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14-24.雪の王国(5)

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

14-24.雪の王国(5)

新年あけましておめでとうございます!

本年も「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」を宜しくお願い申し上げます。

2016.1.1   愛七ひろ

※2016/1/2 誤字修正しました。

サトゥーです。昔、銀河戦争物のアニメが流行っていた頃、仲間内で紅茶にブランデーを入れて飲むのが流行った事があります。もっとも、すぐにブランデーだけで飲むようになっちゃいましたけどね。

◇

「いつもそんな無粋なフードをしているのかい?」

「ご容赦を。我らの獣の顔が不快と仰る貴人がこの国には多い故」

鼬 ( イタチ ) 人族の商人と一緒に舞踏会の外へ移動する途中で、目深に被ったフードについて質問してみたところ、そんな答えが返ってきた。

妙に滑舌が良いのが気になったので注意してみたところ、翻訳指輪を装備しているお陰のようだ。

ルモォークに召喚された日本人達が持っていたのと同種のアイテムだろう。

暖かかった舞踏会の会場と違い、底冷えする石の回廊は健康な人でも半時間で風邪を引きそうな場所だ。

回廊の向こうで不審な人の動きがある。

こんな場所で待機とは暗殺者もご苦労な事だ。

「あれをご覧ください」

回廊の途中で立ち止まった 鼬 ( イタチ ) 人族の商人が、小さなガラス窓の外を指差す。

窓外に見えるのは雪景色。

雪に沈むキウォーク王都と氷に覆われた湖が見えた。

湖の中央にはアメジストのような岩石――いや、塔のようなモノが生えており、中から淡い光が漏れ出している。

オレは「望遠」スキルのお陰でよく見えるが、普通の人なら紫色の光が微かに見える程度だろう。

微かな物音が回廊の石柱の陰から聞こえた。

見え見えの襲撃者がそろそろ襲ってくるようだ。

「見せたいのはあの紫色の光か?」

「はい、あの光を発する塔こそが――」

商人の言葉の途中で彼を突き飛ばし、オレ達を狙って飛んできた毒刃を魔力を流したマフラーの一閃で弾き飛ばす。

「バカな」

「七つとも全て、弾くなんて!」

こちらに見せつけるように柱の陰から、襲撃者達が姿を見せた。

舌っ足らずで聞き取りにくい言葉はいつも通り、脳内補完で補正しておく。

5人の襲撃者達が、毒の 滴 ( したた ) る小剣を構える。

フードを目深に被った姿は 鼬 ( イタチ ) 人族のように見えるが、AR表示によると中の人は鼠人族の男達だ。

所属は――。

「ペンドラゴン卿はご無事か! 者共! 賊を一人たりとも逃すな!」

「「「応」」」

回廊の反対側から異様にタイミング良く、赤毛のガヌヌ将軍が兵士達を率いて姿を現した。

不利を悟った襲撃者が、侵入に使ったらしき回廊の柱の陰にある穴から逃亡を図る。

マーカーを付けてあるのでどこに逃げようと同じだが、捕まえに行くのが面倒なので礫を放って襲撃者の一人を行動不能にしておく。

「こいつを地下牢に入れて尋問せよ」

赤毛将軍の連れた兵士が行動不能にした襲撃者を縛り上げて連れていこうとする。

おっと、このままだとマズイ。

「ペンドラゴン卿、お怪我はありませんかな?」

「ええ、私は大丈夫です」

白々しい笑顔で、オレの視線から襲撃者を隠すようにする赤毛将軍に首肯する。

「待て、その男に少し用がある」

「ペンドラゴン卿、賊に近寄るのは遠慮してもらおう」

襲撃者を連行しようとする兵士を呼び止めようと一歩前に出るが、それを赤毛将軍が遮った。

「この手の暗殺者は暗器の 類 ( たぐ ) いを用いる。貴君は我が国の賓客、害される可能性がある」

「なるほど、それもそうですね――」

オレは手の中に出したキウォーク半銅貨を指で弾いて、襲撃者のフードを暴く。

「――鼬人かと思いましたが、鼠人だったようですね」

オレが爽やかな笑顔を作ってそう告げると、赤毛将軍がぐぬぬと言いたげな顔で「そのようですな」と言葉を絞り出して引き上げていった。

さて、一連の不可解な襲撃事件だが――。

襲撃してきた鼠人達の所属はキウォーク王国の汚れ仕事専門の亜人部隊。もっとも、通常の鑑定だと犯罪ギルドの所属に見えるようになっている。

前に「自由の翼」の連中がやっていた所属偽装と同じだ。

続いて、マップ検索したところ、地下牢には瀕死の鼬人が数人いた。

ここからは推測だが、襲撃者を赤毛将軍が捕らえた後、地下牢の鼬人達を獄殺して、オレの暗殺未遂犯は鼬人族だと持っていきたかったようだ。

赤毛将軍は鼬人族を王国から追い出して、氷石の利権を全て得るか、もしくは「冬」を終わらせて戦争を再開させたいかのどちらかが目的だったのだろう。

ついでに麻痺毒で動きの鈍ったオレを助けて、恩を売ろうと思っていたのかもしれないね。

なお、オレに麻痺毒入りの酒を飲ませたメイドは、昏倒状態で貴族街の一角に監禁されていた。

お人好しなお節介を焼く前に、するべき事を済ませよう。

オレは腰を抜かしたままの商人に向き直った。

「さて、聞かせてもらおう。あの塔が何かを――」

◇

「ガヌヌに竜の尻尾を踏みに行かせたのは貴方ね?」

「私は何も指示していませんよ。それに、あの子爵があんな児戯にひっかかるとも思えません」

「あら、ずいぶん彼の事を買っているのね?」

「成人したての平民が、大国の爵位を得、しかも中央の副大臣にまでなりおおせているのです。そんな人間を過小評価するのは、愚か者のする事ですよ」

忍び込んだ冬将軍の部屋で、目的の人物と淡雪姫の会話が聞こえてきた。

「あなたは『冬』を終わらせたいと願っているかと思ったんだけど、違った?」

「女王に『冬』を献策したのは私ですよ? 辺境の村々を切り捨てる愚策と知っていながら、他の策を用意できなかった」

冬将軍が自嘲するように淡雪姫に言う。

「うちの軍は弱いものね」

淡雪姫がそう呟いて立ち上がる。

「『冬』が終わらないなら、この国にいても戦えないわね。こんな雪と氷の中で朽ちるくらいなら、子爵様を籠絡して戦場のある国に連れていってもらおうかしら?」

「雪豹や噴進狼はお気に召しませんか?」

「もう飽きたわ。私は世界平和の為に魔族と戦いたいの。勇者の傍らに立つのは無理でも、シガ八剣と拮抗するような武人になりたいのよ」

もっと享楽的な人物かと思ったが、淡雪姫には意外な目標があったらしい。

沈黙する冬将軍に、引き留めてほしそうな視線を送ったあと、肩を竦めて淡雪姫が部屋を出ていった。

冬将軍が陰鬱な顔で、甘芋焼酎入りの藻茶を呷る。

「……『冬』が敵を防げるのはあと数年。コゲォーク王なら、必ず雪の中を進軍する手段を見つけるだろう。それまでに氷石を使った兵器を揃えるのは……」

「不可能かえ?」

「……陛下」

淡雪姫が出ていったのとは違う扉から、黒いドレスの女王が入ってきた。

色っぽい透け透け衣装を期待したが、胸元も大人しい実務用のドレスだった。

「貴族達の浪費する分を開発に回せれば、5年で定数を揃えられますが、今のままでは――」

「無理じゃな。今でも『冬』を否定する貴族は多い。金品による懐柔をやめれば、次期国王争いが激化して開発費どころではなくなろうぞ」

女王が茶器の横の甘芋焼酎をカップに注ぎ、優雅な仕草で飲み干す。

「コゲォーク王が侵略を止めてくれたら簡単なのじゃが――」

「無理でしょう。この国から流れる冷たい風が、あの国の草原を枯らします。『冬』でそれが加速している今、コゲォーク王が折れる事はないでしょう」

――ん?

この国の温度を年中春以上の温度にしたら、隣国との諍いも終わらないか?

「本当に策は無いのかえ?」

女王の質問に、冬将軍が沈黙する。

無いと答えないのは、彼のプライドか、それとも――。

「ございます。ですが、それにはペンドラゴン卿の助力が不可欠です」

「言うてみよ。わらわにできる事であれば、この身に代えてでも成してやろうぞ」

「湖に封印された魔族を、彼と彼の家臣に討ち取ってもらうのです」

――湖に封印された魔族。

実はその話を先ほど鼬人族の商人から教えてもらった。

この魔族の封印を維持する為に、この国の冬は元々長かったらしい。

魔族から漏れる瘴気が湖の藻を魔物に変え、紫色の封印塔に集まる凍気が氷石を産む。

商人がその事を教えてくれたのは、彼曰く「利益確保のため」らしい。

十分な量の氷石を確保できたので、値崩れの恐れの高い増産体制を第三者の手で終わらせたいのだそうだ。

勝手な話だが、実に鼬人族の商人らしい。

「湖の魔族さえ滅ぼせれば、この国を常春に保つことも不可能ではありますまい」

「ふむ、少し難しいが、隣国に冷気を流さずに済む程度には暖かさを保つことはできよう。それでコゲォーク王国が攻めてこない保証はないが、一考の価値はあるのう」

オレが考察している間にも、話は進んでいたようだ。

「よかろう、わらわの魅力で子爵を籠絡してみせようぞ。吉報を待て!」

次回予告のような発言をした女王が部屋を出ていった。

オレの部屋のベッドで待機している淡雪姫と出くわしそうな気もするが、放置で良いだろう。

オレはコンコンとドアをノックして、将軍の返事も待たずに部屋の中に入る。

「こんばんは将軍閣下」

「ようこそ、子爵殿。倒していただけますか、湖の魔族を?」

説明的な会話が多いと思ったら、冬将軍にはオレが盗み聞きしていたのを気付かれていたらしい。

「『冬』の即時終了と王国保有の氷石の在庫の半分を報酬として約束していただけるなら」

「承知しました。この命に代えて女王陛下から確約を得て参りましょう」

かなりふっかけたのに、即決で了承されてしまった。

湖に封印されている魔族は、中級にしては高めのレベル50だ。スキルは「灰化」「下僕召喚」などがある。この「灰化」は「石化」の灰バージョンらしい。

冬将軍の注いでくれた酒杯で乾杯しようとしたところで、荒々しく扉が開かれる。

「将軍! コゲォーク王国軍が砦を突破したと報告が!」

「な、なんだとっ! すぐ行く! 子爵殿、失礼致します」

士官の言葉に冬将軍が慌てて部屋を出ていく。

なかなか、波瀾万丈の国だね。

――頑張れ、冬将軍。

※次回更新は 1/3(日) の予定です。