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14-28.水桃の王国(1)

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14-28.水桃の王国(1)

※2016/1/23 誤字修正しました。

サトゥーです。王様の箔付けに神様から王位を与えられたとするのは、地球の歴史ではありふれた事のようです。神が実在する世界では、どうなのか気になるところです。

◇

「芋~?」

「またお芋さんなのです」

露店を覗き込んだタマとポチが耳をペタンとさせて落胆する。

ここはルモォーク王国の王都で開かれている 市 ( いち ) の食べ物エリアだ。

観光省の飛空艇が到着するのは明日の予定なのだが、お祭りがあるという情報を見つけたので一足お先に皆で観光と洒落込んでみた。

今回はお忍びなので、3人から5人の3つのチームに分散して行動している。全員一緒だと目立ちすぎるのだ。

オレは2時間おきに別のチームへと移動する事になっている。

最初のチームは獣娘達とカリナ嬢、ゼナさんの5人チームだ。

「他の国の子達かい? ルモォークは 食芋 ( しょくいも ) を使った料理が多いからね」

猿人族の老露店主が色の白いジャガイモのような芋を見せてくれる。

彼は皮付きのままの芋をスライスすると、こちらに差し出してきた。

「騙されたと思って、 食芋 ( しょくいも ) の刺身を食ってみな」

「騙す~?」

「嘘はいけないのですよ?」

差し出された芋のスライスに興味を引かれたタマとポチが、スンスンと匂いを嗅ぐ。

食レポの番組でよくあるシチュエーションだが、生の野菜を丸かじりするのは少し抵抗がある。

「しゃくしゃく~?」

「お芋さんは生よりも焼いたり蒸かしたりした方が美味しいと思うのです」

スライス芋を受け取ったタマとポチがショリショリと芋を囓る。

「芋ですね」

「意外に美味しいですわ」

「――そうですね」

二人に続いて、リザとカリナ嬢が手を出し、同調圧力に負けてゼナさんもおそるおそる手を伸ばした。

「そっちの若様も、どうだい?」

「では、せっかくですから」

老猿人の視線に負けて、オレも皆に続いて食べてみた。

食感はスティックニンジン風で、味はジャガイモをレンジで温めたような素直な味だ。

美味いとは言いがたいが、まずいと顔を歪める程でもない。

「 食芋 ( しょくいも ) というのは、この辺りの名産なのですか?」

「ああ、この国でしか育たないらしいな――」

食材が豊富な公都でも見かけなかったと思って店主に尋ねてみたところ、シガ王国への輸出が禁止されている食品との事だった。

「――禁止ですか?」

「ああ、大昔の勇者王ヤマト様が『カリローゼォ』だからダメだって当時の王様に言ったとか言わないとかで」

――カロリーゼロかな? 後でヒカルに直接聞いてみよう。

「 食芋 ( しょくいも ) ばっかり食べてたら、やせ細って死んでしまうとかですか?」

「なんだ、知ってるじゃないか。そうさ、他の食べ物と一緒なら大丈夫なんだが、不思議と 食芋 ( しょくいも ) だけだと死んじまうらしい。ワシなんて40年間毎日喰ってるが、どこも悪くならないのに不思議な話さ」

どうやら、予想通りコンニャクみたいなローカロリー食品みたいだ。

ダイエット用に粉末加工したヤツを、貴族向けに流通させてみたいね。

ただで試食させてもらうのも悪いので、お店の商品である食芋とベリーの包み焼きを人数分買い取る。

他のチームの子達の分は鞄に収納するフリをして、ストレージに格納しておいた。

「ご主人様~?」

タマの耳がピクピクと動く。

「あっちから、肉の焼ける匂いがするのです! きっと狼肉か熊肉なのです!」

千切れそうなほど尻尾を揺らすポチが、オレの袖を掴んでピョンピョンと跳ねる。

「ご主人様、確認に行って参ります」

「タマも~?」

「ポチだって確認したいのです!」

どうやら、タマとポチだけでなく、リザも芋に飽きていたらしい。

キリッとした顔で宣言してから、率先して肉の匂いのする方へと自主的に偵察に行った。

「ポチ、タマ、待ちなさい!」

置いていかれたカリナ嬢が、焦ったように獣娘達の後ろを追いかけていく。

「じゃ、我々も行きましょう」

「はい、サトゥーさん」

ゼナさんと顔を見合わせて微笑んでから、人混みの向こうに見えなくなった4人の方へと向かって歩き出す。

混雑する人の流れではぐれたらいけないので、ゼナさんと手を繋いでおこう。

◇

「――第二王子は話に乗らなかっただろ?」

「ああ、鼬は信用できない、とけんもほろろに断られた」

雑踏の向こうから、聞き耳スキルがそんな会話を拾ってきた。

鼬という言葉に少し過敏になっているのかも知れない。

「あんたらじゃなくても、墜落城へ宝探しに行きたいなんて話にこの国の王族が乗るわけがないさ」

「なぜだ? 貧乏国の財政を一気に好転できるぞ。王子自身も継承順位があがる良い話では無いか?」

マップで見た感じ、会話をしているのは鼬人族の商人とサガ帝国出身の高レベル冒険者らしい。

冒険者の女性はレベル39となかなかのものだ。

「そんな風に割り切れるのはあんたらだけだよ。墜落城――影姫の浮遊城はこの国の王族の祖先が暮らしていたって伝説があるじゃないか。この国に墜落した時に、生き残った僅かな者達がこの国を 興 ( おこ ) したんだ……その城に手を付けるのは、いわば祖先の墓を荒らすようなモノだと感じてもおかしくないさ」

「ふむ、人族とは不合理な感傷を優先する生き物なのを忘れていたようだ」

観光省の資料によると冒険者の言う墜落城というのは、この国の北東にある森の中にある過去の遺跡らしい。

マップを見たところ、北東の森の中央部が別マップになっているので、そこにあるのだろう。

「浮遊城の心臓部を手に入れたら、大怪魚を凌ぐような空中母艦を建造できるというのに……」

「手に入ったら、だろう? あそこは600年以上前にシガ王国の勇者王ヤマトが挑んで逃げ帰ったような魔窟だ。入り口付近で墓荒らしをするならともかく、最奥に挑むなんて自殺行為もいいとこさ。あたしは勇者ってヤツの非常識さをハヤトに見せつけられたからね」

浮遊城の心臓部とやらには興味があるが……墓荒らしはしたくないな。

ヒカルが入った事があるみたいだし、後で話を聞いてみよう。

「――ならば、この魔法道具を浮遊城の中まで運ぶ仕事ならどうだ?」

「なんだい? この卵?」

「起動句を唱えたら、調査用の魔法生物が出てくるモノだ。これを内部に運ぶだけで金貨100枚出そう」

「あんたの国の金貨は使いにくい。シガ王国金貨150枚かサガ帝国金貨75枚なら手を打とう」

「よかろう、シガ王国金貨で支払おう。前金30枚、後金120枚だ」

「わかった、それで――」

悪巧みと言えなくもない会話の途中で、控えめな声がオレの集中を遮った。

「サトゥーさん、どうかされたんですか?」

「いえ、ちょっと知り合いに似た人がいたんですが、人違いだったみたいです」

ゼナさんが不安そうにしていたので適当な言い訳で誤魔化す。

さっきの二人は密談をしていた宿を引き払ったようだ。

トラブルの臭いがするので、とりあえずマーカーを付けておこう。

当たり障りのない会話をゼナさんと交わしながら通りを進むと、人垣の向こうに巨大な魔物の頭が見えた。

「あれが匂いの元みたいですね」

「ま、魔物ですか?」

「ええ、 城虎 ( フォートレスタイガー ) という魔物みたいです」

以前、公都の博物館で剥製を見たことがある。

国軍の兵士達が倒した 城虎 ( フォートレスタイガー ) を、お祭りの催し物の一つとして展示しているようだ。

すぐ傍の仮設竈では城虎の後脚が火に掛けられており、無料で人々に振る舞われているらしい。

獣臭いせいか身なりの良い人達は近寄らず、貧困な服装の人達や肉体労働者風の男達が肉串や煮込み料理を受け取っているようだ。

その様子を見物していると、肉串を貰ってきた獣娘達が戻ってきた。

「カタウマ」

「ワイバーンのお肉みたいなのです」

「固くて歯ごたえがありますね」

獣娘達がガジガジと肉に齧り付く。

「ご主人様、皆様の分も戴いて参りました」

「ああ、ありがとう」

「戴きますわ」

「私は、その、お腹いっぱいだから――」

「解りました、ゼナ様の肉串は私が責任を持って戴きましょう」

リザが差し出す肉串を受け取る。

……なんていうか、靴底を煮たような食感と、一噛みごとに獣臭さがにじみ出てくる。

ありていに言ってマズイ。

残りはポチが食べてくれたが、二度と食べたいとは思えない肉だった。

もちろん、内心で思っていても口にはしない。

周囲ではそんな固くて不味い肉でも、必死で食べる人達がいるからね。

カリナ嬢も途中でギブアップし、彼女の残りはタマが処分したようだ。

「柔らかい! 私でも食べられるよ」

「お嬢さん、凄いね。歯が残っていない婆ちゃんでも食べられるなんて!」

嬉しそうに微笑む人達の方を見ると、包丁片手に城虎の傍で調理をしているルルの姿があった。

どうやら、困っている人達を見かねて手伝いを申し出たようだ。

ルルの後ろにはアリサ、ミーア、王女の姿がある。

こちらに気付いたアリサが腕時計を指差すようなジェスチャーをした。

どうやら、そろそろ交代の時間らしい。

◇

「へー、冒険者と鼬人族の陰謀ねー」

さっきの二人の事をアリサにこっそりと伝えておいた。

陰謀というほどでもないが、少し気になったのだ。

ミーアとルルは王女と一緒に、麦芽水飴を買っている。

初めて水飴を目にする王女は興味津々だ。

「こうやって二本の棒でくるくると練ると美味しくなるんですよ」

「こ、こう、かしら?」

子供のような王女の様子が可愛いからか、ルルがお姉さんのようなポジションで水飴の美味しい食べ方を教えてあげている。

ミーアはこくこくと頷きながら、水魔法の「 水飴練り ( スラップ・ニード ) 」を唱えて一瞬で練り上げる。

この魔法は迷宮都市滞在中にミーアに頼まれて創ったオリジナルスペルだ。

我ながら、スキルの無駄遣いな気がする。

「ん、まろやか」

水飴を食べ歩きながら露店を眺めていると、前方の大通りから人々の歓声や木琴のような音が聞こえてきた。

「何かしら? 行ってみましょう!」

「ん、行く」

アリサとミーアがオレの手を引いて駆け出す。

「ティナ様、私達も行きましょう」

「え、ええ」

オレ達の後ろから、ルルに手を引かれた王女も早足で追ってくる。

少し距離が離れてしまったが、ルルが一緒なら大丈夫だろう。

後ろの方でチンピラの悲鳴が何度か聞こえていたが、きっと気のせいに違いない。

小さくてもレベル60の筋力を誇るアリサとミーアが、人垣の間をかき分けて通りが見える場所に割り込んだ。

迷惑そうな顔で睨んでくる人達に詫びるのは必然的にオレの役目だった。

「なんだか、 山車 ( だし ) みたいね」

「だし?」

「ああいう車輪のついた御神輿みたいなモノの事、だったかな?」

あまり正確な分類は覚えていないので、少し曖昧な説明をミーアにする。

アリサが顔の前に手でひさしを作り、こちらに向かって移動してくる何台もの山車を眺める。

見にくそうだったので、二人の腰を抱き上げてよく見えるようにした。

「ぅおおおぅ……ありがと」

「感謝」

急に持ち上げられて驚くアリサとミーアの二人に微笑み返し、追いついてきたルルと王女も交えて一緒に山車見物を行う。

先頭から「真っ黒なシルエット状のお城」「お城のバルコニーのような所に座る桃色の髪の王女様と黒髪の王子様」「侍女風の衣装の貴族少女達」の山車だ。

山車の傍を歩く兵士達は頭から被る真っ黒な布と服を着て、影でできた人形のようにも見える。

先ほどの鼬人と女冒険者の話に出てきた浮遊城とルモォーク王国の祖を作った人達を祭る山車に違いない。

AR表示によると、桃色の髪の王女はルモォーク王国の第六王女みたいだ。

メネア王女に似た7歳の美幼女で、おっとりとした静かな印象を受ける。

「今日のルミア様はお淑やかだな」

「そりゃ、祭りの影姫様役だからさ」

「いつも兄王子様達と馬で遠乗りしている姿からは想像もできないね」

周りの市民達の言葉からして、本来の第六王女は快活な子のよう――違う。

AR表示された第六王女の名前はリミア。彼らが話す第五王女ルミアの双子の妹だ。

たぶん、リミア姫の方は市民への露出が少ないのだろう。

隣に座る黒髪の少年も本物の王子で、12歳の第四王子様らしい。

王族は全員ピンク色の髪らしいから、彼は黒髪のカツラを被っているのだろう。

◇

山車の行列を見物したあと、交代の時間になったのでヒカル、ナナ、セーラの三人の方へと向かった。

「きゃっ、ごめんなさい」

「こちらこそ、失礼。怪我はないかい?」

「うん、大丈夫」

謝る少女のフードの向こうにピンク色の髪が見えた。

先ほどの行列見物の時に市民が噂していたルミア第五王女の方だろう。

快活な彼女はお忍びの祭り見物と洒落込んだようだ。

人垣の向こうから、彼女の護衛らしき兵士と侍女が追いかけてきている。

ちらりと後ろを振り返ったルミア王女が、慌てた様子で細い路地へと駆けていった。

――そちらはマズイ。

小さな悲鳴と袋に何かを詰めるような音を、聞き耳スキルが拾ってきた。

こうなっては是非も無い。

ヒカル達との合流を後回しにして細い路地へと滑り込んだ。

「なんだ、てめぇ」

「おいおい、いきなりけんか腰は止めてやれ。いいとこの坊ちゃんが震えてるじゃねぇか」

チンピラ二人組がズダ袋の口を縛りながら、こちらを睨み付ける。

手ぶらの兄貴分が腰の山刀を見せつけるように抜いて、刃を舐め上げた。

物語でよくあるシチュエーションだが、舌を切らないのだろうか?

「へらへらしやがって! なめてんじゃねぇぞ!」

そんな風にどうでも良い事を考えていたせいか、チンピラ達が激昂して山刀で肩を狙って振り下ろしてきた。

それを軽く避けて後ろに回り込み、彼のでかいお尻を蹴飛ばして地面に積み上がっていた瓦礫にダイブさせる。

「よくも――」

もう一人のチンピラがズダ袋を放して短剣を抜いたときには、オレの手によって宙を舞っていた。

ドスンという重い音と兄貴分の悲鳴が路地裏に響く。

特に狙ったわけではないが、ジャストミートしたらしい。

もつれ合いながら起き上がろうとする二人に、雷石を使ったスタナーで意識を刈り取っておく。

王女をズダ袋から解放する前に人相がバレないように光魔法で偽装する。

幼女とのフラグなんて不要だからね。

「お怪我はありませんか?」

「う、うん。大丈夫――ファルサ!」

「お 姫 ( ひい ) 様!」

茫然自失といった王女が、通りの方に知り合いを見つけて大声で呼ぶ。

後ろから付いてきた護衛騎士が、路地裏のただならぬ様子に剣を抜いて王女と侍女を庇う位置に立つ。

「殿下のお付きの方ですね?」

「そうだ、貴公は何者だ」

「名乗るほどのものではありません。そこに重なっている二人が殿下を攫うのが見えたのでお助けしたまで、後はお任せいたします」

「おい、待て――」

呼び止める騎士を無視して、路地の壁を蹴って建物の上に移動し、光魔法の偽装を解除してからヒカル達のいる場所の近くに短距離転移した。

◇

「神の創りし浮遊城、桃色の髪をした美姫は神の花嫁なり――」

ヒカル達と合流したオレは、セーラにねだられて広場の一角で開かれていた舞台を見物している。

演目はこの国の建国話らしい。

役者はあまり上手くないが、シナリオはなかなか良い。

それに、美姫役の女性がなかなかグラマラスで魅力的だ。

「ミトは浮遊城に入った事があるんだろ?」

「うん、当時の王様に頼まれて入ったんだけど、最奥の間を守る影絵の番兵が強すぎて逃げ出しちゃった」

「ヤマ――ミト様がですか?」

「うん、一体一体は上級魔族ほどじゃないんだけど、倒しても倒しても次々に湧いてくるから――」

三人で雑談をしていると、ナナが無表情のままクリンと振り向く。

「演劇は静かに見るべきと注意します」

「「「ごめんなさい」」」

もっともな話なので、その後はナナの邪魔をしないように静かに演劇を見物する。

演劇のクライマックス付近で、バタバタと大通りを騎馬の一団が駆け抜け、続いて国軍の騎士達がガシャガシャと金属音を立てながら通り過ぎた。

「マナーが悪いと批評します」

無粋な騒音に演劇のクライマックスを邪魔されて、ナナがお冠だ。

舞台の上では狗頭の邪神と城の主たる神様の戦闘シーンが進んでいる。

神様が見事に邪神を討ち果たすが、邪神が死ぬ間際に使った魔法で書き割りの浮遊城が墜落していく。

墜落した浮遊城からピンク色の髪の王子と王女が姿を現し、神の花嫁である母が死んだ事を告げる。

「神と人とは共にあってはならぬようだ……愛しき我が子達よ、この地と加護をお前達に与えよう。健やかに国を築け」

「御意、父――いえ、大神様」

ラストはよくある王権神授で締めくくられたようだ。

◇

皆と合流前に少しだけ気になったのでマップ検索してみたが、先ほどの騎馬の集団と悪巧み風の会話をしていた女冒険者や鼬人は無関係らしい。後者は今も王都内にいるようだ。

そして、合流後、王都内にある一番美味しいと宰相メモにあったレストランの個室を取る事ができた。

本来なら祭りの最中に予約で一杯のレストランに個室が空いているはずもなかったのだが、予約主が 急用 ( ・・ ) でキャンセルしたそうなので、オレ達がその隙間に滑り込めたのだ。

メニューは昼間も食べた食芋を使った小さめのパイが山盛りになっている。

食芋と茸のパイ、食芋とブルーベリーのパイ、食芋と鹿の腎臓で作ったキドニーパイ、サラダは見慣れない山菜を湯がいたものの上に、皮を剥いてカットしただけの食芋のスライスやマッシュポテトがこんもりと盛られている。

相変わらずの食芋押しメニューだが、メインディッシュはレストランと契約している狩人達が獲ってきた巨大な青角鹿の丸焼きが出た。

いつものようにアリサの「いただきます」の音頭で食事が始まる。

「にくウマ~?」

「こっちのパイは肉が入っているのです」

「ご主人様、こちらの鹿のスジ肉の煮込みもどうぞ。一緒に煮込まれている軟骨がコリコリしていて美味です」

獣娘達が薦めてくれる料理を順番に口に運ぶ。

タマが薦めてくれた鹿肉のグリルは淡泊な味ながら、脂が乗っていてなかなか美味だ。

昔イギリス料理店で食べたキドニーパイは臭みが酷くて食べられなかったが、ここのキドニーパイは料理人の腕が良いのか腎臓が新鮮だからか、実に美味かった。独特の臭みが少々あるが、香草が上手く誤魔化してくれているので問題ないレベルだ。

リザお奨めの煮込みはトロリとした食感で、食べると温かくてお腹がホコホコしてくる。

アクセントで入っているグリーンピースのような小粒の豆が煮込みを飽きさせない。ワインが欲しくなる味だ。

「むぅ、茸パイ」

「ちょっと待って、そんなに皿に載せられないよ」

お奨めをグイグイ押しつけてくるミーアを窘めて、一先ず皿に取り分けた分を片付けに掛かる。

美味しい料理に舌鼓を打っていると、個室の外から不穏な会話が漏れ聞こえてきた。

高級店なのに壁が薄いらしい。

「――影姫の祭場が襲われたらしいぞ」

「祭場が?」

「どこの罰当たりだ」

「祭場の殿下達はご無事なのか?」

昼間のパレードの幼い王子と王女の事だろう。

「それが……どうも、ルミア様が攫われたらしい」

「王子や護衛の兵士達はどうしたんだ?」

「王子は無事だ。兵士は麻痺毒入りの酒を――」

どうやら、トラブルが発生したようだ。

※次回更新は 1/24(日) の予定です。

※2016/1/23 金貨のレートを修正しました。

シガ王国金貨150枚=鼬帝国金貨100枚=サガ帝国金貨75枚

(ルモォークでのレート。鼬帝国金貨が使いにくいと書いてあるので、金の量はもう少し多いかも。1-3に一部の金貨の重さが書いてあります)