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4-12.出立(2)

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

4-12.出立(2)

※2/11 誤字修正しました。

サトゥーです。旅行はあまりしない方ですが、ほんの数日いただけの街なのに妙に愛着が湧いてしまっています。

目ぼしい観光地を回ったら、また来たいですね。

◇

本屋では早くも白髪の爺店長が復活しており、セモーネさんは店に居なかった。あの素晴らしいプロポーションを拝めないとは……残念だ。

店主さんに迷宮都市までの地図を出してもらう。

なんていうか「測量なにそれ美味しいの?」って言われそうな感じの地図だ。地図記号や等高線なんかまで期待していたわけじゃないが、東西南北さえ適当なのは地図としてどうかと思う。

表情に出てしまったのか爺様が補足してくれた。正確な地図は機密事項なので国の運営サイドの者しかもっていないらしい。Cooqle Mapが懐かしい。

無いよりはマシなので迷宮都市までの5枚ほどの地図を買う。後日知ったのだが、商人ギルドでもっとマシな地図を売っていたそうだ。

これで用件は済んだのだが、店主が商売っ気と親切心を発揮して色々本を薦めてくれた。

旅するうえで便利そうな「旅と食べられる植物」「王都への旅路」「薬草事典」「逆引き馬車の修理」など心引かれるタイトルなので薦められるまま買った。

木工や鍛冶、彫金などの生産系の入門書もあったが、需要が無い上に古い本なので全然売れないらしい。

オレが興味を示すと同系統の本を次々積み上げられてしまった。値段を聞くと全部で金貨2枚でいいとの事なので買う事にした。

さらに旅の合間に読むと良いと小説も薦められた。勇者モノや恋愛モノがほとんどだったが、「古戦場跡地と死んだ迷宮」「狂った魔術士と死の軍団」「迷宮を作る男」といった変り種の本もあったので、その3冊と適当に人気の絵本を5冊ほど買った。

文字の学習をするなら絵本から入るのがセオリーだろう。

少し予算オーバーだったので値切って金貨10枚に収めた。

◇

さすがに買いすぎた。30冊近い本を入れた袋は非常に重い。ステータス補正が無かったら腰を悪くしていたに違いない。

魔法屋から受け取った品を合わせると結構な量だ。歩いて持って帰れない事は無いのだが、悪目立ちしすぎるので辻馬車が通るのを待つ。

「こんにちは身軽なおにーさん」

後ろから掛けられた声に振り向く。

そこに居たのは悪戯が成功したのを確認するような顔の ゼナさんの同僚嬢 ( リリオ ) だった。

「こんにちはリリオさん。ゼナさんのマネですか?」

「えへへ~ 似てた? ねぇねぇ、ドキっとした?」

なんとなくリリオをアリサと会わせたらいけない気がする。

「声質が違うから、すぐ気が付きましたよ」

「え~ 残念~ でもでも、それって愛? 愛の力?」

本当に女子は恋愛が好きだな。

リリオが小柄な体を押し付けるように詰め寄ってくる。ロリっ子はもう十分なので、やんわりと肩を押し返して密着しないようにする。

「今日はお一人ですか?」

「うん、他の子は兵舎で寝てるよ~ でもゼナは昨日の昼から今日の夜半まで、ず~っと当直についてるんだ~ 魔法兵の数が足りないんだよね」

旅立つ前に、ゼナさんには一言別れの挨拶をしておきたかったんだが……。

よし、出発は明日の朝に変更しよう。

「リリオさん、ゼナさんに伝言をお願いできますか?」

「いいよ~、でも胸が焼けるような熱い台詞は無しにしてね? あんまり熱いと過激な言葉に変えて伝えちゃうよ~」

両手をわきわきさせながらリリオが悪い顔で言う。

明日の朝早くに出発すると伝えてほしいと頼む。リリオは伝言を快諾してくれた。

「あちゃ~ ゼナの初恋は失恋か~ 今度何か奢ってやろう」と本人は独り言のつもりみたいだったが、まる聞こえだ。

オレはその声に答えることなく辻馬車で門前宿へと帰った。

◇

馬車の中で本を 宝物庫 ( アイテムボックス ) に収納する。オレが本屋に行ったのを知ったアリサが「わたしも連れていってって言ったじゃない~」と怒っていたが、各種属性の初級魔法書を見てホクホクの笑顔に戻った。

それにお前はまだシガ王国の文字が読めないだろう?

「それで、もう出発するの?」

アリサが聞いてくるので、出発は明日の朝一にした事を皆に伝えた。

「オレは東街の錬金術屋となんでも屋で用事を済ませてくるけど、何か他に買い忘れたものが無いか確認しておいてくれ。終わったら学習カードで遊んでいていいぞ」

「カード!」「なのです!」とポチ、タマ、ルルが喜ぶ。ルルが普通の少女のように喜ぶ姿を見るのは稀なので、心のRECボタンを押しておく。

「ダミーの空樽が軽すぎて不自然だから、日持ちする芋でも入れておいた方がいいと思うわ」

「これから冬に入ります、外套だけで寝るのは寒いかもしれません。ご主人さまの分だけでも毛布を購入した方が良いと思います」

アリサとリザの意見に頷いて買出しを許可する。もちろん毛布は人数分だ。アリサが市場で 綿 ( わた ) を売っているのを見たと言っていたので、値段によっては買ってもいいと許可した。

◇

オレは一人で錬金術屋に行き、鎮痛剤と消臭剤の素材とレシピ集を何冊か購入した。贅沢な話だが買い物の時に残金を気にしなくていいのは気楽な反面、迷う楽しみがないのが少し寂しい。

なんでも屋では、ナディーさんに昨日依頼した件について進捗を聞く。まだ一日しか経っていないのに目ぼしい所は終わったそうだ。残りは相手がいなかったので明日行くらしい。

謝礼として受け取ったものをナディーさんから渡された。貨幣が入った小袋と野菜やサンダルなんかが入った大きな篭を渡される。

貧乏な家庭では謝礼金の代わりに野菜や内職で作っていた縄やサンダル、木の匙など色々な品物でくれたそうだ。謝礼は不要だと言ったそうなのだが、断りきれず受け取ったそうだ。

明日、セーリュー市を出るので残りの謝礼分はナディーさんへの追加ボーナスとして進呈するという事で纏めた。

「サトゥーさんの次の目的地は、やっぱり王都か公爵様の領都ですか?」

「いえ、迷宮都市に行こうと思っています」

「迷宮都市なら亜人もたくさんいますから、暮らしやすいですね」

そういえば一番有名なエルフにまだ会ってないじゃないか。セーリュー市にもいるはずなんだけどな。

「そうですね、エルフには一度会ってみたいですね」

そう答えるとナディーさんに微妙な顔をされた。

彼女は後ろを振り返って店長さんに声を掛ける。いつも寝てるオッサンだ。

「店長~ ちょっと来てください」

呼ばれてきた店主は顎鬚をなでながらこっちに来る。思ったよりもずいぶん若い。ちょっと小柄で痩せ過ぎだが、やや緑がかったロンゲの黒髪が似合う美男子だ。

やってきた店長に何を言うでもなく、ナディーさんが彼の髪を片側持ち上げる。なかなか気安いな。

ホラホラと指差す。

店長さんの耳は、上の方がちょっと尖っている。彼も亜人なのか?

「サトゥーさん反応が薄いです」

「すみません、店長さんの耳がどうかしましたか?」

そう答えるとナディーさんが憤慨する。

「も~何言ってるんですか、エルフが見たいって言うから証拠を見せたのに」

「え? エルフですか? エルフの耳はもっと長いと思っていたんですが?」

ハーフエルフとかかな?

オレの答えを聞いて店長さんがムっとした表情になって、定位置に戻って昼寝を再開した。

どうもオレの答えで気分を害したようだ。

「も~ 店長! 耳長 ( ブーチ ) 族と間違えられたくらいで、すぐに拗ねないでください!」

「 耳長 ( ブーチ ) 族というのは、どんな種族なのですか? わたしの故郷ではエルフというのは耳がこんな風に長い種族だと言われていたのですが?」

オレが指で横に長い耳を表現してみる。

「サトゥーさんの言ってるのは、耳族の中でも 耳長 ( ブーチ ) 族って言われる種族ですね。人よりも平均的に背が高く、髪も緑ではなく金髪が多いです。魔法の才能があり長命な所もエルフに似ています。耳族はサガ帝国の初代皇帝だった勇者王様の供をしていたので、神聖視されているんです。保護区までありますし、サガ帝国の外にはめったに出てこないので見る機会はないでしょうけどね。ただ、エルフ達からは『エルフもどき』と言われて嫌われてます」

なるほど、今後間違えないようにしないと。

オレは非礼を店長さんに詫びる。店長さんは昼寝の姿勢でヒラヒラと手を振って答えてくれたので、許してもらえたと判断しておこう。

◇

翌朝、屋台で朝食を済ませる。宿の精算はすでに済ませた。

マーサちゃんの「今度も泊まってね~」というお気楽な別れの言葉に答えながら、オレは馬車を操作して宿を出発する。

ゼナさんが見送りに来てくれるかと思ったが、完徹の翌日だし、まだ寝ているのだろう。今度手紙でも出そう。

何気に検索してみると出発時に城にあった光点が内壁のあたりに移動している。

オレは街の入り口で騎士ソーンに出発の挨拶をして門を出る。ここで待つと迷惑すぎるからだ。

門を抜けたあたりで後ろから「待って~」と聞こえた。

人や馬車の流れの邪魔にならないように門の外にある広場に馬車を止める。

門の方を見ると都市に入る人の流れが乱れている。その中から一頭の馬が抜け出してきた。オレは馬車の上から手を振る。

「サトゥーさん!」

風で乱れた髪を手で撫で付けながらゼナさんが馬を寄せてくる。馬に乗るには不似合いなドレスだ。いつもと違い化粧までしている。

「間に合ってよかった!」

「ゼナさん、こちらこそ出発前に会えて良かったです」

不義理にならずに済んでよかった。

「迷宮都市に行かれるんですよね? 落ち着いたら手紙ください。ぜったいに返信しますから!」

「はい、必ず」

一緒に付いていきたいと言われるかと思ったが、要求が手紙でよかった。

「指切りでもしたら~」と幌馬車から顔を出したニヤニヤ顔のアリサが余計なことを言う。

それに食いついたゼナさんに説明すると「指切りしたいです!」と勢い良くお願いされたので、断ることもできずに指切りをする。

この年でするのは、ちょっと恥ずかしい。

指切りをした後の曲げた小指をうっとりと見つめるゼナさんに、今度こそ別れの挨拶をする。

「では、またいつか、お会いしましょう! 迷宮都市に着いたら必ず手紙を出しますね」

「はい! またお会いできる日を楽しみにしています!」

しんみりとした別れにならなくて良かった。

彼女との再会は思ったより早い時期になるのだが、この時のオレには知る由もなかった。

ゼナさんは、騎士ソーンに首根っこを掴まれて詰め所に引っ張っていかれるまで、懸命に手を振ってくれていた。

ここで4章は終わりです。

5章は旅先で起こる小事件で各キャラが活躍する話にする予定です。

今のところ、ルルの活躍する話だけが思いつかないんですよね~

その前に閑話を何話か挟む予定です。

そういえば主人公は、子爵からの褒美を受け取り忘れてますね~