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SS:ガニーカ侯爵領、後日譚

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

SS:ガニーカ侯爵領、後日譚

※2015/11/8 誤字修正しました。

※サトゥー視点ではありません。本編は予定通り明日です。

「――これは古文書ですか?」

「ええ、城の書庫にあったのだけれど、これを見てネーレイナ」

「現代語訳ですか?」

王都のシスティーナ王女殿下が去ってから五日が過ぎた頃、私は姫様の呼び出しでお城に来ていました。

「これが事実なら――」

「ええ、海底人が実在する証拠になるでしょう」

侯爵家の使用人、おそらく古文書も読めるような才人が見つけてくれたに違いありません。

これを侯爵様に見せれば、説得あるいは本格的な調査をしてもらえるかも。

私は久しぶりに朝日を見た小鳥のように晴れやかな気持ちになりました。

◇

「失礼します!」

私は姫様と一緒に、侯爵様の執務室へとやってきました。

普通なら途中で止められるのだけど、今日は誰も邪魔をしません。不思議です。

やっぱり、運が良い日は違います。

「早かったな」

――え?

侯爵様の意外な言葉に、私は姫様と顔を見合わせました。

「そちらが、今回の件について逸早く警鐘をならしてくれたネーレイナ殿ですね」

肩口で金色の髪をバッサリと切りそろえた若い女性が、侯爵様の前のソファーから立ち上がります。

品の良い高そうな生地の衣装、装飾品や宝石類も丁寧に手入れされています。

間違いなく上級貴族、それもガニーカ侯爵領じゃなく、王都の貴族に違いありません。

「こちらはエチゴヤ商会のサラ殿だ」

――商人?

どこからどう見ても貴族でしょう?

「侯爵様。今日はミツクニ公爵家の家臣として参っておりますので」

「そうでしたな」

ミツクニ公爵……あの、王祖様の世直し旅で有名なミツクニ公爵!

私達は驚きつつも、貴族の家に生まれた娘らしく挨拶を交わしました。

「さて、海底人の件ですが――」

「本当です! 海底人はいるんです!」

逸るあまりサラ様の言葉を遮ってしまいました。

非礼どころではありません。このままでは叱責を受けるどころか、実家の反省室行きになるかもしれません。

こうなったら腹を括りましょう。

「こ、この本を見ていただければ、海底人が事実である事が――」

「必要ありません」

先ほどの事でお怒りなのか、サラ様は私の話をピシャリと遮りました。

「サラ様、ネーレイナの話を聞いてあげて下さいませ」

「分りました。私の話の後で良ければ伺いましょう」

姫様の援護のお陰で、なんとかサラ様にお話をする時間を取ってもらえそうです。

さすがは姫様! 頼りになります。

こほん、と咳払いをして、サラ様のお話が始まりました。

「海底人の噂を聞きつけた勇者ナナシ様の調査により、海底都市ネネリエを発見、現地の 海底人 ( ネロイド ) と接触するも好戦的な魔物と判定、現地を結界魔法で封印との事です。更に調査を重ねたところ、ネネリエ近海の孤島に原始的な生活を行なっていた 古海底人 ( エルダー・ネロイド ) の末裔を発見、接触したところ、集落に残されていた資料から海底都市ネネリエの元住民である事が判明したそうです」

あの、仕事が早すぎないでしょうか?

私達が異変を察知したのは半月ほど前の事なのですが……。

「その海底都市は再利用可能なのか?」

「不可能です。都市への移動手段であった転移門が壊されており、勇者ナナシ様のように深海の高圧に耐えられるような方でないと、近付く事さえできません」

「そうか……」

目の前で行なわれる侯爵様とサラ様の会話がどこか遠くの国のお話のように聞こえます。

「――ネーレイナ!」

私は姫様に呼ばれて、思考の彼方に遠出していた事を知りました。

「申し訳ありません」

「良い、これを受け取れネーレイナ。陛下よりの褒美だ」

伯爵家の娘が身につけるには華美といえるほど豪華なネックレスです。

しかも、その下には最高級のシガ紬の反物まであります。

更に! 陛下からの感状まで添えられているのです!

「受け取れ」

「謹んで頂戴いたします」

私は誇らしげな気持ちで感状と褒美の品を受け取りました。

もちろん、姫様も同様に受け取っておられます。

だって、これは二人の功績なのですから。

「では、私はこれより、領内の各村を回ります」

「――村ですか?」

サラ様の意外な言葉に、思わず問いを発してしまいました。

村など、平民出の役人達が行くところで、貴族である私達が足を運ぶような場所ではないからです。

「はい、お嬢様方以外にも各村で海底人の事で警鐘を鳴らしてくれていた語り部達がおりますので、彼らにも褒美を渡しに行くのです」

「私もご一緒してよろしいですか?」

「ええ、ネーレイナ殿が望むのでしたら」

お話を聞くというお約束でしたしね、とサラ様が意地悪な事を言います。

耳まで真っ赤になりそうでしたが、今は興味が先に来ます。

村の語り部達が伝えるお話とはどのようなものなのでしょう。

私はサラ様の小型飛空艇に同乗しながら、そんな事に思いを馳せました。

小型飛空艇が浮上した際、私が取り乱して、みっともなく泣き叫んだのは秘密です。

※警鐘を鳴らしていた人達を気にする方が多かったので、SSを書いてみました。

※サラは支配人達と同じく初期のエチゴヤ幹部です。

名前が出たのは初めてのはず。