べられるようになったんっすよ。半分くらいは激マズなので、新しいのに挑戦するのは勇気がいるんすけどね」

どんな料理が出るのか聞いてみたのだが、どうも元の世界の料理に近いレシピのようだ。変な味になっているのは現地の材料や調味料で無理やり再現しようとしているからと見た。

昼食前だし、メシ屋に寄って会ってみようと思ったのだが、例のライターを持ち込んだ人間と料理人は同じ可能性が高いので今日はやめておく事にした。

どうせ、明日には会えるし、そろそろ帰らないとうちの子達がお腹を空かせて待っているだろうからね。

ネルに近況と工場でのできごとを少し尋ねた。

もちろん、先に土産は渡してある。アクセサリーを貰い慣れていないのか、妙に緊張して受け取っていたのが印象的だった。

魔力回復の補助をしてくれる、砂粒より小さな賢者の石が嵌ったピアスだ。

ぜひ大切にしてほしい。

――これで工場の効率アップ間違いなしだ。

アリサに「 遠話 ( テレフォン ) 」で今から帰る事を伝えてから、帰還転移で帰宅した。

◇

屋敷に帰るとソバの匂いとテンプラの香りがしていた。

「サトゥー」

出迎えに出てきたミーアに手を引かれて食堂に向かう。

途中で厨房から駆けてきたタマやポチと合流する。

食堂に着くと、ナナ達が皿を並べていた。

所在なさげにしているメイドさん達が可哀相なので、食卓の準備をメイドさんに任せて皆に着席するように促す。

「おかえり~、さっきの『帰るコール』から早すぎるわよ。もうちょっと早めに連絡してよね」

……あ、アリサ。「帰るコール」って、いつの時代の人だ。

まあ、今更突っ込むまい。

今はテーブルの上の天蕎麦の方が重要だ。

「いただきます」の合図でみんなで食べ始める。最近はポチやタマも箸を使えるようになってきたのだが、ソバは滑って摘まめないらしくフォークに換装していた。

めんつゆにさっと漬けて一気に頬張る。

噛み締めると蕎麦の香りとめんつゆの甘辛い味が口いっぱいに広がる。

日本人ならズルズルと啜るべきなのだろうが、シガ王国ではマナー違反な行為らしいので控えた。

現に、アリサがズゾゾと蕎麦を啜ってルルに叱られている。

「だから、蕎麦はこうやってすするのが通なの!」

「そんな言い訳してもダメ。そんなはしたない事をしていたら、ご主人様に嫌われちゃうわよ?」

「そんな事ないも~ん。ね、ダーリン」

誰がダーリンだ。

オレはシガ桜海老という海老のテンプラを一口食べた後、さきほどのようにシガ王国風の食べ方で蕎麦を食べる。

桜海老と付いているが、普通サイズのエビだ。殻が桜色をしている所から名付けられたそうだ。

「ほら、ご主人様だって、優雅に食べているじゃない」

「この裏切りモノ~~~」

アリサの絶叫をBGMにオレは久々の蕎麦を楽しんだ。

ちなみに天蕎麦になったのは、食料庫で蕎麦粉を見つけたルルがアリサにレシピを相談したところ、天蕎麦が選択されたらしい。

「美味しいよ、ルル」

「ありがとうございます、ご主人様」

ルルの言葉の最後に音符が付きそうなくらい嬉しそうな声だ。

いつ聞いても聞き心地が良い。

「ちょっと~、発案は私なんだから、私も誉めて」

「そうだな、今日は蕎麦の気分だったからグッジョブだアリサ」

誉めて、と主張するアリサを素直に称賛する。

「言葉だけじゃなく、態度で示して」

そこでキスの体勢に入らなければ、もっと誉めたのに。

「アリサは甘えん坊なのです」

「甘えん坊~?」

ポチが目を閉じて突き出したアリサの口にテンプラを突っ込む。反対側からは、タマもテンプラを突っ込んでいる。

「もががっ。ちょっと、あんふぁふぁち! んぐ。どうして大葉のテンプラなのよ。海老とか水蛸とかいろいろあるでしょ!」

「だって、大葉は健康に良いってルルが言ってた~?」

「エビさんはポチに食べてほしいって言ってるのです」

子供達の微笑ましいじゃれあいはスルーしてルルに話しかける。

もう少ししたらリザが注意するはずだ。

「大葉なんてどこで手に入れたんだい?」

「ミーアちゃんが庭で見つけてきてくれたんです」

「散歩のついで」

「すごいぞ、ミーア」

「ん」

雑草と間違えそうなのに、よく見つけたもんだ。

大葉のてんぷらって結構好きなんだよね。

◇

昼食後に皆で王都観光に出かけた。

馬車2台に分乗だ。どちらも貴族相手の送迎ギルドからのレンタルだ。

もちろん、御者込みで予約してある。王都に滞在中は基本的に彼らの世話になるだろう。

ストレージ内には2台の馬車があるのだが、テクノロジー的な問題があるので鑑定スキル持ちが多い王都では使いにくい。

乗り心地は浮遊機構が付いた自作馬車の方が上だが、今乗っている馬車もレンタル代が高いだけあって吊り下げ式の筐体とかで割りと振動が少ない。

「それでどこに行くの?」

「そうだな――」

王都の観光名所といえば、王城の桜や王城裏庭の空中庭園があるが、前者は昨日たっぷり堪能したし、後者は叙爵式の後の園遊会で招かれる予定なので楽しみに取ってある。

庶民や下級貴族が訪れる事ができる一番の名所というと、王都に八箇所ある大噴水だ。 噴水には様々な彫刻が施され、色々なテーマの像が立っている。また、定刻の鐘の音にあわせて仕掛けが動き出すので、それを順番に見物する予定だ。

「ぴゅーって噴き上がっているのです!」

「ミーアの魔法みたい~?」

「そう?」

「ナナさま、すごいよ、ホラ」

「シロ、そんなに前に行ったら泉の中に落ちちゃうよ」

年少組が噴水を見てはしゃいでいる。

ドワーフやエルフの里にも噴水はあったのだが、そんな事は子供達には関係ないようだ。

シロとクロウは初見だったっけ。

「綺麗だけど、小さな水しぶきが冷たっ。迷宮都市にあれば喜ばれそうね」

「そうだな。だけど、あそこは水がそれなりに貴重だから無理じゃないか?」

「時間限定にして、それ以外は水汲み場にしたらいいじゃない」

ふむ、ギルド前の広場かギルドの中庭あたりに作ったら観光スポットとか癒し空間になりそうだ。

――王都の各所にある定刻を報せる鐘の音が響く。

「わぁ、凄い! 見てみてアリサ! ご主人様も見てください綺麗ですよ」

いつもよりワントーン高いルルのはしゃいだ声に誘われて思考の底から戻ってくる。

不覚にも目の前の光景に目を奪われてしまった。

水魔法か術理魔法かは判らないが、噴水の周りの泉から水が重力を無視してふわりと浮かび上がり、空中にいくつもの輪を描く。

そして、その輪を潜るように噴水が吹き上がる。

輪は噴水の流れに合わせて浮き上がり、そして虹色の輝きを残して消えていく。

少し遅れて、それを彩るように水中のノズルから一斉に水が噴き上がり、中央の噴水を彩るように大輪の華を作り出す。

落ちてくる水しぶきが幾重もの花弁を作り出し、桜の花吹雪と一緒に広場の空を舞う。

――実に幻想的な光景だ。

それにしても、機械的な仕掛けだけじゃなくて魔術的な仕掛けだったのか。

オレの袖を掴んだまま、ルルが声も無くその光景に見惚れる。

ルルだけじゃない、他のみんなも魂を奪われたように次々に姿を変える水の祭典に見入っていた。

……ミーア、そして、ポチ。気持ちは分かるが、その開いた口は塞ごうか。

オレはそっと手で押して、二人の口を塞いでやった。

※次回の更新は、8/10(日)です。

今回は久々の観光編でした。

賢者の石については「8-18.決勝当日(4)」「10-41.魔法金属」などをご覧下さい。