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15-11.夢幻迷宮(3)

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15-11.夢幻迷宮(3)

※2016/8/7 誤字修正しました。

サトゥーです。ゲームに出てくる迷宮は、基本的にクリアできるように作ってあります。それがどんなに鬼難易度であろうと、開発スタッフの誰か一人はノーミスで最後まで行けるように調整してあるのです。でも、現実の迷宮はそうではないようで……。

◇

「なんだか暑くない?」

「 空調制御 ( エアコン ) の魔法を使ってもいいけど?」

「だめ~?」

「迷宮の異変に気付くのが遅れるからダメなのです」

アリサのボヤキにそんな言葉をかけてみたが、タマとポチの二人から物言いが入った。

迷宮探索ではオレより、仲間達の方が経験を積んでいると判る発言だ。

オレはちょっと誇らしくなりながら「そうだね」と言って二人の頭を撫でた。

「にへへ~?」

「ご主人様に撫でてもらうのは久々なのです」

そうだったかな?

「マスター、私も後で魔力供給をしてほしいと告げます」

「いいとも」

ナナの希望に安請け合いしたら、アリサの目がキラリと光った。

「セクハラ系の依頼は禁止だよ」

「そんにゃ~」

オレに先手を打たれたアリサが、ヨヨヨと泣き崩れた振りをする。

「マスター、開けた場所に出たと報告します」

「円筒形の回廊みたいですね」

「大広間の床に見える赤いものは溶岩でしょうか?」

ナナに続いてルルとリザが報告してくれた。

通路の先は直径100メートルほどの円筒状の大広間になっており、壁面にある幅の狭い回廊にそって螺旋状に下っていく作りになっている。

リザが言っていたように、最下層はゴポゴポと有毒ガスを噴き出す溶岩になっていた。

途中にいくつも横穴があり、そこから迷宮中層の各所に抜けるようだ。

基本的に溶岩に一番近い横穴が、勇者の中継基地――物資集積所に繋がっている。

「あ、落ちた」

アリサの呟きとほぼ同時に、リザの手から鋼鉄の槍が投擲された。

その先では一人の冒険者が足を踏み外して、溶岩に真っ逆さまに転落するところ―― だった ( ・・・ ) 。

ブラブラと揺れる彼は、リザの投げた鋼鉄の槍によって壁に縫い付けられている。

もちろん、貫かれているのは彼の身体ではなく、頑丈そうな耐火マントだった。

仲間達に引き上げられた冒険者が、こちらに向かって大声で礼の言葉を叫んでいた。

横穴に入っていった冒険者達を見送って俺達も回廊を進む。

やがて、目の前で回廊が途切れた場所に出た。

飛び石状の足場が空中に浮かんでおり、アクションゲームのように飛び越える必要があるようだ。

「止まって!」

タマがこんな口調で言うのは、罠を見つけた時だ。

大きく目を開けたタマが、真剣な様子で飛び石状の足場を睨み付ける。

「幻影~?」

その内の一つを指差したタマがいつもの口調で言う。

足場が幻影になっている場所を見つけたようだ。

「そうみたいだね。こっちのは上に乗ると回転して下に落とされるみたいだ」

そのすぐ隣には別の種類の罠まである。

どうやら、ここの 迷宮の主 ( ダンジョン・マスター ) は意地が悪いようだ。

◇

「中継基地までどれくらいなの?」

アリサの問いに答えるためにマップを開く。

――これは?!

「ちょっと急ぐぞ! 全員転移に備えろ!」

「承知!」

リザの返事から、ほんの一呼吸待ってから転移を実行する。

斜面に溶岩が流れる通路に、明らかに色の違う赤が混ざっていた。

「あっち~?」

タマが指差すよりも早く、剣戟の音がする方へ縮地で移動する。

「くそう、くそくそっ、どうしてミスリルの剣が効かないんだ!」

「ケケケケッ、卑賤な 血の従僕 ( ブラッド・ストーカー ) どもならともかく、闇の眷属たる真の吸血鬼様にそのような攻撃が通じるとでも――」

寝ぼけた発言をする吸血鬼を、ミスリルの妖精剣で両断する。

灰になってもすぐ復活する厄介な種族だが、それ故に遠慮無く攻撃できる。

足下に落ちた 戦利品 ( ドロップアイテム ) の血玉や魔核を無視して、男の治療を優先させる。

「おい、生きているな? 今魔法薬を飲ませる」

「やめろ、もう無駄だ。俺はさっきの吸血鬼に血を吸われた。もう直に自我を失って血を求めるようになる」

男が息も絶え絶えに言葉を紡ぐ。

彼の横にAR表示される情報が、その発言が事実だと告げている。

「―― 宝物庫 ( アイテムボックス ) 、開け」

彼の横に黒い正方形が生まれた。

「勇者様に届ける物資が入っている……取り出せる限り取り出して、勇者様に届けてくれ……」

彼の言葉を聞きながら、オレは 手を動かす ( ・・・・・ ) 。

彼――いや、彼らは勇者の中継基地に物資を運ぶ輸送部隊らしい。

サガ帝国の者だけでなく、デジマ島出身の探索者達も いた ( ・・ ) ようだ。

「輸送部隊の他のヤツラは皆死んだ。オレも死んだら、 宝物庫 ( アイテムボックス ) は中身ごと亜空間に消える。俺が闇の力に抵抗している間に、早く――」

「 大丈夫だ ( ・・・・ ) 、 任せろ ( ・・・ ) 」

オレが力強く請け負うと、男は歯を食いしばって苦痛に耐える。

やがて、全ての瘴気を払い、状態異常回復系の最上位魔法を使うと、男の状態が正常な人族のソレに戻った。

魔王の呪いさえ解いたオレに、真祖でもないただの吸血鬼の感染くらい防げないはずがないのだ。

治療の終わった輸送隊員はそのまま昏倒してしまった。

恐らく吸血鬼に吸われて、血を失いすぎたようだ。

目を覚ましたら増血剤を飲ませよう。

「うわっ、血みどろね……」

「ああ、吸血鬼が出たみたいだ」

追いついてきた仲間達が惨状に眉を顰める。

「タマとポチは足下の灰を集めて、このツボに入れておいてくれ」

「あい、ちりとり~?」

「ポチのホウキの妙技を見せつけるのです!」

二人がしゃかしゃかと吸血鬼だった灰をツボに集める。

灰の中にあった魔核は、吸血鬼の復活に必要なので、他の魔核とは別にしておく。

この吸血鬼の処分は、迷宮下層の「吸血鬼の真祖」バンに任せようと思う。

彼ならば、吸血鬼向けの適切な罰を与えてくれるに違いない。

オレは優先度の高い次の作業に取りかかる。

「サトゥー?」

「見ててご覧」

首を傾げるミーアにそう告げて、空間の向こう側に意識を集中する。

オレはわずかな空間の揺らぎに向けて貫き手を放つ。

――手応えアリ。

そのままグイッと広げると、中から先ほどと同じような物資が転がり落ちてきた。

「ちょ、ちょっとまさか」

驚くアリサに首肯する。

死亡によって使用者から切り離された 宝物庫 ( アイテムボックス ) を、外部から干渉して中身を取り出したのだ。

「……まったく、あいかわらず非常識ね」

アリサが呆れきったような顔でため息をついた。

「アリサにもできるだろ?」

「上級の魔力回復薬を何本も用意して、空間測位用の助手に中級空間魔法使いを一人用意できたら可能かもね」

――できるんじゃないか。

オレの場合は、ちょっと準備がいらないだけだよね。

◇

さて、次に向かうのは中継基地なんだが……。

「――全滅ですか?」

リザの言葉に首肯する。

「ああ、強めの魔物に奇襲されて壊滅している」

順番的には中継基地が全滅しているのをマップで見て、周辺に生存者がいないか探した結果、先ほどの生存者を見つけたのだ。

中継基地のあった場所には、「擬態」の種族固有能力を持つ 擬態火蜥蜴 ( ミミック・サラマンダー ) と「光学迷彩」という種族固有能力を持つイリュージョニー・ゴーレムの二体が潜んでいた。

どちらもレベル50もあり、敵がいないときは姿を隠しているようだ。

さらに酷い事に、中継基地の上の階にはレベル60の溶岩ゴーレムが控えている。

天井の壁が薄い事から、下で勇者と二体の魔物が戦っている所に、降ってくるつもりなのだろう。

「さて、どうするかな――」

弔い合戦は勇者に譲りたいところだけど、魔王との戦いで心身共に消耗した勇者が強めの魔物三体と連戦するのは大変だろう。

勇者本人が後れを取るとは思わないけど、彼の従者や同行者達まで犠牲無しとはいかないはずだ。

オレは唯一救助できた男性を、夢幻迷宮を写し取った「異界」へと退避させ、壊滅した中継基地へと向かった。

「あそこと、そっちに魔物~?」

「まだ、待っててね」

「あい」

タマがさくっと始末に向かおうとしていたが、レベル50以上の魔物は格下でも 体力 ( HP ) が多すぎるので、単独行動は控えさせた。

タマ一人でも勝てるとは思うけど、戦闘に時間がかかるので中継基地跡が荒らされてしまうんだよね。

「まずは、戦いやすい場所に連れ込もう」

オレは本日2回目の「 異界 ( アナザーワールド ) 」を発動して、戦闘用の亜空間を作り出す。

「なんだか、特撮に出てくる不思議な魔空間みたいね?」

色々な物が混ざったアリサの発言を咎める者もなく、オレ達は三体の魔物を異界で作った亜空間に引き込んだ。

――BUWARETWEEEERYWA。

――MVA。

巨岩に擬態していた 擬態火蜥蜴 ( ミミック・サラマンダー ) と透明になっていたイリュージョニー・ゴーレムが姿を現す。

「上のも一緒に呼ぼうか」

後から参戦されると面倒なので、天井を 短気絶 ( ショート・スタン ) の魔法で破壊する。

――MUWAGUUUUEMVA。

聞き取りづらい咆哮を上げながら、天井の破片と一緒にレベル60の溶岩ゴーレムが降ってきた。

火の粉を散らしながらなので、なかなか派手だ。

「ご主人様、ご命令を」

静かな闘志を秘めたリザが問い掛けてきた。

他の子達もオレの返事を待っている。

「倒せ――全力を許可する」

「承知」

ここは「異界」で作った亜空間の中心なので、仲間達が全力攻撃をしても大丈夫だ。たぶん。

「ミーア、適切な疑似精霊を」

「ん、 水龍 ( リバイアサン ) ■■――」

リザの指示にミーアが呼び出す精霊名を告げてから詠唱を始める。

「ナナ、中央の敵を任せます。他の前衛が合流するまで引きつけてください」

「リザの指示に同意と告げます。 装備装着 ( イクイップメント ) 」

ナナが呟くと、チョーカーに付いた 知性ある魔法装置 ( ラカ・クローン ) が、彼女の背後に空間魔法「 格納庫 ( ガレージ ) 」による亜空間の出口を開く。

その中から伸びた透明な「 理力の手 ( マジック・ハンド ) 」がナナの装備をはぎ取り、新しく黄金鎧を装着していく。

色々なメディアで見かけた変身シーンだが、フィクションのモノに比べると変身に時間がかかりすぎている。

1ミリ秒とは言わないから、せめて1秒は切ってほしいところだ。

黄金鎧を装着したナナが『キャッスル』モードを起動し、大盾を構えた防御態勢で待機する。

ナナの装備変更を見た仲間達が、同様に装備を着替え始める。

当然、敵は迫ってきているが、アリサの使った空間魔法の「 迷路 ( ラビリンス ) 」に捕まって、攻めきれないでいた。

「ルルは射撃準備で待機。アリサは適宜補助と後衛の指揮をお願いします」

「はい、わかりました」

「おっけー、任せて」

ルルとアリサの後ろで、タマとポチがうずうずした顔でリザの指示を待っている。

きっと、この子達に指示をしたら、その時点で飛び出すから、最後にしたのだろう。

「ポチ、右の敵を蹂躙なさい。タマはポチの補助です」

「らじゃ、なのです」

「あいあいさ~?」

出番が来たとばかりに、シュタッのポーズで二人がリザの指令を受託する。

「身体強化」

「魔力循環と思考加速もなのです!」

タマとポチが自前の補助系スキルを発動している。

アリサとナナがバフ系のスキルを前衛陣に掛けてやっていた。

「ばっちし~?」

「ご主人様の強化魔法も欲しいのです」

「いいよ、『 神威光刃 ( デバイン・ブレード ) 』と『 神威光盾 ( デバイン・シールド ) 』」

ポチの可愛らしいお願いに負けて、ヒカルに教えてもらった上級術理魔法をかけてやる。

名前だけなら光系の魔法なので、非常に紛らわしい。

「ちからみなぎる~?」

「これで準備万端なのです」

「それじゃ、 迷路 ( ラビリンス ) の足止めを解除するわよ」

「あい」

「はいなのです」

アリサの言葉に、仲間達が力強く肯定の返事を返す。

「ラカさん、わたくし達も行きますわよ!」

『うむ、全力で支援しよう』

リザ達と一緒に飛び出そうとしたカリナ嬢の襟首を掴んで止める。

「ダメですよ、カリナ様。こちらで一緒に観戦しましょう」

カリナ嬢だと全力のリザ達の近くは危険だ。

ラカの守りなら大丈夫だとは思うが、万が一リザの竜槍やポチの聖剣が命中したら無事で済む保証はない。

「わ、わたくしも一緒に戦いたいですわ!」

「大丈夫ですよ」

新必殺技名を心に刷り込まれるくらい連戦してもらおうと思う。

その前に、新必殺技名を考えないといけないけどね。

「あとでたっぷりと戦わせてあげますから」

オレがにっこり笑ってそうつげると、何故かカリナ嬢は顔を青くして震え上がった。

もしかしたら、前の「魔力操作」スキル学習の時に、 ほんの少し ( ・・・・・ ) 頑張らせすぎたせいかもしれない。

◇

「 迷路 ( ラビリンス ) 、解除」

「迷子はいねぇが~、と威圧します」

「とー、なのです!」

アリサが術を解くのと同時に、ナナが謎挑発ワードを口にし、ポチが聖剣を抜きながら瞬動で飛び出した。

イリュージョニー・ゴーレムがポチを迎撃しようと拳を振り下ろす。

「影縛り~?」

タマがイリュージョニー・ゴーレムの影にクナイを投擲して、忍術でその動きを止めた。

「蒼牙弧月斬、なのです」

ポチの聖剣が弧を描き、イリュージョニー・ゴーレムを下から上に斬り上げる。

――ダンッ。

剣がゴーレムに触れると同時にポチが地を蹴り、ゴーレムを真っ二つにしそうな勢いで飛び上がった。

聖剣の曳く青い光は、ゴーレムの身体を鋭利に切り裂いていく。

――ダダンッ。

二段ジャンプがポチを一〇メートルの高さまで跳躍させ、聖剣はゴーレムの肩口から抜けた。

ゴーレムの膨大なHPが4割近く削れている。

「ぽち、ないす~?」

「まだっ、なのです!」

ポチが膝を抱えて小さく くるん ( ・・・ ) と回転する。

「蒼牙穿孔撃」

――ズドンッ。

空中の足場を蹴り、ポチが一条の砲弾となってゴーレムを貫いた。

さらにゴーレムの体力が削れ、残り三割弱となった。

勢い余って、ポチの上半身が地面に埋まってしまったのは見なかった事にしよう。

ゴーレムの破片や土埃が凄い勢いで周囲に飛び散り、ルルの陰に隠れたアリサとミーアが文句を言っている。

もっとも、轟音に紛れてしまい、オレの聞き耳スキルでも拾えなかった。

動きの止まったポチに、お返しをしようとゴーレムが豪腕を振り上げる。

さきほどのポチの攻撃で、影縛りが解けてしまったようだ。

「なんくるないさ~?」

いつの間にか分身していたタマがゴーレムを囲み、魔剣を赤く輝かせる。

「紅牙百烈斬、にゃん」

百を超える斬撃が容赦なくゴーレムを襲う。

赤い光跡が一つ閃くたびに、ゴーレムの体力が僅かに削れる。

ポチの攻撃力に比べたら非力だが、ゴーレムの防御をかいくぐった斬撃の豪雨がゴーレムの腕を砕き、腹を抉り、膝を穿っていく。

――MVAMMMMVVVVAAA。

ポチと相対したときよりも恐怖を感じる声が響き、最後には崩れて瓦礫の山となって果てた。

「二人とも良くやりましたね。次は同格の敵です。気合いを入れなさい」

戦いを終えた二人を、リザがラストバトルへと誘う。

リザが担当していた 擬態火蜥蜴 ( ミミック・サラマンダー ) は、ポチの一撃目の途中でリザの竜槍による一六連突きでサックリと倒されていた。

せめて、必殺技くらい使ってやってほしい。

そんな事を考えながら、仲間達の無双を見守り、オレ達は元の迷宮へと戻った。

勇者ハヤトが中継地点に着きそうだからね。

※吸血鬼が増殖する設定が変更になりました。16-50の設定に合わせて近日中に変更します。

※次回からしばらくは新刊発売記念更新となります。

【予定表】 ※タイトルは仮のものです

8/7 (日) 15-12.迷宮の勇者

8/9 (火) 15-13.迷宮の勇者(2)

8/10 (水) 15-14.勇者vs魔王※勇者視点です

(8/9~10はお昼12時更新となりますので、ご注意下さい)

※新刊公式発売日まで、あと3日!

早売りのお店や専門店だともう出まわっているようです。

※活動報告に本作「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」書籍版八巻と漫画版三巻の書影と紹介文をアップしてあるので、宜しかったらご覧下さい。

※書籍版の感想や誤字報告は、活動報告の「デスマ8巻の感想(ネタバレok)」にお願い致します。