LNCrawler

14-16.ムーノ伯爵領

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

14-16.ムーノ伯爵領

※2015/12/7 誤字修正しました。

※2015/12/8 一部修正しました。

サトゥーです。迷惑メール用のフィルターのせいで仕事のメールが届かなくて困った事があります。安全を確かめてからでないとポストに届いたモノの確認もできないなんて、リアルだったら、十分デストピアな世界ですよね。

◇

メニューの交流欄のポストを選択すると、送り主の名前が表示される。

送り主の名は「UNKNOWN」。

名前が不明ともとれるが、狗頭戦で現れた謎の幼女を指すような気がしてならない。

WWやFFWの仕様なら、アイテムの送受信はフレンド登録していないとできないはずなのだが、リストに名前が無いにもかかわらず、「UNKNOWN」から送られている。

ポストの受領物には「返信」というのもあるのだが、迂闊に送り返して謎の幼女を敵に回すのも問題だ。

――どうしたものか。

少し迷ったモノの、ここは問題に蓋をして先送りする対処を選んだ。

無いとは思うけど、トロイの木馬系の罠が怖いからね。

なお、ポストからアイテムを送るのは宛先指定ができずに成功しなかった。

それにしても、こんな機能があったとは知らなかったよ。

◇

「奉納打ち? ああ、ボルエハルトのドワーフさん達のね」

ヒカルに尋ねると、そんな答えが返ってきた。

「よく知らないけど、代替わりの時に神様に奉納する剣を作るやつでしょ?」

「他の都市核でもできるのか?」

「さあ? たぶん、無理じゃないかな?」

ヒカルによると、領主交代時に奉納を行なうのは妖精族のみが行なう古い風習らしい。

アーゼさんの所に足を延ばして尋ねたところ、始祖王達の時代はどの領地でも代替わり時に、力を貸してくれたお礼の品を奉納していたそうだ。

奉納先は始祖王達に都市核をもたらした神らしいのだが、どの神かはアーゼさん達も知らないとの事だった。

奉納した品を竜の谷の精鋭達が装備していたという目撃情報があったので、竜神がそうなのではないかと言われているそうだ。

ただ、オレが竜神を殺した現状では、他の神々でも竜脈に干渉できるらしく、奉納品を掠め取る事も可能らしい。

……今日は初めて聞く話が多いね。

◇

「手伝ってくれないか? ちょっと試してみたい事があるんだ」

「もちろん、いいわよ」

「おっけー」

オレはヒカルとアリサの二人を連れて、オレの支配下にあるパリオン神国の領地へと赴いた。

都市核の間の結界は未だに破れていないらしい。

「おお! これが都市核なのね! 初めて見たけど凄く綺麗」

アリサが都市核を見て、感嘆の吐息を漏らす。

「それで、ここで何をするの?」

「領主交代時に、奉納打ちや奉納が可能か調べようと思ってね」

都市核の端末を取り出しながら、ヒカルの問いに答える。

「都市核、領主を交代する。奉納打ちは可能か?」

『不可能です。オプション機能がインストールされていません』

オ、オプションなのか。

ならば――。

「オプション機能をインストールするにはどうすればいい?」

『不明です』

ダメ元で尋ねてみたが、無理のようだ。

「ならば、奉納は可能か?」

『可能です』

こっちは可能らしい。

「奉納先の指定はできるか? 不可能なら、デフォルトの奉納先は誰だ」

『指定は不可能です。御主様です』

……ふむ。

「主とは?」

『質問の意味が不明。御主様は御主様です』

神とは違うのだろうか?

とりあえず実験を続けよう。

「では儀式を頼む」

『承知しました。次の領主を指定して下さい』

「領主はミトだ」

『登録予約完了、次代の代行者を指名してください』

目で問うヒカルに、アリサを指差す。

「アリサちゃんで」

『登録予約完了、奉納してください』

都市核の前に現れた入り口に、聖剣仕様のダイヤモンド製の刀を投入する。

今回の実験の為に特別に作ったモノだ。

これには マーカーを付けてある ( ・・・・・・・・・・ ) 。

『奉納完了。儀式を終了します』

メニューのマーカー一覧を開いて、現在位置を確認する。

……無い、か。

あわよくば奉納先が判るかと思ったのだが、アイテム自体が消滅してしまったらしい。

「どう?」

「ダメだ。消えてしまったみたいだ」

そう上手くはいかないらしい。

なお、交流欄のポストにダイヤモンド刀が届く事はなかった。

◇

オレが検証している間にも、健気に航路を進んでいた飛空艇がムーノ伯爵領へと入った。

ムーノ城の広い庭に飛空艇を降下させる。

眼下にはムーノ城の人達が出迎えに来てくれているようだ。

ロリメイド達がブンブンと手を振って歓迎してくれている。

「「「士爵様!」」」

「ちょ、バカ! もう士爵様じゃないでしょ」

「ああ、そうだった。どの爵位になったんだっけ?」

「子爵様よ」

「執政官のニナ様と同じ?」

「そうよ! 偉いの!」

「うわー、凄いじゃない」

「……玉の輿」

「あわよくば、愛人に」

メイド達の姦しい噂話を、聞き耳スキルが拾ってきた。

愛人を目指すなら、少なくとも二十歳を超えてからにしてほしい。

超えたとしても、採用しないけどさ。

「「「サトゥー様、お帰りなさいませ!」」」

ムーノ城の広い庭に飛空艇を降ろして、タラップから顔を覗かせると、ムーノ城の使用人達による息の合った声が飛んできた。

飛空艇の駆動音があるので聞こえないとは思うが、大きな声で「ただいま」と言って大きく手を振った。

「ただいま~?」

「ポチは帰ってきたのです」

タマとポチがメイド達の前でシュタッのポーズを決める。

「タマちゃん、可愛いっ」

「ポチちゃんもね!」

「おい、お前ら! タマさんもポチさんもミスリルの探索者だぜ?」

「そうそう! 陛下と謁見して今や名誉士爵様なんだから、ちゃん付けなんてしたら不敬罪でクビになっちまうぜ」

黄色い声援を上げるメイド達に注意したのは、新参らしき兎人族の男性兵士だ。

称号に「元探索者」とあるから、迷宮都市セリビーラからやってきた者達なのだろう。

「ホントに?」

「こんなに可愛いのに、すごい!」

「ふかふか~」

半信半疑なメイド達だったが、驚きながらもタマとポチに抱きついてモフモフしている。

タマとポチの二人も、楽しそうに愛想を振りまいていた。

「魔槍のリザ様だ!」

「滞在中にあたし達に稽古を付けてくれるかな? かな?」

「俺は魔刃のコツを教えてもらうんだ」

「リザさんはすげぇよ。蜥蜴人なのに貴族、それも名誉女准男爵になったんだぜ」

「ああ、俺達だっていつかは――」

タマとポチに続いて姿を現したリザに、兵士達が熱い視線を向けている。

新参の兵士は人族よりも亜人、それも獣人や鱗族が多い感じだ。

◇

「ずいぶんと町並みが賑やかになっていましたね」

「ああ、あんたの活躍のお陰だよ」

ムーノ城の応接室に案内されたオレ達は、ムーノ伯爵が来るまでの間、ニナさんと世間話をしていた。

ムーノ伯爵は嫡男のオリオン君と一緒に地下の都市核の間で何かしているようだ。

「活躍というと、公都での食料や人材を集めた事ですか?」

「ああ、もちろん、それも助かったけど、それだけじゃない」

ニナさんが苦笑気味に首を横に振る。

「あんたが迷宮都市や王都で活躍してくれたお陰で、ムーノ伯爵領の認知度が広まってね。仕官希望者や領地を訪れる商人達の数が急増したんだよ」

マップ検索した限りだと、市内の人口が五割増し、領内の人口が二割増しになっている。

120人しかいなかった兵士も、いまや常備軍だけで2000人近い。

人口比からしたら、少々増やし過ぎな気がするが、ニナ女史には何か考えがあるのだろう。

「ところで、サトゥー。ムーノ領内に都市や街がいくつあるか知ってるかい?」

オレはニナ女史の質問に、どう答えたものか逡巡する。

ムーノ伯爵の支配下にあるのはムーノ市と主街道沿いにある二つの街だ。

最初の頃に集落と判断した場所のいくつかは街だったらしい。

これらの街はガボの実の量産に特化しており、住民の数は少ない。

街の周辺にある農村の余剰作物は、街の御用商人が買い上げてガボの実と一緒にムーノ市へと運搬される。

街には守護がおらず、平民の文官を代官として派遣しているそうだ。

「この伯爵領には都市が4つ、街が7つある。そのうち、都市1つと街2つがムーノ伯爵の支配下にあるんだが、街3つが地元の豪族達、残りは魔物や蛮族に占拠されちまってるんだ」

しびれを切らして答えを先に言ったニナ女史に遅れて、マップを確認する。

前回ムーノ領に寄った時に別マップになっていた空白地帯に、都市3つと街2つがあった。

ここは領主の支配下にないため、別マップになっていたようだ。

このうち都市2つはレベル50前後の凶悪なアンデッド系の魔物が支配する死霊都市、街2つにレベル40代のヒュドラやキメラが巣くっている。

なお、ニナ女史が蛮族と称していたのは、山岳地帯にある廃坑都市を占拠したコボルト達の事だろう。

コボルト達はゴブリンやオークと同様に、魔物ではなく妖精族の一種らしい。

「で、だ。兵力も揃ったんで、近々、豪族達が我が物顔で占拠している街3つを、ムーノ伯爵の支配下に戻そうと思っているんだが――」

なるほど、その再支配にオレ達の戦力を貸せという事だろう。

そう予想したのだが、ニナ女史の思惑は少し違った。

「――その前に、問題ができてね。廃坑都市のコボルト達が北東のクハノウ伯爵領にある銀山にちょっかいを出し始めているのさ」

それは厄介だ。

ヘタをしたらクハノウ伯爵が廃坑都市のコボルト達を滅ぼして、領地を奪われる可能性があるという事だ。

「つまり、コボルト達が鉱山を攻めないように?」

「ああ、そうだ。サトゥー達には鉱山に向かう連中を追い返してほしいのさ」

「追い返すだけでよろしいのですか?」

廃坑都市から追い出せと言われるのかと思ったよ。

「廃坑都市の方はハウトにやらせる。領軍500と傭兵1500がいればコボルト達を恭順させる事ができるはずさ。傭兵の方は例のエチゴヤ商会が手配してくれてね」

聞いてない――と言いかけたが、傭兵手配の報告は見た気がする。

ティファリーザのくれた報告書を検索したら、ヨウォーク王国やパリオン神国で色々忙しかった頃の書類に書いてあった。

レッセウ伯爵領からの流民を集めて、オーユゴック公爵領経由の船便で連れてきたようだ。

領内の人口増加分は傭兵達とその家族に違いない。

領民の不足しているムーノ伯爵領には丁度良いかもね。

◇

「やあ、待たせたね、サトゥー君」

ムーノ伯爵がいつも通り気さくな様子で姿を見せた。

「ただいま~?」

「男爵、ただいまなのです!」

「おお! タマ君もポチ君も壮健のようで嬉しいよ」

ポチの間違いを訂正もせず、ムーノ伯爵は満面の笑みで二人を抱き上げる。

相変わらずケモナーのようだ。

「お父様ったら、酷いですわ」

再会の抱擁を後回しにされたカリナ嬢が少し頬を膨らます。

「カリナ、お帰りなさい。サトゥー様とは仲良くしていますか?」

「ソルナ姉様!」

ムーノ伯爵の後ろから現れた長女のソルナ嬢が、カリナ嬢を抱きしめる。

二人の間で行き場をなくした物体が、大陸を隆起させそうな勢いで変形する。

「サトゥーさん、見過ぎですよ?」

オレの視界を塞ぐように回り込んだセーラがにっこりと微笑む。

「はやっ」

「出遅れ」

出番を奪われた鉄壁ペアの二人が、「セーラ、恐ろしい子」と悔しそうに呟いている。

「ペンドラゴン卿、息災のようだな」

ソルナ嬢の後ろから姿を現したのは、ソルナ嬢やカリナ嬢の弟にして次期ムーノ伯爵である嫡男のオリオン君だ。

彼の隣には地味系美人の見覚えの無い令嬢がいる。

令嬢は彼と同い年の15歳らしい。

「紹介しよう、私の婚約者、ラゴック男爵令嬢のミューズだ」

オリオン君が令嬢を紹介してくれる。

公都にいたときは、セーラの腹違いの妹である7歳の公爵令嬢と婚姻という話だったはずだから、彼女は第二夫人候補なのだろう。

「はじめまして、ミューズ様。私はサトゥー・ペンドラゴン子爵と申します」

「は、はじめまして子爵様。お、お目にかかれて光栄です」

奥ゆかしい人らしく、凄く緊張した様子で挨拶してくれた。

「ミューズ様、そんなに緊張なさらなくても大丈夫ですよ」

「え? セ、セーラ様?! どうして、こちらに?」

ミューズ嬢の緊張を解そうと声を掛けたセーラを見て、オレに挨拶したときよりもカチカチに固まってしまった。

「ペンドラゴン卿、次期聖女様がなぜここに?」

オリオン君が小声でオレに耳打ちする。

彼の言う次期聖女様というのはセーラの事だろう。

「ムーノ伯爵からお聞きになっておられませんか? このたび、シガ王国観光省の副大臣に任命されたのですが、セーラ様はその随行員として同行してくださっているのです」

「ふ、副大臣?」

どうやら、オレが子爵になった事くらいしか聞いていなかったようだ。

オレの後ろでコホン、とわざとらしい咳払いをしたのはもう一人の随行員であるシスティーナ王女だ。

「ペンドラゴン卿、こちらのご婦人も君の知り合いか?」

潔癖症気味のオリオン君がムッとした顔で尋ねてきた。

幾人も妙齢の女性を引き連れているのを不謹慎に感じているのだろう。

「こちらの方もセーラ様と同じく副大臣職の随行員で――」

「あら、同じではありませんよ」

システィーナ王女がソファーから立ち上がり、オレの横に並ぶ。

「はじめまして、オリオン殿。私はシガ王国第六王女システィーナ。サトゥーの婚約者ですわ」

「「お、王女」」

オリオン君とミューズ嬢が揃って驚きの声を上げた。

王女のインパクトが強すぎて、婚約者のところをスルーしてくれたようでなによりだ。

衝撃が収まったところで、控えめなゼナさんをオリオン君達に紹介しておいた。

◇

「さて、先ほどの話の続きといこう」

応接間に女性陣を残して、オレとアリサはニナ女史やオリオン君と一緒にムーノ伯爵の執務室に来ていた。もちろん、伯爵も一緒だ。

「待ってほしい、ニナ殿」

「なんだい? 次期殿」

「次期殿は止めてほしい。それより! この政策決定の場に、なぜ子供連れで来たのだペンドラゴン卿!」

オリオン君が指摘したのは当然ながらアリサだ。

当のアリサは面白そうに事の推移を見守っている。

「アリサ殿はあたしが呼んだんだ」

それに答えたのはオレではなくニナ女史だ。

「伯爵領再生の方針の多くは彼女の提案によるところが大きい。幼い見た目に騙されるようでは、領主の器を疑われるよ?」

ニナ女史にやり込められてオリオン君が「ぐぬぬ」と唸って、押し黙った。

初見でアリサの内面を見抜くのは無理だと思う。

オレは心の中でオリオン君を擁護しておいた。

そんな一悶着があったものの、会議はスムーズに進んだ。

途中までは――。

「なら、サトゥー達は飛空艇で銀山方面のコボルト達を捕縛あるいは撃退でいいね?」

「ええ、承知しました」

ニナ女史の確認に首肯する。

「待て、なぜ捕縛か撃退なのだ? 貴公の家臣らは有象無象など相手にならぬほど強いのだろう? どうして、領土を荒らす逆賊共をその場で処分してしまわないのだ?」

オリオン君が怒ったような調子でオレを問い詰める。

殺したくないから、と素直に言ったらもっと怒りそうだ。

「 短期的 ( ・・・ ) にはオリオン様の仰る事が効率的ですわね」

アリサが笑顔でオリオン君を見る。

「そうだとも! 貴公の家臣も、こう言って――」

「ですが、安易な虐殺を行なうと、長期的には民族間の深い爪痕となって領土の発展を阻害する原因となるのです」

元の世界の中東付近でよく見たケースだ。

「だが、弱腰では――」

「その通りです」

オリオン君の反論を最後まで聞かずに、アリサが肯定する。

「ですから、彼らを撃退するという先ほどの案に、もう一つの提案をしたいと思います」

アリサがオリオン君にニヤリと笑みを向けた後、ニナ女史やムーノ伯爵に内容を告げる。

「やんちゃな子達には反抗なんて二度と考えられないように、骨の髄まで恐怖を刻みつけてあげましょう」

「ほどほどに頼むよ」

最後に怖い笑顔で締めくくったアリサに、ニナ女史が苦笑しながら釘を刺す。

なぜか、ニナ女史の視線がオリオン君に向いていた。

※次回更新は下記の予定です。

12/08(火)12:00 14-17.ムーノ伯爵領(2)

12/09(水)12:00 14-18.ムーノ伯爵領(3)

12/10(木)12:00 14-19.ムーノ伯爵領(4)

12/13(日)18:00 14-20.雪の王国(1)

※2015/12/6 オリオン君の許嫁について

7歳の公爵令嬢についても追記しておきました。

※2015/12/8 ムーノ領の都市数について追記しました。

【宣伝】

新刊発売まで、あと4日!

本作「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」6巻とコミック版2巻が12/10(木)に同時発売となります。

詳しくは活動報告をご覧下さい。