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14-23.雪の王国(4)

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

14-23.雪の王国(4)

※2016/1/2 誤字修正しました。

※2016/1/2 一部修正しました。

サトゥーです。サスペンスで使われる毒物にも流行廃りがあるそうで、ドラマで使われる毒物の種類で原作の執筆年代を特定する事ができると知人が言っていました。そもそも最近は毒物を使うサスペンス自体が珍しいですけどね。

◇

「じゃ、行ってくるよ」

「ほーい、わたし達は迷宮行ってくるから、何かあったら呼んで」

キウォーク王城の上空で旋回する飛空艇の艦橋で、アリサとそんな会話を交わす。

眼下の仮設飛行場となった広場には、沢山の貴族や使用人達が集まっている。

出迎えにしては人数が多い。

たぶん、システィーナ王女が一緒だからだろう。

手を振るアリサ達ペンドラゴンチームを見送り、入れ替わりで孤島宮殿からやってきた観光省チームを出迎える。

王女は金色を主体に、セーラは銀色を主体にしたドレス姿だ。

ゼナさんとカリナ嬢は編み込み髪にサングラス装備のSP風ファッションに身を包んでいる。

二人とも飾りの細剣を装備しており、なかなか格好いい。

オレとアリサが悪ノリした成果だ。

「お待たせしました、副大臣閣下」

少しおどけた口調のセーラに微笑み返し、飛空艇の高度を下げる。

「凄い出迎えの数ですわね」

「歓迎されているんですね!」

興味深そうなカリナ嬢の言葉に、ゼナさんが無邪気な感想を口にする。

「飛空艇なんて珍しいですから、警備は厳重にした方が良さそうですね」

「あら? 飛空艇に何かしたら、シガ王国に戦をしかけるようなものでしょう?」

「油断は禁物ですよ、ティナ様。自明の理さえ分からないような愚か者はどこの国にもいますから」

セーラと王女の会話に応えるように、オレは警備用のゴーレムを孤島宮殿から呼び出す。

展望甲板に翼のあるガーゴイル型3体、全周囲に「 防御壁 ( バリア ) 」を張れる守備専用ガーディアンを1体、タラップの警備用の騎士型のリビングアーマーを8体だ。

どのゴーレムのレベルも30程度だが、イタズラや密航を阻止するだけならこれで十分だろう。

◇

出迎えの人達を軽く見回すと、その中央に女王陛下がいる事が分かった。

キウォーク女王はアラフォーとは思えない爆乳美女で、胸元の主張が激しい立て襟の黒いドレスを着ている。

目下の者から歩み寄るのが礼儀らしいが、あまり早く歩を進めると軽んじられるそうなので、数拍ほど時間をおかねばならないらしい。

面倒な事だ――。

「あれがペンドラゴン子爵、ずいぶん若いな……」

「閣下、声が大きゅうございます」

平伏する人達の間から、そんな私語が聞こえた。

たぶん、「聞き耳」スキルのあるオレにしか聞こえていないだろう。

「まったく、なぜ公爵長子たる私が、大国の貴族とはいえたかが子爵に跪かねばならぬのだ」

「ペンドラゴン子爵は大領ムーノの直臣、しかも貴重な飛空艇の使用を認められ、シガ王国の王女を娶るとなれば中央での影響力も甚大に違いありません。その権勢は女王陛下と同等、あるいは勝ってございます」

へぇー、副大臣や太守ってそんなに権勢があるのか……。

「あの若造が、か?」

「御意。万が一、彼の勘気をこうむって軍を差し向けられたなら、我が国は早晩にも滅び、城門に首を晒すことになるでしょう」

おいおい、どこの戦国時代の話だよ。

「だが、我が国には『冬の守り』がある。軍で幾ら攻めようとも――」

「大国を甘く見てはなりませぬ。王国の西を守る『紅蓮鬼』殿やシガ八剣といった超常の者達がおります」

「我が国にも、将軍達や淡雪姫がおるではないか」

「残念ながら、相手にも成りますまい。彼らは一騎当千、魔族とすら互角に渡り合うのです」

「ま、魔族とか……」

紅蓮鬼っていうのが誰か知らないが、魔族と互角なのが高評価ポイントらしい。

うちの子達だけでなく、今ならゼナさんやカリナ嬢だって下級魔族相手なら楽勝だと思う。

――さて、そろそろ良いだろう。

雑談の内容が興味深くて、予定よりも時間を置き過ぎた。女王の笑顔が引きつり始めている気がする。

優雅な所作を意識して一歩踏み出すと、女王がゆっくりと息を吐くのが見えた。

どうやら、余計なプレッシャーを与えてしまったようだ。

適度な位置まで進んでから、女王に挨拶する。

「シガ王国の観光省副大臣、サトゥー・ペンドラゴン子爵と申します」

「キウォーク女王ヘイタナじゃ。ペンドラゴン子爵にはヘイタナと名前で呼ぶことを許そう」

「光栄です、ヘイタナ陛下」

白い手袋に包まれた女王の手に、そっと触れるような口付けを行う。

それを盗み見た周りの人達が、安心したように緊張を解くのを感じた。

観光省の資料によると、東方諸国で目上の貴人に対する礼らしいので、オレが女王を上位者と認めた形になるので安心したのだろう。

なお、シガ王国では廃れた習慣らしい。

随員の王女とセーラを女王に紹介し、場所を城内へと移す事になった。

◇

「――なんて凄い」

女王への貢ぎ物を見た侍女の一人が息を呑む。

ここは謁見の間ではなく、女王の私室だ。

軍人が二人、貴族が一人、ゆるふわ髪の令嬢が一人の四人が女王の脇を固めている。

翠絹 ( かわせみきぬ ) やシガ紬の反物にガラス細工、王都で大量に貰った美術品や絵画、他にも海魚やアワビの干物なんかの山間の国では珍しい食材なんかも贈ってみた。武具の類いは無い。

中でもガラス細工の装飾品には刻印魔法による彫刻を施して疑似的な魔法道具に仕上げてある。

ちょっとした怪我を防いだり、雑菌や弱い病原菌から身を守る程度の品だ。

仲間達が装備するようなヒュドラの猛毒でも防ぐような一級品から見たらオモチャみたいなものだが、アクセサリーの付加価値を増すだけのモノなので問題ないだろう。

なお、この辺の贈り物の選択はセーラとシスティーナ王女に一任した。

「表敬訪問で、これほどの品を贈るとは……さすがは大領ムーノの直臣。ペンドラゴン子爵は副大臣の他に太守の任にも就いておられるのかや?」

貢ぎ物に気を良くした女王が、そんな風に話を振ってきた。

形だけの太守についたばかりなのに、情報が早いことだ。

――廃坑都市の名前を忘れたのでマップを確認する。

「はい、先だってムーノ伯爵から、ブライトン市の太守に任じられました」

女王の傍らにいる人達が「太守」という事に驚きを表した。

「その若さで中央の副大臣職に、太守、しかもセリビーラの迷宮で『階層の主』なる強大な魔物を退治した武人であらせられるとか、もしや、ペンドラゴン子爵はシガ国王の縁の方なのでしょうか?」

「いいえ、私は平民出身の成り上がり者です」

女王の傍らにいたカイゼル髭の中年貴族――この国の宰相らしい――がオレに問いかけてきたので、即答で否定しておく。

素直に事実を告げたのに苦笑い付きで「ご冗談を」と言われてしまった。謎だ。

そこに茶器の乗ったワゴンを押したメイド達が入ってきた。

「まあ、素敵な香り」

「ルモォーク産の青紅茶ですの。シガ王国のゼッツ伯爵領産と比べても遜色のない一級品ですのよ」

システィーナ王女の褒め言葉に反応したのは、ゆるふわ髪の令嬢だ。

彼女はキウォークの第二王女で、名をクリューという。王族で21歳という年齢にもかかわらず独身で、童顔の巨乳美女だ。白いドレスの胸元はナナと同じくらいだろう。

また、和やかな雰囲気に反して、彼女はレベル37の魔法騎士で、両手戦鎚、氷魔法、騎乗のスキルを持つ。

見かけに騙されたら、隙を突かれて一本取られそうだ。

「淡雪殿下はルモォーク贔屓ですな。他国の客人を歓迎するなら、自国の藻茶を出すべきではないか?」

「ガヌヌ将軍――」

筋肉質の赤毛将軍を宰相が窘める。

どうやら、クリュー王女が淡雪姫らしい。

シガ王国の諜報員が注意するように言っていた人物だ。

もう一人の軍人はこちらを観察するばかりで口を開こうとしない。

たぶん、彼が「冬将軍」と呼ばれていた人物だろう。

黒髪のやる気のなさそうな軍師タイプの軍人で、ベレー帽が似合いそうな印象の29歳の男性だ。

周囲の様子を観察しながら、お茶に口を付ける。

お茶は美味しかったがお茶請けの菓子が砂糖でジャリジャリしそうな甘ったるい物だった。

この国は甘党が多いのか、宰相も赤毛将軍も美味そうに食べている。

「ペンドラゴン子爵は甘いのは嫌いかの?」

「いえ、美味しく戴いておりますよ」

「その割りに食が進まぬようじゃが」

「いえ、この国の新雪のように美しい菓子だと感心しておりました」

「ほほほ、子爵は口が上手い」

女王の追及を適当な言い訳でかわす。

無表情スキルの助けを借りて営業スマイルを貼り付け、甘すぎる砂糖菓子を口に運ぶ。

ああ、ジャリジャリする。甘い物は嫌いじゃないが、これは辛い。

「私達旅する者にとっては美しいだけで済みますが、暮らしている方にとっては雪は大変でございましょう?」

「雪が続くと山村で暮らす民は狩りどころか家畜の世話すら大変そうですね」

セーラさんがオレの言葉に引っかけて話の流れを作ろうとしてくれたので、それに乗っかる。

「わ、我が国の民は冬に慣れておりますから、ご安心下さい」

「噂では例年になく冬が続いていると伺いましたが――」

宰相の言い訳にセーラさんが食いつく。

「ふふふ、セーラ殿はお優しい。冬が続いているのは 妾 ( わらわ ) も承知しておるゆえ、宰相に命じて税や賦役の全免除を通達してあるのじゃ」

「は、はい陛下。申し出のあった村には食料援助も行なっております」

女王の援護に、宰相が胸を撫で下ろす。

ふむ、税金や賦役の話は聞かなかったが、少なくとも食料援助があったようには見えなかった。

「陛下も宰相殿も甘い! 自助努力が足らぬのだ! 税や賦役を免除していてはいつまで経っても、戦支度が整わぬ。兵力さえ揃えば 冬などに頼らずとも ( ・・・・・・・・・・ ) 忌々しいコゲォーク王国の蛮人など追い払ってみせる!」

「――ガヌヌ将軍!」

赤毛将軍の失言を宰相が窘める。

やはり、この国の「冬」は人為的なモノと考えて良さそうだ。

黒髪の冬将軍氏が苦々しげな顔を浮かべたが、オレの視線に気がついて顔を背けた。

赤毛将軍とは理由が違いそうだが、彼も「冬」によって隣国の侵略を防いでいる現状を良しとしていないようだ。

◇

「サトゥー様、シガ王国のお話を聞かせてくださいませ」

「王都ではどのようなドレスが流行なのでしょう?」

「女王陛下に贈られた翠絹を見せていただきましたけど、とても素晴らしくて感動いたしましたの」

「サトゥー様は海というモノをご覧になった事があるのですか?」

「砂漠という砂の海があると本に書いてあったのですが、本当なのですか?」

女王達との会談後に招かれた舞踏会で、オレは貴族令嬢や姫君達から質問攻めに遭った。

どの娘さん達も高価なドレスに立派な装飾品を身に着けている。

民が飢えに苦しんでいる割に、貴族達は羽振りが良いようだ。

セーラや王女が娘さん達の相手を買って出てくれたので、オレはようやくパーティーを楽しめる状態になった。

それにしても、田舎の小国とは思えないほど煌びやかなパーティーだ。

立食形式の料理が並ぶテーブルには、下町では見たことも無いようなご馳走が並んでいる。

いくつか食べてみたが、地元の食材らしきガレットのヨーグルトがけやゴボウやニンジンを鳥肉で巻いたモノに甘酸っぱいソースを掛けたモノが美味かった。

他はシガ王国料理の下位互換みたいな料理でイマイチな感じだ。

素材の鮮度だけではなく、料理人自身が食材に慣れていないような印象を受ける。

「どうかな、子爵殿。我が国の料理は」

ワインを片手に声を掛けてきたのは、出迎えでオレの噂話をしていた公爵長子だ。

「とても豪華ですね。とくにこちらの料理が素晴らしい」

「キウォーク鳥のゴボウ巻きとは随分鄙びた料理が好みなのだな」

割と好意的な感じだったので、この国の料理を褒めたのに「鄙びた料理」扱いをされてしまった。

彼は自国の料理が嫌いらしい。

「ええ、素朴ですが実に美味です。後で料理人にお礼を言いたいくらいですよ」

「そ、そうか……」

できれば、レシピや調理のコツなんかを教えてもらえると最高だ。

オレの返答に公子が毒気を抜かれた顔で頷く。

もしかしたら、オレを挑発したかったのだろうか?

「こんな所におられたか、子爵殿!」

野太い声で呼びかけたのは片刃の曲刀を手にした赤毛将軍だった。

少し顔が赤く、息が酒臭い。酔ってるみたいだ。

「子爵殿は幾つもの軍功を誇ると聞き及びましたぞ! 我が剣舞の相方としてその武勇をお見せ願いたい」

赤毛将軍が鞘に入ったままの曲刀をオレに投げ渡す。

タイミングを合わせたように、彼の取り巻きがダンスをしていた人達を退けて剣舞の舞台を作り上げる。

ご丁寧な事に、オレと赤毛将軍が剣舞を行うと吹聴して回っている。

今更剣舞を断るのは無理そうだ。

会場を見回して情報を集める。

女王は能面のように無表情なので心情を窺い知れないが、宰相と冬将軍の二人と幾人かの有能そうな貴族は苦々しい表情を、淡雪姫や大多数の貴族は楽しそうにしている。

声援を聞く限り、赤毛将軍は軍人や金満貴族に人気らしい。

会場の柱の陰から顔を覗かせるゼナさんとカリナ嬢がわくわくとした顔で見ている。

セーラと王女は「やっちゃって!」と言いたげな顔だ。

――決闘じゃなくて、剣舞ですよ?

ジャンッと弦をかき鳴らす音から、楽団による勇壮な曲が始まる。

ミーアの曲を聞き慣れているせいか、なんとなく 拙 ( つたな ) い感じだ。

「ゆくぞ、子爵」

「お手柔らかにお願いします」

曲刀を抜き、鞘を空いている手に持つ。

赤毛将軍は二刀流らしいので、鞘を盾代わりに使おう。

――ザザンッ。

揃って振り下ろされる二刀を、曲に合わせて曲刀で受ける。

しなる薄刃の刀だからか、受けたときの音が独特だ。

ザッと音が鳴るように、絨毯の上に足を滑らせ、二刀を受け止めたまま くるり ( ・・・ ) と横に一回転して赤毛将軍の二刀を強くはね飛ばす。

彼が体勢を整えるタイミングに合わせて、曲刀をザ、ザンッと彼の刀にリズミカルに打ち当てる。

「き、貴様っ!」

剣舞なので実際の剣技のセオリーから外れた大げさな動きを試みたのだが、赤毛将軍には不評らしい。

アニメの「帰ってきた王様」の抜刀ダンスをイメージしてみたので、帰ったらアリサに採点してもらおう。

少なくとも、会場の令嬢やメイド達には好評だったので良いだろう。

途中からは淡雪姫だけでなく、女王陛下も興奮気味に見ていたので見世物になった甲斐があるというものだ。

曲が終わる頃には赤毛将軍が息も絶え絶えになっていた。

寸止めのレベルを獣娘達基準にしたから、ちょっとストレスが大きかったらしい。

自分から言い出した剣舞なんだから、そんな仇敵を見るような目は止めてくれ。

「素晴らしい余興であった。ガヌヌ将軍とペンドラゴン子爵は共に国を代表する剛の者だ。褒美にこれを与えよう」

女王がオレ達二人を賞賛し、氷石の嵌まった腕輪を手渡す。

魔法道具の類いではないが、結構な価値がありそうだ。

ガヌヌ将軍は女王の信奉者なのか、オレの事など脳裏から消し飛んだような顔で、受け取った腕輪を手にして感激している。

スススッと音も無く歩み寄ってきたメイドが酒杯の載った盆を差し出す。

受け取った蜂蜜酒を飲み干し、空のゴブレットを返す。

蜂蜜酒には遅効性の麻痺毒が入っていたようなので、ゴブレットとメイドをマーキングしておこう。

なお、麻痺状態でも魔法欄からの魔法使用が可能なので、こういった状態異常系の薬物は 抵抗 ( レジスト ) に失敗したところで脅威にはならない。

「子爵様、少しよろしいですかな?」

「もちろん、構わないとも」

オレは声を掛けてきたフードを目深に被った 鼬 ( イタチ ) 人族の商人に笑みを返した。

※次回更新は 1/1(金) の予定です。

※2016/1/2 淡雪姫のスキルを修正しました。