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16-11.儀式の背後で(2)

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16-11.儀式の背後で(2)

※2017/8/28 誤字修正しました。

「対空魔力砲およびバリスタ隊の準備はまだか!」

「鳥人隊、ワイバーン隊、順次発進。空中で編隊を組め」

「ゴーレム隊の装備を対空砲に切り替えさせろ!」

「強襲部隊が来るぞ! 火杖隊、魔法兵部隊は必ず護衛小隊を随行させるのだ!」

公爵城の司令室で、風魔法使い達による指示伝達が行われていた。

領主代理の権限を持つ次期公爵が、司令室へと姿を現す。

「状況を報告せよ」

「公都上空に戦闘用とおぼしき大型飛空艦が出現いたしました」

「――出現だと?」

次期公爵の前に置かれた大きな水盤に、公都上空を接近する大型飛空艦が映し出された。

紫と黒で彩られた生物のような有機的なフォルムを持つ大型飛空艦は、見る者に禍々しい印象を与える。

「監視塔の兵士の報告では公都上空に忽然と現れたそうです」

「公都外縁ではなく、か?」

「はい」

その報告に、次期公爵は訝しげに眉をひそめた。

公都外縁ならば、光魔法による幻影に隠れていたか、水魔法による雲に隠れていたか、と推測をする事は可能だったが、領主代理を務める彼に気付かれずに、あれほど大きな飛空艦が都市内に現れる事などできるはずがない。

都市核による結界を、代理とはいえ領主に気付かれずに侵入するには、影魔法や空間魔法くらいしかないが、そのいずれも、あれほど巨大な飛空艦を移動させる事は叶わない。

少なくとも、次期公爵はそれができる相手を思いつかなかった。

「どこの船だ?」

「所属不明――」

「よく見ろ、バカ者。魔王信奉者集団『自由の翼』の旗と『黄金の猪王』の旗が揚がっておるぞ」

報告者を遮ったのは、アラサーほどの精悍な貴族だった。

かつて、前々当主が魔王信奉者集団「自由の翼」を背後から操っていたボビーノ伯爵家の現当主ケオン・ボビーノ伯爵の登場に、周囲の者から敵意のある視線が集まる。

近衛騎士達が領主代理を守るべく、さりげなく位置を変えた。

「つまり、貴公があの飛空艦を手引きしたというのか!」

「このような時に戯れ言ですかな、ホーエン卿」

周囲の疑念を口にしたのはホーエン伯爵の嫡子だった。

ケオン・ボビーノ伯爵は特に気にした風もなく、戯れ言と切って捨てる。

「やめよ、ホーエン卿。ケオン殿の無実は勇者ナナシ殿によって保証されている」

次期公爵が苛立ちを含んだ声で、険悪な雰囲気を帯び始めた二人を仲裁した。

彼の言う「勇者ナナシ殿によって保証されている」という言葉は、勇者ナナシが公爵に提供した「自由の翼」の構成員リストに、ケオン卿が載っていなかった事に由来する。

「ですが……」

「ご希望があれば、今一度、城のヤマト石に触れますが?」

不満そうなホーエン卿を見て、唇を皮肉げに歪めたケオン・ボビーノ伯爵が、簡単に身の潔白を証明する手段を提示する。

もっとも、それは貴族にとって非常に不名誉な方法だ。

「不要だ。それよりも、今はあの飛空艦の対処が先だ」

「同感ですな。閣下、あの艦を近寄らせてはなりません。公爵城の結界に接近する前に殲滅するべきです」

次期公爵の言葉に、ケオン・ボビーノ伯爵が過激な提案をする。

「公都の上空で大型飛空艦を撃墜せよと申すか?」

人口過密な公都でそれを行えば、間違いなく甚大な被害が出る。

「その通りです。ですが、それが最善です。閣下は『自由の翼』どもの手口をお忘れですか」

「……短角か!」

かつて、公都地下でオークの魔王「黄金の猪王」を復活させた魔王信奉者集団「自由の翼」達は、短角や長角と呼ばれる邪悪な呪具を用いて人を下級魔族や中級魔族へと変え、オーユゴック公爵領内の都市でテロ活動を行なっていた。

ケオン・ボビーノ伯爵は大型飛空艦が単なる戦闘艦ではなく、魔族達を内包した強襲艦ではないかと主張しているのだ。

「大型飛空艦の位置は!」

「もうすぐ闘技場上空に達します」

公爵の問いに風魔法使いが答えた。

闘技場は平民達の暮らす区画と貴族街の中間にある。

人的被害を抑えて撃墜するなら、最適な場所だろう。

「大型飛空艦に変化! 艦首にある大型の魔力砲が稼働を始めています」

その報告とほぼ同時に大型飛空艦を映していた水盤が白く染まった。

◇

「どこの大型飛空艇よ? ――なんて考える必要はないわね」

公爵城のバルコニーから黒い大型飛空艦を見上げるのは、公爵令嬢にして元勇者の従者であるリーングランデ嬢だった。

「リーングランデ様?」

「た、大変です」

彼女にバルコニーから押し出された文官と侍女が、驚きの声を上げた。

リーングランデ嬢は文官達に注意を払うこともなく、魔法のポーチから取り出した長杖を構え呪文の詠唱を始める。

一瞥しただけで、あの大型飛空艦を敵と認定したようだ。

もっとも、既に謎の光線によって、 飛竜騎士 ( ワイバーン・ライダー ) が両断された姿を目撃している以上、それは当然といえるかもしれない。

「■■ 魔力増強 ( ブーストマジック ) 、■■■ 精密魔素操作 ( マニュピレート・マナ ) 、■■■■ 魔力路接続 ( リンク・マナ・ライン ) 、ついでにとっておきの魔力増強剤――」

リーングランデ嬢は魔法行使の為の強化魔法やスキルを次々に行い、さらには勇者との旅で手に入れた希少薬品まで用いて強化を行う。

以前の彼女であれば、パリオン神から授かった 護符 ( タリスマン ) で、一瞬の内に行えたモノだった。

だが、勇者の従者を辞めた今では、その 護符 ( タリスマン ) も彼女の手元にはない。

「おおお、なんという魔力の高まりだ」

「綺麗」

魔法の素養を持つ文官と、素養のない侍女では、同じ姿を見ていても感じるポイントが違うらしい。

リーングランデ嬢達の視界の先で、大型飛空艦は 飛竜騎士 ( ワイバーン・ライダー ) や地上からの魔力砲部隊による迎撃が成されていたが、艦を守る魔力障壁は分厚く、未だに有効打を与えられていないようだ。

大型飛空艦は前進を続け、闘技場上空に達しようとしていた。

そして今、その艦首には厭な予感をさせる光を帯び始めている。

「リーングランデ様、敵艦が!」

「た、大変! に、にげ、にげ、逃げないと!」

慌てふためく侍女が、リーングランデ嬢に手を伸ばす。

それを視界に収めた文官が顔を引きつらせた。

ここまで魔力を高めた上級攻撃魔法を中断でもさせたら、行き場を失った膨大な魔力の奔流が彼らを襲うことが明白だからだ。

白魚のような手が、長杖を持つリーングランデ嬢の手に――。

◇

「近衛に連絡を!」

「研究者を早く避難させろ!」

王城の格納庫では聖骸動甲冑を勝手に動かした何者かによってパニックが起こっていた。

その為、その身を犠牲に研究者達の命を救い、落下してきた足場や鉄骨に埋もれたムーノ侯爵令嬢カリナの事を気にするのは、彼女の仲間達だけだった。

「カリナ様……」

「そ、そうです! カリナ様を助けなくては!」

システィーナ王女の呟きに、茫然自失から復活したゼナが自明の事を口にした。

「待ちなさい、ゼナ。あれを!」

土煙の向こうに、黒い影が動いた。

「もしかして、カリナ様?」

「……違うようですね」

土煙から姿を現したのは、瓦礫や鉄骨で作られたような奇妙な人型だった。

それらがリビングアーマーやスケルトンのように、ぎこちなく格納庫の床を徘徊している。

その内の一体が、逃げ遅れた研究者に手を差し伸べ――撲殺した。

「そ、そんな……」

「見ている場合ではなさそうね。来なさい、私のゴーレム達――」

システィーナ王女が妖精鞄から取り出した指揮棒を振る。

ゼナは人型の蛮行を阻止すべく、事務所から格納庫へと飛び出していった。

「我が剣に宿れ――魔刃」

ゼナが妖精鞄から取り出したミスリル合金の小剣に、魔刃を纏わせる。

天罰事件で使っていたゼナ専用聖剣の「風の小剣」は既にサトゥーの手によって再提供されていたが、白銀の騎士エアーではない今使わないつもりのようだ。

奇妙な人型をゼナが鎧袖一触で斬り捨てていく。

「す、すごい」

「ありがとう、騎士様」

「――可憐だ」

助けられた研究員達が口々に礼を告げる。

中にはおかしな感想もいたが、それはきっとゼナの清楚な美貌のせいだろう。

「早く避難してください!」

なかなか逃げない研究者達に業を煮やしたゼナが叫ぶ。

ゼナが倒す速度よりも、奇妙な人型が生まれる速度の方が早い。

「雑魚など放置して本体を叩け!」

「博士、早く逃げましょうよ!」

エチゴヤ商会のジャハド博士がゼナに向かって叫ぶ。

助手のアオイ少年が避難しようとしない博士の白衣を引っ張っていた。

「本体と言っても……」

国宝級の聖骸動甲冑を攻撃するという発想が彼女にはなかったようだ。

困りながら小剣で奇妙な人型を斬り捨てるゼナの周りで新たな動きがあった。

「むっ、新手か?」

格納庫の床から次々と現れる花崗岩の騎士達を見て、ジャハド博士が呟く。

「ゼナ! 雑魚はゴーレム兵団に任せて、本体を狙いなさい」

「それじゃ、これは殿下の?」

事務所の扉から叫ぶシスティーナ王女を見て、ゼナは状況を把握した。

戦いをシスティーナ王女のゴーレム兵団に任せたゼナが、飛行魔法を詠唱して空へと舞い上がる。

聖骸動甲冑は心臓部を納めた胸部装甲と両目を光らせるばかりで、最初の位置から一歩も動いていなかった。

おそらく、動甲冑を奪って乗り込んだ何者かは、聖骸動甲冑を扱いかねているのだろう。

「…… ■■ 気槌 ( エア・ハンマー ) 」

ゼナが得意とする風の大鎚が聖骸動甲冑の頭部を揺らす。

だが、その一撃では大したダメージを与えられていないようだ。

「効いてない。なら、上級の風魔法を――■■■■■……」

ゼナが空中で詠唱を始める。

それに危機感を覚えたのか、聖骸動甲冑の手指が僅かに動いた。

『おのれっ、羽虫がっ』

聖骸動甲冑から忌々しげな男の声が漏れた。

操縦者は試行錯誤中に外部スピーカーのスイッチを入れてしまったらしい。

聖骸動甲冑の腕や足を、起動の予兆たる魔力の光が走る――。

「どっせーい、ですわ!」

聖骸動甲冑の足下にあった足場の残骸や鉄骨が、気合いのこもったかけ声とともに吹き飛んだ。

「――あら、カリナ様」

事務所でそれを見たシスティーナ王女が、すっかり忘れていたとも取れる声色で呟いた。

上空のゼナの顔に安堵の色が浮かんだのが、せめてもの救いだろう。

『うおっ』

足下で飛び散ったガラクタに驚いた操縦者が一歩前に踏み出した。

両手を上に上げたポーズのカリナの上に、影が落ちる。

◇

「にゅ?」

シガ王国の王都にある王立学院幼年学舎で、空腹に耐えて授業を受けていたタマがむくりと顔を上げた。

「どうしたのです?」

「にゅー、何か変な感じ?」

ポチの問いにタマが首を傾げた。

そんなタマの肩を、隣の席のシロがつんつんと 突 ( つつ ) いた。

「タマ、チナ様から」

「せんきゅ~?」

「甘い匂い、なのです」

手渡されたのは、何か丸いモノを包んだ小さな紙片。

タマが包みを解くと、小さな飴玉と幼いながらに丁寧な文字で「昼食までこれで我慢なさい」と書かれた文章が目に入った。

飴玉を口に入れようとしたタマの視界に、涎を零しそうなポチの顔が入った。

タマは思わず手を止め、飴とポチを比べる。

飴は一個。

タマとポチは二人。

「難問~?」

腕を組んで眉を寄せたタマの視界に、分数を教える黒板が目に入る。

真円を二つに分ける図を見て、タマの目がキラリと輝いた。

「いんすぴれーしょん~?」

タマが爪の先に魔刃を出す。

しゅぴぴんと指を振ると、飴玉が二つに分かれた。

「はい、ポチ~」

「ありがとなのです」

飴玉を口に放り込んだ二人の表情がとろける。

すでにタマの脳裏には、先ほど気付いた「何か変な感じ?」は全く残っていなかった。

◇

「邪魔をするな」

「きゃっ」

リーングランデ嬢の腕を掴もうとした侍女の手を、すんでのところで文官が阻止した。

もっとも、腕を掴まれたくらいでリーングランデ嬢が詠唱を止めることはなかっただろう。

現に――。

「うおぉおおおお」

「きゃあああああ」

公爵城を守る防御障壁に、大型飛空艇の魔力砲が命中した轟音と振動が届き、文官や侍女が大声で悲鳴を上げるような状況でも、彼女の集中が途切れることはないのだから。

「……■■■■■■ 広域爆裂領域 《 マス・エクスプロージョン・フィールド 》 !」

公爵城の一角から、戦闘力に優れる爆裂魔法の中でも、対軍用として最大級の攻撃力を誇る魔法が放たれた。

一発一発が中級攻撃魔法の「 爆裂 ( エクスプロージョン ) 」に匹敵する爆発が、連鎖的に大型飛空艦を包んだ。

「リーングランデの魔法か――」

「さすがは『天覇の魔女』。『勇者の従者』とはこうも強大な力を振るえるのですね」

公爵城の司令室で、次期公爵とケオン・ボビーノ伯爵が言葉を交わす。

水盤に映る爆煙の中から、大型飛空艦が現れるのが見えた。

「まだ、沈んでいないのか?」

外部装甲を失い、煙と炎を吹き上げて満身創痍の様子だが、速力を落としながらも、まだ空に浮かんでいた。

「あれは? ゴーレムか?」

「ま、まさか、そんな……」

大型飛空艦の艦首に立つ存在を見て、ホーエン卿が顔を青ざめさせた。

「あれが何か知っているのか、ホーエン卿」

「あ、あれは動甲冑……王祖ヤマト様の伝説にある聖骸動甲冑に違いありません」

次期公爵の問いにホーエン卿が告げる。

「そんなはずはあるまい。聖骸動甲冑なら王都にあるはずだ」

その為にオーユゴック公爵やホーエン卿の父親達は王都に行ったのだから。

「いいえ、我が家にある聖骸動甲冑の肖像画そのものです」

ここに王祖ヤマト――ミツクニ公爵夫人がいたら、こう言っただろう。

あれは「覇王だ」と――。

◇

「あの攻撃を受けても沈まない? それに艦首のアレ、どうみてもアレよね?」

王都で見た聖骸動甲冑「将軍」と似ている。

リーングランデ嬢は次の一手を打つために廊下を駆ける。

目的地は観光省の飛空艇が着陸している城の発着場だ。

「リーングランデ様! どちらに?」

「イパーサ?」

廊下を駆ける彼女の下に、数名の近衛騎士が合流した。

彼らは原隊に合流するために移動中なのだろう。

「決まってるじゃない。反撃しに行くのよ」

「ですが――」

「遠くから攻撃が効かないのなら、接近すればいいだけよ」

上空の敵に攻撃が届かないと言いかけたイパーサを、リーングランデ嬢の言葉が遮る。

走りながら目的地と、敵の艦首に立つ存在が聖骸動甲冑である事を告げた。

「あれが?」

「伝説にある聖骸動甲冑……」

「どうして、聖骸動甲冑を乗せた船が公都を襲撃するのですか?」

「知らないわよ」

イパーサ卿を始めとする近衛騎士達の疑問を、リーングランデ嬢がばっさりと斬り捨てる。

その時、廊下から見える大型飛空艦に新たな動きがあった。

艦首に仁王立ちする聖骸動甲冑の装甲が次々に開き、赤い光を帯びたのだ。

「――まずいわね」

リーングランデ嬢の呟きよりも早く、大型飛空艦に対して一撃離脱を実行していた 飛竜騎士 ( ワイバーン・ライダー ) 達や火杖持ちの鳥人部隊が退避機動に入る。

だが、退避は少し遅かったらしい。

次々と魔力砲に焼かれた飛竜騎士や鳥人部隊が落ちていく。

「そ、そんなっ。王祖様の聖骸動甲冑がシガ王国の民を害するなんて」

「しっかりなさい。聖骸動甲冑に乗っている者が必ずしも善人とは限らないわ」

動揺する近衛騎士を、リーングランデ嬢が窘める。

こんな事なら請われるままに、大型飛空艦の艦首に立つ存在が、聖骸動甲冑だと教えるんじゃなかった。

僅かな後悔がリーングランデ嬢の脳裏を掠める。

「私は飛空艇に向かう。あなたたちは今の話をお父様に!」

「お待ちください。我らも攻撃魔法を使えます」

「早く行きなさい、あいつには私の上級爆裂魔法が効かなかったのよ」

護衛を申し出るイパーサ卿達を説得し、リーングランデ嬢は発着場へと駆け込んだ。

目の前で大型の魔力砲を積んだ中型飛空艇が浮上する。

遠くに見える敵の大型飛空艦上の聖骸動甲冑が腕を変形させた。

「何かする気ね――」

リーングランデ嬢は目的の小型飛空艇を見つけると、すぐさまに乗り込んだ。

「リーングランデ様? お外はなんだか騒がしいですねー」

轟音と振動をモノともせず、飛行服を着た家妖精ブラウニーの娘が、ツルツルと寒天を食べていた。

ちなみに黒蜜味である。

「さすがはサトゥーの部下ね。飛空艇を出して」

「はあ、構いませんが、何をするんです?」

焦りを帯びたリーングランデ嬢の言葉に、飛行服ブラウニーが こてり ( ・・・ ) と首を傾げた。

主のサトゥーから、滞在中にリーングランデ嬢が搭乗を希望したら乗せてやってほしいと頼まれていたので問題はない。

だけど、その飛行目的が少し気になったのだ。

「決まってるじゃない。敵を倒しにいくのよ」

「あくろばっと飛行してもいいです?」

「ええ、好きな機動で敵の攻撃を避けなさい」

「やったー!」

飛行服ブラウニーが諸手を挙げて喜ぶ。

「発進時点検リストの1番から256番まで省略――」

全ての点検をキャンセルした飛行服ブラウニーが、魔力炉と空力機関を強制的に起動する。

「――飛空艇、緊急発進!」

「む、無茶するわね」

リーングランデ嬢が発進時の強烈なGに耐えながら呟いた。

「でも、気に入ったわ」

リーングランデ嬢の呟きに、飛行服ブラウニーがニヤリと笑みを浮かべる。

彼女の視線の先では、既に飛空艇同士の戦闘が始まっていた。

城の上空に上がった中型飛空艇から大型魔力砲が放たれたが、それらは全て、聖骸動甲冑の前方に展開された傘状の魔力障壁に防がれてしまった。

今度は敵の大型飛空艦の艦首に立つ聖骸動甲冑の両腕から、巨大な炎弾が放たれた。

中型飛空艇が防御障壁を張りつつ回避機動を取る。

聖骸動甲冑から放たれた炎弾が空を焼きながら飛翔し、中型飛空艇を守る防御障壁ごと一撃で粉砕してみせた。

「とんでもない威力ね。ただの大型魔力砲じゃないわ」

あれは古代魔法王国の「魔砲」に違いない、と口の中で呟く。

中型飛空艇を屠った魔砲の巨大炎弾が、こちらにも飛んできた。

このサイズの飛空艇なら一撃で飲み込みそうな魔力砲弾を、飛行服ブラウニーは神業のような機動で紙一重に回避していく。

さしものリーングランデ嬢も、舌を噛まないように歯を食いしばるので精一杯だ。

「リーングランデ様、あれ!」

飛行服ブラウニーの視線の先では、攻撃を中断した聖骸動甲冑が胸部の装甲を開いてこちらを見上げていた。

何か新たな攻撃をしてくるつもりなのだろう。

「上等!」

リーングランデ嬢が操縦席の天井にあるハッチを開き、上半身を暴風に晒す。

彼女は両足で身体を固定し、愛用の長杖を構えた。

『りぃいいいいいいんぐらんでぇえええ』

聖骸動甲冑の方から、怨嗟の篭もった声が響く。

自分の名を呼ぶその声に、リーングランデ嬢は聞き覚えがあった。

「こ、この声はシャロリック殿下?」

かつて彼女の婚約者であったシガ王国の第三王子の名を呟く。

「どうして、そんな所に?」

リーングランデ嬢の疑問に答える声はない。

彼女の視線の先で聖骸動甲冑の胸が光を帯び、まばゆい輝きを放つ。

かつて、浮島で暮らすララキエの王に、神々が与えた神授兵器――「天罰砲」が今、この地でその猛威を振るおうとしていた。

◇

「――マズいわ」

孤島宮殿の滝に打たれていたアリサが、顔を蒼白に染めて呟く。

「急がないと――」

震える唇から紡がれた言葉が滝の音に打ち消される時、紫髪の幼女の姿はそこになかった。

※次回更新は 9/3(日) の予定です。

次はサトゥー視点に戻ります。

※天罰砲はデスマ書籍9巻の回想で登場したアダマンタイト合金製の軍艦をバターのように切り裂いた光線砲です。