LNCrawler

14-幕間4.サトゥーの研究(2)

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

14-幕間4.サトゥーの研究(2)

※2016/5/24 誤字修正しました。

サトゥーです。インターネットの登場で世界との距離が縮まりましたが、ゼロではないようです。海外の人とインターネット越しの会議を行うと通信遅延が気になるんですよね。

◇

『――ご主人様、聞こえてる?』

「聞こえてるよ。少し遠いから会話が遅れるんだよ」

空間魔法の「 無限遠話 ( ワールド・フォン ) 」で孤島宮殿のアリサと会話する。

返事が返ってくるまでの長いラグを待つ間に、黒い円盤から吹き上がる青い光の噴水を眺める。

いやはや、こんな絶景を見られる日が来るとは思わなかったよ。

そのうち皆を連れて見物にきたいものだ。

『でも、無限遠話は遠くても言葉が遅れないって言ってなかった?』

「普通はそうだね――」

ユニット配置用の基点が作れたので、オレは砂漠の異界へと移動する。

メニューを確認したが、「無限遠話」以外の魔力は消費していない。やはり、オレの「ユニット配置」は距離に関係なく魔力を必要としないようだ。

『――普通は?』

無限遠話からアリサの声が耳に飛び込んできた。

「今回は少し遠めの場所まで来たからさ」

『あれ? 声が遅れなくなった』

外宇宙用の虚空服をストレージに回収し、改めて孤島宮殿へと戻った。

「それは近くまで戻ったからさ」

「ご主人様~?」

「なのです!」

「サトゥー」

飛びついてくる年少組を受け止め、アリサの用件を確認する。

「大した用事じゃないわよ。アーゼたんから、他の氏族のハイエルフから連絡が来たって聞いたから伝えようと思っただけ」

たぶん、ブライナン氏族の宴会のお誘いだろう。

「焦げ臭い」

「こげこげ~?」

「お肉を焦がしたような匂いなのです」

顔を擦りつけていた子供達が心配そうにこちらを見上げた。

「ちょっと 火元 ( ・・ ) に近付きすぎてね」

危うく黒焦げになりかけた。

さっきのスペクタクル見物をする前の話だが、着替えた虚空服の中に臭いが残っていたようだ。

「もうっ! 危ない事しないでよね」

「実験してから実行したんだけど、火力にあんなにばらつきがあるとは思わなくてさ」

「まったく、火山かマントルか知らないけど、無茶は止めてよね」

アリサは意外と心配性だ。

オレは今回 火元 ( ・・ ) で手に入れた結晶をアリサ達に見せる。

「きれ~?」

「キラキラなのです」

「炎晶珠? 光晶珠?」

「何、ソレ? 綺麗だけど、なんだか凄い魔力を感じるわ」

原始魔法の実験で作り出したモノだ。

「これは炎と光の二属性を持つ上級の属性結晶だよ。そうだね――」

オレは小さな人工太陽のような結晶を見つめる。

「――太陽珠とでも名付けようか?」

太陽珠はアリサとミーアの杖に融合する事になった。

もちろん、原始魔法を用いてだ。

古竜じゃないけど、原始魔法は非常に疲れる上に膨大な魔力を使うから、あんまり濫用したくない。

でも、今回のような特殊な魔法道具の作製には重宝するんだよね。

◇

案の定、アーゼさんの用事は、ブライナン氏族からの宴会のお誘いだった。

アーゼさんはボルエナンを離れられないので、仲間達をお供に連れてお呼ばれした。

「ほほう、重力魔法か――面白い」

「ええ、上級魔族が使っていたんです」

オレはブライナン氏族のハイエルフさんに重力魔法の入門書を手渡す。

呪文数は基礎になりそうな10個だけしか載っていない。

詠唱ができるようになって使えるようになったのは人族の魔法だけじゃない。竜泉酒を産む竜語魔法も魔族の使う魔法も使えるようになったのだ。

重力魔法は公都地下で戦った魔王「黄金の猪王」の前座で登場した青い肌のナリ魔族が使っていたものだ。

耳コピした術は二つだけだったので解析に苦労した。

重力子への干渉と生成、消滅が判ったので、そこから先は全部オレのオリジナルだ。

惑星上の魔力を全部集めたら、小さなブラックホールだって作れるかもね。

「ブライナンのケーゼにだけ教えるなんてズルいぞ!」

ふくれっ面でオレとブライナン氏族のハイエルフさんの間に割って入ったのは、ベリウナン氏族のハイエルフだった。

どちらも研究好きなエルフの氏族だが、求道者風のブライナン氏族と違い、ベリウナン氏族はブライナン氏族をライバル視している。

「ベリウナンのサーゼか。他の氏族を訪れるなら挨拶くらいせぬか」

「いいじゃないかー、1億年の付き合いだよ。家族みたいなもんだろー」

サーゼ嬢がオレの膝の上にウナギのように滑り込んでくる。

宴会料理に夢中だったタマとミーアが「しまった!」という顔でサーゼ嬢を見つめたが、珍しい宴会料理の魅力に負けたのか、視線を料理に戻した。

「ブライナンの図書館を自由に閲覧できる許可を頂いたので、そのお礼に差し上げたんですよ」

「なにーっ! それならベリウナンの図書館も全部見ていいから、私にも魔法書ー」

「いいですよ」

オレは格納鞄から重力魔法の入門書をサーゼ嬢に手渡した。

入門書を秘匿する気はないし、既にアーゼさんやボルエナンの図書館にも納めたしね。

「へー、これも保存食なのか……味が無いぞ?」

「このクロレラ錠剤は量産性と長期保存性に特化していますから」

雪の王国で試食したレーションと違って無味に近いのは、既存の保存食市場を荒らさない為というのもある。ルルの手が入ったレーションは美味しすぎたのだ。

これは大災害や飢饉が発生した場所への支援物資専用に開発しなおした。

ルル式レーションと共にクロレラ錠剤は虚空にあるドール達の働く工場衛星で延々と量産され続けていた。

あそこは一番手間なフリーズドライ工程がローコストで行えるのだ。

前者は一日に10万食、後者は材料さえあればその10倍の速度で生産できる。

しかも、後者は 巨大藻 ( ジャイアント・ケルプ ) と藻に貼り付いた海溝貝だけが原料なので一度補充すれば当分尽きる事がない。

海溝から海上まで伸びる 巨大藻 ( ジャイアント・ケルプ ) は馬鹿げたサイズがあるのだ。

「どうせなら甘い保存食がいい」

「甘味は黴びやすいぞ」

「密閉すればいいじゃないか」

「シロップ漬けにした桃の缶詰なんかは美味しいですよね」

二氏族のハイエルフ達と保存食の話題で盛り上がる。

どうやら、上手いこと二人に保存食への興味を植え付ける事ができたようだ。

「そうだ、こんなモノを入手したのですが――」

ついでに黒蛸討伐で得た真っ黒な「賢者の石」の結晶の分析を頼んでおく。

「なんだ、これは?」

「聖樹石の一種のようですね」

二人のハイエルフが興味深そうに結晶を光に翳す。

たぶん、色が違うだけだと思うけど、この色違いに隠された意味が無いか知りたいんだよね。

◇

宴をある程度で切り上げて、オレ達はボルエナンの森に戻った。

「アーゼさん、お土産をお持ちしました」

いつもなら愛想良く迎えてくれるアーゼさんがそっぽを向いたままだ。

「どうかされましたか?」

「サトゥーなんて知りません」

プイっと横をむき直すアーゼさんはとっても構ってほしそうだ。

「アーゼ様はベリウナン氏族のサーゼ様を膝の上に乗せていた件で焼き餅をやいているんですよ」

「ちょ、ちょっと、ルーア!」

いつもならイチャイチャした姿を見て砂糖を吐きそうになっているルーアさんが、先手を打ってきたようだ。

「それと、サーゼ様から『ベリウナンの粛琴』を、ケーゼ様から『ブライナンの寂鐘』を貰った事にも拗ねていらっしゃるようですよ」

ルーアさんが言った品は、氏族の友好を表す物でその氏族に縁の者に見せると色々と便宜を図ってもらえるらしい。

それはともかく、サーゼ嬢の事は弁明しておこう。

「すみません、アーゼさん。サーゼ様の言動が幼かったので、タマやミーアを膝に乗せるような感覚で対応してしまいました」

「むぅ」

オレの謝罪の文句にミーアが不服そうだ。

膝の上で丸くなるタマは「なんくるないさ~」と呟いたきり、満足そうに喉を鳴らしている。

「それじゃ、保存食の相談もしてくれる?」

「――はい?」

アーゼさんはナニを言っているんだろう?

「ダメなの?」

「いえ、そうではなく、最初に相談したのは、ネーアさんですよ?」

ボルエナン氏族の料理人エルフであるネーアさんに一番に相談するのは基本ですよ。

「そうだったの?」

「ええ、色々とアイデアを頂きました」

そもそも最初に相談する前にアーゼさんにも一言断ったはずなんだが、あまり重要そうな言い回しをしていなかったから忘れちゃっていたのかもしれない。

「なら、いいわ」

アーゼさんが、そっぽを向いたままオレの前に手を突き出してきた。

手に持っているのは木製の鈴だ。

「これは?」

「ボルエナンの静鈴よ。この森に修業にきた信頼できる人達に与えているものなの」

あれ? ひょっとして今までは信頼されていなかったって、事?

「ち、違うわよ! 信頼していなかったって事じゃなくて! なんとなくずっと氏族の一員な気がして渡すのを忘れていたの」

オレは笑み崩れそうな頬を、無表情スキルの助けを借りてクールに装う。

「ありがとうございます、アーゼさん」

二重の意味で礼を告げ、彼女から「ボルエナンの静鈴」を受け取る。

せっかくだから、サトゥーの時はいつも身に着けておこう。

「そうだ、これはお返しという訳ではありませんが――」

「綺麗なアミュレットね」

「『魔喰い』と呼ばれる魔力吸収対策の装備です」

装備者にしか効果がないが、イタチ帝国の「魔喰い」なら強さが10倍くらいまで防げる効果がある。

黒蛸素材で作った「魔喰い」はシャレにならない威力だったので、アーゼさんに手渡した装備でも防ぎきれない。

あれは危なすぎるので死蔵しようと思う。

また、白玉宇宙怪獣もどきの死骸にも黒蛸と同様の器官があったので、それを素材に魔封じ道具を作ってみた。

こちらはアーゼさんの装備でも余裕で防げるくらいの性能だ。

素材が特殊すぎて複製できる者もいないだろうし、仲間達の装備品として活用しようと思う。

◇

「サトゥーさん、何を見たいのですか?」

「過去の神罰の記録です」

ここは公都のテニオン神殿の禁書庫だ。

元老巫女長、現巫女見習いのリリーの許可を得てやってきた。もちろん、現役の巫女長や神殿長の許可はリリーが取ってくれた。

システィーナ王女の話だと、宗教や神事関係の書物は王国の禁書庫よりも充実しているらしい。

なんでも、シガ王国の前身であるオークの帝国時代から、あるいはもっと前の時代からの書物を引き継いでいるそうだ。

「神官が神を詐称して神罰を騙ったものが多いのですね」

「ええ、残念ながら、不心得な神官はどの時代にも一定数がいるんです」

幼女なリリーが難しい顔でそんな事を言うと、小さい子供が背伸びしているようで微笑ましい。

「サトゥーさん、こちらの石板にフルー帝国時代以前の古い記録がありました!」

「あらあら、セーラったら。そこは後で案内しようと思っていたのに」

リリーが小さく舌を出して、イタズラが失敗した子供のような顔をする。

「行きましょう、サトゥーさん。たぶん、記録に残る大きな神罰は1000年以上昔のものにしかないはずです」

思ったよりも、神は温和なのかな?

狗頭やムクロ達の話で、「祟り神」的なイメージだったけど、頻繁な直接介入はしていないのかもしれない。

一方的に悪という予断を持つのはやめよう。

神託で魔王顕現や大災害予報もしてくれるみたいだしね。

とはいえ――。

「神罰はなかなか容赦ないみたいですね」

「まあ、神代語の石板が読めるの?」

「ええ、セーラさんが見つけてくれた古代語の翻訳と同じ内容のようです」

そこには神罰によって、大陸に住んでいた八割近い人が洪水と氷河で死亡したと書かれてあった。なかなか苛烈だ。

もっとも、そこまで強烈な神罰は数千年前までで、それ以降は徐々に規模を減じている。

一番多いのは世界各地のダンジョンや魔物の領域から、魔物達を暴走させて近隣の都市を襲わせる災厄だった。

◇

「貴公が提出した書類は読んだ」

セーリュー伯爵がそう告げて、一冊の報告書をテーブルの上に投げ出す。

クロとして訪れたセーリュー伯爵城で、オレは伯爵と面会していた。

伯爵が読んだというのは「神罰の可能性とセーリュー市の危機的状況について」と題されたレポートだ。

同様の内容を国王と宰相、それから内容を迷宮都市セリビーラに変更したモノをセリビーラの要人に渡してある。

迷宮都市の場合は、都市内に魔物が飛び込む前に対処する手段が揃っているし、都市内に戦える探索者や元探索者がたっぷりいる。

だが、ここセーリュー市はそうではない。

領軍こそ精強だが、一般人はあくまで普通の人達だ。迷宮から溢れる魔物に対処する術がない。

「内容を理解したならそれでいい。我が問いたいのは迷宮の入り口を鉄壁で覆うか否かだ」

「否だ。そんな馬鹿げたものを設置する金はない」

それもそうだろう。現在のセーリュー市は投資の最中だ。

迷宮が軌道に乗るまでは前よりも金がないはず。

「金などいらん、と書いたはずだが?」

「借りを作る気も無い」

恩を売るつもりもないんだけど、セーリュー伯爵の立場だと信じるわけがないか。

オレとしては門前宿の人達やナディーさん達なんでも屋の人達、それに本屋のセモーネさん達が無事ならそれでいい。

一応、ベルトン子爵一家も無事だと嬉しい感じかな。

「そうか、それなら魔物が都市へ溢れた時の対策だけでもしておくがいい」

オレはそう告げて伯爵城から転移する。

目的地はセーリュー市内にある大きめの倉庫だ。セーリュー市にはエチゴヤ支店がないので、ペンドラゴン子爵の紹介状を持たせた行商人のアキンドー名義で買った。

迷宮から目と鼻の先にある。

エチゴヤ商会の人間も常駐させていないので、ここには誰もいない。

週に一度だけ巡回するように、なんでも屋のナディーさんと契約しているくらいだ。

オレはゼナさんをユニット配置で呼び寄せる。

「交渉決裂ですか?」

「ええ、残念ながら」

呼び出された事で、事態を理解したようだ。

「では、説得をおねがいします」

「はい、サトゥーさん」

ゼナさんに集めてもらったのは10名。

オレはエチゴヤ商会のクロとして、セーリュー市の地下迷宮の間引きついでに、この10名を緊急時用の防衛戦力としてパワーレベリングする予定だ。

ゼナさんの弟とガルレオン神殿の美中年神官を除く8名は全員領軍の女性兵士達だ。魔法兵がいないが敵の殲滅自体はオレがやるから問題無いだろう。

◇

夜な夜な倉庫に集まる危ない集団という噂にも負けず、地下迷宮の中層以降の魔物を8割削減する事ができた。

上層は領軍が巡回しているので、戦場は中層以降に転移門を開いて潜っていたのだが、思ったよりもザコしかいなかった。

そのせいか、美中年神官以外はレベル30をギリギリ突破した程度だ。

8人の女性兵士のうち、3人が「土魔法」を、残りの5人が「水魔法」を使えるようになった。

彼女達はシスティーナ王女と同様に、ゴーレム使役を中心に魔物との戦い方を覚えてもらったので、迷宮ハザードが発生した際にも壁役をこなしてくれるだろう。

「迷宮から魔物が溢れたら、この倉庫の貯水槽を破壊して水を迷宮に流し込め」

「「「はい、クロ様!」」」

オレの指示に若い女性兵士達が良い返事をする。

「二人にはこれを渡しておく」

「この杖は樫の古木で作られたものでしょうか? 魔力の通りが素晴らしいですね」

「違う、それは世界樹の枝で作った物だ。妖精の女王から下賜された貴重品だから、大切に扱え」

美中年神官がおそるおそる受け取った。

アーゼさんに貰ったというのは嘘だが、世界樹の枝で作った杖というのは本当だ。

「魔剣? ち、違う――クロ殿! これは聖剣ではないですか!」

「そうだ、魔物に特効がある。間違っても英雄だと勘違いして魔物の群れに突っ込んだりするな。それはあくまで民衆を避難誘導する為の旗だと思え」

ゼナさんの弟には、徹底して盾役と誘導役をこなすためのスキルを鍛えさせたのだ。

レベル30の頃のナナに匹敵する技術もある。さらにナナのような理術ではなく、防御に最適な土魔法を覚えさせた。

魔刃はまだ覚えていないが、「金剛殻」や「持久強化」、「身体強化」がある。

若い彼には申し訳ないが、援軍がやってくるまでの避難誘導が彼の任務なのだ。

なお、女性兵士達には指輪型の魔法発動体と領軍装備に偽装した基本武装セットを渡しておいた。

彼女達が指揮するゴーレム達も、民間人が怖がらないようにヌイグルミ仕様のかわいいモノにしてある。

なんでも屋のナディーさんに頼んで、市内の吟遊詩人達に同型の小型ヌイグルミ・ゴーレムを貸与して営業させてある。

タマやポチの可愛い動きをトレースしてあるから、大人気間違いなしだろう。

「セーリュー市の事は頼んだぞ」

「「「ハイ!」」」

オレは生徒達を残し、孤島宮殿へと戻った。

さて、そろそろイタチ帝国へ向かうとしよう。

※次回更新は 5/29(日) の予定です。

来週末から15章が始まります。人物紹介は作業時間が膨大なので廃止しました。