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15-幕間3.ムーノ伯爵領にて(2)

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15-幕間3.ムーノ伯爵領にて(2)

※2017/4/8 誤字修正しました。

「見えてきた?」

「はい、サトゥー様」

オレはムーノ城への到着間際と報告を受けて、孤島宮殿から飛空艇へと移動した。

この飛空艇は観光省のモノではなくオレの私有飛空艇で、おんぼろな見た目に偽装してある。

最大移動速度も遅めで、原付程度の速さしか出ない。

操縦するブラウニー達には「光船や最新型にはない味があっていい」という評価を貰っている。

「ここに戻ってくるのも久々ね」

「ん」

オレに続いて孤島宮殿から出てきたアリサの言葉に、ミーアがこくりと頷く。

「伯爵様達は お土産 ( ・・・ ) を喜んで下さるでしょうか?」

「だいじょび~?」

「そうなのです! お肉を嫌がる人なんていな――あんまりいないのです!」

心配そうなルルに、大丈夫だとタマとポチが請け負った。

ポチが最後言い換えたのは、ミーアが視界に入ったからだろう。

「向こうに着いたら、早速 解体しましょう ( ・・・・・・・ ) 」

「はい、リザさん」

リザの提案に、ルルが良い笑顔で答える。

マジメな顔のリザだが、尻尾がリズミカルに揺れているので、解体後の肉料理を楽しみにしているに違いない。

「ここがカリナ様の故郷なのですね」

「あれは果樹園かしら?」

ゼナさんが周囲を見渡し、セーラが遠方の果樹園を眺めながら問う。

「ええ、エムリン子爵の協力で開設したルルの実の果樹園です」

「エムリン子爵の――」

オレの返事を聞いたセーラが何やら思案顔になる。

なぜか、小声で「娘を送り込む為にそんな手を……」なんて呟いているのを、聞き耳スキルが拾ってきた。

エムリン子爵の次女であるリナ嬢は、ムーノ伯爵の長女であるソルナ嬢の侍女としてムーノ領へとやってきて、現在はオレが太守を務めるブライトン市で太守代理をしてくれているお嬢さんだ。

オレの代わりに太守代理をしてもらったのは、なんとなくの成り行きだったので、彼女の父親であるエムリン子爵にそんな目論見があったとは思えない。

たぶん、セーラの思い過ごしだろう。

「ルルの実と言えば、あの高級果実の事ですわよね?」

「ええ、そうです」

「オーユゴック公爵領以外にも、ルルの実の果樹園があるなんて初めて知りましたわ」

「収穫できるまで、まだ二年くらいはかかりますから」

王女が頬に手を当てながら首を傾げる。

彼女はルルのケーキが好きだったから、産地の話も色々と知っていたのだろう。

「マスター、ブラウニーから伝言だと告げます」

「降下するから客室に戻ってほしいそうですわ」

報告内容をカリナ嬢に取られたナナが、無表情のまま残念そうな雰囲気を帯びる。

ここにいてもオレが「理力の手」で押さえるから大丈夫なのだが、せっかくなので機内へと戻った。

「サトゥーさん、観測班のブラウニーさんから、移動中に馬車の隊列を見掛けたとの事です」

朗らかな顔で報告してくれたゼナさんに礼を告げ、オレはマップを開く。

どうやら、馬車の隊列はカリナ嬢の弟で伯爵長男のオリオン君のもののようだ。

そろそろ公都の学園を卒業する頃のはずだから、一時帰郷ではなく次期領主の修業を始めるために戻ってきたのだろう。

なお、マップに映る馬車は10台以上あり、どの馬車にもオーユゴック公爵領などの貴族子弟が乗っているようだった。

――オリオン君にも、帰郷に付き合ってくれる友達がいたんだな。

そんな失礼な感想が脳裏を過ぎったが、オレは軽く頭を振って自分の先入観を振り払った。

◇

「伯爵~?」

「こっちに手を振っているのです!」

城の窓から手を振るムーノ伯爵を見つけたタマとポチが、そちらを指差しながらオレを見上げた。

オレが「よく見つけたね」と褒めるつもりで首肯したところ、それを勘違いした二人が甲板に飛び出し、ぴょーんと音がしそうな勢いで城の窓へと飛び移った。

タマはシュタッとポチはビターンという効果音の違いはあったが、特に怪我をする事なくムーノ伯爵のいる窓へと辿り着く。

「わ、わたくしも!」

「カリナ様はダメです」

甲板へ走り出そうとしたカリナ嬢の襟首を掴んで引き留めた。

まったく、妙齢の貴族令嬢だという意識が低すぎる。

「おお、ポチ君もタマ君も、元気そうで何よりだ」

「にへへ~? たらま~」

「ただいまなのです」

そんなムーノ伯爵とポチ達の会話が聞こえてくる。

「おかえり、飛空艇から吊り下げている ヒュドラ ( ・・・・ ) はどうしたんだい?」

ムーノ伯爵がお土産の 肉 ( ・ ) を見てポチ達に問い掛ける。

「お土産~?」

「そうなのです。一番美味しい三つ首のヒュドラなのです」

ポチが言うように、全体的に美味いヒュドラの中でも三つ首のが一番美味しい。

二つ首だと妙な血なまぐささがあるし、四つ首以上だと肉が硬くて調理方法が限定されてしまうのだ。

もっとも、リザに言わせると、五つ首の肉くらい硬くないと食べ応えがないそうだが、それはあまり一般的ではないだろう。

「サトゥー様、ヒュドラは一旦あちらに降ろしますね」

「ああ、よろしく」

オレは余計な口出しはせずに、その辺りの事を操縦士のブラウニーに任せる。

やがて、ヒュドラを裏庭に降ろした飛空艇が、ムーノ城の中庭へと着陸した。

「おかえり、サトゥー君、カリナ」

「ただいま戻りました、ムーノ伯爵」

「お父様、お姉様、ただいまー!」

「あらあらカリナったら」

わざわざ中庭まで出迎えてくれたムーノ伯爵に、貴族の礼を取る。

カリナ嬢は家族の気安さで駆けよって、姉と父親をセットで抱き締めていた。

オレ達に続いて降りてきた仲間達や王女達が簡単に挨拶したあと、場所をムーノ伯爵の私室へ移す事になった。

リザとルルはヒュドラの解体をする為に、裏庭へと向かう。

その道すがら――。

「あれがペンドラゴンか――簒奪を目論む獅子身中の虫め」

――なんて見当違いの呟きをする青年がいた。

彼はムーノ市民ではなく、オーユゴック公爵領の北端にあるダレガン市の住民のようだ。

なぜ、他領の平民が就職したわけでもないのに、ムーノ城内にいるのかは気になったが、城内の衛兵達も迷惑そうな顔で彼を見るだけで誰何したりする様子もないので、迷い込んだ不審者という訳でもないらしい。

聞き耳スキルがないと聞こえないような声量だったし、特に役職もない平民の子だったのでスルーしておく事にした。

変な噂を流されても面倒なので、名前だけはメモしておく。

◇

「名誉士爵への授爵の儀式ですか?」

「うむ、ハウト君の礼儀作法も及第点が取れるようになったからね。そろそろ名誉士爵に任じて、ソルナを娶ってもらおうと思ってね」

私室に到着して最初の話題は、元偽勇者で現ムーノ伯爵領従士のハウトの事だった。

もちろん、この前に王女と初対面したソルナ嬢が、目を見開いて驚いたり、城内の使用人が王女とセーラを物陰から見物に来たりと色々あったが、それは割愛する。

「伯爵、ついでにゾトルのヤツも名誉士爵に任じちまいな」

「受けてくれるかな?」

ニナ女史の言葉に、ムーノ伯爵が不安そうに返す。

「そろそろあいつの贖罪期間も終わりでいいさ」

彼女の言う「贖罪」というのは、下級魔族の化けた執政官を嫌って当時の領軍を飛び出し、義賊として活動していた事を指すのだろうか?

別段贖わなければならないほどの罪だとは思えないが、こっちの価値観はイマイチよく分からないモノもあるので、そういうものかと受け入れる。

「式はいつごろ挙げられるのですか?」

こちらの世界の結婚式に参加するのは、公都でオーユゴック公爵の嫡孫でセーラの兄にあたるティスラード氏の披露宴以来だ。

「式、ですか?」

ソルナ嬢が不思議そうに首を傾げる。

――あれ?

もしかして、家族だけでひっそりとやるのかな?

「嫡子以外の披露宴をやるなんてのは王都の門閥貴族くらいさ。各地の貴族を招いたって、次期領主たる嫡子以外の披露宴にわざわざ足なんて運ばないさ」

ニナ女史が呆れたように言う。

そういえば、こっちの世界の旅は危険なんだっけ。

迎える方も送り出す方も、軍で街道の大掃除が必要だから、経費が凄い事になりそうだ。

しかも、こっちは一夫多妻制で子供も多いから、いちいち他領の貴族を招いてまで結婚式なんて開かないのだろう。

「でも、なにもしないのは寂しいわよ?」

「そうだね。領民への告知も兼ねて、ちょっとした祭りみたいなのはしてもいいかもね」

アリサの訴えに、ニナ女史が顎をしごきながら言う。

「丁度食べきれないほどのヒュドラ肉もありますし、ソルナ様の結婚式の宴に使ってはいかがでしょう?」

「いいのかい? あれだけの肉なら一財産だぜ?」

「元々、お土産ですから」

それに、ヒュドラ肉の干し肉や燻製は硬くなりすぎるので、あんまり保存食に向いてないんだよね。

もともと、ヒュドラを狩ってきたのは肉祭りのついでに、ムーノ領軍の防具を強化してやりたいっていうのが主だし。

「それなら、オリオンが半月もしないうちに帰ってくるから、そうしたら二人の結婚の宴を開こう」

「けっこん~?」

「ソルナが花嫁さんなのです!」

興奮したムーノ伯爵に釣られて、彼の横で黙って焼き菓子を貪っていたタマとポチが嬉しそうにポーズを作る。

聞いていないようでいて、ちゃんと話を聞いていたようだ。

「うふふ、お父様、気が早いですわ」

「まったくだ。花嫁衣装だって、あと半月じゃできあがらないよ」

「装飾品の準備も必要ですから」

ソルナ嬢が満更でもなさそうにムーノ伯爵を窘め、ニナ女史とお下げ文官のユユリナがその理由を告げる。

装飾品に使う宝石類は、廃坑都市のコボルト達が貢いでくれた品を残してあるそうだ。

◇

「オリオン様が不在の時に授爵の儀式をするなんて! 何様のつもりだ、ペンドラゴン!」

ゾトル卿とハウト君を連れて、彼らの名誉士爵位授爵の儀式に向かう途中で、先ほど見掛けた青年が噛みついてきた。

「おい、言葉に気を付けろ」

ゾトル卿が苦い口調で窘める。

タイミングが良いのか悪いのか、ムーノ伯爵やニナ女史は先に儀式室の方へ移動済みだ。

「なんだと、ペンドラゴンの犬め! オリオン様から領地査察官を任されたギラ様に刃向かう気か!」

なるほど、虎の威を借る狐――いや、猫の威を借る鼠かな?

「なんですか、これ?」

「すまん、ペンドラゴン卿」

ゾトル卿とハウト君は、次期領主のオリオン君に気兼ねして、彼に強く言えないようだ。

「ふん、分を知ったなら――」

「知ったなら、なんだい?」

オレは不快な青年に、下級魔族でも縛れそうな「威圧」をピンポイントで放つ。

一瞬だけだったが効果は抜群で、彼は息をするのも忘れて気を失っていた。

「やり過ぎたかな?」

「いや、平民が上級貴族へ暴言を吐いたんだ。普通に犯罪奴隷に落とされるか処刑されるレベルさね」

ゾトル卿へのオレの問いは、廊下の向こうから足早に現れたニナ女史に否定された。

「まったく、オリオン殿も査察を頼むならもう少しマシなのを送れないもんかねぇ」

「オリオン殿の幼馴染みらしいから、彼が自分で売り込んだんじゃないかな?」

ニナ女史のボヤキに答えたのは、さっきから静かだったハウト殿だ。

なるほど、公都のお友達をスパイに使うわけにもいかないだろうし、そういう話なら分かる。

もっとも、ニナ女史の言うように人選はもう少し考えるべきだと思うけどさ。

そんな会話をしている間にも、遠巻きに見ていた衛兵達に命じて、気絶した彼を牢屋へと投獄させた。

彼の行く末に興味はないので、罰の軽重はムーノ伯爵やニナ女史に任せようと思う。

そんな些細な事件に関係なく、ゾトル卿とハウト君の授爵の儀式は滞りなく行われ、ムーノ伯爵領に新たな貴族が増えた。

二人にはまだ話していないそうだが、次の王国会議でゾトル卿が名誉男爵、ハウト君が名誉准男爵に陞爵するそうだ。

ムーノ領には太守や守護の任に就ける貴族が足りないので、彼らの陞爵は急務らしい。

◇

「父上、帰りました!」

「お帰り、オリオン」

「また、大きくなったんじゃない?」

「ソルナ姉様、前に会ってからそんなに経ってませんよ」

「オリオンのくせに生意気」

「カリナ姉様、抱きつき癖はおやめ下さい。 家臣 ( ・・ ) 達が見ています」

授爵の儀式後、オリオン君一行が到着したので出迎えた。

ムーノ一家はスキンシップ多めらしい。

家族との再会で緩んでいたオリオン君の視線が、オレに合うとなんとなく厳しいモノに変わった。

――はて?

ブライトン市や廃鉱都市を解放した時に同行したときは、シスコンを炸裂させつつも普通な感じだったのに、どうしたんだろう?

「オリオン様!」

先ほど投獄したはずのギラ青年が、仲間らしき厭な顔をした男達と一緒に駆け寄ってくる。

オリオン君の顔に懐かしげな色が浮かんだが、彼らの名前を思い出せないのか、その口から彼らの名前が出ることはなかった。

ギラ青年達はそんな事にも気付かない様子で、オリオン君の前に立ってこちらを糾弾しようと手を伸ばす。

「なんていうか、内政モノの潰される下っ端臭がする奴らよね」

「まったくだ」

アリサのボヤキに首肯する。

こんな奴らのせいで、ムーノ伯爵達の再会に水を差されるのも業腹だ。

オレは隠密性の高い精神魔法の「 失神手 ( スタン・ハンド ) 」を魔法欄の中から探す。

「増えた~?」

「貴族の人がいっぱいなのです」

他の馬車から降りてきた貴族子弟達を見たタマとポチが告げる。

完全に忘れているようだけど、君達も既に爵位持ち貴族だからね?

「美形が多いわね」

「そうだね。乙女ゲーでもギャルゲーでも作れそうなラインナップだ」

オリオン君の友人達には女性も多い。

たぶんだけど、オリオン君の第二夫人や側室候補なんだと思う。

「はっはっはー! 天は我らに味方せり!」

ギラ青年が勝ち誇ったように言う。

そんな彼の横に、貴族の青年が足を踏み出した。

なんとなく、クラスカーストの上位にいそうな爽やか系イケメンだ。

同志の登場にニヤリと笑うギラ青年。

だが――。

「君、少しジャマだよ」

貴族の青年が軽い仕草でギラ青年を押しのけ、オレの前に来て軽く一礼する。

「はじめましてペンドラゴン子爵様。私はロイド侯爵の孫、イゾ・ローライドと申します。この度はオリオン様の家臣団候補として、この領地を訪れました。ぜひともムーノ領のお話をお聞かせ下さい」

なんだか、思いっきりフレンドリーだ。

「ちょっと、イゾ! 抜け駆けはやめろよ。ペンドラゴン子爵様、私はホーエン伯爵に連なるフッケ准男爵家のマリモ――」

「長い! 私はジートベルト男爵の娘、ミューミルです。ぜひとも先輩家臣として手取り足取り教えていただければ、なんなら夜の私室でも――」

「私はヘンス准男爵家のバッツ――」

最初の青年を皮切りに、次々と貴族子弟達がオレに自己紹介をしてくる。

中に若干、肉食系女子が交じっているが、オレは気付かなかったふりをしてスルーした。

「こ、これは……」

「私の家臣になれば、ペンドラゴン卿と懇意になれるとでも考えたのだろう」

ギラ青年の疑問に、オリオン君が答える。

その様子から、二人が幼馴染みという話は本当だと分かった。

「オリオン様」

メイドの一人がオリオン君に耳打ちする。

見覚えがあると思ったら、昔からカリナ嬢に仕えているメイド頭のピナさんだ。

聞き耳スキルによると内容は、先ほどのギラ青年が投獄された 諍 ( いさか ) いの件らしい。

「君と遊んだ幼い日は私にも大切な思い出だ」

「オリオン様?」

オリオン君の「別れを告げる」ような唐突な語りに、ギラ青年が首を傾げる。

彼の脱獄を手伝った仲間の一人が、事情を察して人混みに紛れて逃げていく。

勘の良いことだが、逆恨みしそうな者を放置するのもアレなので、「理力の手」で足を引っかけて衛兵の前に転がす。

「せめて、助命だけは約束しよう」

「オリオン様……そ、そんなっ! オリ――」

ギラ青年が口を塞がれて、この場から地下牢へと逆戻りしていった。

「ペンドラゴン子爵、私の幼馴染みが迷惑を掛けた。この詫びは後日必ず」

おおっと、ちょっと前の彼なら、一緒になって噛みついてきそうだったのに、友人の無礼を代わって詫びられるなんて、僅かな間に成長したもんだ。

「それから、お前達! ペンドラゴン子爵に憧れていたのは知っているが、もう少し慎みと遠慮を持て。建前上は私の家臣候補だという事を忘れるな」

ある意味卑屈ともとれる言い回しだが、オリオン君の瞳に呆れはあっても嫉妬はない。

ムーノ伯爵とはタイプが違うけど、彼は彼なりに自分の領主スタイルを確立しようとしているようだ。

何が彼を変えたのだろう?

「ぽっこり~?」

「妊婦さんなのです!」

目ざといタマとポチの視線の先に、その答えがあった。

オリオン君の婚約者のミューズ嬢のお腹が膨らんでいる。

AR表示によると、男女の双子を懐妊しているらしい。

彼が変わったのは、自分が夫に、そして父親になる覚悟ができたからに違いない。

そういえば、元の世界でメタボ氏に見合いを勧めていた社長が「環境と責任が人を育てるのだ」って言っていたのを思い出した。

オレにはまだよく分からないけど、そういうモノなのかもしれないね。

「妊娠四ヶ月ってトコかしら?」

アリサが「これでも子持ちの友人は多かったのよ」と続けた。

気のせいか自嘲が篭もっている気がする。

「おおお、オリオン?」

「あらあら、まあまあ」

「やるね、若様」

「お、オリ、オリ……」

ムーノ伯爵が驚き、ソルナ嬢が顔を綻ばせ、ニナ女史が感心したように呟く。

カリナ嬢は壊れたレコードのようだ。

オレの経験だとデキ婚はメジャーなのだが、こっち世界の貴族は婚前交渉自体が珍しいのかもしれないね。

「カリナに先を越されるのは覚悟していたけど、ミューズ殿にまで先にいかれてしまったわ」

「なに、すぐに追いつくさ」

ソルナ嬢の言葉に、ハウト君が余裕の笑みで答える。

「さて、それでは今晩は次々期ムーノ伯爵誕生の前祝いといきましょう。私とルルが腕を揮いますよ」

「へー、そいつあ楽しみだ」

オレは手伝いを申し出てくる貴族子弟を連れて、焼き肉祭りの準備を始める。

もちろん、肉だけじゃなく、妊婦さんの為に酸っぱい柑橘系フルーツを使ったサラダやゼリー類も沢山作ろう。

予期せぬ祝い事と友人の家族の成長を目の当たりにしたせいか、意識せずに口元が綻んでしまう。

バーベキュー用の金網の前で、肉祭りの曲を奏でるミーアと、その曲に合わせて踊るタマとポチを見守りつつ、いつになく愉快な気持ちで調理を続けた。

やっぱり、お祝い事はいいね!

※次回更新は 未定 です。

今回の会社の繁忙期は未だかつてないほど激しいのです……。

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