LNCrawler

5-5.大羽蟻(2)

デスマーチからはじまる異世界狂想曲( Web版 ) — ncode.syosetu.com · All chapters

5-5.大羽蟻(2)

※2018/6/11 誤字修正しました。

※4/21 描写が変だった箇所を修正しました。

サトゥーです。昔はシューティングゲームが流行っていたそうですが、実は遊んだことがありません。FPSは仕事柄、ゲームショーなどで遊んだ事があるのですが……。

◇

飛び上がった 大羽蟻 ( フライング・アント ) 達は、8匹の編隊を組み終わった群れから順番に、この馬車を目掛けて襲ってくる。

オレは御者をしているルルを除く4人にもクロスボウを渡し、操作方法を簡単にレクチャーする。

梃子 ( てこ ) を使って弦を引き、 短矢 ( ボルト ) をレールにセットして引き金を引く。命中させる事を考えなければ実に簡単だ。

「構えっ……撃て!」

オレの合図に合わせてボルトが飛ぶ。狙うのは接近中の群れだ。

3匹撃墜できた。次の矢を番え、もう一射する。今度は2匹だ。

次の矢は間に合わない、最初に打ち合わせていた通りアリサが 精神衝撃波 ( ショック・ウェーブ ) で残りの3匹全てを撃墜する。

次の群れは、さっきよりも接近されていたのでクロスボウで一射した後に 精神衝撃波 ( ショック・ウェーブ ) で削り、残った2匹をリザの槍とゼロ距離で撃ったオレの矢で仕留める。

「ご主人さま、MP回復薬持ってない?」

アリサに3本ほど渡す。アリサは受け取るとドリンク剤のCMのように腰に手を当てて一気飲みする。

「次のはヤバいわ」

そう、今度は3つの群れが同時に襲ってきている。話しながらもオレ達は矢を撃ち込んでいるが、数が減ったようには見えない。まだ距離があるのが救いだ。

「 全力全開 ( オーバー・ブースト ) の使用許可をちょうだい。半分以上はなんとかできるはずよ」

会話の合間に、アリサは2本目を呷る。

「わかった、許可する」

「さんきゅー、愛してるわ」

変なフラグを立てようとするな。

アリサの軽口が少し硬い。

「 全力全開 ( オーバー・ブースト ) !」

アリサの 合言葉 ( コマンド・ワード ) に合わせて体から紫色のオーラが湧き出る。

長杖を構え、口頭で詠唱を始める。

紫のオーラが杖を中心に幾つもの魔法陣を描いていく。

「■■■ ■■■■■■■ ■■■ ■■■■■ 精神衝撃波 ( ショック・ウェーブ ) 」

不可視の衝撃波が蟻の群れを蹂躙していく。直撃を受けた者は、これまでと違い頭部から体液を流して絶命し、余波を受けたものも錐揉み状態になって落ちていく。

アリサは半数と言っていたが、実際には3つの群れ全てが戦闘不能になった。さすがはユニークスキルだ。

気を失って倒れこむアリサを優しく抱きとめる。

「目が回る~」

「クルクル~なのです」

「アリサの魔法の影響でしょうか、少し眩暈がします」

3人も余波で腰が抜けたようだ。アリサをリザに預け、遅れてやってくる残り物の5匹の群れを、片付ける事にしよう。

ルルに馬車を止めてもらう。

「ポチ、タマ、クロスボウの弦を引いておいて」

「あい」「です」

2人ともヘタり込んでいるが、頑張ってクロスボウを準備してくれる。

クロスボウを撃つたびに、ポチやタマが装填してくれた物と交換する。

気分は長篠だ。

片付けた後も、レーダーとマップを確認しながら見えない位置にいる気絶した蟻に止めの矢を曲射していく。昔読んだマンガの主人公がしていたのを思い出して試してみたんだが、本当に命中するとは思わなかった。

観測手が居ないので、敵の比較的密集している場所に撃って位置の微調整の感覚を覚えてから順番に撃っていく。命中率は2割以下だったけど十分だろう。

最初の方に撃ち落とした何匹かは生きているが、さすがに2キロ近く向こうの敵に当てるのは無理だ。矢が届かない。

◇

オレ達は小休止を取り、馬と自分達の喉を潤した。

「疲れたけど、皆無事でよかった」

「ちかれ~」「たのです」

「アリサが目を覚ましませんが大丈夫なのでしょうか?」

「一晩寝かせておけば大丈夫だろう」

AR表示で、ゼロになっていたアリサのスタミナと魔力が徐々に回復しているのが見える。

ルルが水を濡らしたタオルで、汗を拭ってやっている。

「リザ達は、 魔核 ( コア ) の回収と一緒に、いくつか針と毒腺の回収も頼みたい」

「針は分かりますが、毒腺とはどの部位でしょう」

説明しにくかったので、一匹を解体してもらい毒腺の場所を教えた。

「針はこちらの袋に、毒腺はこの容器に入れてくれ。どちらも5つもあれば十分だ。くれぐれも服毒しないように注意してほしい」

遠くに残っていた残りの蟻達は引き上げるようだ、マップの光点が遠ざかっていく。

御者はルルに任せて、オレは毒腺と幾つかの素材から「毒消し:大羽蟻」を調合する。1回の調合で5回分できた。

赤兜が置いていった「姫」は馬車から降ろして、調合しているオレの側で寝かせている。地べたに直接でも良かったが、子供を虐待しているような気分になったので広げたシートの上に寝かせた。

「ご主人さま、アリサが目を覚ましました」

「ちょ、ダメ~ ご主人様に『アリサが目を覚まさないんです』って言ってMP回復薬を口移しで飲ませてもらうように誘導してって言ったじゃない~」

実にアリサらしいが、自分の悪事をバラしてどうする。

今日は頑張ってくれた事だし、デコピンは勘弁してやろう。

ルルに肩を借りたアリサが馬車の後ろまでやってきた。両手を広げて「降ろして」と言うので降りるのを手伝ってやる。

案の定、降りるときに首筋に抱きついてくる――それをフェイントにキスを狙ってきやがった。

辛くも回避に成功し地面に座らせてから、デコピンαを額に打ち込む。αに意味は無い。

「あうっ、愛が痛い」

「はいはい、愛してるよアリサ」

馬車を見るとルルも恥ずかしそうに両手を広げている。アリサが何か吹き込んだな。

珍しく甘えを見せるルルを優しく抱き上げて降ろしてやる。もちろんルルは抱きしめてきたりしない。

でも、恥ずかしそうな表情でじっと見つめるのは止めてほしい。年齢差を忘れてクラっときそうだ。

「ところで、これ何? ネズたんから何か貰ってたヤツ?」

ネズたんって……赤兜の事か。えらく可愛い呼び名だな。

「赤兜は姫って言っていたぞ」

「まぁ、姫ですって! これだけ色んな種族の美女を侍らしておいて、今度は鼠のお姫様までハーレムに加えるつもりなの! コレだから男って!」

芝居臭いというか、なんというか。

「ご、ご主人さま……」

あれ? ルルもしかしてアリサの言葉を真に受けちゃってる?

「わ、私もご寵愛を頂ける様に頑張ります」

「はいはい、可愛いよルル。でも寵愛は、あと5年くらい女を磨いてからにしてね」

戦闘後で気持ちが昂ぶっているのか、ルルのテンションが変だ。ついアリサにするみたいに返答してしまった。

ルルが頬に両手を当てて身を捩っている。可愛いけど、どうしようコレ。

「ただい~」「ま~」

「ただいま戻りました、ご主人様」

いいタイミングで3人が帰ってきた。容器に入った毒腺が5つ。 魔核 ( コア ) がたくさん入った袋。そして――

「このたくさんの毒針は?」

「はい、5つでいいというお話でしたが、使い捨ての槍を作るのに使えないかと思って回収してきました」

「なるほど、今度作ってあげるよ」

「はい! ありがとうございます」

忘れそうなのでメモ欄に記入しておく。こういう約束を忘れると、ちょっとずつ人間関係が悪化していくんだよな。

さらにポチとタマが赤兜や鼠騎兵の装備品の一部を回収してきていた。遺体は残っておらず、兜以外の鎧も喰いちぎられて壊れていたので放置してきたらしい。あと、指示するのを忘れていたけど、折れたものも含めボルトは全て回収してきてくれたようだ。

リザは 六足猪 ( ダッシュ・ボア ) の肉が一欠けらも残っていなかった事を酷く嘆いていた。

赤兜から預かった「姫」はまだ目を覚まさない。

このままだと蟻の残骸目当てに獣が集まってくるかもしれないので、オレ達は馬車を何キロか先に移動させることにした。

野営地は、小さな池が近くにある広場にした。池の側にしなかったのは、ルルが異常に怖がったからだ。何かトラウマでもあるのかもしれない。

◇

オレは、馬達のケアを終わらせて、ルルが料理の手伝いの合間に入れてくれたお茶を飲みながら読書中だ。

前に買った旅行記を斜め読みしているんだが、メニュー上に展開している状態で読んでいる。まわりから惚けているように見えるのも嫌なので、その対策に生活魔法の入門書を広げて、適当に捲っている。

普通に本を読めばいいのかも知れないが、メモを取ったり類似項目を検索したりできるからメニューの方が便利なのだ。

リザとルルが夕食を作るいい匂いがしはじめてきた。今日の夕食はオレのリクエストで豆のスープが付く。

「お~い」「えもの~」「獲ってきたのです~」

狩りに行っていた3人が帰ってきた。今度は妖精とってきたとか止めてくれよ~

本の表示を横にスライドさせて声の方を見る。アリサを先頭に、タマとポチが頭上に猪――もちろん4本足だ――を掲げている。

蟻の残骸を漁りに来たところを無詠唱の 精神衝撃波 ( ショック・ウェーブ ) で気絶させてからポチとタマが仕留めたらしい。

「ご主人さま、味見してください」

ルルが小鉢にいれたスープを持ってくる。

アリサが「ご主人様だけずる~い」と言ってくるが、豆のスープだというと興味を失って猪を解体するリザの方に行ってしまった。

味見をする。うん、高級料理店で買った胡椒を使っただけあっていい味になってる。

「美味しいよ、今から夕飯が楽しみだ」

「はいっ! 頑張って手伝ってきます」

ルルの表情もだいぶ自然になってきたな。

ちょっと、ほっこりした気持ちになったオレの横で、鼠たちの「姫」が目を覚ました。