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12-19.シガ八剣の集い

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12-19.シガ八剣の集い

※2014/9/22 誤字修正しました。

サトゥーです。大事件の始まりは静かなものです。そして気が付いた時には取り返しが付かないほどの事態になっている事が多い気がします。

それでも諦めさえしなければ、本当に取り返しが付かない事態というのは稀だと思うのです。

◇

お茶会から戻った後に、アリサからカリナ嬢の話を少し聞いた。

アリサが掛けた発破が効いたそうで、鬼気迫る様子でダンスに取り組んでいるそうだ。

「なんて言ったんだ?」

「ふふん、聞きたい? でも、教えな~い。それは乙女のヒ・ミ・ツよ」

アリサが顔の前でチッチッチと指を振った後、パチリとウィンクをしてくる。

ちょっとムカッとくる態度だが、アリサのお陰でカリナ嬢が舞踏会に前向きになったようだし、ホッペタをひっぱる刑は勘弁してやろう。

「ダンスはおまかせ~?」

「ご主人様にも、ポチの特訓の成果を見てほしいのです」

「ん、踊る」

年少組がキラキラした笑顔でダンスの相手をねだってきたが、今は相手をする事ができない。

「ごめんね、これからリザと出かけないといけないんだよ」

ショボンとする子供達にちょっと罪悪感が湧くが、明日は夕方までフリーにしてあるので幾らでも相手するよと約束した。

アリサが、「それって約束を守れないお父さんみたいなセリフよね」と要らない発言をしたので、今度こそ、ホッペタをひっぱる刑に処した。

約束は守るさ。絶対にだ!

「――ご主人様、準備ができました」

「うん、そういう衣装も似合うよ」

珍しくスカート姿になったリザを誉めて、貴婦人にするようにエスコートしてジュレバーグ氏の屋敷に向かう馬車に乗り込んだ。

◇

「武人が得物を持たぬとは何事か!」

ジュレバーグ家の使用人に案内されてやってきた館の最上階にある会場で、いきなり見知らぬ中年剣士から叱責された。

――誰、この人?

「これは失礼。はじめてお目にかかります。ムーノ男爵の家臣でサトゥー・ペンドラゴン士爵と申します」

「ふん、 己 ( おの ) が腕で成り上がるべき木っ端貴族が、その体たらくではシガ八剣に選ばれる事などありえぬと心得よ!」

いやいや怒ってるのは分かったから、せめて挨拶くらい交わそうよ。

オレは改めて一人で激昂している男を見る。

レベル42とレベル高めの剣士だ。年齢も42歳とお揃いなのは偶然だろう。

彼もシガ八剣候補だとは思うが、所属はパリオン神殿となっており出身もパリオン神国となっている。

どうやら神殿からの推薦のようで、聖騎士やミスリルの探索者というわけではないらしい。

それにあわせたように称号が「神殿騎士」となっている……のだが、AR表示だけに見える隠れ称号に「殺人鬼」「暗殺者」のような物騒な称号が並んでいる。

たしかに彼のどこか病んだようなピリピリした雰囲気からは似合いの称号だ。

その称号にあわせたように彼の持つ魔剣は「吸精」や「脱力」のような禍々しい追加効果があった。

あまりにも怪しい情報と出身地から少し警戒したが、魔王信奉者の「自由の光」関係者ではないようだ。

オレが彼の情報を確認している間も文句を言っていたようだが、横に立つリザが切れる前に助け舟が入った。

「ジゾン殿、私が招いた客に無礼な振る舞いをするのはやめてもらおう」

「ふん、そのような甘い事を言っているから、亜人などに敗れるのだ」

割って入ったのはホスト役のジュレバーグ氏だ。

だが、ジゾンという中年男は矛先をオレからジュレバーグ氏に移して挑発するように噛み付く。

――狂犬みたいなヤツだ。

アラフォーなんだから、もうちょっと落ち着いてほしいものだ。

こちらの世界には不惑という言葉は無いのだろうか。

「愚弄するか、小僧」

ジュレバーグ氏の声に怒気が乗る。

この場にいるのは血の気が多い人間が多いのか止めるどころか、事の成り行きをわくわく顔で見る者ばかりだ。

――この脳筋共め。

さて、空気が不穏になってしまったのでフォローに回る。

この二人が戦いになって、オーミィ牛を喰いっぱぐれるのは勘弁してほしい。この家の料理人は肉料理に関しては王都随一という評判だから、この機会を逃したくないのだ。

ここで更なる技をゲットしてうちの子達にもご馳走してやるのだ。

「ふん、武人なら言葉より先に――」

言葉と共に抜刀しようとした中年男の前に縮地で接近し、抜こうとした柄頭をそっと掌で押さえる。

この二人に視線が集まっていたから、オレの縮地がバレたりしていないはずだ。精々瞬動あたりと解釈してくれるだろう。

中年男がお構い無しに抜こうとするが、 筋力 ( STR ) の圧倒的な差で押さえ込む。

「ここは歓談の場ですよ。余興は腹ごしらえの後でも問題ないでしょう?」

中年男が必死に抜こうと顔を紅潮させて力むが、柄頭はびくともしない。

「……そうだ、なっ――」

抜刀を諦めたような顔をした中年男が力を抜く。

危機感知が訴えるまでも無く、中年男が体の後ろから短剣を抜こうとするのを反対側の肘を押さえて止める。

さすがにソレはバレバレでしょう。

「――これで試験は合格ですか?」

ぐぬぬと唸る中年男に微笑みながら、問いかける。

せっかく「試験」という落とし所を用意してやったのに、中年男がオレの足を蹴りつけてくる。その爪先には仕込みナイフが光っていた。

多少予想外だったが、初見の魔物相手でよくある不意打ちなので、難なく中年男の爪先を踏み抜いて防いだ。

手加減したのだが、足の裏から鈍い感触が伝わってくる。彼の足の甲の骨にヒビが入ったかもしれない。

「このように探索者は全身が武器なのです。お分かりいただけたでしょうか?」

彼の足を踏みつけた場所にゆっくりと力を篭めながら、微笑み掛ける。

もちろん、「 無表情 ( ポーカーフェイス ) 」スキルの助けを借りて目に感情が乗らないように調整した。

「ふん、先ほどの言葉は撤回しよう。晩餐の後に尋常な勝負をしてもらうぞ」

「それは楽しそうですね」

言質は与えない。

食事が終わったら、この戦闘狂の相手は他の候補かジュレバーグ氏に任せて退散するのだ。

◇

ひと悶着あったが、このくらいの騒動で晩餐が中止になる事はないようだ。

ジュレバーグ氏が懐深い人物で助かった。

会場に到着したのはオレ達が最後だったらしい。

シガ八剣の五人と新シガ八剣候補の聖騎士団の三人とミスリルの探索者のジェリル、そしてさっきの中年男が晩餐の会場に揃っていた。

なぜか、全員武装している。

一応、ジュレバーグ氏に本当に晩餐なのか確認したが、間違いないそうだ。武闘大会とかではないようで安心した。

シガ八剣選抜大会のような流れになるかとヒヤヒヤしたよ。

晩餐の席に着くと、オレ達以外が全員鎧姿なので微妙に変な笑いを誘う。

いやはや、「 無表情 ( ポーカーフェイス ) 」スキルがなかったらヤバかった。

なお、晩餐の座席はジュレバーグ氏が配慮してくれたようで、さっきの中年男はオレ達から遠い位置にしてくれた。

オードブルから始まるかと思った晩餐は最初から肉料理が運ばれてきた。

どうやら、各部位が順番に調理されて出てくる趣向らしい。

「美味です。少し柔らかすぎる気もしますが、この芳醇な味わいは他の肉と一味違いますね」

リザが澄ました声で感想を言う。

その尻尾が椅子と背の間で嬉しそうにヒタヒタと動くのが気配で判った。

「肉もさることながら、このソースが絶品です。ジュレバーグ卿は良い料理人をお抱えのようだ」

向かいの席ではジェリルがホスト役のジュレバーグ卿に感想を述べている。

一方、他の面々は「旨い」くらいしか言わず、黙々と食べるのに夢中だ。

ここにいるのは半分くらい生まれながらの貴族なのだが、それでも御用牧場の牛肉の味は別格なのだろう。

オレもオーミィ牛尽くしのメニューに舌鼓を打つ。

焼き加減も絶妙だが、下ごしらえに使ったタレの分析が難しい。隠し味に使っている素材が後一つどうしても判らない。なかなか難問だ。

だが、そんな素敵な晩餐に水を差すように危機感知が働いた。

中年男からかと思ったが意外な事に斜め上方だ。この部屋は館の最上階にあるので、屋根の上だろうか?

それと時を同じくして、レーダーに素早い動きで接近する光点が映った。

光点の移動速度からして10秒ほどで接敵だ。接近してくる軌道と速さから判断して、相手は飛行しているに違いない。

光点を選択して詳細情報ウィンドウを開く。

接近するのは飛行型の魔物が5匹。どちらも従魔だが、乗っているのは「自由の光」に所属する構成員らしい。

光点の動きと危機感知の反応からして、この館が狙いのようだ。

少々やり方が強引だが、彼らの企みに邪魔なシガ八剣や候補達を抹殺に来たのか?

もしくは、「自由の光」の活動拠点のパリオン神国で、さっきの中年男が何か怨みでも買って、その巻き添えという線もあるかもしれない。色々と敵を作りそうなタイプだもんね。

それはともかく、搭乗員も魔物もレベル20台なので、5匹で襲ってきてもここにいる面々なら秒殺だろう。

――接敵まで後5秒。

「何か来るぞ!」

オレが声を上げる前に、シガ八剣のヘイム氏が切迫した声を上げる。

彼も危機感知スキルがあるのだろう。

警告を聞いて、戦士達が自分の得物を手に取る。

武器の無いリザがさっきまで食事に使っていた銀のナイフを片手に席から立ち上がる。

しかし、王都の防空体制はどうなっているのやら。

城壁の魔物の侵入を阻害する機能が止まっているのだろうか?

――接敵まで後0秒。

あれ? 来ない?

レーダーに映る光点の動きを追うと、この館をフライパスして上空を旋回するような動きを見せている。

ひゅるひゅると風切り音が――。

しまった、爆撃か。

まさかファンタジーの世界で、空爆されるとは思わなかった。

「リザ、直上。魔刃砲、最大」

「承知」

オレの指令にリザが遅滞無く行動に移る。

――アドレナリンが分泌されているのか、周りの様子がやけにゆっくりに見える。

自分の武器を手にとって天井の向こう側を警戒するジュレバーグ氏にカタナ使いのバウエン氏。

さきほど警告したヘイム氏と大鎌使いのリュオナ女史は、バルコニーへ出る扉を蹴り開けるところだった。

公都で第三王子と一緒にいた老聖騎士レイラスは盾を腕に固定する作業をしている。

さすが、シガ八剣は行動が早い。

聖騎士の三人はまだ状況が飲み込めないのか、周囲を見回して席から立ち上がるところだ。

一方で緊急事態に慣れた探索者のジェリルは、落ち着いた様子で腰のポーチから取り出した魔法薬をくいっと呷っていた。アレは加速薬と身体強化薬だ。高価な薬だが、命の方が大事だもんね。

そして最後の中年男は、少々様子がおかしい。

抜刀しているのは判るとして、なぜかその視線が室内を彷徨っている。

まるで自分を狙う刺客が室内にいるような態度だ。

天井の向こうで重量物が衝突した音が、その思考を邪魔する。

従魔が投下した岩弾が天井を突き破るのと、リザの手元から赤い光弾が放たれるのはほぼ同時だ。

魔刃砲が岩弾を天井諸共に打ち砕く。

銀のナイフを使ったせいで収束が甘くなった魔刃砲が光を散らし、部屋を赤く染める。

――こうして、年末の王都を襲った長い長い夜が始まったのだ。

※次話は、9/28(日)の予定です。

●人物紹介抜粋

【ジュレバーグ】シガ八剣、第1位、レベル54、70歳越え。二つ名は『不倒』。リザに負けた

【ヘイム】   シガ八剣、第3位、レベル52。二つ名は『雑草』。大剣使い。

【バウエン】  シガ八剣、第6位、レベル40台中盤。30歳前後。二つ名は『風刃』。刀使い。

【レイラス】  シガ八剣、第7位、レベル40台後半。60歳越え。第三王子と一緒にいた盾使い。

【リュオナ】  シガ八剣、第8位、レベル40台中盤。20代後半。二つ名は『草刈り』。大鎌使い。

【ジェリル】  ミスリルの探索者。中層の「階層の主」を討伐したレイドのリーダー。二つ名は『紅の貴公子』。

【自由の光】  大陸西部にあるパリオン神国を拠点に活動する魔王信奉者。過激なテロ活動が得意。シガ王国から持ち出された魔人薬の密輸に関わっていた可能性が高い。