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15-1.イタチ帝国へ

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15-1.イタチ帝国へ

※2016/6/2 誤字修正しました。

※2016/6/1 一部修正しました。

サトゥーです。小学校の頃に「道草を食ってはいけません」という標語の「道草」というのが何の植物か気になって親や先生に質問して回った記憶があります。彼らの困った顔は覚えていますが、彼らが何と答えたかは記憶に残っていません。

◇

「…… ■■ 光線 ( レーザー ) 」

セーラの中級光魔法が 兵隊鬼蟻 ( ソルジャー・オーガ・アント ) の群れを撃ち抜き、後ろで指揮を執っていた 将軍鬼蟻 ( ジェネラル・オーガ・アント ) の障壁に弾かれ散った。

ここはマキワ王国とイタチ帝国の間にある魔物の領域、――その領域の主である 王母蟻 ( ヒュージ・クィーン・アント ) のいる巨大な巣の中だ。

イタチ帝国への移動中にスタンピードを起こしそうなほど魔物が飽和していたので、仲間達のレベル上げを兼ねて間引きに来ている。

現在は後発組のみが戦い、レギュラーメンバーは後ろで観戦中だ。

予定ではそろそろ「イタチ商人」の約束の時期なのだが、件の商人は未だに再会を約束していたデジマ島に戻っていない。

なので、商人がデジマ島に来るまでの間、イタチ帝国の辺境を観光しておこうと考えたのだが、先ほどの理由でこんな地下を彷徨うはめになっている。

「…… ■■■■ 気槌 ( エア・ハンマー ) 」

うぞうぞと近付いてくる巨大な兵隊鬼蟻をゼナさんの魔法が押し返す。

「やはり、中級魔法だと格上の敵にはレジストされてしまいますね。■……」

「そうですね――」

「…… ■■■ 風防御 《 ウィンド・プロテクション 》 」

セーラが次の呪文を唱え始める間にも、ゼナさんは二つ目の呪文を唱え終わった。

この速さは呪文の短い下級魔法としても異常で、ゼナさんがセーラに習って最近取得した「詠唱短縮」スキルのお陰だ。

敵の後衛が放ったクリスタルの矢を風防御が落とし、 魔導鬼蟻 ( マギ・オーガ・アント ) の使った火球をゼナさんが長杖の反対側に持った 魔消銃 ( アンチ・マジック・ライフル ) で打ち消す。

その間にも、ゼナさんは三つ目の呪文の詠唱を始めた。

ゼナさんは下級魔法を多用した「魔法盾」という特殊なポジションを確立したようだ。

もっとも、ナナのスタンダードな「物理盾」よりも、忍者タマの「回避盾」に近い 紙装甲 ( ・・・ ) なので見ていてハラハラする。

「…… ■ 光子力線 ( フォトン・レーザー ) 」

セーラの上級光魔法が兵隊鬼蟻の群れを薙ぎ払い、後ろで指揮を執っていた 将軍鬼蟻 ( ジェネラル・オーガ・アント ) の障壁を切り裂く。

暗い地下道なのもあるが、障壁の上で煌めくスペクトルがなかなか綺麗だ。

「今ですわ!」

『カリナ殿、まだ早い!』

カリナ嬢が蟻の集団に向かって瞬動を発動した。

「 知性ある魔法道具 《 インテリジェンス・アイテム 》 」であるラカが慌てて止めるが、すでにカリナ嬢は敵の眼前まで飛び出た後だ。

将軍鬼蟻を守るべく 騎士鎧鬼蟻 ( ナイトアーマード・オーガ・アント ) 2体がカリナ嬢に盾を押し出してくる。

「しゃらくさい、ですわ!」

盾の上方に美脚による蹴りを加え、体勢が崩れた相手を踏み台にしてアリの頭上を綺麗な跳躍で飛び越える。

ギャラリーに徹していたアリサが「アリを踏み台にしたぁああ!」と叫びを上げたが、アリサの奇声はいつもの事なので、誰も反応しない。

少し寂しそうだったので、あとでもう少し構ってやろう。

「…… ■■■■ 気槌 ( エア・ハンマー ) 」

カリナ嬢の着地を狙う 大剣鬼蟻 ( クレイモア・オーガ・アント ) をゼナさんの風魔法が吹き飛ばす。

残念ながら、その向こうの 重装兵鬼蟻 ( ヘビー・ソルジャー・オーガ・アント ) はゼナさんの作り出した暴風をレジストして耐えきった。

「ラカさん!」

『承知』

カリナ嬢の装備した魔法道具をラカが代わりに制御して、彼女の腕の先に螺旋状の光の渦が生まれる。

「カリナァアア、ブレイクッ!」

カリナ嬢が絶叫しながら、光の渦を纏った拳で重装兵鬼蟻を蹂躙する。

その最奥では、耳障りな騒音を出す 魔導鬼蟻 ( マギ・オーガ・アント ) や 弓兵鬼蟻 ( アーチャー・オーガ・アント ) が攻撃姿勢に移っていた。

『カリナ殿!』

「ええ、ラカさん――」

ぐるんと、その場で横に一回転したカリナ嬢が光を纏ったコマのような残像を産み出す。

光を帯びた縦ロールの髪が舞って、なかなか綺麗だ。

「――ブレイクゥウウ、ショォオオオット!」

遠心力の勢いを乗せた渦巻き状の弾丸が重装兵鬼蟻の間を抜け、紫電を纏っていた魔導鬼蟻を打ち砕いた。

「カリナ、あびないよ~?」

「このままだと囲まれちゃうのです!」

リザの両脇に抱えられたタマとポチが、カリナ嬢の援護に行きたそうにジタバタと動く。

「大丈夫ですよ、二人とも」

きょとんと見上げる二人に、敵陣の背後から姿を現した集団へとリザが視線を導く。

「皆様、遅れてしまって申し訳ありません。ゴーレム盾隊、前へ!」

――MVA!

システィーナ王女の指令に応えて、大盾を持ったゴーレム達が蟻との距離を詰める。

王女の後ろには引率として同行していたナナとヒカルの姿があった。

カリナ嬢への包囲網を狭めようとしていた蟻が、新たな敵の出現に隊列を乱れさせた。

『今だ! カリナ殿』

「はい、ラカさん!」

回し蹴りで重装兵鬼蟻の一匹を蹴り飛ばしたカリナ嬢が、八艘跳びの要領でこちらに戻ってくる。

「カリナ様、突撃が早すぎます。堅いラカの守りがあるとはいえ、完璧ではありません。大怪我をして傷痕でも残ったらどうするのですか」

先ほどのカリナ嬢の迂闊な行動をセーラが叱る。

『セーラ殿、主人に代わって謝る』

「ラカ殿はカリナ様のお目付なんですから、よく監督していただかないと――」

「セーラ様、お小言は戦闘後に。殿下が押され気味です」

下級風魔法で蟻を牽制したゼナさんがセーラに意見し、次の魔法の詠唱に入る。

「すみません、ゼナ。カリナ様は怪我はありませんね?」

「ご、ごめんなさい……」

「傷がないのなら構いません。サトゥーさんのお嫁さんになる前に傷が付いたら大変ですからね」

「……お、お嫁さん」

セーラの言葉にカリナ嬢が顔を赤くする。

今のところ、そんな予定はありません。

「むぅ、サトゥー」

オレの横にいたミーアがぐりぐりと頭を擦りつけてくる。

それを見たアリサが同じように頭を擦りつけようとしてきたが、デリケートな位置だったので軽くガードして戦いの行方を見守った。

◇

「どうしたの、サトゥー」

「ああ、ちょっとね――」

中ボス戦が終わったので、マップを確認していたところ、妙な光点の動きを見つけた。

オレはカリナ嬢達の監督を話しかけてきたヒカルに任せ、光点の詳細を確認する。

光点はここに来る前に見つけていたマキワ王国の間者集団だ。

どうやら、イタチ帝国の領域に侵入しようとして失敗したらしい。

オレは空間魔法の「 遠見 ( クレアボヤンス ) 」を発動して、間者集団の様子を窺う。

――げげっ、グロイ。

まさに「死して屍拾う者なし」を地でいっている。

マキワ王国の間者集団とイタチ帝国の防衛部隊の実力が伯仲しているらしく、双方ともに国境に死体を晒している。

今は最後の二人が戦っている最中らしい。

イタチ帝国の黒豹乗りがやや有利なようだ。

黒豹といっても普通の動物ではなく、頭にネジのような魔法装置を取り付けられた 影沈豹 ( シャドウ・リーピング・パンサー ) という魔物で、実に機敏な動きをしている。

殺し合いを楽しむような趣味はないので、「遠見」を閉じた。

スパイ同士の殺し合いに干渉する気はないしね。

◇

「にゅ~?」

「タマ、どうしたのです?」

何度目かの休憩時間に、カリナ嬢にドリンク剤とタオルを渡していたタマとポチがそんな会話を交わしていた。

「ちょ、ちょっとっ、また上級魔族でも出るの?」

アリサのどこか期待に満ちた問いに、タマがふるふると首を横に振って否定する。

「誰かが呼んでる気がする~?」

タマにもよく分かっていないようで、身体ごと首を傾げて頭を悩ませている。

オレも耳を澄ませてみたが「聞き耳」スキルで強化された聴力でも捉えられない。

「なら、行ってみようか。ヒカル、こっちは任せたよ」

「うん、任せて」

オレは後の事をヒカルに丸投げし、タマとポチの二人を連れて巣穴の出口へと転移した。

「何か分かるかい?」

「にゅ~」

オレの肩の上に乗ったタマが腕を組んで眉を寄せる。

さすがに蟻の悲鳴じゃないはず。

しばらく、そのままで待機する。

「こっち~」

不意に耳をピクリと跳ねさせたタマが指さして駆けだした。

いつの間にか普段着から忍者装束に変身している。

忍者らしく、途中から枝から枝へ飛び移っていくので、ポチを担いで天駆でついていく。

最近天駆を覚えたリザと違って、ポチは空歩ができるようになったばかりなので、タマの本気の移動には追いつけないのだ。

「今、何かあったのです」

ポチがそう呟いて、背後を振り返る。

イタチ帝国との境界を通り抜けた時に、感知系の結界を通り抜けた時のような感触があった。

先ほどのマキワ王国の間者集団は、この結界に引っかかって迎撃されたのだろう。

タマを追いかけながら、「全マップ探査」の魔法を使う。

ここは「イタチ帝国、第六教区」という領地らしい。都市が一つに鉱山街が二つ、それらの都市を結ぶ街道に、都市と南北の領境を結ぶ主街道があり、村はそれらの街道沿いに少数しか存在しない。

いくらなんでも、都市部の食料供給を賄うには農村が少なすぎる気がする。

続いて、マップの光点をグループ別に把握していく。

近くの砦から、魔狼の背に乗った集団が出発したようだ。

なかなか初動が早い――さらに 古老鸚哥乗り ( エルダー・パラキート・ライダー ) が偵察の為に発進した。

ストレージから囮用の小型飛行船を取り出して領都の方へ飛ばす。囮と攪乱用なので、気嚢の中はヘリウムではなく水素を充填したタイプだ。

タマが向かう先には、先ほど見つけた街道沿いの宿場村の一つがある。

マップの光点の動きがヘンだ――。

「ご主人様、前から血の臭いがするのです」

ポチの言葉の途中で、オレは転移でタマの目的地に先回りする。

血臭立ちこめる村の中央に、先ほどの黒豹がいる。

乗り手は戦っていたマキワ王国の間者と相打ちになったのか、それらしき人物はマップ内にいない。

オレは素早く変装用の魔法を使い、自分とポチをマキワ王国風の金髪男と虎人族の少女に変身させる。

「ポチ、魔法薬の使用を許可する。怪我人を救え」

「はいなのです!」

オレは空間魔法の「 四肢束縛 ( バインディング・エンタングル ) 」で、爪を赤く濡らした黒豹を空中に縫い止める。

「村長はいるか! 怪我人を村の中央に集めろ!」

オレは「大声」スキルの助けを借りて、イタチ語でそう叫ぶ。

歩きながら治癒魔法を使い、重傷を負っている者を優先的に癒やしていく。

村人には動けないほどの重傷を負っている者が多いが、足を狙った攻撃が多いため死者はいない。黒豹は行動不能にする事を目的とした戦闘訓練を受けていたようだ。

人口の割合的にはイタチ人が三割、トカゲ人族が三割、残りが雑多な獣人らしい。

そんな事を確認しながら、怯える村人に治癒魔法を掛ける。

「ご主人様~?」

猫人の子供を背負ったタマがこっちへやってくる。

子供の服は血で赤黒く汚れており、背中が酷く破れていた。怪我は既にタマの持っていた魔法薬で癒やした後らしい。

「この子が泣いてた」

「そうか、タマは偉いね」

子供を地面に降ろしたタマの頭を撫でてやる。

距離的に聞こえるはずがないのに――そう思ってタマのスキルを確認したところ、ギフト欄に「虫の報せ」というのが増えていた。

後天的に手に入る 先天性スキル ( ギフト ) とは、これいかに……。

まあ、便利そうだからいいか。

「ミュー」

「母ちゃん!」

村人の集団から飛び出した猫人のおばさんが、子供を抱き上げてペコペコと頭を下げて礼の言葉を口にする。

その母親の後ろから、杖をついた老イタチ人が現れて二人を集団の方に戻らせる。

「村の窮地を救ってくれた事を感謝する」

老イタチ人は偉そうというか、猜疑心に満ちた感じの話し方だ。

「砦の者達ではあるまい。貴公らは何者だ」

「御節介な越後の縮緬問屋の隠居だよ」

密入国者扱いなので、正直に答えると問題になるので適当な身分を詐称した。

「チリメン問屋? 聞いた事の無い商品だ……まさかと思うが中央ではなく外国の者か?」

「そうだ――」

オレが頷くと、老イタチ人が苦虫を噛みつぶしたような顔になる。

「この国が鎖国している事は知っているか? 砦の者に見付かったら、子連れでも皆殺しにされる。必要な物があれば言え、なんでもとは言わぬが恩人が必要とする品くらいは用意しよう」

「ならば、この国の事を知りたい」

貧しそうな村から物品を巻き上げるのもなんなので情報を求めた。

「漠然と聞かれても答えられん。ここがイタチ帝国、第六教区の六番一七号宿場村という情報は求めていまい?」

確信めいた老イタチ人の問いに首肯する。

「イタチ帝国の外縁にあるここを含む九つの教区は、皇帝から捨てられた領地だ。神への信仰を無駄と切り捨てる皇帝には、信仰を捨てられぬ我らは無用なのだろう」

彼の言葉を鵜呑みにするわけにはいかないけど、メモ帳のイタチ帝国情報に追記しておこう。

「領地からの移動が禁じられているのか?」

「いや、禁じられてはいない。実質、不可能なだけだ」

「不可能? 魔物の領域はともかく、街道を通れば他領にはいけるだろう?」

「街道が繋がっているのは、ここと同じ『教区』だけだ。捨てられた者同士の交流は黙認されているが、『教区』以外の領地へと続く街道はない。空を飛んで行こうとすれば――」

老イタチ人の言葉の途中に、村の北西から爆発音が響いた。

驚いた村人達がしゃがみこんで音の方を窺う。

恐らく、オレが放った飛行船が爆発したのだろう。

「どうやら、侵入した者がいたらしい。教区の外側と内側の境界には幾つもの小砦がある。砦の帝国軍がネジを仕込んだ飛行魔獣や噴進樹を抱えていてな、空を飛ぶ者をああやって撃ち落とすのだ」

なるほど、この「教区」というのは国の中の国というか、一種の流刑地のような扱いになっているのか。

オレは老イタチ人から、怪しまれずに「教区」の都市へ入るための方法や風習について教えてもらった。

そこに慌てた様子の猫人の男が駆け込んできた。

「長老――砦の帝国軍だ」

「うむ」

レーダーにも、帝国軍の兵士達が向かってくるのが映っている。

「そういう事だ恩人殿。我らが時間を稼ぐ間に逃げるがよかろう」

「時間稼ぎは無用だ。それとオレ達の事は兵士達に話して構わん。黒豹を連れて現れた黒装束の男達が、食料や水を奪って逃げたとでも言っておけ」

オレが片腕を挙げてタマとポチに合図すると、黒豹の所にいた二人が「えいや~」と黒豹を村の入り口の方に投げ飛ばした。

オレが空中でバインド系の魔法を解いてやると、猫科の動物らしく空中で一回転して綺麗に着地し、兵士の方へ向かって駆け出した。

オレの「威圧」スキルではなく、黒豹の前で「ステーキ~?」とか「ハンバーグがいいのです!」とか囁いていたタマとポチの食欲に恐れをなしたに違いない。

村人達の驚く声と、黒豹と交戦を始めた帝国兵を余所に、オレ達は転移で仲間達の待つ蟻の巣へと帰還した。

兵士に怪我人が出るかもしれないが、レベル的に考えて死人は出ないだろう。

◇

「サトゥー! ついにレベル50に達しましたわ!」

オレ達が皆の場所まで戻ると、カリナ嬢がそう叫んで飛び込んできた。

彼女にしては珍しく満面の笑顔だ。

反射的に回避しかけたが、軽く受け止めて地面に降ろす。

結構距離を空けて受け止めたにもかかわらず、柔らかくて素敵な感触がオレの胸に届いていた。

魔乳恐るべし――。

「おめ~」

「おめでとう、なのです!」

レベルアップを祝福する歌を合唱しだした仲間達の騒ぎが一段落したところで、村でのできごとと話を語って聞かせる。

「教区ですか……気になりますね」

「では、時間もある事ですし、一度調査に行ってみましょうか」

こうして、オレとセーラ、それから護衛役の三人で教区の都市へと偵察に行く事になった。

護衛役は平等な「あみだくじ」でリザが選ばれたようだ。

でもその前に、ここの間引き作業をもう少し進めないとね。

※次回は 6/5(日) の予定です。

※2016/6/1 黒豹の乗り手がどうなったか書き忘れていたので少しだけ加筆しておきました。