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16-21.サニア王国(2)

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16-21.サニア王国(2)

※2017/11/6 誤字修正しました。

※2017/11/11 一部修正しました。

サトゥーです。ホエール・ウォッチングに参加した事はありませんが、釣り船で沖に出た事はあります。釣れたての魚を天ぷらにして食べるのは最高の贅沢だと思うのです。

◇

「へー、思ったよりも人が多いね」

昼食の時に話を聞いた砂魔蠍狩りの見物にやってきた。

サニア王国ではちょっとした娯楽らしく、船着き場には物見遊山な人達がけっこう集まっており、カヌーサイズの砂上船二隻に分乗するらしい。

「マスター、幼生体がいないと報告します」

危険な狩りの見物だけあって、ナナが言うように子供は一人もいない。

「ご主人様、狩りを行うのはあちらの軍船のようです」

リザが三隻の軍船を指さす。

マップ情報によると、弓を携えた船員達に加え、火魔法使い七人と風魔法使い三人がおり、さらに「剣の一族」の剣士も三人ほど乗り込んでいるようだ。

軍船が出航すると、オレ達の乗る見物船も後をついて小砂海へと乗り出した。

砂色なので見分けにくいが、奥行き三メートル、幅数百メートルほどの防波堤のようなモノが幾つも小砂海にある。

「あの防波堤みたいなのは何だい?」

ちょっと気になったので、近くの船員に尋ねてみた。

「ああ、あれは『蝕』の時に砂魔蠍の群れを誘導する為のモノですよ」

船員の説明を聞いた後に、マップ表示をみると防波堤が敷設された意図がよく分かる。

数カ所に誘導した砂魔蠍の群れを、「杖の一族」の魔法で殲滅するのだろう。

防波堤を越えて、二時間ほど沖へ出たところで軍船が帆を畳み、クレーンのようなモノに半身の山羊肉を吊り下げる。

「あの腐肉の臭いを風魔法使いが拡散し、その臭いに釣られたサソリどもが船に寄ってくるのです」

船員の一人が軍船の行動を解説してくれた。

「ご主人様、来ます」

リザが遠方から接近する砂魔蠍を見つけたようだ。

軽トラックくらいの大きさをした砂魔蠍が、小砂海を泳ぐように向かってくる。

「マスター、軍船の弓使いがサボっていると報告します」

「あー、ありゃ、砂鰐やハゲタカ用だよ。分厚い甲殻に覆われたサソリには、弓矢なんてちゃちなモノは効かないのさ」

ナナの告発を、近くにいた船員が否定する。

「おお! 魔法使い達が攻撃を始めたぞ!」

軍船から砂魔蠍に向けて撃ち出された数発の火弾や火球を見て、船客が歓声を上げた。

攻撃しているのは火魔法使いが多い。風魔法使いで攻撃している者もいるが、ほとんどは見守っている。彼らは移動補助や砂魔蠍を釣り出すのが役目のようだ。

「砂漠なら土魔法の方が効率的じゃないか?」

「土魔法使いがあんな危ない仕事をするかよ。あいつらは幾らでも仕事があるからな」

魔法に詳しい船客達が言葉を交わす。

「あまり効いていませんね」

リザが言うように、魔法使いがへっぽこのようで、火や風の攻撃魔法は砂魔蠍の甲殻で受け流されて、ほとんど有効打を与えられていない。

一応、徐々に砂魔蠍の体力を削っているけど、軍船に砂魔蠍が取り付く方が早そうだ。

「そろそろ御大のお出ましだ」

常連客らしい商人が、中央の軍船の船尾を指さして叫んだ。

そちらに視線を向けると、のっそりと「剣の一族」の男性が三人ほど立ち上がるのが見えた。

「行くぞ!」

「「応!」」

彼らは雄叫びを上げて船尾から船首へと駆け抜け、その勢いのままに砂魔蠍に躍りかかる。

「絶技――《甲殻砕き》」

「絶技――《 髪間貫き ( かみまつらぬき ) 》」

「絶技――《髪間貫き》」

一人目の必殺技が砂魔蠍の首元の甲殻を砕き、そこに二人目と三人目の剣が砂魔蠍の首元に抉り込まれる。

さすがに一度の攻撃では倒せないらしく、砂魔蠍が左右のハサミで背中の三人を襲う。

その攻撃が来るのを予想していたのか、三人の剣士は砂魔蠍の背中から飛び降り、砂海へと着地した。

「マスター、流砂に沈まないと報告します」

小砂海の砂はきめが細かすぎて、着地すると雪原や水面のように沈んでしまう。

よく見ると、剣士の靴がカンジキのような変形をしていた。

「あれは砂魔蠍の足にある 砂膜 ( すなまく ) を使った靴ですよ」

商人がナナに愛想良く伝え、「ご用命の際は我がトンベル商会へ」と売り込みをしていた。

やがて、三人の剣士達は魔法使いの支援も必要とせず、砂魔蠍を倒しきった。

「皆様、まだまだ 見物 ( みもの ) は続いていますぞ」

戦闘が終了して舷側から離れる見物客達に、常連客が声を掛けた。

軍船の舳先に立った風魔法使いが杖を振り上げ詠唱を始める。

呪文が完成すると、軍船から生き物のようにロープが伸び、砂に半ば沈んでいた砂魔蠍に絡みついて動きを止めた。

今度は軍船の船員達がそのロープを必死に引っ張る。最後は人力のようだ。

その間、三人の剣士達は砂魔蠍の上で悠々と座っていた。

まるで王様やガキ大将のような態度だ。

◇

「ご主人様、また新たなサソリです」

リザが少し離れた砂海に顔を向ける。

回収している最中に二匹目の砂魔蠍が現れたようだ。さっきより少し小さい。

軍船の船員達が回収作業を放棄して迎撃を始める。

「あ、また来た」

さらに、三匹目、四匹目が寄ってくる。

レーダーに映るサソリの数が、どんどん増えていく。

「けっこうたくさんいるんですね」

「いや、蝕でもないのにこんなに出るのはおかしい」

オレの言葉に常連客が焦ったような口調で否定した。

前に聞いた話だと、次の「蝕」は二ヶ月後だったはずだ。

「お客さん、なんかおかしい。船を港に戻すぞ」

「少し待ってください。このまま放置したら、あっちの船が危ないですよ」

オレは船員の一人が持っていた長弓を借りる。

「止めろ、あいつらに弓矢なんて効かないんだ」

「そうですか?」

軽く構えて弓を射る。

先端に小さな赤い輝きを帯びた矢が、砂魔蠍を軽々と貫く。

弓の弦が弱めだったので、鏃の先端に極小の魔刃を生み出してみた。

「そ、そんなバカな!」

「弓矢でサソリを倒すだと!」

一撃で砂海に沈んだ砂魔蠍を見て、船員や常連客が驚きの声を上げた。

「私もお手伝いいたします」

リザが妖精鞄から鋼鉄製の投げ槍を取り出し、サクサクとサソリを討伐していく。

「うわっ、 砂地虫 ( サンド・ワーム ) だ!」

船の傍で砂上に現れたワームをナナが丸盾で殴り倒す。

砂魔蠍を捕食しようと現れたのだろう。

軍船もサソリを切り離して撤退準備を進めるのが見えた。

「さあ、一緒に逃げましょう」

オレ達は砂魔蠍を振り切り、港へと帰還する。

マップにはサニア王国の都を呑み込みそうな数の砂魔蠍が映っていた。

きっと、オレが果たすべき 試練 ( クエスト ) は、あの膨大な砂魔蠍を「黄金の剣ヘラルサゥフ」で倒す事に違いない。

魔法も使わずにチマチマ倒すのは骨が折れそうだが、それが試練だというならクリアしてみせよう。

まずは王都に戻って、剣聖から「黄金の剣ヘラルサゥフ」を借り受ける算段を立てようかな?

◇

「この危急の折に、何を馬鹿な事を言っておる?」

王城に出向き、剣聖と面会する事はできたのだが、「黄金の剣ヘラルサゥフ」の貸与依頼は一笑に付されてしまった。

「寝言は寝てから言え」

顔を怒りに赤黒くした剣聖が、「剣の一族」の幹部達を引き連れて部屋を出ていく。

なお、ここにはナナに弟子入りを志願しているザンザ少年とミュファの兄妹が案内してくれた。

「伯爵様はなんで『黄金の剣』が必要なんだ?」

ザンザが不思議そうに尋ねてきた。

「そうよ、あんな剣、碌なもんじゃないわ」

「ミュファ!」

吐き捨てるように言うミュファを、兄のザンザ少年が叱責する。

「だって、兄様」

「言うなミュファ」

なんだか兄妹が訳ありげな言葉を交わす。

「でも、あの剣のせいで父様は……」

「しかたないさ。神の力を身に宿すには、代償が必要なんだ。俺だって剣聖になれたら、寿命だってなんだって差し出すさ」

どうやら、やばいアイテムだったらしい。

ただでさえ寿命の長い相手に恋しているのに、寿命を削られるようなアイテムを使うのは遠慮したい。

剣聖の持つ「黄金の剣ヘラルサゥフ」の模造品を作って、それを使うとしようかな?

ヘラルオン神のオーダーは「それを我が名代として収めてみせよ」「あまねく我が名を民が崇めたなら、汝に証を与えよう」だから、民衆がオレの持つ模造品を本物だと認めたらそれでOKだと思う。

「ザンザ、ミュファ! こんな所で油を売っていたのか! 早く集合しろ!」

呼びに来た男性に引き連れられて、ザンザ少年とミュファが去っていった。

マップ情報によると、小砂海でサニア王国の軍隊と砂魔蠍の戦いは始まっているようだが、まだ小規模な集団としか接していないらしい。

本格的な大集団との衝突は5~6時間ほど後になるはずだ。

◇

「なるほど、アレが『剣の一族』の切り札か」

出港する軍船の傍らには、「サニア王国」や「剣の一族」の旗が付けられた砂魔蠍の姿があった。

AR表示によると、あの旗付き砂魔蠍は従魔の一種らしい。

――あれは。

砂魔蠍の頭部に見覚えのある物体を見つけた。

イタチ帝国が魔物を使役する為に使っていた「ネジ」と呼ばれる魔法道具だ。

「ご主人様、あの男から剣を奪うのであれば私が――」

「いや、サニア王の許可が貰えたとはいえ、彼が戦場で倒れるまでは手をださないよ」

ここに来る前に、サニア王の所へ寄って黄金剣を貸してもらえないか尋ねにいったところ、あっさりと許可が貰えたのだ。

気弱なサニア王らしく、大国であるシガ王国の権威とオレの魔王殺しの称号に怯えたように、がくがくと頷いてくれた。

さすがに少し良心が咎めたが、神の試練をクリアするためなので気にしない事にしよう。

戦場に向かう前にちょっとだけ、失脚した「杖の一族」を解放する事も考えたけれど、ハイファ嬢の印象が強すぎて実行に移す気になれなかった。

「マスター、砂上ヨットを購入してきたと告げます」

「ありがとう、ナナ。それじゃ行こうか」

オレ達はナナが入手してくれたヨットに乗って、軍船の後をついていき、砂上で戦う姿を観戦する事にした。

「なるほど、従魔に組み付かせて、その間に新しいネジを打ち込んで従魔を増やしていくのか」

この戦法に自信を持ったから、「杖の一族」を排除する事に決めたのだろう。

だが――。

「サソリが多すぎますね」

「同意すると告げます。軍船に接敵される事が多くなってきたと報告します」

軍船に乗り上げてきた砂魔蠍は、剣の一族の剣士達が絶技で倒している。

あの絶技とやらは砂魔蠍を倒す事に特化しているらしい。レベル差からは考えられないほどサクサク倒している。

「おっ、『黄金の剣』を使うみたいだ」

剣聖が黄金色に輝く剣を携え、軍船の舳先に立っている。

彼の視線の先には、五〇体近い砂魔蠍の集団が砂煙を上げて迫ってくる姿があった。

「ヘラルオン神よ、天よりご照覧あれ! 『黄金の剣ヘラルサゥフ』よ! 我が魂を喰らい力となせ!」

黄金色の剣を包んでいた光が、剣聖の身体を覆っていき非常に派手だ。

「秘絶技――《太陽閃剣》」

剣聖が 一薙 ( ひとな ) ぎすると、五〇体近い砂魔蠍の七割近くが一撃で行動不能になった。

数を減らした砂魔蠍達に向かって「剣の一族」の剣士達が躍りかかっていく。

その中にはザンザ少年とミュファの姿もあった。

「絶技――《黄金剣》」

ザンザ少年の持つ銀色のミスリル剣が、黄金剣のような金色の光に包まれた。

彼が黄金に光る剣で切りつけると、硬そうな砂魔蠍の甲殻がバターのように簡単に斬り裂かれていく。

魔刃の派生系の技だと思うけど、AR表示されるザンザ少年の 魔力 ( MP ) ゲージを見る限り、魔力効率が悪そうな技だ。

「このままだと出番なく終わっちゃうかな?」

「マスターの予想を否定すると告げます」

「ご主人様、剣聖の乗る軍船以外は押されているようです」

マップで見るまでもなく、二人が言うとおり、戦線が徐々に後退し始めている。

先ほどのような五〇体規模の小集団が、二倍三倍になっていけば、剣聖達も砂堤防の内側に押し戻されてしまいそうだ。

それに――。

「な、なんだ、アレは!」

「砂魔蠍を喰らいに 砂地虫 ( サンド・ワーム ) どもが集まってきたのか!」

砂を突き破って現れた巨大な 地虫のようなモノ ( ・・・・・・・ ) を見て、剣士達が叫びを上げた。

それらの直径は砂上船の船腹と同じくらいある。

「増殖フィーバーだと告げます」

ナナの言葉通り、視界の先で 地虫のようなモノ ( ・・・・・・・ ) が次から次へと砂から現れて、砂上船を沈めていく。

見殺しにするのもアレなので、アイツに飲み込まれたヤツや、砂に没したヤツらはサニア王国のハズレに転移させておいた。

「ご主人様、来ます」

広範囲の砂海が持ち上がり、津波のように押し寄せてきた。

オレ達のヨットは「理力の腕」で支えているから大丈夫だが、他の軍船は大変な感じだ。

剣聖の乗る旗艦は、船長や船員の腕が良いらしく、転覆を免れていた。

「ば、馬鹿な! なぜ、アレがここに来るのだ!」

剣聖が砂海を割って現れたモノに向かって叫ぶ。

「アレは砂塵迷宮に封じられ、何者も近寄れぬようにサニア王が封じているのではなかったのか!」

そいつはなんとも形容しがたい姿をしていた。

無数に足がある象亀の背にイソギンチャクを乗せ、イソギンチャクの触手が全て 砂地虫 ( サンド・ワーム ) のようになっており、頭部はヒュドラのように複数本生えている。

「愚王め! 唯一の仕事すら満足にできぬとは!」

剣聖が荒ぶる。

「剣聖様! 中央の頭をご覧ください!」

「あ、あれは!」

――げげげっ。

帆船のフィギュアヘッドみたいに、女の人がくっついている。

しかも見知った顔だ。

「あの者は砂賊から助けたハイファという娘ではありませんか?」

人の顔を覚えるのが上手いリザが報告してくれた。

「『杖の一族』め! 砂嵐の結界を敷く立場を利用し、復権の為にそこまでするか!」

剣聖もハイファの事を知っているようだ。

「だが、その命運もこれまでだ」

黄金剣を天に突き上げながら、剣聖が猛々しく吠える。

「ヘラルオン神の加護を与えられし『黄金の剣ヘラルサゥフ』と我が秘絶技『太陽閃剣』の前に敵はいない」

天に伸ばした黄金剣を、ビシッと目の前の敵に突きつける。

「滅びろ――『陸王』」

身体を黄金色に輝かせた剣聖が、陸王に向かって乾坤一擲の大勝負に打って出た。

※2017/11/11 サニア王に言質を取った後のサトゥーの地の文を変更しました。