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16-10.儀式の背後で

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

16-10.儀式の背後で

※2018/4/1 誤字修正しました。

※2017/9/3 一部修正しました。

「アリサ~?」

「風邪引くのですよ?」

孤島宮殿の裏庭で、白い単衣を着たアリサが滝に打たれるのを、心配そうに見つめるタマとポチがいた。

「遅刻するよ~?」

「先生に怒られちゃうのです」

二人とも通学の準備を終えていて、アリサを呼びに来たようだ。

「今日は学校を休むから、ミーアにそう伝えておいて」

「ズル休み~?」

「ヒキニートはキケンが危ないのです!」

自主休講を宣言したアリサに、タマとポチが信じられないとばかりに驚いた。

通い始めたばかりで学校が楽し過ぎる二人にとって、病気でもないのに休むのが信じられないのだろう。

「いいのよ! 今日はもっと重要な事があるの」

「何~?」

「教えてほしいのです」

「ご主人様が公都で儀式をするのは朝ご飯の時に聞いたでしょ?」

「あい」

「はいなのです」

アリサの言葉にタマとポチが首肯する。

「万が一の時の為に、『 眷属 ( けんぞくぅ~ ) ぱぅわあー』でご主人様からのSOSをキャッチするために 水垢離 ( みずごり ) して、精神を研ぎ澄ませてるのよ」

「タマもする~?」

「ポチもSOSを捕まえてみせるのです!」

予想通りの二人の反応に、アリサが苦笑しつつ首を横に振る。

「二人の役目はもっと後、今日のところはわたしに任せて、学校行ってきなさい。そろそろ迎えが来るんじゃない」

「あ! なのです」

「は~り~あぷ~?」

王都の小ペンドラゴン邸に、毎朝迎えに来るチナを思い出したポチとタマが慌てる。

「いってくる~?」

「アリサ! 困ったらポチにすぐ言うのですよ!」

「はいはい、いってらっさ~い」

転がるように転移門に向かう二人に、アリサが通常運転で手を振る。

「さてと――」

二人の姿が見えなくなったアリサが真顔に戻り、両頬をピシャリと叩いた。

「――うし、気合い十分」

アリサは滝に打たれながら目を閉じ、彼女の愛しい主人へとつながる細いラインに心を向ける。

空間魔法で連絡が取れないような事態になった時、頼れるのはそれだけだと彼女は直感していた。

◇

「にゅ?」

通学の馬車に乗っていたタマが、背筋を伸ばして周囲を見回す。

レーダーのように立てられた両耳が、ピクピクと波打つ。

「どうしたのです?」

「にゅー」

ポチの問いかけにタマが首をひねる。

どうやら、今日の予感は言葉にできない 類 ( たぐ ) いのモノだったらしい。

「ミーア様、どうかなさいました?」

タマと時を同じくして、同じ馬車に乗っていたミーアが不思議そうな顔をしていた。

「精霊が静か――」

いつもはサワサワとさざめく精霊達が、獣に怯える虫たちのように静かだ。

嫌な予感を覚えたミーアが、馬車の窓から顔を出して、空を見上げた。

「――お城?」

ミーアの目には精霊達が城を囲んでいるように見えた。

正確には城にいた精霊達が、城から逃げようとしているようだ。

「ミーア様、お城がどうかされたのですか?」

「ん、なんでもない」

心配そうなチナに、ミーアがふるふると首を横に振った。

きっと桜ドライアドが癇癪でも起こして精霊達が避難したのだろう、とでも結論付けたようだ。

◇

「これが――聖骸動甲冑なのですね」

王城にある格納庫で、システィーナ王女が聖骸動甲冑を見上げる。

口にしなかった言葉は「サトゥーが造った」だろう。

彼女の横には護衛役のゼナ・マリエンテールと友人役のカリナ・ムーノが、キラキラした目で聖骸動甲冑を見上げていた。

二人とも、これがレプリカである事は知っているのだが、伝説にある聖骸動甲冑と同じ姿をしているというだけで、十分憧れの対象となるようだ。

感極まる二人の代わりに、システィーナ王女に答えたのは、杖をつきながら歩み寄ってきた老人だ。

「はい、国王陛下から主機関の起動許可がでましたので、本日は起動実験を行う予定にございます」

王立研究所の所長がシスティーナ王女に告げる。

この格納庫には聖骸動甲冑を調べるために、所長をはじめ、シガ三十三杖やゴーレム研究家などのシガ王国の頭脳が集結していた。

「ええい! ワシにも触らせろ!」

「は、博士、ダメですってば!」

「離せ、アオイ! あの螺旋に輝く主機関がワシを呼んでおるのだ!」

エチゴヤ商会からも、ジャハド博士やアオイ少年が来ているようだ。

心臓部で青く光る聖樹石炉――「賢者の石」を内包した魔導ジェネレータに魅せられた博士がわがままを言っているらしい。

「エチゴヤ商会も、王立研究所を追い出された馬鹿者ではなく、もう少しマシな者を選んでほしかったモノですな」

先ほどの様子を苦々しい顔で見ていた所長がそう吐き捨てて、システィーナ王女に笑顔を向ける。

なかなか切り替えが早い。

「この聖骸動甲冑は主機関や武装もさる事ながら、装甲が素晴らしいのです。ご覧ください、白い塗装の下には、神の金属とも呼ばれる聖なるオリハルコンを主成分とした装甲板が隠れているのです」

「これだからブリキ屋は困る」

熱に浮かされたような所長を遮ったのは、シガ三十三杖で防御魔法を研究している初老の男性だ。

「この塗装の素晴らしさが分からぬか! システィーナ殿下、この塗装こそシガ王国の守りを盤石とするモノです。中級までの魔法攻撃を無効化する力に加え、無効化したときに解放された魔力を吸収し、自らの主機関に取り込む機能まで内包してるのです!」

「そ、それは素晴らしいですね。この短期間で調べられるとはラハト殿は優秀なのですね」

初老の男性の熱弁に、システィーナ王女が一歩後じさる。

この塗料に関してはサトゥーから聞いて知っていた彼女だったが、それが早くも解析されている事に驚いたようだ。

もっとも、効果が判明することと同じモノを再現できるかどうかは別である。

「盾屋は黙っておれ。システィーナ殿下、この装甲は魔刃を使ったミスリル剣でも傷一つ付けられないのです! 素晴らしいでしょう!」

聖骸動甲冑から外した装甲板の一つを示して悦にいる所長。

「へー、凄く硬いのね?」

装甲板をペタペタ触っていたカリナ嬢が、最近覚えたばかりの指魔刃でひっかいてみた。

見事に一本線が引かれ、カリナ嬢の顔色が一気に青ざめる。

彼女の迂闊さはポチと争うレベルのようだ。

◇

所変わって、王立学院、幼年学舎――。

「――にゅ?」

眠そうな顔でペンを咥えて上下に揺らしていたタマが、急に真剣な顔になって顔を上げた。

「どうしたのです?」

その様子に気付いたポチがタマに問う。

前の席に座るシロとクロウも気になるようだ。

タマの猫耳がぴくぴくと震える。

「にゅ~?」

弛緩した顔に戻ったタマが、机にデロリと突っ伏す。

「はらぴこ~?」

「ポチもペコペコなのです! でも早弁はダメなのですよ? あれは禁断の技なのです。食べちゃったら、お昼ご飯の時に地獄が待っているのです」

熱弁を振るうポチの頭に、ポスッと丸めた教科書が乗っかった。

見上げるポチの瞳に映るのは、ご機嫌斜めな女教師の顔だ。

「あ――」

「授業中のおしゃべりは?」

「ダ、ダメなのです」

「ダメな時はどうするのかな?」

「ごめんなさい~?」

「ごめんなさいなのです」

耳をペタンと伏せたタマと尻尾を足の間に隠したポチが、女教師に謝罪する。

「次にやったら昼食抜きの刑だ」

「が~ん」

「そ、そんな、なのです」

女教師の告げる重犯時の刑罰の重さに、タマとポチが恐怖で身を竦ませた。

お互いに神妙な顔を見合わせ、お口チャックの仕草を行う。

昼休みまで後30分。

タマの腹の虫に誘われたポチの腹の虫が仲良く大合唱を始める。

合唱の輪は少しずつ教室中に広がっていった。

◇

「公式4」

王立学院の魔法学舎では、ミーア先生が長杖を指示棒代わりにして授業を行なっていた。

「変換、解法27」

ミーア先生の言葉足らずの授業に、生徒達が必死に解読と授業の理解という難事に挑んでいた。

アリサという優秀な翻訳者のいない授業は、いつもとは違う苦労があるらしい。

「こ、こんな時にアリサ先生がいたら……」

「ア、アリサ先生――」

いつもはミーア先生のオマケだと揶揄されていたアリサ先生の重要な価値を知った生徒や教師は多いようだ。

だが、翻訳できる事がイコール、ミーア先生と同等以上の魔法への理解がなすモノだとまで気付いている者は少ない。

未だかつて無いほどの男性達から熱いコールを受けるべきアリサ先生は、今も変わらず孤島宮殿で滝に打たれる水垢離をしているのだろう。

◇

「――あら?」

システィーナ王女が所長の背後に見える動甲冑に違和感を覚えた。

普通なら動甲冑に乗り込む時には、複数の整備士や魔法使いが補助するはずなのだが、件の動甲冑には誰も補助についていなかったのだ。

そして、それに気付いたのはシスティーナ王女だけではなかったらしい。

「おい! 誰が動かしている!」

聖骸動甲冑横の昇降機に乗り込んだ動甲冑を見とがめた者が、誰何の声を上げた。

「なんだ? 起動実験に動甲冑は使わないぞ?」

「乗ってるのは誰だ?」

動甲冑は聖骸動甲冑に乗り込むパイロットの耐Gスーツ的な存在なので、全力稼働のテストでも無い限り必要とはされない。

なお、この動甲冑も本物ではなく、サトゥーが交換したレプリカとなっている。

「ティナ様、カリナ様、離れましょう。何か様子が変です」

『うむ、ゼナ殿の意見に賛成する』

避難を勧めるゼナの言葉に、カリナ嬢が身につける 知性ある装身具 《 インテリジェント・アイテム 》 のラカが同意した。

三人が少し離れた事務所へと避難するのに少し遅れて、金属がひしゃげるような音が格納庫内に響いた。

振り向いた三人の目に、聖骸動甲冑を囲っていた足場や昇降機が地面に向かって倒壊する様子が映る。

その足下では白衣やローブを着た研究者や魔法使いが右往左往していた。

「大変ですわ!」

『カ、カリナ殿、待て!』

ラカの制止も聞かず、カリナ嬢が倒壊する足場へと突撃する。

倒壊してきた足場に潰されそうな研究者達を、カリナ嬢が手荒く押しのけた。

やりきった顔のカリナ嬢の頭上に、倒壊した足場本体や鉄骨が降り注ぐ。

――カリナ様!

心の中で悲鳴を上げたゼナとシスティーナ王女が、魔法発動体の指輪が嵌まった腕を伸ばし詠唱を始める。

二人とも詠唱が間に合わない事は百も承知だ。

最初の鉄骨こそラカに守られたカリナ嬢が防ぐのが見えたものの、次々に降り注いだ鉄骨が地面に突き刺さり、絶望的な轟音と土埃で周囲を満たした。

◇

「はあ……サトゥーとセーラはテニオン神殿の儀式でいないし、見学もできないし、ヒマだわー」

オーユゴック市の西方を占める公爵城、その中庭の一角にある東屋で、「天覇の魔女」の二つ名を持つリーングランデ嬢がヒマを持て余していた。

もちろん、彼女に親しい友人がいないわけではない。

ただし、彼女の旧友の多くは結婚して家庭に入り、複数の子をもうけているのが普通だ。

行き遅れと言われる年になり、恋人もいない彼女が訪問するには、少々心理的なハードルが高い。

「また、近衛騎士相手に剣でも振ってこようかしら……」

自分と互角に戦える相手がいない場所で、稽古を付けるのも億劫に感じていた。

――せめてサトゥーがいたら。

そう心の中でごちるリーングランデ嬢の視界に妙なモノが映った。

「あら? 飛竜騎士 ( ワイバーン・ライダー ) の飛び方が変ね?」

リーングランデが公爵城の上空でアクロバティックな機動を取ったワイバーンを見上げて首を傾げた。

次の瞬間、彼方から横に走った光線が、上空のワイバーンを二つに切り裂いた。

ワイバーンの血が飛び散り、背に乗っていた翼人の騎手が必死で脱出する姿が見える。

リーングランデ嬢は傍らに置いてあった愛剣を掴み立ち上がった。

「敵襲!」

リーングランデ嬢が大声で叫んで駆け出し、それに一拍遅れて城の警鐘が鳴らされる。

「警鐘の種類からして、敵は南方から――」

身体強化したリーングランデ嬢が、風の速さで廊下を駆け抜ける。

向かうのは南側の城塔――。

走る間にも、幾つもの轟音が鳴り響き、公爵城の防御障壁に光がはじけた。

怯えるメイドや文官が廊下に蹲る。

――そこからなら、襲撃者の姿が見えるはず。

リーングランデ嬢は駆けながら、敵の正体に思いを巡らせていた。

※次回更新は 8/27(日) の予定です。

※2017/9/3 一番最後にあったテニオン神殿の近況が、「16-12.テニオン神との対話」と矛盾するのでカットしました。