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14-36.飛竜の王国(3)下級竜シップウ

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14-36.飛竜の王国(3)下級竜シップウ

※2016/3/7 誤字修正しました。

サトゥーです。海外への旅先で言葉に困った事は多々ありますが、不思議と悪口や罵声は伝わるようです。同行者と現地人の仲裁に苦労したのも、今では懐かしい思い出です。

◇

「――聖なる峰に棲む竜よ! 竜角槍を恐れぬのなら我が前に姿を現し賜え!」

蜥蜴人のマッチョ戦士が円形闘技場の中央で叫ぶ。

オレ達はその姿を谷の手前から見物していた。

周りには沢山の人達が観戦しており、吊り橋の前では先ほどの巫女長や上級巫女達が見守っている。

「見ろ! 『シップウ』様が顔を出したぞ!」

「『グンジョウ』様や『ウンリュウ』様もだ!」

「さすがは五鱗家の若様!」

観衆達がお昼寝場から顔を覗かせた下級竜を見上げて歓声を上げる。

竜神殿に行く前に見かけた戦士の時と違って、今回は呼びかけを無視しないようだ。

「――気に入りません」

リザが下級竜を見上げながらぽつりと呟く。

恐らく、見下ろす下級竜の瞳に浮かぶ蔑むような表情についての発言だろう。

「強者であるなら、いえ、強者であればこそ、その心は高潔であるべきです」

真剣な顔でリザの言葉が谷風に流れる。

どうやら、リザは自分の思いが口を吐いて出ている事に気付いていないようだ。

「ご主人様の爪の垢を煎じて飲ませれば治るでしょうか……」

リザもだいぶアリサの昭和イズムに影響されているようだ。

「おお! 来たぞ!」

「『シップウ』様だ!」

「若様頑張れぇええ!」

ギャラリーの言葉に視線をリザから闘技場に戻す。

ズドンと大地を揺らして闘技場に着地したのは、下級竜の中でも一番若いシップウと呼ばれる個体だった。

――KWYSHHYEEEEERRRR。

シップウが翼を広げて威嚇の咆吼を上げる。

マッチョ戦士がそれに応えるように竜角槍に魔力を流す。

リザの竜槍ヘイロンもだが、不思議と部位をそのまま使った武具は魔力を流しても青い光を出さない。

赤く光る魔槍の方が強そうに見えるのが不思議だ。

「いざ、参る――」

小さな土煙を残してマッチョ戦士が加速する。

瞬動で竜の膝元に飛び込み、竜角槍を竜の膝に突き出す。

「――誘いですね」

リザがぽつりと呟く。

竜角槍が届く寸前、竜の姿が3Dエフェクトのモーションブラー効果がかかったかのように輪郭が溶ける。

超高速の回し蹴りのような動きで、シップウが尻尾の薙ぎ払いをマッチョ戦士に放つ。

――そこで前に行くか。

マッチョ戦士はカウンターを避けるのに、上でも後ろでもなく前方への瞬動を使った。

地面との摩擦で尻尾が通過した場所に火花が上がる。

余波で生まれた環状の土煙の向こうで、マッチョ戦士が槍を構え直した。

その瞳に畏れはあっても怯えはない。

攻撃を避けられたシップウが、悔しそうに顔をしかめた。

再び威嚇の姿勢を取り、大きく息を吸い込む。

―― 竜の吐息 ( ドラゴン・ブレス ) か!

シップウの見せた予備動作に、マッチョ戦士が乾坤一擲の大勝負に出る。

再び瞬動を発動させ、竜の足下へと迫る。

だが、シップウもやすやすとソレを見過ごす気はないようだ。

シップウの尻尾が弾いた石の散弾がマッチョ戦士の予定コースを襲う。

本体の攻撃に比べれば威力は大した事がないが、避けずに受ければ質量差で弾き飛ばされてしまう。

苦渋の決断で瞬動をキャンセルしたマッチョ戦士の頭上から、シップウの 竜の吐息 ( ドラゴン・ブレス ) が放たれた。

「――ちぃっ」

マッチョ戦士を代弁するように、観客の中にいた獅子人の戦士が舌打ちをする。

彼にも、戦いの推移が見えていたようだ。

シップウのブレスを避けるため、マッチョ戦士は上空へと退避する。

多くの観衆は地を舐める炎のブレスを避けたマッチョ戦士に歓声を上げるが、武に長けた者達にはそれが悪手だったと判る。

もちろん、それは闘っている本人達も同様だ。

ブレスを中断したシップウの左の爪が、宙に浮かぶマッチョ戦士を襲う。

ハエのように打ち落とされるかに見えたマッチョ戦士だが、彼はまだ諦めていないようだ。

彼の竜角槍の先端に紫電が舞う。

「くらえぃっ」

マッチョ戦士の竜角槍から放たれた電撃がシップウの鼻先を焼く。

――GYWUUUN。

目を閉じて悲鳴を上げるシップウ。

崖上の他の下級竜達が、脆弱な生き物に傷つけられたシップウを嘲笑う。

どうも、下級竜達は観戦マナーがなっていないようだ。

再度、マッチョ戦士の竜角槍に火花が集う――。

しかし、彼の善戦もそこまでだった。

苦し紛れに振り下ろされたシップウの手で地面に叩き付けられ、跳ね上がったところを旋回してきたシップウの尾に打たれて崖壁に吹き飛ばされた。

マッチョ戦士は崖壁に蜘蛛の巣状のヒビ割れを生み、身体を半ばまでめり込ませて動きを止める。

力なく地に落ちるマッチョ戦士に頓着せず、シップウが円形闘技場から飛び立つ。

血溜まりに臥しながらも、竜角槍を離さなかったマッチョ戦士だったが、魔力切れで雷撃を放つことはできなかったようだ。

◇

お昼寝場で仲良くケンカを始めた下級竜を尻目に、人々は後始末に忙しい。

「若様!」

「救護班走れ! 若様を死なせるな!」

戦いの終了を確認した竜神殿の巫女達が、決死の形相で吊り橋を渡る。

即死してもおかしくないような有様だったが、メニューのマップ情報だとマッチョ戦士は重傷を負っていたものの、命に別状はないようだ。

上級巫女の防御魔法と、鍛え上げられた彼の肉体があってこそだろう。

マッチョなのは伊達ではなかったらしい。

「さすがは竜角槍家の若様だ」

「ああ、見事なものだねぇ」

「どこがだ? 負けちまったじゃねぇか」

救助に向かう巫女達と違い、観戦していた人々は暢気なものだ。

「お前、よそ者だな? 『挑竜の儀』ってのは竜に挑んで死ななけりゃ、合格なんだよ」

「そもそも簡単に死ぬような相手は竜様達も降りてこないが、それでも三人に二人は死んじまうからな。儀式に参加するのは命がけなのさ」

「しかも! しかもだ! 若様はシップウ様に一撃を入れなさった」

「ああ、80年ぶりの偉業だ」

「次の王はあの方だろう」

なるほど、ポチが白い下級竜のリュリュを調伏して騎竜にした事は秘密にした方が良さそうだ。

そんな事を考えていると、オレの横で戦いを見ていたリザが深く息を吐いた。

「なっていませんね……」

リザが静かに首を横に振る。

「ご主人様、竜との戦いをお許し下さい」

「 仇討 ( かたきう ) ちかい?」

「――仇?」

意外に思って尋ねてみたオレの言葉に、リザがキョトンとしたレアな表情を見せた。

「いいえ、ご主人様。強者でありながら戦いに慢心する竜に、少しばかり思うところがございまして……」

なるほど、最初の嘆息はマッチョ戦士ではなく、下級竜に向けたものだったらしい。

「わかった、でも、その普段着のままだとアレだね」

今日のリザはブラウスとショートパンツの上に、スリットの深い薄物を身に纏っているだけだ。

もちろん、リザのこれらの服は、オレお手製のオリハルコン繊維とクジラの銀皮から造った防刃防魔製の品ではあるが、下級とはいえ竜と闘うには少し心許ない。

「いいえ、ご主人様。元より、黄金鎧でも竜の牙は防げませんし、攻撃主体の私の鎧では『 竜の吐息 ( ドラゴンブレス ) 』を一度防ぐのがやっとです。身軽なこの衣装でも問題ありません」

保護者としては問題だらけなので、防御用の上級魔法を幾つか 付与 ( エンチャント ) してやる。

それと今更だが、オレのAR表示さえ欺く「盗神の装具」を持たせた。

これでリザの身元がバレる事はない。念の為、三つ一組の「盗神の装具」をオレも装備しておけば、リザが致命傷を受けそうになったら場所を交代する事もできるしね。

◇

「――あれは誰だ?」

「鱗族? 女か?」

「蜥蜴人にも見えるが……」

さすがは最高クラスの 秘宝 ( アーティファクト ) だけはある。

マッチョ戦士が運び出された闘技場に立つリザを見て、誰もその姿を正確に認識できないようだ。

ざわざわと騒がしい観客達の事など知らぬとばかりに、リザがくるりと魔槍を回転させ、石突きで地面を打ち鳴らした。

何かの始まりを感じた人々のざわめきが消えていくが、崖上の下級竜達は仲間内でのじゃれ合いに忙しいらしく、興味を引かれなかったようだ。

リザが魔槍を軽くしゃくる。

赤い煌めきが一瞬だけ魔槍の表面を流れ、常人には見えないほどの速さで小さな魔刃砲が放たれ――下級竜達の近くで炸裂した。

轟音が響き渡り、魔力の余波が下級竜のじゃれ合いで浮き上がっていた土埃を吹き流す。

崖上で仲良くケンカしていた下級竜達が動きを止め、首だけを動かして闘技場を見下ろした。

「崖の上で戦士を見下ろし嘲笑う者よ。敗北を恐れぬのなら 挑んできなさい ( ・・・・・・ ) 。お前達に恐怖と後悔を刻んであげましょう」

リザの張りのある声が、闘技場に響き渡る。

その声には「挑発」スキルの効果が載っていたのだろう。

崖上の下級竜達が怒りの咆吼を上げた。

一般人には恐れを抱かせるモノらしく、観客の大多数が「恐慌」や「恐怖」状態になり、前者の状態になった人々が我先にと逃げ出した。

このままだとリザと下級竜の戦いの余波が谷のこちら側まで来た時の避難行動に支障をきたしそうなので、精神魔法の「 平静空間 ( カーム・フィールド ) 」を発動して、観客達の「恐怖」状態を解除しておく。

身体の震えを振り払うように、観客達の間にざわめきが戻った。

「お、おお! シップウ様だ」

「いや、まだまだ来るぞ!」

――ズダンッ、ズダダダンッ。

一匹、また一匹と下級竜が闘技場に降りてくる。

「ウンリュウ様やカタメ様まで……」

観衆達の怯えと感嘆の混ざった小さな声を聞き耳スキルが拾ってきた。

これまでに崖上から降りてきた下級竜の数は八頭。

闘技場の外周に並ぶ下級竜達が唸りを上げてリザを威圧する。

もっとも、リザ本人は涼しい顔で油断なく槍を構えて佇んでいた。

そして――。

「ボウリュウ様が翼を広げたぞ」

「まさか、100年ぶりにボウリュウ様が闘うのか!」

観客達の解説にあるように、一番大きくレベルの高い下級竜が闘技場へ轟音と共に着地した。

このボウリュウはレベル65もあり、ここに棲む下級竜の中では頭一つ抜き出ている。

言うまでもなくレベル62のリザよりも格上の敵だ。

――GURURUWW。

――GUROROWN。

――GERURURU。

ボウリュウを初めとした下級竜達の威圧の声がリザに叩き付けられる。

「恐れずに戦場に現れる気概は認めましょう。最初に敗北を刻まれたいのは誰ですか? 一体で挑みかかるのが怖いのなら、全員でかかってきても構いませんよ」

リザの挑発的な言葉に下級竜達の怒りが最高潮に達する。

言葉は通じないはずなのだが、悪口というのは万国共通なのだろう。

突撃しようとしたシップウをボウリュウの尻尾が薙ぎ払う。

――GURUWZ。

ボウリュウが短く吼えて翼を広げると、他の下級竜達が渋々といった体で崖の上に戻る。

渋っていたシップウも群青色の下級竜に促されて引き上げていった。

「相手にとって不足はありません。蜥蜴人族のリザ、推して参る」

キリッとしたリザの横顔を「録画」の魔術が捉える。

2カメ、3カメの位置を調整しながら、オレは「録音」の感度の確認を行う。

なんとなく、娘の体育祭に張り切るお父さんの気分を味わいながら、オレは皆に後で見せる為に、リザの勇姿の撮影に余念がなかった。

おっと、後始末用に連絡を取っておかないとね。

きっと騒ぎになるだろうし、準備をし過ぎても無駄になることはないだろう。

オレは 友人 ( ・・ ) に手伝いを頼むべく、「 遠話 ( テレフォン ) 」の魔法を発動した。

※すみません、決着編までは届きませんでした。