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14-10.使徒の噂

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14-10.使徒の噂

※2015/10/26 誤字修正しました。

サトゥーです。昔交わした約束を果たすというのは幼馴染ものの定番ですが、子供の頃の約束を覚えているのはなかなかハードルが高いと思うのです。

◇

「まあ! 貴方達がサトゥーの新しいお嫁さん達ね?」

アーゼさんの本意を知ったあとでも、無邪気な言葉が胸に重い。

先日の件もあり、今日はいつものメンバーに加え、王女、セーラ、カリナ嬢、ゼナさんの4人もボルエナンの樹上の家に連れてきている。

「お初にお目にかかります、聖樹アイアリーゼ陛下。私はサトゥーの婚約者で、シガ王国第六王女システィーナと申します」

「え、えっと……陛下とかいらないわよ?」

王女の気合の入りすぎた挨拶に、アーゼさんが困惑している。

ヒカルがいきなり10年来の友人のようにアーゼさんに挨拶していたのと対照的だ。

「そうよ、アーゼはそんな固い挨拶は嫌いみたいだから、もっとフレンドリーにね!」

今もアーゼさんの横に座って、馴れ馴れしく肩を組んだりしている。

――オレと代われ、ヒカル。

「シガ王国、オーユゴック公爵の孫、セーラと申します」

「ムーノ伯爵の娘、カ、カリナですわ」

「え、えっと、サトゥーさんの護衛を務めます、ゼナ・マリエンテールと申します」

王女に続いて三人娘も自己紹介をするが、ゼナさんの挨拶が謙虚すぎる。

「ゼナさんはリザ達の恩人で、シガ王国での最初の友人なんです」

なので、少しだけフォローの言葉を足してみた。

「サトゥーの友人なら、私ともお友達ね。仲良くしてね、ゼナ」

「は、はい! きょ、恐縮です」

それにアーゼさんが天然で乗っかった為に、ゼナさんが硬直して棒読みのセリフを返す。

「むぅ、嫁違う」

アリサは微笑ましそうな様子で見ていたが、ミーアは目を三角にしてアーゼさんをポカポカ叩き始めた。

本気で叩いているわけではなさそうだったが、放置するのもアレなので、「理力の手」でミーアを回収して膝の上に置いて拘束する。

元々膝の上に乗っていたタマは、空気を読んでするりとオレの右横に移動してくれた。

「サトゥー」

「膝の上はイヤかい?」

「イヤじゃない」

ふるふると首を横に振るミーアのツインテールがペシペシとオレの後頭部に当たるが、これくらいは甘んじて受けよう。

「こうして見るとアーゼたんって、やっぱ権威があるのね。みんなガチガチだわ」

アリサがオレに果実水を手渡しながら、アーゼさん達の交流を批評する。

そんなマジメモードはすぐに崩れ――。

「でへへ~」

「どうした、アリサ?」

奇妙な笑いを漏らすアリサが、人差し指でオレの肩を 突 ( つつ ) いてきた。

「だってアーゼたんから聞いちゃったんだもん」

何を聞いたかは予想が付くが、それをアリサは口にする気はないようだ。

「あ、あの、私も嫁100人の話を聞いちゃいました」

アリサの横から顔を出したルルが、口元を緩めながらアリサが言わなかった事を告げた。

なるほど、それで余裕そうだったのか……。

猶予期間の間に昇神の方法を見つけるつもりだから、今のところ嫁100人を実現させる予定はない。

だが、嬉しそうなアリサやルルを見ると、さすがにそれを口にする事はできなかった。

こうして、アーゼさんと王女達の初顔合わせは緊張感をはらんでいたものの何事も無く終わった。

王女達はまだまだアーゼさんに気安く話しかけられないようだったが、タマやポチが普通に接しているのを見ていたらすぐに慣れてくれるだろう。

◇

「――王都の孤児院の内、福祉局以外の後援者がいない王立孤児院9つについて、エチゴヤ商会から人材と資金の供出を始めました。また孤児院の年長者の職業訓練を兼ねて、最寄の商会工場での雑用仕事を斡旋してあります。詳細は下町の『はろーわーく』や未亡人達の内職斡旋事業の報告と併せて、こちらの書類にまとめてあります」

エルフの里で親交を深めた次の日、オレはエチゴヤ商会の執務室で、ティファリーザから書類の束を受け取っていた。

なかなか分厚い書類だ。概要は彼女から聞かせてもらったが、一応目を通しておかないといけないだろう。

「次にビスタール公爵領の反乱討伐部隊の件です。王国軍の三騎士団によって4つ目の都市まで反乱軍から解放していたのですが……」

都市の占拠に兵力を分散した為に、魔物を使役する反乱軍の猛反攻を受けて壊滅に近い被害を出したらしい。

唯一、シガ八剣のジェリルやミスリルの探索者達が同行していた騎士団のみが都市防衛に成功し、戦線を支えているそうだ。

「そこでシガ八剣のヘイム殿が聖騎士団を率いて出陣されるそうです」

「なら、受注している魔剣を届けた方が良さそうだな」

半月ほど前に依頼を受けた魔剣はとっくに完成していたのだが、「受注生産は時間がかかる」という建前だったので、引渡しを保留していたのだ。

ヘイム専用魔剣は、聖剣デュランダルを模した大剣で、「 永遠の刃 ( エターナル・ブレード ) 」という 合言葉 ( コマンドワード ) で鋭さを取り戻す。

刃が欠けた程度ならなんとかなったが、さすがに折れた状態から復元するのは上手くいかなかった。

アダマンタイト製なので頑丈さは折り紙付きだ。

それだけだとロマンが足りなかったので、ルルの武装にも使った加速魔法陣システムの簡略版を組み込んでみた。

この回路に魔力を流すと、超加速からの切断や神速の突きなどが可能になる。

ポチに試用してもらったところ、下級竜の鱗製の盾すら貫くほどの威力を発揮していた。

扱いの難しい魔剣だが、ヘイム卿ならきっと使いこなしてくれるだろう。

アリサから縁起の悪い 合言葉 ( コマンドワード ) だから変えた方が良いと提案を受けたが、既に機能を組み込んだ後だったのでそのままにした。

「ヘイム卿が出発する前に渡しておいてくれ」

オレはアイテムボックスから魔剣ヘイムを取り出して、執務机に立てかける。

名前を考えるのが面倒だったので、使用者の名前で命名しておいた。

そして、ティファリーザとの会話が終わると、支配人がオレに尋ねてきた。

「クロ様、ミツクニ公爵家に下賜された土地はいかがいたしましょう? 公爵家に相応しい建物となると相応の建築魔法が使える貴族に依頼しなくては――」

「その件なら我が行う。調度品や庭の造成は支配人に任せる」

孤島宮殿の作製で学んだ経験をフィードバックしてみたいのだ。

「クロ様、可能ならば分岐都市から引っ越してきたアン達の研究施設も設置していただけると助かります」

「分かった。博士達の研究設備からは少し離して設置しておく」

ティファリーザの言ったアンとは分岐都市で錬金術屋を経営させていた、ABCDEの順で命名した調合人の娘達の事だ。

そろそろ魔人薬の件のほとぼりが冷める頃なので、エチゴヤ商会に合流させた。

「また何かあったら、報知魔法装置を使うかミトに連絡しておけ」

「承知いたしました」

昼頃にはサトゥーが乗っている事になっている小型飛空艇が王都に到着するので、それまでにミツクニ公爵邸を完成させようと思う。

青写真は既にヒカルやアリサと一緒に作ってあるので、あとは実行するだけだ。

「エル様、今日はクロ様が来る日だって言ってましたよね――うわっ、クロ様!」

「落ち着きなさい、アオイ。クロ様、申し訳ございません。アオイが新事業の提案をしたいと申し出ているのですが、お時間はよろしいでしょうか?」

公爵邸の建築を早くやりたいが、少しだけ我慢してアオイの新事業とやらのプレゼンを受ける。

「――なるほど、魔力で伸縮する繊維を用いた矯正肌着か」

「はい、何かコスパの良い素材があったら教えていただきたいんです」

魔力で伸縮する素材というのは色々あるが、植物系の魔物の素材は劣化が早いか保存加工に費用が掛かるものが多い。

劣化を気にしなくて良いのなら「這いよる蔦」を用いた狩猟罠用の素材などがあるが、下着には使えない。

金属製で良いなら王女達の鎧を作った時の素材があるが、あれは貴族用の物を作るにしてもコストが高すぎる。

オレは少し思案して、前にアリサから聞いた話を思い出した。

「魔法学舎で教えている魔法布に、そんな性質の織り方があったはずだ。支配人、関連書物を手配してやれ」

「承知いたしました」

魔法布の作製には大規模な施設が必要だが、エチゴヤ商会で買い取った工場の設備を使えばなんとかなるだろう。

アオイ少年が漏らした「これでストッキングが作れる」という言葉は聞かなかった事にしよう。

彼もなかなか業の深い嗜好があるようだ。

◇

「ふむ、こんな物かな?」

オレがミツクニ公爵邸の外装を作り終わったところで、隣のムーノ伯爵邸予定地にサトゥーが乗っている予定の小型飛空艇が到着した。

内装にも手を付けたかったが、後は公務を済ませてからで良いだろう。

オレは孤島宮殿で貴族服に着替えてから、小型飛空艇へのゲートを潜る。

「ご主人様! 空から見てたけど、あんなに目立つ事して良かったの?」

「ああ、構わないよ。クロやナナシの非常識さは王都に知れ渡っているからね。アレくらいなら問題ないよ」

魔法を使ったミツクニ公爵邸建造についてアリサが聞いてきたので、オレの見解を伝えておく。

サトゥーと違って、シガ国王の後ろ盾のあるナナシやクロなら、圧倒的な力を揮う方が問題が発生しにくい。

あれだけの魔法を見れば、ミツクニ公爵家に刃向かうよりもその力の恩恵を受けようとするだろう。

あとは支配人に任せておけば上手く捌いてくれるはずだ。

「それより、オレが宰相と面会してくる間、皆はどうする?」

「わたしとミーアは魔法学舎の図書館に行く予定よ」

「ん、調べ物」

オレの質問にアリサとミーアが最初に答える。

「私もアリサやミーア様と同行したいのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。宰相への報告は私だけで大丈夫ですから」

「なら、私が護衛に同行します」

王女が図書館組に参加し、ゼナさんが護衛として付き添ってくれる事になった。

「ポチは騎士学舎に遊びに行きたいのです」

「タマも~?」

「いいよ。羽目を外し過ぎないようにね」

「はいなのです」

「あい~」

「では、私も二人に同行いたします」

「頼むよ、リザ」

獣娘達は王立学院の騎士学舎にいる友達に会いに行くらしい。

タマとポチだけだと少し心配だったので、リザが同行を申し出てくれて助かった。

「マスター、幼年学舎に向かうと宣言します」

ナナはシロとクロウの授業参観に行きたいらしい。

幼生体がいっぱいで楽しいそうだ。

なお、ここにいないルルは孤島宮殿で料理大会のメニューを試作しており、カリナ嬢は孤島宮殿の砂浜で訓練用ゴーレムと戦闘訓練に勤しんでいる。

ヒカルはオレ達が王都に到着するのと入れ替わりで、フジサン山脈の天竜達の所へ行った。

オレの頼みで天竜の神殿にあるヒカルの蔵書を調べに行ってもらっているのだ。

「副大臣が随員なしでは格好がつきませんから、私はサトゥーさんと一緒に王宮に同行しますね」

てっきりテニオン神殿に顔を出すと思っていたセーラがそう宣言する。

なぜか、それを聞いて王女やゼナさんが「しまった!」という顔をしたが、宰相の所で小型飛空艇の試験飛行の結果報告をするだけなので、そんなに残念がるような要素はない。

「では参りましょう、サトゥーさん」

妙に上機嫌なセーラと一緒に、ペンドラゴン邸から呼び寄せた馬車に乗って王宮へと向かった。

◇

「――東方の小国群の間でも、不穏な空気が蔓延しておる。今のところ、魔族の跳梁跋扈は確認されておらぬが、『神の使徒』を名乗る白い法衣の者が幾つかの小国で事件を起こしているそうだ」

宰相の執務室で迷宮産の苔茶を傾けながら、これから向かう東方の話を教えてもらう。

この話の前に既知の魔王討滅話やパリオン神国と周辺3ヶ国との戦争話なども聞かせてもらった。

「何か出現場所の共通点のようなものはないのでしょうか?」

「それらしき共通点はない」

迷宮都市セリビーラの太守夫人から聞いた「神官惨殺事件」の他に、小国の離宮を破壊したり、小国群の紛争地を渡り歩いていた傭兵団を壊滅させたり、と目的のわからない行動をしているらしい。

「王立研究所や神殿の神学者の見解では、自称使徒が人や建物を塩に変えた技は土魔法の『 岩を塩に ( ストーン・トゥ・ソルト ) 』か、神聖魔法の『 神威天罰 ( セイクリッド・リトリビューション ) 』という儀式魔法だろうとの事だ」

どちらの魔法も詠唱が長いし、前兆の魔力波も感知できるから不意打ちされる事はないだろう。

もっとも、オレみたいに儀式魔法を無詠唱で行使できる者がいるかもしれないから、保険の対抗策を何か考えた方が良いかもね。

他にも宰相から、旅先の国に潜入した諜報員達と連絡を取る方法を教えてもらった。

王城を辞去したオレとセーラは、宰相が言っていた王立研究所や神殿の神学者と順番に面会して情報収集に当たった。

王立研究所では儀式魔法に必要な供物や星の並びなんかの条件を教わり、ついでに常駐型防御魔法についての最新の研究成果を披露してもらえた。

前者はともかく、後者は非常に参考になったので、対価として研究に必要そうな希少素材をプレゼントしておいた。

続いて訪れた各神殿では王立研究所以上の情報は得られなかったが、ザイクーオン神殿で金貨10枚ほどの寄付金と引き換えに、異端の神学者と呼ばれる人物を紹介してもらう事ができた。

紹介されて出向いた先は下町の中でもスラム一歩手前の場所だ。

出会った相手は「異端の神学者」という二つ名に不似合いな老婦人だった。

「――魔神の使徒が使うという『 災禍 ( カラミティ ) 』というスキルかもしれません」

老婦人が手土産のお茶菓子をつまみながら、不穏な話をしてくれた。

魔神の使徒とか危険なワードは止めてほしいね。

「災禍ですか?」

「はい、フルー帝国の古文書で見たことがあるだけなのですが、手で触れたものを塩の柱に変えると書かれてありました」

触っただけでアウトとか、ハードルが高い。

仲間達の防御手段を何か考えないとね。

「防ぐ方法はないのですか?」

「魔神の使徒は竜を過剰なほど恐れるそうで、竜の気配のする物を持っていれば絶対に近寄ってこないそうです」

ダメ元で聞いたら、まさかの解決法が返ってきた。

妄信は禁物だが、効果があったらラッキーだし、天竜か黒竜ヘイロンの鱗を使ったアクセサリーでも作って皆に持たせておこう。

竜鱗粉を使った染料を作れないか試してみようかな?

鱗内の繊維を用いた織物も良いかもね。

後で迷宮下層の転生者達と話したが、「魔神の使徒」と出会った者はいなかった。

ムクロがウリオンの使徒に、ユイカがガルレオンの使徒に会った事があると言っていたが、人を塩に変えるような儀式魔法は見た事がないとの事だった。

ムクロやユイカによると、使徒の強さは中級魔族程度から上級魔族未満ほどらしく、ユニークスキルも持たず、魔法行使に魔族と同程度の詠唱も必要との事なので、それほど神経質に身構えなくても大丈夫だろう。

◇

「――ゼナさん」

その日の夜更け、孤島宮殿の海岸で風魔法の練習をしていたゼナさんに声を掛ける。

昔、セーリュー市で見たのとは桁違いの威力だ。

「サトゥーさん、魔法の音が、煩かった、ですか?」

「いいえ、そんな事ありませんよ」

激しい魔法行使で息も絶え絶えなゼナさんに、果実水とタオルを手渡す。

続けて、砂浜にテーブルを取り出す。

「ゼナさんへの贈り物が完成したから届けに来たんです」

「――贈り物、ですか?」

オレはテーブルの上に魔法書と幾つかの魔法道具を並べる。

「こ、これはもしかして『ジブクラウド魔法事典』の『風の書』ですか?」

「ええ、これからのゼナさんに必要な物です。こちらの薄い本にはその中から抜粋した飛行魔法の呪文と制御方法の解説が載っています」

この薄い本はオレのお手製だ。

「――飛行魔法?!」

オレの言葉にゼナさんが弾かれたように顔を上げた。

「はい、今のゼナさんなら使いこなせますよ」

「わ、私が飛行魔法を――」

「ええ、空を自由に飛べるようになったら、約束を果たしてもらわないといけませんね」

セーリュー市にいた頃に、ゼナさんが飛行魔法を覚えたら「空中デート」をしようと約束を交わしたことがある。

「覚えていてくれたんですね、サトゥーさん」

「もちろんです」

ゼナさんが感無量とばかりにオレの手を華奢な両手で包み込む。

そんなに物忘れが激しいと思われていたのだろうか?

しばらく見つめ合ったあと、我に返ったゼナさんがオレの手を離して跳び退く。

「ご、ごめんなさいっ」

赤くなった頬をパタパタと手で仰ぎながら、何かを誤魔化すように薄い本を開く。

「三つの呪文があるんですね」

ゼナさんが薄い本をめくりながら、独り言のように呟いた。

この本には「 練習飛行 ( プラクティス・フライ ) 」、「 簡易飛行 ( オートマチック・フライ ) 」「 飛行 ( フライ ) 」の3呪文が載っている。

「書いてある順に難易度が変わるので、『 練習飛行 ( プラクティス・フライ ) 』から始めるのが良いですよ。手本が必要なら、私がつきあいますから」

オレは詠唱付きで「 練習飛行 ( プラクティス・フライ ) 」を唱える。

「この魔法は上昇下降、前進、右旋回左旋回しかできません。鳥のように飛ぶというよりは、浮かんで移動する魔法ですね」

アリサ相手ならドローンみたいな動作ができる魔法だ、と言えばすぐにイメージができただろう。

「風魔法の『 空中浮遊 ( エア・フロート ) 』の機能が組み込まれていて落下の心配がないので、この魔法で飛行に慣れてください」

「は、はい! 頑張ります!」

ゼナさんが前のめりの姿勢で意気込む。

「こちらの魔法道具は飛行魔法の練習時に怪我をしないためのものです。必ず身に着けてから練習してくださいね」

落下時の衝撃を吸収してくれる優れものだ。

ルルやナナの装備にも使っている機構なので、信頼性も太鼓判を押せる。

「こ、これを身に着けてですか……」

外見が半透明なレオタードみたいなせいか、ゼナさんが魔法道具を持ち上げて頬を赤らめる。

「は、恥ずかしいですけど、サ、サトゥーさんがせっかく作ってくださった服ですし……」

――恥ずかしい?

どうやら、ゼナさんは誤解しているようだ。

「薄手なので下着と上着の間に身に着けてください」

「そ、そうですよね。あ、あはは、私ったら――」

オレのフォローに誤解が解けたゼナさんが、さっきより赤い顔をして誤魔化し笑いをする。

「わ、私、ちょっと走ってきます!」

恥ずかしさに居た堪れなくなったのか、ゼナさんがそう宣言して海岸を走り去ってしまった。

レベルアップの甲斐あって、身体能力も順調に上昇しているようだ。

装備や魔法書はゼナさんの部屋に「 物質転送 ( テレポート・エニー・オブジェクト ) 」で送り、この場にはゼナさん宛てのメッセージ球を残しておこう。

ここで待っていられても困るだろうしね。

◇

「――勇者、そっちの調子はどうだい?」

ゼナさんを見送った後、エチゴヤ商会に設置してある通信設備で勇者一行と定時連絡を行なった。

今回は久々に留守番の従者ではなく勇者本人が通話に出た。

『ようナナシ、そっちは順調そうだな』

「まーね。敵を見つけるのは得意だからさ。索敵で良かったら手伝いに行こうか?」

『そりゃタイミングが悪かったな。鼬帝国の技師が魔王追尾用の魔法装置を提供してくれる事で話が付いちまったんだ。こっちから依頼した以上、今更いらんとも言えなくてな』

「そっかー」

――おっと、出遅れたか。

『悪いな。手合わせした感じじゃ、魔王自体はオーユゴック市で戦った黄色野郎より遥かに弱いから、今度こそ倒しきってみせるぜ』

なんでも、倒す寸前まで追い詰めたところで、身代わりのダミーを掴まされて逃げられたらしい。

「なら、次の通信は朗報を待ってるよ」

『ああ! 俺様も一体くらい魔王を倒さないとサガ帝国の勇者の名が泣くからな!』

サガ帝国とパリオン神の威信を背負っているから、少し気負いがあるようだ。

「勇者、『命を大事に』ね」

オレは超有名ゲームの言葉を勇者に贈る。

『分かっているさ。俺様だけじゃない、仲間達の誰一人欠く事なく帰ってきてみせるぜ!』

「うん、ハヤトならできるよ」

ハヤトの力強い言葉に、オレは激励の言葉を返し、定例通信を終了した。

◇

その日の深夜、天竜の綺麗な鱗を加工したブレスレットを人数分用意した。

全員同じなのも芸が無いので、ブレスレットのプレート部分に、各自のイメージに合わせた刻印を付けておく。

今回の装備は「魔神の使徒」除けの物なので、魔法回路は組み込んでいない。

その辺は研究中の簡易版ラカに、常駐型防御システムを盛り込んだ物が完成したら、改めて空間魔法で組み込もうと考えている。

翌朝、オレの小型飛空艇は王都を出立し、王都とオーユゴック公爵領の間にある海沿いのガニーカ侯爵領を経由してオーユゴック公爵領に向かうコースを選ぶ。

ガニーカ侯爵領には昼前に到着する予定なので、夕方には領都のガニーカ市を訪問できるはずだ。

久々に新しい都市への訪問だし、皆で観光と洒落込もう!

【FAQ】

>10-9で亜神アーゼが「子供100人」と条件をつけているのに、10-10では「嫁100人」と言っている。

亜神アーゼとの会話はサトゥーしか知りません。

アリサやルルは「聞いた」と言っているので、10-9の前半にアーゼとサトゥーの話を聞いていた者達からの伝聞なので「嫁100人」と思っています。

※次回更新は 11/1(日) の予定です。

なかなか「諸国」に出られない……。

※本屋さんの「新文芸フェア」特典について活動報告に記載しました。