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14-37.飛竜の王国(4)下級竜ボウリュウVSリザ

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14-37.飛竜の王国(4)下級竜ボウリュウVSリザ

※2016/3/15 誤字修正しました。

※2016/3/15 一部追記しました。

サトゥーです。通学中に野良猫を見かけると「にゃおん」と語りかける友人がいました。普段は澄まし顔のくせに、小動物相手だと途端に無防備になるのが可愛いと心の中で思っていました。当時はシャイだったようです。

◇

「動いたぞ!」

「赤い光――」

「魔槍だ!」

観衆の叫びなど意に介さず、リザが魔刃の赤い光を曳きながらボウリュウへと迫る。

――ん? 瞬動を使っていない?

先ほどのマッチョ戦士並みの速度なので観衆達は見分けがついていないようだが、リザは普通のダッシュしかしていない。

ボウリュウの身体が輪郭をブレさせる。

高速の旋回で尻尾攻撃を始めたボウリュウを確認して、リザが瞬動スキルで急加速を行う。

ボウリュウが驚愕に目を見開くが、もう遅い。

無防備な側面を晒したボウリュウの後脚を、瞬動による加速が乗ったリザの蹴りが襲った。

普通に考えれば質量差でリザが弾き飛ばされて終わるはずだが、レベル上昇に伴う 筋力 ( STR ) 値と 耐久 ( VIT ) 値のインフレーションが物理法則に疑問を覚えるような暴挙を実現する。

軸足が下の闘技場の地面を踏み抜き、リザの一撃がボウリュウを宙に浮かべる。

――GYUWON。

悲鳴を上げたボウリュウが吹き飛ぶよりも早く、慣性に従って襲ってきたボウリュウの尻尾を、掌に魔力鎧を発生させたリザが片手で受け止めてみせた。

「おおっ! いったい何者なんだ……」

「まさか、『竜の谷』の精鋭?」

「竜神の使徒様か!」

眼前の現実離れした光景に観衆達が興奮した声を上げる。

しかし、リザは複雑そうだ。

先ほど尻尾を受け止めたのが自分の魔力鎧の効果ではなく、オレの付与魔法によるものだと気付いて、幾つもの感情がない交ぜになった表情をしている。

――KWYSHHYEEEEERRRR。

崖の前まで蹴り飛ばされたボウリュウが、身体の上に乗っていた岩石を払いのけて立ち上がる。

リザとの距離は100メートルほど。

威嚇の姿勢を取ったボウリュウが大きく息を吸い込んだ。

それを見たリザが瞬動でボウリュウとの間合いを詰める。

先ほどのシップウとマッチョ戦士との闘いをなぞるように、ボウリュウが尾ではね飛ばした岩石の散弾がリザを襲った。

恐らく、シップウの戦闘パターンはボウリュウから学んだモノなのだろう。

――リザの尾が赤く煌めく。

リザの尾から放たれた魔刃砲が散弾を迎撃する。

わざと集束を甘くした魔刃砲は、散弾を焼き尽くしはしなかったが、リザの軌道上から吹き払う役目を全うして散っていった。

だが、それでも、ボウリュウの「 竜の吐息 ( ドラゴン・ブレス ) 」が放たれる前に、リザが懐に入るのは無理な距離だ。

「アリサが言っていました――」

再び、リザの尾が赤く煌めいた。

オレの縮地に迫る速さでボウリュウの懐に瞬間移動したリザが、槍をくるりと回して口の端から炎を漏らしたボウリュウの顎を下から打ち上げた。

ゴウッと吹き出た「 竜の吐息 ( ドラゴン・ブレス ) 」はリザではなく宙を赤く染め、むなしく大気を熱して散っていく。

「――熟練した異世界の戦士達は、魔刃砲で攻撃するのではなく超加速の手段に使う、と」

……リザ、それは 漫画 ( フィクション ) の話だ。

それに白目を剥いたボウリュウは話を聞いていないと思うぞ?

◇

ボウリュウの自失は一瞬だったらしく、ぐるりと首を巡らせ、再びリザを焼き払おうと視線を彷徨わせる。

だが、その瞳がリザを捉える事はない。

なぜならば――。

「どこを見ているのです」

リザの問いはボウリュウの頭上からだ。

――KWYSHHYEEEEERRRR。

ボウリュウが怒りの咆吼を上げ、頭を振ってリザを空中に投げ出した。

大口を開けたボウリュウの口内で白い牙が光る。

――竜の牙は全てを穿つ。

勝利を確信したボウリュウの瞳が愉悦に歪む。

この世界に竜の牙に抵抗できる物質はない。

故に、竜は無敵。

「その勘違いを正しましょう」

リザが空中を蹴った二段ジャンプで追いかけてくる竜の顎から逃れ、さらなる高みへと飛び上がる。

一度は閉ざされたボウリュウの顎が再び開かれる。

今なお勝利を確信しているボウリュウの瞳に映るのは――赤い花。

否――リザの魔槍を中心に浮かぶ7つの魔刃砲の光球。

それは今までの光球とはケタ違いの大きさに膨れ上がっている。

「葬花流星弾」

リザが技名を叫ぶと、7つの光球からゲリラ豪雨のような勢いで小さな赤い弾丸が撃ち出されていく。

赤光の雨は竜の頑丈な翼の皮膜を破り、そして堅い鱗さえも砕き、最後には地面に幾つもの小クレータを生み出していった。

絶え間ない打擲に、ボウリュウが悲鳴を上げることもできずにうずくまる。

これはルルの加速砲を見たリザが編み出した新しい技だ。

慈悲のない残酷な攻撃に見えるが、リザはちゃんと手加減をしている。

相手を殺傷する最大の効果を狙うなら、大口を開けた咥内に貫通性を高めた魔刃砲を叩き込む方が早い。

竜の牙攻撃は最大の攻撃であると同時に、もっとも無防備な瞬間でもあるのだ。

「お、おい、ボウリュウ様、死んだかな?」

「使徒様、容赦ねぇな……」

「そりゃ、あの竜神の使徒様だからなぁ……」

観客達から畏れを帯びた言葉が交わされている。

さっきから気になっていたのだが、竜神に「様」は付かないのだろうか?

「おっ、止めを刺すのかな?」

「できれば見逃してくれないものかねぇ」

やはり、ここの下級竜達は人々に慕われているようだ。

地上に降りたリザが、 死んだふり ( ・・・・・ ) をするボウリュウに歩み寄る。

そう「死んだふり」だ。

リザが間合いに入った瞬間、ボウリュウの尻尾が死角からリザを襲う。

だが、当然のように待ち構えていたリザに油断はない。

リザの魔槍ドウマが、トゲの生えたボウリュウの尾を地面に縫い止める。

「奇襲を掛けたいなら、先にその殺気をなんとかなさい」

リザの忠告への礼は、跳ね起きたボウリュウの牙だった。

先ほどの尻尾はフェイントで、こちらが本命だったらしい。

深く刺さった魔槍ドウマから手を離したリザが、魔刃で赤く光る拳をボウリュウの鼻先に叩き込んだ。

――GYWRUPEE。

悲鳴を上げるボウリュウの横っ面を、魔刃を発生させたリザの尻尾が殴りつけた。

ゴキリと音を立ててボウリュウの牙が折れ飛び、彼の咥内を傷つける。

ボクシングのデンプシー・ロールもかくやという勢いで、リザが瞬動で左右から交互にボウリュウの頭を痛打する。

それはボウリュウから殺気と覇気が失われるまで続いた。

「降参するなら目を閉じなさい。続行を希望するなら気が済むまで相手をしましょう」

天竜の鱗から削り出した短剣を抜いたリザが、ボウリュウの瞳の前に突きつける。

リザの言葉に、ボウリュウが目を閉じて顎を地面に付けた。

どうやら決着したようだ。

リザはそれから少しの間、その場で残心し、完全にボウリュウが降参したのを確認してから短剣を鞘に戻した。

◇

「ボウリュウ様を倒したぞ!」

「――竜退者だ」

「違う! 彼女は 竜殺者 ( ドラゴン・スレイヤー ) だ!」

おいおい、ボウリュウ君は生きてるぞ。

内心でツッコミをいれつつ、オレは友人に「 遠話 ( テレフォン ) 」で話しかける。

『やあ、そろそろ山を越えてくれるかい?』

『うむ、すぐに行こう』

さて、引き上げる前に後始末を幾つかしておこう。

オレは目視の短距離転移でリザの横に移動し、ボウリュウの怪我を魔法で癒やしてやる。

――KURURUWW。

治癒魔法で痛みが引いたのか、ボウリュウが気持ちよさそうな声を漏らす。

「おめでとう、リザ」

「ありがとうございます」

ボウリュウの応急処置を済ませてから、リザの竜退治を称賛する。

残念ながら、ポチの時と違ってリザには「勇者」の称号が付かなかった。

その代わり、リザには「修羅」「調伏者」「竜王」という三つの称号が増えていた。

現在のリザの称号は「竜王」なので、人前に出るときは等級の高い認識阻害アイテムを装備させないと大騒ぎになりそうだ。

「ご主人様、戦利品です」

リザが回収してきたボウリュウの牙を差し出す。

下級竜の牙か……さほど必要ではないが、放置すると争いの種になりそうだし持っていった方がいいかな?

リザの勝利記念に何か作ってやるとしよう。

「おい、あれ!」

「ま、まさか――」

「 成竜 ( ・・ ) 様だ!」

「 黒竜山脈の主 ( ・・・・・・ ) が降臨されたぞ!」

黒竜ヘイロンを目ざとく見つけた人々が騒ぎ出す。

飛来した黒竜ヘイロンの減速で、台風のような風が吹き荒れ、人々が風に飛ばされて転がっていった。

地面にダウンしていたボウリュウが、這々の体で崖に背中をくっつけて「私は木」と念仏を唱えそうな顔をしている。

汗腺がどこにあるのか知らないが、蛇に睨まれた 蝦蟇 ( がま ) 蛙にも負けないような脂汗だ。

崖上の下級竜達も岩のフリをして息を潜め、黒竜ヘイロンが飛び去るのを戦々恐々と待っている。

『クロ! 迎えに来たぞ!』

『やあ、悪いね、ヘイロン』

『構わん。久々に山羊とクジラ肉で宴会だ!』

呵々と笑う黒竜ヘイロンに手を振る。

このまま黒竜ヘイロンと一緒に飛び去れば、そのインパクトで観衆を煙に巻けると考えたのだ。

「ぐるぅ、ぐるりら?」

か細い声が聞こえてきた吊り橋の方に視線をやると、 竜人 ( ドラゴニュート ) の巫女長が、なにやら下級竜の鳴き真似をしている姿が見えた。

「ごろろうん?」

その姿に黒竜が首を傾げる。

『クロ、この者は何を言っているのだ?』

『さあ? 挨拶でもしているんじゃないかな』

『なるほど――挨拶大儀である』

巫女長の眼前に顔を寄せた黒竜ヘイロンが労いの言葉を告げた。

ただし、竜の言葉は咆吼に聞こえる。そして、その咆吼は下級竜の唸りなど比較にならないほど恐ろしいようだ。

オレとリザを除けば、巫女長とマッチョ戦士の二人以外は、とっくに恐怖のあまり泡を吹いて卒倒しており、さっきまで気丈に振る舞っていた巫女長も、目の前で恐ろしげな咆吼を浴びて白目を剥いて気を失ってしまったようだ。

オレは倒れる巫女長を受け止め、地面に寝かせてやる。

後はマッチョ戦士がなんとかするだろう。

「行こう、リザ」

「私も黒竜様に乗っていいのでしょうか?」

「もちろんさ『な、ヘイロン』」

『うむ、下級とはいえ竜を倒した者ならば、褒美に我が背に乗る栄誉を与えよう』

リザの手を取って、黒竜ヘイロンの頭に乗る。

装備している「盗神の装具」の効果で身バレの心配がいらないので、いくら目立とうが問題無い。

翼を畳んだ黒竜ヘイロンが後脚の蹴りで宙に飛び上がり、軌道の頂点を超えた所で翼をバサリと広げた。

静かな竜神殿の周りを旋回した黒竜ヘイロンが、黒竜山脈へと翼を向ける。

さて、今夜は黒竜山脈で宴会だ。

スィルガ王国に飛空艇が着く頃だけど、リザの一件でオレ達に構っている余裕はないだろうから、向こうはサトゥー人形と王女達に任せるとしよう。

※次回更新は 3/20(日) の「予定」です。

※念の為「装備している「盗神の装具」の効果で」の行を追加しました。