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15-12.迷宮の勇者

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

15-12.迷宮の勇者

※2016/11/14 誤字修正しました。

サトゥーです。ゲームでは同じリズムで敵を出してプレーヤーを慣れさせ、慣れたタイミングでリズム外の敵を出して意表を突くという手法があります。超有名ゲームのゾンビハザードなんかが効果的に使っていますね。

◇

「それじゃ、先に行ってくるよ」

「うん、ハヤトによろしくね」

オレはカリナ嬢だけを連れて「異界」から迷宮へと戻る。

アリサ達は可憐装備にドレスアップしなおしてから合流予定だ。

軽い湯浴みセットと軽食を並べたテーブルを出しておいたので、適当に休憩してからになるだろう。

「おっと、敵だ」

オレ達がいない間に、中継基地に偽装したドッペルゲンガーが大量に配備されていた。

ご丁寧な事に、「大怪我を負って倒れる仲間」というシチュエーションで、勇者達を無防備に近寄らせようというのだろう。

「て、敵ですの? ラカさん――」

『――カリナ殿、油断せず周囲に気を配るのだ。残念ながら、我が索敵機能に敵影はない。だが、サトゥー殿がいるというのなら、必ず敵はいる』

動揺するカリナ嬢に、ラカが助言している。

勇者が遭遇しても面倒なので、「誘導矢」で纏めて処分しておく。

目と鼻の先で死体のフリをしていたドッペルゲンガー達が、誘導矢を浴びてドロリとした乳白色の液体に変わって消えた。

「――きゃっ」

驚いたカリナ嬢が、短く悲鳴を上げて腕に抱きついてくる。

前にも一度見ているはずだが、服ごと人が溶けるのが気持ち悪いのだろう。

「大丈夫ですよ、カリナ様。今ので敵はいなくなりました」

ホッとした顔のカリナ嬢が、今度はオレに抱きついていたという事実に目をぐるぐるさせる。

アリサとミーアの鉄壁ペアがいないので、オレはその状況をしばし愛でる事にした。

◇

「勇者様! 中継基地が大被害を受けております」

「生存者を探せ! 魔物が潜んでいるかもしれん、魔探器を持った者を必ず同行させろ!」

中継基地のある広場の向こう側、ここからは見通しの利かない場所から勇者の声が聞こえた。

オレはカリナ嬢の手を引いて岩場を昇り、勇者達の入ってきた方へと向かう。

広間の中央部は、乱立する石柱状の岩や燃えた物資の残骸が、黒々とした影を作り出していて視界が悪い。

「勇者様! 崖の上に人がいます」

「あれは、サトゥー?」

黒い鎧を着たサガ帝国の騎士がこちらを指差して叫び、その横にいた銀色の鎧を着た女性が訝しげにオレの名前を呟いた。

銀色のストレートヘアの彼女は、勇者の従者である「天覇の魔女」リーングランデ嬢。オレの孤島宮殿にいる「神託の巫女」セーラの姉で、ちょっとシスコン気味の公爵令嬢だ。

オレは彼女に手を振って、崖の下に飛び降りた。

カリナ嬢も翻るスカートを手で押さえて一緒に降りてくる。

「どうして、サトゥーがこんなところに……」

リーングランデ嬢の瞳には警戒心が浮かんでおり、その利き手は愛剣の柄に添えられている。

オレが普通に会話できる所まで辿り着いたところで、時節の挨拶でもしようと口を開く。

「こんにちはリーングランデ様、このたびは――」

「勇者様、こちらです!」

お悔やみの言葉の途中で、黒騎士と共に勇者ハヤト・マサキが姿を現した。

「サトゥー――」

男臭いハンサム顔が、長期間の迷宮探索と魔王との連戦でくたびれ果てている。

青い鎧も凹みや汚れで、前に見たときのような「勇者」然とした煌びやかさが失われていた。

「ほ、本物の勇者ハヤト様ですわ」

『カリナ殿、喜ぶのは構わんが油断は禁物だ』

幼い頃から、勇者研究家であるムーノ伯爵から薫陶を受けていたせいか、カリナ嬢は勇者に対してミーハーな反応を見せる。

そんな姿を微笑ましく思いながら、オレは視線を勇者ハヤトに戻す。

「ハヤト様、ごぶさたしております」

笑顔でそう告げる途中で、勇者と目が合った。

なんだか、デスマーチ中の開発者を思わせる昏い瞳だ。

世の中の全てを恨み、苦行から解放されて安穏とした眠りを欲する瞳には見覚えがありすぎる。

もっと早く彼の支援に訪れてやればよかった。

オレは心の中で、勇者を放置していた事を反省する。

「――今度はお前か」

彼に似合わない昏い嗤いが気になる。

「ハヤト様、どうかされましたか?」

「受けてみろ、サトゥー!」

勇者がその場で聖剣アロンダイトを振り抜いた。

「 閃光延烈斬 《 シャイニング・ブレード 》 」

久々に見る勇者の技は、以前にもまして速くなっている。

刃の延長線上に現れた青い光の斬撃を、ひょいっと横に飛び退いて避ける。

「きゃー、ですわ」

『ぐぬぬ、さすがは勇者の技』

余波を受けたらしきカリナ嬢とラカから悲鳴があがる。

微妙にカリナ嬢は嬉しそうだ。

理解しがたいが、勇者ファンとしては技をその身に受けるのも、嬉しい事の範疇に入るのだろうか?

それにしても、思ったよりも集束が甘い。

以前見た彼の技なら、カリナ嬢には余波が行かなかったはず。

「 閃光螺旋突き ( シャイニング・ストラッシュ ) 」

瞬動の補助を得た勇者ハヤトが眼前に迫ってきた。

彼の手にある聖剣アロンダイトが、鮮烈な青い光を放っている。

「おっと、危ない」

さすがに心臓などの急所は狙っていないが、肺や肩を貫くような太刀筋だったので思わず避けてしまった。

「ふん、俺様の一撃を避けるかっ、このニセモノめ!」

「本物ですよ?」

「ニセモノが自分からそういう訳がないだろう」

――それもそうだ。

たぶん、ここに戻ってくるまでの間に、ドッペルゲンガー達の攻撃を何度も受けたのだろう。

オレはしばらく、勇者のストレス解消に付き合い、彼の息が切れ始めたところで、彼をふわりと投げ飛ばした。

空中で姿勢を立て直した勇者が地面に降り立つ。

「鑑定してもらえば、本物かすぐ判りますよ?」

「それしか無いか……」

彼がなぜ最初から鑑定しないのかは気になったが、潔白はそれで証明できる。

「リーン、いつでも斬れるように待機しててくれ」

「え、ええ」

リーングランデ嬢や他の黒騎士達が抜刀した状態でオレ達を囲み、その後ろからは黒騎士に支えられた勇者の従者達が姿を現した。

サガ帝国の第21皇女で豪奢な金髪の爆乳美女、「魔女」メリーエスト・サガ、そして、ゆるふわタイプの巨乳美女のパリオン神官のロレイヤ嬢の二人だ。

もう一人いる従者の斥候セイナは、重傷状態で後方に待機している。

セイナの周りにはサガ帝国の黒騎士達やイタチ王弟から派遣された赤い鎧の騎士達が護衛しているようだ。

デジマ島で募集したらしき斥候系冒険者達は、広場内や周辺通路の探索を続けている。

イタチ帝国が派遣したという技術者らしき姿はない。

たぶん、初回以外は赤騎士達に任せて、迷宮には来ていないのだろう。

「――間違いない、彼はサトゥー・ペンドラゴン子爵本人だ」

勇者がそう宣言したのは、彼がオレを見つめ始めてから30秒近くも経過してからだ。

「すまん、サトゥー」

土下座して謝ろうとする勇者を止めて、鑑定せずにいきなり攻撃した理由をきいてみた。

「ここに戻るまでに、ルスス達に化けたドッペルゲンガーが襲ってきたんだ」

「そいつらを排除したら、今度は中継基地の隊員の遺体が通路に転がっていて、調べたら 指向性対人地雷 ( くれいもあ ) が爆発して、セイナ達が大怪我したの」

「それからも、何度かドッペルゲンガー達が知り合いに化けて、しつこくやってきた」

なるほど、オレ達と勇者がつぶし合うように、勇者の疑心暗鬼を育てていたのか……。

「それにドッペルゲンガーの正体を見抜くには最低でも10秒は鑑定しないと無理だ。軽く一瞥しただけだと、欺瞞情報の方を先に拾っちまうんだ」

なるほど、そんな罠があったのか。

AR表示だと最初から、「人族」「ドッペルゲンガー」って二つ表示されるから悩まされなかったが、それなら理解できる。

でも、それなら、10秒鑑定すれば良かったんじゃないのか?

その疑問は続く勇者の言葉で理解できた。

「それにここにいるはずのないヤツが女連れで、しかも杖も剣も持たずに現れたら怪し過ぎるだろう」

腰に下げていた妖精剣が吸血鬼の体液で汚れたので、ストレージに収納していたのを忘れていた。

普通の魔物を排除するだけなら、魔法や魔刃で十分なんだよね。

「すみません」

オレは勇者に素直に謝る。

「ここには仲間達と一緒に来たので、戦闘は彼女達に任せっきりだったものですから」

ついでにカリナ嬢にラカの守りや岩をも砕く剛拳を披露してもらった。

「二人とも、レベル50か。頑張ったんだな」

勇者ハヤトの言葉に、オレは少し後ろめたかったが、カリナ嬢は真っ赤な顔で恐縮していた。

◇

「ご主人様~?」

「こっちからご主人様の匂いがするのです」

タマとポチの声が聞こえたので、オレは大声で呼ぶ。

崖の上から降ってくる仲間達を「 理力の手 ( マジック・ハンド ) 」の助けを借りて受け止めていく。

前衛陣は普通に自分で着地していた。

「マイハニー!」

「ハヤト様、はしたない姿を見られちゃいましたわね」

勇者の嬉しそうな笑顔を、アリサがよそ行きのお淑やか口調と仕草で対応する。

タマやポチが、アリサの額に手を当てて「ねつ~?」「大変なのです」と慌てていた。

そんな二人は場の空気を読んだリザが回収してくれている。

「こんな場所まで、子供が?」

「きっと使い捨ての奴隷だろう」

そんな会話が黒騎士達の間から漏れ聞こえた。

「――サトゥー」

勇者が何気なく、リザやタマを一瞥して、目を見開く。

「まさか、お前……魔人薬を使ったのか?」

「いいえ?」

突然どうしたんだろう?

それより、顔が近い。

「なら、どうして、この娘達はレベル62もあるんだ」

勇者がズバンッと音がしそうな勢いで腕を振って、熱い口調で問う。

アリサがいつも付けている「盗神の装具」はリザが付けているようだ。

もっとも、この状況でポチやリザの称号が見えたとしても、彼の反応はそう変わらなかった気がする。

「修業した~?」

「すごくすごく頑張ったのです!」

「ご主人様の素晴らしい装備と支援のお陰です」

獣娘達がオレに代わって答えてくれた。

「セリビーラの迷宮で魔物が枯渇しそうな勢いで連戦したり、魔物の領域を殲滅したりしていただけですよ」

サガ帝国の黒騎士達やイタチ帝国の赤騎士達がいるので、碧領の事は伏せておいた。

しばし、考え込んでいた勇者が、真剣な眼差しでオレを見つめる。

「サトゥー、頼みがある」

「はい、私で叶えられる事ならば――」

こうして、オレ達チーム「ペンドラゴン」は勇者ハヤト一行と共に、魔王攻略の任務に就く事になった。

もちろん、オレは裏方に徹する予定だけどね。

【新刊発売記念更新の予定表】

8/9 (火) 15-13.迷宮の勇者(2)

8/10 (水) 15-14.勇者vs魔王※勇者視点です

※新刊公式発売日まで、あと3日!

早売りのお店や専門店ではもう発売されていそうです。

(電子版は公式発売日までお待ち下さい)

※新刊の詳細や見所は、活動報告「デスマ8巻の見所&帯付き表紙公開」をご覧下さい。

※書籍版の感想や誤字報告は、活動報告の「デスマ8巻の感想(ネタバレok)」にお願い致します。