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16-32.ガルレオン同盟(8)

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16-32.ガルレオン同盟(8)

※2018/1/22 誤字修正しました。

※2018/1/27 一部修正しました。

今回はシスティーナ王女視点です。

「システィーナ様!」

孤島宮殿の居間でくつろいでいた私達の所に、飛空艇の操縦士を任せているブラウニーが呼びにきた。

「もうすぐガルレォーク市上空でっす」

「やはり飛空艇は速いですわね」

ミーア様やカリナ様と一緒に飛空艇へと戻る。

私達と入れ替わりで、良い香りの焼き菓子を携えたルルが部屋に入ってきた。

「リザやナナは訓練かしら?」

「ナナさんは学校ですけど、リザさんはヘイロンさんと『すぱーりんぐ』だと言っていました」

そういえばナナはポチやタマと一緒に学校に通っていると言っていた。

リザはサトゥーの保有する異界の一つで、黒竜ヘイロンと訓練中らしい。

あの戦闘種族ドラゴンと人の身で戦えるというのは、何度聞いても――たとえ魔王殺しという事実を知っていても――なお信じられない。

もしかしたら、リザなら魔王が相手でも勝てるのではないかしら?

「必要なら、私も行きましょうか?」

ルルの狙撃の腕は素晴らしいけど、大集団の海賊相手にはあまり適していない。

それに、サトゥーはルルを人間同士の戦場に立たせる気はなさそうだった。

ミーア様の精霊魔法があれば魔王でも現れない限りは倒せますし、近接戦闘はラカとカリナ様がいれば大丈夫でしょう。

回復魔法を自在に使うセーラ様がいれば味方の戦線維持が楽になるのだけど、今はアリサと一緒に挙式計画を進めているから、ここにはいない。

「いいえ、大丈夫よ」

私が首を横に振ると、ルルが素直に首肯し、サトゥーへの手土産に焼き菓子をミーア様に渡していた。

◇

「あれは何かしら?」

曇天のガルレォーク市の一角に黒い糸のようなモノが見えた。

「煙ですわ! 中央神殿が火事ですわ!」

遠見筒でしか見えない距離にもかかわらず、カリナ様には裸眼で見えるらしい。

「むぅ?」

「ミーア様、どうされました?」

かわいらしい指が示す方から新しい黒煙が上がった。

そして、それに続くように、次々とガルレォーク市に黒煙が上がっていく。

「きっと、海賊の手下が暴れているのですわ!」

カリナ様がそう言った後、「懲らしめなくてはいけませんわ」と腕まくりをする。

きっと、アリサが前に言っていたテ ラ ( ・ ) リストという者達なのでしょう。

「飛空艇を光学迷彩モードで中央神殿に降ろしなさい」

「はい、システィーナ様」

「ミーア様、消火はお任せしてよろしいですか?」

「ん、任せて」

ミーア様が英知に満ちた瞳で首肯した。

可愛らしい上に頼もしいなんて、さすがはボルエナンの森のエルフ様ですわね。

そんな会話を交わす内に、飛空艇が中央神殿の前庭に着陸した。

私が降船すると、カリナ様も後に続く。

「わたくしも一緒に参りますわ」

「いいえ、カリナ様はミーア様の護衛を」

「不要」

ミーア様が私の心配が杞憂だと首を横に振る。

「私の護衛にはゴーレム達が――」

「瘴気」

私の言葉を遮るようにミーア様が告げる。

森の妖精ミーア様には、私達には見えない精霊を見る力がある。

そして、精霊は不浄な瘴気を嫌ってその場を避けるので、ミーア様には瘴気の濃い場所が分かるのだとアリサが言っていた。

「ミーア様、魔物ですか?」

「違う、穢れ」

「穢れ――アンデッドですか?」

「そう」

なるほど――さすがはミーア様。

ゴーレムは人や魔物には強いものの、非実体系のアンデッドが相手だと少し分が悪い。

それでカリナ様を同行せよと仰ってくださったのだろう。

「ではカリナ様、ご一緒してくださいますか?」

「――え? ええ、もちろんですわ!」

一瞬戸惑っていたカリナ様だったが、すぐに快諾して私に同行してくれる事になった。

私達を下ろした飛空艇が空へと上がっていく。

上空からミーア様の魔法で消火する為だ。

◇

『――カリナ殿、あれを!』

カリナ様の額で青い輝きを放つティアラ――「 知性ある魔法道具 《 インテリジェンス・アイテム 》 」のラカが警告の声を上げた。

中央神殿の回廊に土気色に干からびた死骸が転がっていたのだ。

「誰かが倒れていますわ!」

『カリナ殿、待つのだ!』

その死骸に駆け寄ろうとしたカリナ様をラカが制止する。

「でも、早く助けないと」

「いいえ、既に死んでいるようです」

ぽつぽつと雨が降り出してきた。

火事の消火のためにミーア様が降らせているのだろう。

「――『真銀馬』」

ゴーレム専用の魔法道具から呼び出したポニーのような大きさの真銀馬ゴーレムに乗って回廊を先導する。

露払いにはサトゥーが用意してくれたアダマンタイト製の真鋼狼ゴーレム達が駆けていく。

シガ八剣とも対等に戦える真鋼狼達を止められる魔物などいないはずだが、念のため周辺警戒用の「どろーん君39号」を浮かべておいた。

球形のドローンは強そうに見えないが、これでもワイバーン程度なら単独で倒してくれるくらいの性能はある。

私は鉄壁の守りと共に、神殿から上がる黒煙の方へと真銀馬を進めた。

――カリナ様?

私達を健脚で追い抜いて真鋼狼と並んで走っていたカリナ様が、回廊の石床を砕きながら急停止した。

石床を砕いた土埃は、激しさを増した豪雨が地に落とす。

「どうしたのです、カリナ様?」

私も真銀馬を停止させながら、カリナ様に声を掛ける。

「悪者の気配がしますわ……」

「――悪者?」

タマを思わせるような仕草で、カリナ様が周囲を見渡す。

「こっちからですわ!」

そう叫んだカリナ様が駆け出す。

黒煙の方ではなく、「黄金の舵輪」があった大聖堂の方だ。

何か起こっているかもしれない場所で、騙されやすいカリナ様を一人にするわけにもいかず、私は真銀馬にカリナ様の後を追わせた。

『システィーナ殿、カリナ殿の勘は信じて良い』

カリナ様の額のティアラからラカの声がする。

彼女はかつてその勘で領地を陥れようとしていた魔族執政官を見破り、領地の危機を救うために行動を起こした事があったのだと語る。

「何か変な感じがしますわ!」

『瘴気のようだ』

聖堂の扉前でカリナ様が足を止める。

ミーア様が言っていた「 不死の魔物 ( アンデッド ) 」がここにいるのでしょう。

◇

「――ぐぁああああああああ」

「ガルレオン神よ! 汝が信徒を守り給え!」

大聖堂の聖印前にはガルレオン中央神殿の巫女と神殿長、そして数人の高位神官達が黒装束の男達と相対していた。

そして、今まさに黒装束の中央にいた男性に挑みかかっていた神殿騎士が絶命したところだ。

「大変ですわ」と飛び出していきそうなカリナ様を制止し、しばし黒装束達の動向を覗う。

私はラカに頼んで、状況を飛空艇のミーア様に伝えるよう頼んだ。

「神の名を冠する神殿の聖堂に、不浄と言われるアンデッドである我らが入れるほど瘴気を溜め込んだ愚か者どもが、信徒として神の守護を求めるか!」

地獄の底から響いてくるような不快な声が、中央の黒装束から発せられた。

黒装束が神殿長達を嘲りながら、外套のフードを後ろに払う。

――漆黒の骸骨?

中央の黒装束は人ではなく、アンデッドだったようだ。

ミーア様が気付いた瘴気の出所はこいつだったらしい。

「バカな! どうして、神殿の聖堂に不浄なアンデッドが?」

「答えてやろう――」

神殿長の悲痛な叫びに、黒骸骨が得意げに続きを語り出した。

「――ガルレォーク市は元々欲に溺れた愚かな商人達の都市。そして、海賊どもを操って瘴気を濃くし、我らの活動範囲を広げた」

骸骨の言葉を聞きつつ、私はサトゥーからもらった鑑定メガネで正体を現したアンデッドを調べる。

「ガルレォーク市の海軍を都市から引き剥がすために氷山と海賊を時間差で送り込んだというのに、海賊艦隊に全力出撃するとは思わなかったぞ?」

メガネのレンズに次々と情報が映る。

あいつの種族は「 死骸君主 ( デス・ロード ) 」。

レベル51――私達と大した差はない。

「ましてや、中央神殿の守りである神殿騎士までいなくなるとは……愚かすぎて、ここに来るまで貴様らの罠ではないかと疑ったほどだ」

なるほど、全ては黒骸骨がここに侵入する為の布石だったようだ。

サトゥーがガルレオン神の試練を受けにここにやってこなければ、奴の目論見通りに事が進んでいたかもしれない。

「神殿長よ、今一度問おう――」

黒骸骨の声と共に、背筋に冷水をかけられたように寒気がした。

おそらくは高位アンデッドが持つ「 恐怖 ( フィアー ) 」の力だろう。

「――『黄金の舵輪』をどこに隠した」

どうやら、黒骸骨が聖堂に侵入した真の目的は、サトゥーが持つ「黄金の舵輪」のようだ。

「せ、正当な主のもとにあると、い、言った、はず、だ」

脂汗を流しながら神殿長が答える。

サトゥーを庇って――いえ、ガルレオン神の試練を受ける者を庇ってくれている。

「また、そのような世迷い言か」

黒骸骨がそう言いながら片手を上げると、彼の四方を固めていた黒装束が儀仗兵のように剣を構えた。

剣を持つ腕は、黄色く汚れた白骨だった。

黒骸骨の護衛もまたアンデッドだったらしい。

「少し口を滑らかにしてやろう――神殿長以外を始末しろ」

腕を振り下ろすと同時に、黒装束達が瞬動を使う戦士のような速さで巫女や高位神官達に迫った。

私が傍らに控えた真鋼狼に指示を出す必要はない。

なぜならば――。

「カリナァアアアキィイイイイイイイイック!」

――私の眼前を黄金の風が吹いた後だからだ。

リザにも迫る速度で両者の間に割り込んだカリナ様が、一撃の下に四人の黒装束をまとめて薙ぎ払う。

「青い聖光――パリオンの勇者か!」

指示を出していた黒装束の男がカリナ様に向かって叫ぶ。

カリナ様は黄金の髪をバサリと後ろに払い、ゆっくりとそいつの方に振り向いた。

「わたくしは勇者ではありませんわ」

まるで英雄譚のような頼もしい姿だ。

でも、そこで終わらないのがカリナ様。

「わたくしは――なんと言えば良いのかしら?」

『カリナ殿、今は神殿長達を救うのに集中するべきだ』

「そうですわね」

ラカの言葉にカリナ様が幼子のように素直に首肯する。

「愚弄するか! 地べた這いのエセ勇者めが!」

カリナ様の注意が逸れている間に、壁際に薙ぎ払われていた黒装束達が立ち上がる。

その時に、ボロボロだった黒装束が破れて床に落ちた。

メガネのレンズに次々と情報が映る。

こいつらの種族は「 怨霊騎士 ( レイス・ナイト ) 」。レベルは40~42ほど。思ったよりも強い。

カリナ様の一撃で屠れなかったのもわかる。

さすがに、カリナ様も怨霊騎士達と戦いながら、同格の 死骸君主 ( デス・ロード ) を相手にするのはつらいはずだ。

「 死骸君主 ( デス・ロード ) ――いえ、骸骨大公とお呼びした方がいいかしら?」

私は真鋼狼達を引き連れて、聖堂の中に足を踏み入れた。

「骸骨大公? こやつが海賊達の首魁、骸骨大公と言われるのか!」

神殿長が驚きの声を上げた。

鑑定メガネに映る死骸君主の名は「骸骨大公」となっている。

サトゥーが海賊艦隊にいる「骸骨大公」の称号を持つ男は偽者だと言っていたし、この死骸君主なら中級魔族をも使役するのも可能なはずだ。

こちらが本物だと考えていいだろう。

「黄金の舵輪を手に入れて何をしたいのかしら?」

私の問いに、骸骨大公は答えない。

ただ、「 恐怖 ( フィアー ) 」を宿した瞳で冷たく睥睨するだけだ。

「分かりましたわ!」

カリナ様が明るい声で妙なポーズを取った。

ポチやタマの「シュピッ」のポーズをアレンジしたものらしい。

「ほう? 我が野望が分かると申すか」

「ええ、もちろんですわ――」

カリナ様の自信ありげな言葉に、嫌な予感がします。

「――世界中の海賊を集めて、『海賊王になる!』んですわね!」

絶対の自信を持ったカリナ様の言葉に、骸骨大公が肩をカタカタと震わせる。

「こ、この骸骨大公を愚弄するか! 『黄金の舵輪』を瘴気に染め、万物を支配し船とする『漆黒の舵輪』に堕とした暁には、海に封印されたララキエの操主として貴様らの国を蹂躙してくれるわ!」

激高した骸骨大公が計画の全容を白状した。

やはり、干からびた脳みそでは、深謀遠慮が適わないのだろう。

「ララキエというと神話の時代に、神々が天空人達に与えた浮遊島ですわね?」

禁書庫の神話の中で読んだ事がある。

「そうだ。そちらの頭の悪そうな娘と違ってモノを知っているようだな」

「先ほど、海に封印されたと言っていたようですけど、ララキエは海王を封印するために自ら海に沈んだのではなかったかしら?」

海王――邪神とも呼ばれる狗頭の四天王の一柱だったはず。

神々に与えられた神器を用いても封印が限界だったと神話に書かれてあった。

「ふん、それは過去だ。忌々しき紫髪の勇者によって、復活したララキエは海の底に沈められた。『骸骨王』やララキエを操れる『最後の王女』も失われた今、ララキエを再び空に帰らせるには、『漆黒の舵輪』しかないのだ」

なるほど――封じたのがサトゥーなら、たとえ「漆黒の舵輪」があってもララキエが復活する事はない。

私は世界の危機が既に遠ざけられている事に安堵する。

「どうした? あまりの恐怖に理解が追いつかぬか?」

「いえ、自分の愛する方の偉大さを再確認していただけですわ」

さすがは私の勇者様です。

いえ、私達、というべきでしょうか?

「あなたが欲する『黄金の舵輪』のありかを教えてあげましょう」

「――王女?」

私の言葉に神殿長が驚く。

「海賊船団の迎撃に向かった同盟艦隊の中に、神殿長から『黄金の舵輪』を譲り受けた方がいらっしゃいます」

「そのような戯れ言で我をこの場所から追い払おうと言うのか? 女の浅知恵だな――」

骸骨だけに頭が堅い。

素直になるように、少し追い詰めよう。

「カリナ様、その雑兵を始末してください」

「わかりましたわ!」

青い光を曳きながら、カリナ様が怨霊騎士の一体を叩きのめす。

だが、カリナ様の攻撃から逸れた三体が私に向かって襲いかかってきた。

「司令塔の魔法使いが下級ゴーレムしか護衛に付けておらねば、襲ってくれと言っているようなものだ!」

骸骨大公が嘲笑する。

「――下級?」

酷い誤解もあったものです。

「なんだと?!」

真鋼狼達が怨霊騎士達を引き裂いた。

さすがに、物理攻撃無効の霊体に変化されていたら攻撃が通らなかっただろうけど、こちらを下級ゴーレムだと侮った骸骨大公達は、こちらを攻撃するために半実体で来たためにつけいる隙ができた。

それに――。

「……■■■ 浄化聖域構築 《 クリエート・サンクチュアリ 》 」

私の上級土魔法が傷ついていた怨霊騎士達を浄化する。

「――私が魔法使いだと言ったのはあなたですよ?」

私は魔法の鞄から取り出した世界樹の杖を一振りし、その先端を骸骨大公に突きつける。

「カリナァアアアキィイイイイイイイイック!」

カリナ様の蹴撃が骸骨大公を襲うが、素早く霊体化して避けてみせた。

あのかけ声がなければ確実に倒せていたはずだが、サトゥーの試練を成就させるためには、ここで倒してしまうわけにはいかない。

「『黄金の舵輪』が欲しいなら軍勢を率いて挑んできなさい」

「挑め、だと? 天空人たる、この骸骨大公様に向かって――」

骸骨大公の眼下に赤黒い炎が燃える。

「――挑めだとぉおおおおおおおおおおお!」

気炎を上げる骸骨大公が、漆黒の影へと沈んでいく。

「その言葉、地獄で後悔させてやる。真なる我が幽霊船団の前に精々あがくがいい!」

そう捨て台詞を残して、骸骨大公が影に没した。

◇

骸骨大公が影に没して少し経った頃に、ルルルルと緊急報知用の魔法道具が鳴った。

神殿長との話を中断して聖堂の外に出た私は、激しい雨の向こうに空を遊弋する百隻近い幽霊船を見上げる事になった。

「思ったより行動的な魔物のようですわね」

「そんな他人事のように……」

私の言葉を聞いた神殿長が恨み言をこぼす。

危地を助けられた手前、強く文句を言えないのだろう。

「心配無用ですわ!」

カリナ様が笑顔で神殿長に言い放つ。

私も彼女の横で頷き、東の空を指さした。

曇天を斬り裂くような黄金の光がそこにある。

「――黄金の船?」

「いいえ――」

神殿長の言葉を修正する。

「――黄金の艦隊ですわ」

ガルレォーク市の上空で、幽霊船団と黄金艦隊の戦いが始まろうとしていた。

頑張ってください――愛するサトゥー。

※次回更新は 1/28(日) の予定です。

たぶん、定時を大きく割り込んで深夜に更新となりそうです。

最近更新時間が遅れていてすみません。

※2018/1/27 緊急報知のタイミングを少しずらしました。

※アニメ版の感想は活動報告の方にお願い致します。