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16-19.ヘラルオン神殿

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16-19.ヘラルオン神殿

※2017/10/31 誤字修正しました。

サトゥーです。いつの世も純粋な恋心ほど制御不可能なものはないのかもしれません。でも、便利な力や道具が手に入っても、恋するあまりストーカーにならないようにしないといけませんね。

◇

「こちらの部屋でお待ちください」

寒々とした牢屋のように殺風景な応接間にオレ達を残し、愛想の悪いヘラルオン神殿の神官が退出する。

一応応接間の中にイスはあるものの、硬い石製なのであまり座りたくない。

空間魔法の「遠見」で見た限り、この部屋以外はまともな感じだ。

勘違いではなくオレ達は、さっきの神官単体か神殿全体から嫌われているらしい。

「質実剛健な部屋ですね。ヘラルオン神というのは武神なのでしょうか?」

「神々の首座という記述があったと報告します」

リザやナナは待遇に不満はないようなので、格納鞄から取り出したクッションの良いイスを人数分取り出して腰掛ける。

せっかくなので、意趣返しにさっきの神官の様子を空間魔法の「遠見」と「遠耳」で覗いてみた。

「巫女ツリャ様、神託にあった黒髪の少年が現れました」

「本人でしたか?」

「はい、『神の試練に挑む者』などという称号を持つ者は他に見た事がありません」

神官の前に座るのは涼しげな巫女服に身を包んだ楚々とした少女だった。

サニア王国の人には珍しく、日に焼けていない白い肌をしており、その双眸は静かに閉ざされたままだ。盲目なのかもしれない。

見られているのに気づくかと思ったが、特にその様子はないようだ。

「儀式の前に一度ご挨拶をします。案内してください」

「承知いたしました。ですが、相手は粗暴な武人。巫女の身に万が一があってはなりません。神殿剣士を呼ぶまでお待ちください」

酷い言われようだ。

「不要です。彼は神の試練を受けに来られたお方。巫女に不埒な行いをしてヘラルオン神の不興を買うほど愚かではないでしょう」

「いけません。武人というのは考えるよりも先に手が出る人種です。不興を買わないように行動するのではなく、不興を買ってからどうしようか思案するような者達なのです」

偏見ここに極まれり、神官君は武人に何かトラウマでもあるのかもしれない。

もっとも、そう考えた後で、オレの脳裏にこの国の武人や魔法使い少女の姿が過ぎった。

うん、偏見ではないかも。

なお、マップ検索で調べたところ、この国の「神託の巫女」は彼女一人だった。

そう考えると、神官君が彼女の身の安全に気を配るのは当然かもしれない。

しばらく待つと、年若い女神官が現れて、他の応接間で待つ巫女ツリャと面会する事になった。

◇

「はじめまして、『神の試練に挑む』者。私はヘラルオン神に仕える『神託の巫女』ツリャと申します」

「シガ王国、サトゥー・ペンドラゴン伯爵です。巫女ツリャ殿にお会いできて光栄です」

静かな口調で話す姿は、年老いたエルフのような安定感がある。

彼女の後ろに控える神官君の仏頂面がなければ、何時間でも眺めていられそうだ。

当たり障りのない雑談を経て、本題へと入る。

「ヘラルオン神より試練を賜りたいのですが、いかがすればよろしいでしょうか?」

「神殿の準備はできております」

――ありがたい。

神託で試練に挑む者が来る事を知っていたから、準備を整えていてくれたようだ。

「星回りは今日を逃すと半月後まで待たないといけませんが、サトゥー殿はどちらをお望みですか?」

「急で申し訳ございませんが、本日でお願いできますか」

「なっ、今日ですとっ」

オレの言葉に反応したのは、仏頂面の神官君だった。

「何か、問題でも?」

「儀式は巫女の――」

「良いのです」

神官君の言葉を巫女が遮る。

なおも神官君は何か言いたげだったが、巫女の意向に逆らう事ができないようで、そのまま黙り込んだ。

余計な口を挟まれる事はなさそうなので、テニオン神殿の儀式で用いた秘術を使う事を承諾してもらう為に色々と説明する。

最初は難を示していた巫女ツリャと神官君だったが、肉体の接触が最小限に減らせる事を告げた途端――。

「それは素晴らしい! ツリャ様、ぜひ使っていただきましょう!」

――と言って神官君が喰い気味に賛同してくれた。

どうやら、神官君は巫女ツリャに惚れているらしい。

彼の勢いに押されて、巫女ツリャが若干引き気味にだが使用を承諾してくれた。

儀式の準備の為に巫女と別れ、オレは神官君とは別の女神官に案内されて、儀式服に着替えさせられた。

「巫女の準備が済むまでお待ちください」

そう言われて、リザやナナとお茶を頂く。

待ち時間に一人の神官が寄ってきた。

「伯爵様、シガ王国はたいそう豊かな国と伺っております。この大陸でも随一とか」

なんだろう? この唐突なおべっかは?

そう思ってAR表示の詳細を確認して理解した。

彼は神殿の募金担当者だ。

「随一かどうかは存じませんが、豊かだと私も思います。時に神官殿、巫女殿にご苦労をおかけするお詫びに、この神殿へ幾ばくか寄進したいのですが、どなたに申し出ればよろしいでしょう」

「それならば私が手続きを行いましょう」

オレがそう申し出ると、募金神官がはじける笑顔で請け負ってくれた。

イケメンの笑顔は特に欲しくないが、ちょうどいいので格納鞄から取り出した寄付金を彼に預ける。金貨百枚ほどでいいだろう。あとオマケも。

「こちらの小さな袋は?」

「それは巫女殿個人へ贈る品です」

「個人に、ですか?」

「ええ、同じ儀式を行なったテニオン神殿の巫女殿が非常に消耗されていたので、それを癒やすための品です」

訝しげな募金神官にオマケが入った小袋について説明すると、納得の顔になって巫女の傍仕えらしき巫女見習いを呼んで小袋を預けた。

「伯爵様、儀式の準備が整いました」

オレはリザとナナを控え室に待たせて儀式の間へと向かう。

ある程度予測していたが、ここも肌色が多い。

巫女ツリャが盲目なせいもあると思うが、裸身を隠そうとしないのでちょっと目のやり場に困る。

念話や精神魔法を使う事で肉体接触が不要になるから、肌を露出する必要がないという事を伝え忘れた。

今更儀式を中断してまで伝えるのもなんなので、次の儀式からちゃんと伝えるようにしよう。

◇

オレは心を無にして儀式に臨む。

儀式の手順はテニオン神殿と同じだ。

オレはわざわざ詠唱して、精神魔法の「 精神接続 ( マインド・コネクション ) 」で巫女ツリャと心をつなぐ。

ついでに念話スキルも使用して精神同調を補助する。

『不思議な感覚ですね』

巫女ツリャが感心したように呟いたあと、神への呼びかけを始めた。

『――神よ。我らが崇める偉大なる神よ』

お? テニオン神への呼びかけと少し違う。

巫女ツリャの呼びかけに応えたのか、空から明るい光が降ってきた。

日焼けしそうな熱烈な光だ。真夏の海で身体を焼くように肌がヒリヒリする感じだ。

恍惚の表情をしていた巫女ツリャから表情が抜ける。

トランス状態に入ったようだ。

『試練に挑まんとする不遜なる者よ』

威厳のある渋い男性の声が脳裏に響く。

これがヘラルオン神の声らしい。

『個人の武を示せ』

神様の指定した相手と戦うのかな?

『近く国を揺るがす災いが起こる』

また国家の危機か……常々感じるが、この世界は現地民にとってハードモード過ぎるんじゃないだろうか。

『それを我が名代として収めてみせよ』

オレの脳裏に、豪奢な装飾が施された黄金の剣が思い浮かぶ。

この剣がヘラルオン神の名代である事を示すのかな?

『あまねく我が名を民が崇めたなら、汝に証を与えよう』

さすが、神の試練。

なかなか難題だ。

『ヘラルオン神よ、災いとはどのようなモノでしょう?』

そう問いかけてみたのだが、ヘラルオン神からの応答はなく、そのまま神との交信は途絶えた。

テニオン神のように言葉のキャッチボールが好きではないらしい。

むしろ録音済みの音声を聞かされたような感じだった。

◇

「国を揺るがす災い、ですか?」

「ええ、心当たりはありませんか?」

儀式の後、休憩ついでに態度が軟化した神官君に、災いとやらについて尋ねてみた。

「あるにはありますが……」

なんだか歯切れが悪い。

「私はこの国について疎いのでどんな事でも構いません」

「でしたら――」

そう告げると、ようやく話し始めてくれた。

「この国に年二回、砂魔蠍の大群が襲ってくる件はご存じですか?」

「いえ、初めて伺いました」

オレは首を横に振りながら、マップ検索で砂魔蠍を調べてみる。

レベルは5から30くらいの幅があるが、ボリュームゾーンは15から20くらいのようだ。

どのくらいの数が襲ってくるのか知らないが、この国の規模だと結構な危機に違いない。

もっとも、年二回も襲ってきているなら、対応策くらい十分にあるだろうから、オレが「個人の武を示す」必要がある相手とは思えない。

「いつもは我がヘラルオン神殿から出した神官達や王国の『杖の一族』と『剣の一族』が退けるのですが……」

神官君が明言を 避 ( さ ) けて言いよどむ。

そういえばクーデターというか内輪モメがあって、「杖の一族」が失脚したんだったっけ。

名前的に「杖の一族」がアウトレンジから砂魔蠍を間引く役割だろうから、その一族の主戦力が内輪モメで死んでいたらヤバイかもしれない。

普通に考えて、「杖の一族」がいなくても大丈夫だから排除したんだと思うけど、昨晩の剣聖や脳筋兄妹を見ていると、後先考えずに覇権をゲットして喜んでいる可能性があって怖い。

「他にはありませんか?」

「昔話でよろしければ、砂嵐の結界に隠された砂塵迷宮の遺跡に眠る『陸王』の伝説があります」

神官君の話によると、陸王というのはサニア王国ができるよりも遙かな昔、おおよそ2万年前に世界中の神殿を滅ぼした神敵のシモベだった存在らしい。

こちらは完全に昔話レベルの話だったが、神の試練としてはこっちの方が可能性が高そうだ。

砂嵐の結界というのはサニア王国に来る前に見たヤツだろうから、直接確認に行くのは簡単だけど、そこで直接倒すのは「あまねく我が名を民が崇めたなら」というヘラルオン神のオーダーをクリアできない。

ここは待ちの一手みたいだから、孤島宮殿でヒマしている仲間達とお忍びでサニア王国を観光しながら情報を集めてみよう。

でも、その前に――。

「最後にもう一つだけ」

オレは神殿を去る前に神官君に尋ねた。

「黄金の剣に心当たりはありませんか?」

※次回更新は 10/29(日) の予定です。