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16-1.魔王殺しの影響

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16-1.魔王殺しの影響

※2017/7/2 誤字修正しました。

サトゥーです。なんとなくした事が、他の人から見たときに過大に評価されたりすると、どうリアクションしていいか迷うことってありますよね。

◇

「王都で陛下に挨拶したら、公都のテニオン神殿に行ってくるよ」

孤島宮殿での朝食後、ルルの淹れてくれたお茶を飲みながら皆に予定を告げる。

神々と交信する方法がないかテニオン神殿の前巫女長に聞きに行くのだ。

「それでしたら、王城の空港に直接ではなく、一度、お屋敷に飛空艇を下ろすか、王都を一周してから王城の方が良いです」

「どうしてでしょう?」

システィーナ王女に理由を問う。

「直接ご覧になった方がよろしいですね」

彼女は少し思案した後、そう告げて立ち上がった。

オレは訝しげに思いつつも、行けば分かるかと思い、王都のペンドラゴン邸へと向かった。

「なんですか、これ?」

屋敷の前にもの凄い人混みができていた。

よく見たら人だけでなく、屋台まで出ている。

「皆、サトゥーを見に来ているのです」

「私を、ですか?」

「ええ、『魔王殺し』というのは、それだけ偉大な事なのです」

システィーナ王女に言われて納得した。

なんというか凄く誇らしそうな顔だ。

最近感覚が麻痺していたけど、魔王退治って偉業なんだったっけ。

勇者ハヤトの手伝い程度のつもりだったけど、手伝いだけでも十分にインパクトがあったようだ。

先ほどの飛空艇の着陸場所についての話は、この見物客へのアピールをしろという事なのだろう。

「ご忠告ありがとうございます。少し配慮が足りていなかったようですね」

オレは彼女に礼を告げて、飛空艇の帰国進路を脳裏に描く。

――ぴぴる! ぴる! ぴる!

窓外を眺めながら思案していると、いつの間にか現れていたエメラルドグリーンの羽をした鳥が偉そうな顔で囀っている。

「翡翠、殿下には断ってきたのか?」

――ぴ! ぴるぴ! ぴる!

翡翠が微妙に視線をそらしつつ、言い訳するように囀った。

システィーナ王女の同母妹であるドリス王女に飼われている鳥なのだが、とある事件で種族が「神鳥」になってから、頻繁に彼女の許を脱走して遊びに来るようになったのだ。

王城に行くついでに、翡翠を返してこよう。

◇

「王都防空隊、小隊長スィースソースであります。ペンドラゴン閣下にお目に掛かり恐悦至極に存じます」

王都近傍まで飛空艇を接近させたところで、飛行鎧を着た一〇名の鳥人族の部隊が現れた。

甲板で話を聞いたところ、オレ達を先導する為にわざわざ飛んできたらしい。

「王都を一周してから、王城へ向かおうと思っているんだけど、いいかな?」

「はっ! もちろんであります! 王都の民もペンドラゴン閣下を一目見ようと連日お屋敷に詰めかけておりますれば、甲板から手など振っていただければ幸甚であります」

なんだか堅い話し方をする人だ。

鳥人なのに妙に汗をかいているし、もしかしたら緊張しているのかな?

「わかった、そうしよう。先導を頼む」

「はっ! このスィースソースの命に代えましても、みごとやり遂げる所存であります」

いや、それは大げさ。

単なる先導で命をかけなくても。

王都の外壁を越えるときに、外壁の上から落ちそうなほど兵士達が登って、こちらに手を振っていた。

ペンドラゴンの家名を叫んでいたので、オレを歓迎してくれていたのだろう。

そして、外縁の軍事施設を飛び越えたとき――。

「「「ペンドラゴン」」」

――耳が痛くなるほどの大きさで、オレの家名を呼ぶ群衆の声が聞こえた。

沢山の人が口々に呼んでいるせいで多少のブレはあるが、飛空艇が揺れるんじゃないかと思うほど力強い声だ。

手を振り返すとさらに歓声が大きくなった。

群衆の中で卒倒する人が見えたので、こっそりと「理力の手」を伸ばしてサポートしておく。

『アリサ、魔王退治に同行したみんなを呼んでくれないか』

『おっけー』

せっかくなので、オレは遠話を使い、孤島宮殿で待っている仲間達を呼んでみた。

「おう、ぐれいと~?」

「凄いのです! みんな、ご主人様の名前を呼んでるのです!」

タマとポチが目をまん丸にして、群衆からの歓声に応えている。

二人は手を振るだけじゃ足りないのか、尻尾をぶんぶん振ったり、甲板の手摺り沿いにダッシュしたりしている。

「なんだか、恥ずかしいです」

「胸を張りなさい、ルル。私達はそれだけの行いをしたのです」

「そうですわ! シガ王国の有史以来、勇者とその従者以外が魔王討伐に関わった記録はありません。偉大な功績ですわよ!」

ルルとリザの会話に、妙なテンションのカリナ嬢が加わる。

勇者系の要素にテンションが上がるのは、勇者研究家の父親の影響なのだろう。

「マスター、孤児院の上で旋回を希望します」

ナナが無表情な顔でオレの袖を引く。

「良いけど、何かあったのかい?」

「幼生体密度が濃密で、そう可愛いのです」

「……そうか」

どうやら、ナナの個人的な趣味らしい。

先を急ぐわけでもないので、以後は孤児院の上で一度旋回していく事にしてみた。

ナナが満足そうだし、これくらいのサービスは別にいいだろう。

「むぅ、耳痛い」

耳を押さえたミーアが不満を口にする。

しばらく、口を尖らせていたミーアだったが、やがて気を取り直して、勇壮な音楽を奏で始めた。

騒音は嫌でも、自分達を称賛する声自体には嫌悪感を抱いていないらしい。

「それにしても、すっごい人気ね」

――ぴぴる! ぴる! ぴる!

感心するアリサの言葉に、なぜか一緒に来ていた翡翠が偉そうに胸を張って答える。

翡翠も、自分のことのように誇らしく思っているようだ。

――ちゅいぃ。

いつの間にか、賢者鼠のチュー太達が、手摺りの上に整列して手を振っていた。

どこから紛れ込んだのやら。

オレは苦笑しながら、久々の王都の空を満喫した。

◇

「うわー、なんだか凄いわよ」

「せいれつ~?」

「キラキラしているのです」

「ん、出迎え」

眼下の光景を見て、年少組が驚きの声を上げた。

王都上空を一周してから王城へ進路を取ると、王都防空隊の鳥人達に替わって 飛竜騎士 ( ワイバーン・ライダー ) 達が先導に現れた。

彼らの導くままに進むと、王城前の中庭の一つへと案内されたのだ。

そしてそこには、煌びやかな金属鎧を身に纏った聖騎士団と近衛騎士団、そして礼服に身を包んだ文官達や女官達が整列していた。

まるで、国賓でも迎えるかのような感じだ。

着地し、搭乗タラップを降ろすと、騎士団の後ろから音楽の生演奏が聞こえてきた。

騎士団の後ろに楽団が控えていたらしい。

絨毯の敷かれた中庭を仲間達と一緒に進むと、正面の門が開いて見知った顔が出てきた。

「ただいま、帰国いたしました、ソルトリック殿下」

「うむ、よくぞ無事に帰還した、ペンドラゴン子爵」

なぜか、ソルトリック第一王子が出迎えに来ていて驚いた。

彼の後ろにいる宰相閣下やシスティーナ王女、それからシガ八剣のヘイム氏なんかはマーカーで分かったんだけど、彼の方はノーマークだったのだ。

なお、システィーナ王女は王都滞在中という事になっているので、オレ達の飛空艇が王都に進入した頃に、孤島宮殿から王城の私室へ移動してもらっていたのだ。

ヒカルやシガ八剣筆頭『不倒』のゼフ・ジュレバーグ氏は国王と一緒に、謁見の間で待機している。

「大先生なのです」

「おひさ~?」

ポチとタマがヘイム氏に向かって、小さく手を振っている。

ヘイム氏はノーリアクション――いや、小さく口角が上がっているので、少なくとも二人を嫌ってはいないようだ。

その愛らしい姿に中てられたのか、整列している騎士達のうち数名が、顔を背けて震えていた。

うん、頑張って耐えろ。

ソルトリック第一王子とフレンドリーに肩を並べて歩いていると、彼の側近らしき数名から嫉妬の視線を向けられるのが、ちょっとだけ鬱陶しい。

君達の王子は取らないから、その視線は止めてくれ。

そのまま廊下を闊歩し、彼らとは謁見の間の重厚な扉の前で別れた。

閉ざされた扉の前には、儀礼用の甲冑を着た近衛騎士団の上級騎士二人がおり、煌びやかなハルバードを交叉させている。

扉の向こうから鈴のような音が聞こえると、二人がハルバードを上げ、顔をこちらに向けた。

その背後では四人の小姓達が扉を押し開いている。

「観光副大臣、ペンドラゴン子爵、入られよ」

オレは黙礼を返して、謁見の間へと足を進める。

先ほどまでいた場所は少し暗かったので、天窓から差し込む光に少し目が眩む。

光量調整スキルのお陰で、一瞬で視界が正常に戻った。

謁見の間の奥には既に国王とヒカルが玉座に腰かけて待っており、玉座までの間には三公爵や大臣達がずらりと並んでいた。

王族、宰相閣下、シガ八剣の面々もいるようだ。

普通は国王は後から入ってくるものなのだが、今日はなぜか先に座っていた。

「うわっ、お偉いさんがいっぱいだわ」

アリサが小声で呟くのが聞こえた。

振り返るわけにはいかないので、空間魔法の「遠見」で後ろに続く仲間達を眺めたところ、みんな緊張しているようだ。

オレは体の後ろに手を回して、手信号で「リラックス」と送る。

国王とヒカルが二つ並んだ玉座に腰掛けている前まで来ると、仲間達とともに跪いて国王の言葉を待つ。

そういえば、公爵夫人扱いのヒカルが玉座に腰掛けているけど、いいのかな?

王祖である事は秘密にしていないようだったし、三公爵や他の貴族達も気にしていないみたいだから別にいいや。

「ペンドラゴン卿、面を上げよ」

国王の言葉を受けて顔を上げる。

今日は王様も略装や普通の正装ではなく、戴冠式にしか着ないような儀礼用の装束だ。

「此度の貴殿の偉業を讃え、その功績に報いよう――」

国王の長々とした労いの言葉や褒賞の話を要約すると、魔王殺しの褒賞に爵位や役職のランクアップに宝物の授与、それから幾つかの特権を与えられるという事らしい。

爵位については、オレの爵位を伯爵に、直属の上司であるムーノ伯爵は侯爵に、リザが名誉子爵、カリナ嬢や他の仲間達も名誉女男爵へと陞爵や授爵する事になった。

二ヶ月後の王国会議ではなく、今すぐ爵位が上ったのは、偉業に対する特例との事だ。

役職は観光副大臣から正式に大臣にあがった。

国王の話だと、情報の早い国からは訪問を歓迎する旨の親書が届いているそうだ。

宝物は由緒正しい歴史ある品だったのだが、その多くが王祖様がらみの品だったので、あまりありがたみがない。うちにはヒカル本人がいるしね。

特権は二つ。

食料品や調味料関係の交易特権――主に免税特権だ。

もう一つは誰得なのか分からないが騎士団の設立許可をもらえた。

私的に軍事力を持つ気はないので、後者を活用する事はないだろう。

軍事関係に強いケルテン侯爵によると、事前にその噂を聞いた騎士達が応募の為に武具を新調しようとして、王都の鍛冶工房が絶賛フル稼働状態らしい。

鍛冶工房で過労死が出る前に、それとなく騎士団設立はないと情報を流そう。

デスマーチによる犠牲なんて、元の世界だけで十分だからね。

◇

「ペンドラゴン伯爵、やんごとなきお方が閣下を呼んでおられます」

精神的に疲れる謁見を終え、謁見の間を出たところで小姓風の衣装を纏った青年に声を掛けられた。

AR表示によると、ソルトリック第一王子の小姓らしい。

「どなたがお呼びなのでしょう?」

「行けば分かります」

木で鼻をくくるような態度だ。

小姓はオレが付いてくるのが当然と言わんばかりの態度で歩き出した。

うん、嫌いなタイプだ。

「みんなはシスティーナ殿下の所に行っておいで」

「あたしかリザさんが一緒に行った方がいいんじゃない?」

「大丈夫だよ、呼んでるのは第一王子みたいだから」

心配そうなアリサ達に小声でそう告げる。

「何をしておる! 殿下をお待たせしておるのだぞ!」

オレが付いてこない事に気がついた小姓が、カンカンに怒って走ってきた。

すごく息が切れているようだ。

どうやら、かなり遠くまで歩いていたらしい。

「使用人風情が、伯爵閣下にその言葉遣いはなんです」

リザが返却されたばかりの魔槍の石突きで、床をダンッと叩く。

その剣幕に小姓が身を竦ませる。

「あ、亜人風情に言われ――」

そんな自分が許せなかったのか、小姓が震える声で虚勢を張り、リザを罵倒する。

「あら? 貴族籍にもない使用人が、キシュレシガルザ子爵様に暴言? ここで成敗しちゃってもいいんじゃないかしら?」

「せいばい~?」

「ずんばらりん、とやっちゃうのです!」

タマとポチが指先に出した魔刃を、片手剣サイズに伸ばしてニヤリとポーズを付けた。

悪い笑みだ。

顔面を青ざめさせた小姓が、脂汗を流している。

「クオンツ、何をしている!」

廊下の向こうから、近衛騎士の格好をした男性がやってきた。

彼も第一王子の取り巻きの一人らしい。

タマとポチの二人が、指先の魔刃を一瞬で消す。

「ボダン様!」

味方の登場に、小姓が顔色を取り戻して縋り付く。

「触るな、痴れ者が」

小姓をすげなく振り払った近衛騎士が、軽く一礼をしてから口を開く。

「ペンドラゴン閣下、この者が失礼をしたようで申し訳ない。ソルトリック殿下がお待ち故、私にご同行願いたい」

お願い形式だが、事実上命令だ。

もっとも、始めからこんな態度なら、断る気はない。

ソルトリック第一王子は嫌いじゃないし、システィーナ王女のお兄さんだしね。

「それじゃ行ってくるよ」

オレは仲間達に手を振って、近衛騎士に案内されて第一王子の待つサロンへと足を向けた。

◇

「おめでとう、ペンドラゴン伯爵」

「ありがとうございます、ソルトリック殿下」

にこやかなソルトリック第一王子に迎えられて、彼の横の席へと招かれる。

先ほどの一件は近衛騎士から王子に伝えられ、小姓のクオンツ君はさっくりと解雇されてしまったらしい。

久々に封建社会的でドライな解雇通達を見たよ。

彼がオレを逆恨みしない事を祈りたい。

「――まさか、貴公が勇者と一緒に魔王を討伐してみせるとは思わなかった」

おっと、回想している間に話が進んでいたようだ。

適当に相槌を打っていたらやばそうなので、ちゃんと聞こう。

「私は勇者様や彼の従者達の支援役をやっていただけですよ」

「それだけで、魔王殺しなどと呼ばれんさ。貴公と勇者が友人だったのは知っているが、それだけでサガ帝国の皇女様が認めるとは思えん」

勇者ハヤトと友人だって、言っていたっけ?

――今一つ記憶にない。

特に秘密にしていたわけでもないから、別にいいけどさ。

「陛下から内々に話があった。私は五年以内に王位を譲られる。今年からは徐々に陛下の政務を私が担当する事になるだろう」

ふーん、32歳くらいで大国の命運を預けられるなんて大変だ。

オレも陰ながら応援しておこう。

「そして、王位を盤石なものにするには人材が必要だ」

――同意。

三国志や「明智光秀の野望」では人材確保が勝利の鍵だった。

「今の大臣達の過半数やビスタール公爵派の貴族達は、私を支えてくれると約束してくれている」

王子がそこで言葉を止めて、目力強くオレを見つめてきた。

何かを察してほしそうな顔だ。

「このっ、殿下がここまで――」

「やめよ」

取り巻きの一人が、オレを睨み付けて立ち上がったのを殿下が抑える。

「ペンドラゴン卿、私の家臣になれ。ムーノ侯爵の下を離れて、私の直臣になるのだ。むろん、我が直臣となれば今以上の栄達を約束しよう」

「大変光栄なお話ですが、私の主はムーノ閣下唯お一人。このお話はお断り致します」

真摯な王子が呆気に取られた顔で固まった。

彼には悪いけど、オレにとってムーノ侯爵は理想の上司なんだよね。

「貴様っ!」

「殿下自らのお誘いを!」

「シガ王国に弓引く意思ありと取られても――」

王子よりも早く我を取り戻した側近達が、顔を真っ赤にして立ち上がる。

血の気の多い貴公子は、細剣を抜いてしまうほどだ。

「やめよ」

王子が固い声で側近達を止める。

側近達が剣を納めて座るのを待ってから、顔をこちらに向けた。

「正直、貴公に断られるとは思っていなかった」

ショックを受けた顔で王子が言う。

オレからしたら、オレが承諾すると彼が考えていた事の方が不思議だ。

「貴公は私が国王に不適格だと思うのか?」

「いいえ」

宰相やヒカル経由で聞いた話だと、彼は現シガ国王が即位した頃よりよっぽど有能らしい。

「ならば、なぜだ?」

「私は栄達を望みません」

確か、最初に彼と出会った時にもそう言ったはずなんだけどさ。

「その年で伯爵位にまで昇り詰め、大臣職にまで就いた貴公が、それを言うか?」

オレの答えを聞いた王子が、呆れたように言う。

どちらも望んでいた訳じゃないし。

素直に言うと角が立ちそうだったので、日本人らしく曖昧な笑みで受け流した。

「分かった。配下が嫌なら友になれ」

王子の言葉にようやく首肯する。

システィーナ王女のお兄さんだし、友人くらいならいくらでもOKだ。

「いずれオーユゴック公爵と場を設ける。貴公も友として同席しろ」

「承知いたしました」

友人枠にしては微妙な言い方だ。

彼は幼い頃から大国の国王候補として教育されていたみたいだし、これが普通の態度なのかもね。

「では、日程が決まったらボダンを連絡にやる」

王子がそう告げて席を立った。

側近を連れて歩み去ろうとした王子が、何かを思い出した顔で振り返った。

「妹との挙式には出席する。日程の調整は私の側近頭に言っておけ」

彼はそう一方的に告げると、颯爽とした足取りでサロンを出ていった。

妹との挙式って、もしかしなくても、オレとシスティーナ王女の事かな?

そういえばもうすぐ期限の一年まで二月ほどだったっけ。

王様は何も言っていなかったし、案外オレと王女の婚約話は冗談だったのかも。

オレはそう逃避しながら、サロンを出た。

「「「ペンドラゴン閣下! 私を閣下の家臣に!」」」

「伯爵様! ぜひ我が家の舞踏会にお越し下さい!」

「「「キャーッ、サトゥー様よ!!」」」

文官や武官、高そうな服を着た貴族達、容姿に自信がありそうな侍女やメイド達が、サロンの外に待ち構えていた。

相手をしていると、異様に疲れそうだったので、「急ぎの所用があるので、またいずれ」とジャパニーズスマイル全開で逃げ出す。

「「「ペンドラゴン閣下! 私を騎士団に!」」」

「わ、私は魔刃が使えます! 閣下のミスリル騎士団に入れて下さい!」

廊下の角を曲がったところで、今度は近衛騎士や他領の騎士服を着た男達が殺到してきた。

全員目が血走っていて、ちょっと怖い。

中には勝手に騎士団名まで付けているヤツまでいた。

「お出迎え~?」

横から聞こえた声の方を向くと、細い使用人用通路の床に落ちた影から顔を出すタマと目があった。

オレは細い通路に入ると同時に、タマの影に飛び込んで、王都屋敷へと移動した。

私室のソファに体を投げ出して、一息吐く。

「助かったよ」

「なんくるないさ~?」

オレの膝の上で丸くなるタマの頭を撫でて、感謝の言葉を言う。

なかなか「魔王殺し」の影響は大きそうだ。

公都のテニオン神殿にお邪魔して、神々と接触する方法を尋ねるのは少し先になりそうな気がしてきたよ。

※次回更新は 7/9(日) の予定です。

●ソルトリック第一王子が思い出せない方は「13-23.お茶会の行方」を参照してください。