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16-35.セーリュー伯爵の養女(1)

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16-35.セーリュー伯爵の養女(1)

※前話のガルレォーク市を出発する部分に少し加筆したので、気になる方は一度ご覧下さい。

※2018/2/12 誤字修正しました。

サトゥーです。久々に故郷に帰ると、予想以上に景色が変わっていて驚くことがあります。

特に子供の頃によく遊んだ場所が、マンションや高層ビルに変わっていると思い出が穢されたような気持ちになったりしますね。

◇

「ご主人様、あれ!」

馬車の御者台に身を乗り出したアリサが、前方の丘の上に見える巨石群を指さして叫んだ。

倒れた三連の石鳥居風の外見をした古代オーク帝国時代の遺跡だ。

昔、セーリュー市を旅立った頃に見つけた。

「壊れた 転移門 ( トラベル・ゲート ) か……懐かしいね」

オレ達はゼナさんからの連絡を受けてセーリュー市に向かっているところだ。

マップ情報や空間魔法で確認した限りでは緊急性がなさそうだったので、アリサの提案に乗ってセーリュー市を発った時と同じく馬車を使う事にした。

一緒に来ているのは、セーリュー市を発った時のメンバーだけだ。

カリナ嬢は一緒に来たがったが、新しい衣装の調整があるとかで王女やセーラに連れられていってしまったので同行していない。

「今のご主人様なら直せるんじゃない?」

「まあね」

直せるし、新規の建造もできるけど、今のところ手を付ける気は無い。

トラベルゲートは膨大な魔力を使うだろうし、セーリュー市の源泉の魔力が「悪魔の迷宮」に奪われている現状だと、色々とまずい事になりかねないからだ。

「もうすぐセーリュー市が見えてくるかしら?」

「まだ、一時間くらい先だよ」

馬車は遅いからね。

◇

「身分証を見せろ――ん? 見覚えのある顔だな」

セーリュー市の正門でオレ達を止めたのは、騎士ソーンだった。

確か、オレが初めてセーリュー市にやってきた時も、彼が入市の処理をしてくれたんだよね。

「思い出した! ゼナの嬢ちゃんの知り合いだな」

男臭い笑顔でそう言った騎士ソーンが、何かを思い出したような顔になり、気の毒そうにオレを見た。

「まあ、世の中悪い事ばっかりじゃないから気を強く持てよ」

「――は、はあ」

バンバンと肩を叩く騎士ソーンの言葉の意味が分からず、思わず首を傾げてしまう。

「それより、身分証だ」

手を伸ばす彼に身分証を手渡す。

「銀の身分証?」

騎士ソーンの訝しげな表情が、すぐに驚きに変わる。

「は、伯爵様? し、しかも、ペンドラゴン伯爵? あの魔王殺しのペンドラゴン?」

動揺しきった騎士ソーンの瞳が、身分証とオレの顔をせわしなく往復する。

「――ああ、いや。失礼いたしました。ペンドラゴン伯爵閣下! すぐに城まで先導いたします!」

不躾な態度を詫びた騎士ソーンが、門衛の一人を伯爵城へ伝令に出し、別の一人に自分の馬を持ってくるように指示する。

「いえ、伝令だけで結構です。少し市内で所用があるので、それが終わってからお伺いするつもりです」

尚も護衛しようとする騎士ソーンの申し出を固辞し、オレ達は馬車を門前宿へと向けた。

天罰事件で迷宮から溢れた魔物に壊された宿も、今ではすっかり再建されている。

「ユニ~?」

「ユニがいるのです!」

「え? タマちゃん? ポチちゃんも!」

門前宿の玄関を掃除していた小間使いのユニを見つけたタマとポチが、馬車から飛び降りて駆けていく。

「どうしたの、ユニ? 箒を投げ捨てちゃってさ――サトゥーさん! お母さん、サトゥーさんだよ!」

宿から出てきた門前宿の看板娘、マーサちゃんが馬車から降りたオレに抱きついてきた。

相変わらず――いや、二年ほどの間にずいぶん成長したようだ。

彼女が門前宿の 女将 ( モーサ ) さんを超えるのも、そう遠くないだろう。

「久しぶりだね、マーサちゃん。宿を建て替えたのかい?」

「うん、サトゥーさんのいない間に色々あったのよ。泊まっていくんでしょ? 中でいっぱい話してあげる!」

マーサちゃんがオレの腕を引いて門前宿の中へと入っていく。

相変わらず、強引な子だ。

「ルル、馬車を中庭に回しておいて。ミーアは先に店長の所に挨拶に行ってもいいよ」

「はい、分かりました」

「ん、行ってくる」

「ミーア、私も同行すると告げます」

ナナはミーアの護衛としてついていってくれるようだ。

「あらあらまあまあ、久しぶりだね。この前はありがとうよ」

門前宿の女将さんが、前にユニへの手紙と一緒に送った贈り物のお礼を言う。

「いえいえ、手紙を送るついででしたから。今日は8人なんですが部屋はありますか?」

「あ、ああ――悪いんだけど、4人部屋が一つしか空いてないんだよ」

女将さんが歯切れ悪く告げる。

ちなみにマップ情報によると、半分以上の部屋は空いている感じだ。

――ああ、そうだったっけ。

最近はどこの宿屋でも普通に泊まれるので失念していたけど、セーリュー市では妖精族以外の亜人が迫害されていて宿泊拒否されるんだったっけ。

「――リザ」

オレの呼び声に、リザが無言で槍を構える。

それを見て女将さん達が怯えた顔になった。

「違う。身分証だ」

「も、申し訳ありません」

解釈を間違えたリザに構えを解かせ、身分証を女将さんに見せるように促す。

「身分証? ――キシュレシガルザ名誉子爵? どこかの貴族様の家臣にでもなったのかい?」

女将さんがキョロキョロとリザの背後を探す。

「違いますよ、それは彼女の身分証です」

オレはそう言って自分の身分証も見せる。

「伯爵だって? サトゥーさん――いや、サトゥー様は貴族様だったのかい?!」

「すごい! 伯爵様ってあの伯爵様よね? サトゥーさん、すごいじゃん!」

女将さんは蒼白な顔だけど、マーサちゃんは普通に喜んでくれている。

マーサちゃんがオレの身分証を手に取って、一つずつ単語を読んでいく。

「タマも~?」

「ポチだって、 名誉女男爵 ( めーよだーしゃくー ) なのです」

タマとポチが自分の身分証を掲げてリザの左右に並ぶ。

ポチが名誉女男爵を言えていなかったが、誰も突っ込まないので訂正は 後 ( のち ) ほどやろう。

「そ、そんな……蜥蜴人や獣人がお貴族様?」

「うわ! おかーさん! おかーさんってば! すごいよ! ペンドラゴンだよ! サトゥーさんはペンドラゴン伯爵様だったんだよ!」

信じられないという顔の女将さんの肩をマーサちゃんがバンバンと叩く。

興奮するのはいいが、大きな声で騒ぐせいで門前宿の入口から近所の人達が興味深そうに顔を覗かせている。

「ペンドラゴンって――あの魔王殺しかい?」

「ええ、そうです」

女将さんの言葉に首肯する。

「それじゃ、ペンドラゴン伯爵一の騎士でシガ八剣筆頭のジュレバーグ様に勝った蜥蜴人族の槍使いってのは――」

「私です」

「タマは忍者~?」

「ポチはお侍様なのです!」

こくりと頷くリザの横で、タマとポチも自己主張をする。

「それじゃ、あんた達も魔王殺しって事なのかい?」

「はい、その功績で陞爵いたしました」

どうやら、リザがキシュレシガルザ名誉子爵だって事を理解してくれたようだ。

「というわけですので、宿泊は可能でしょうか?」

「あ、ああ、お貴族様なら文句を言うヤツを黙らせられる――」

やっぱ、文句を言うヤツはいるんだね。

「――だけど、お貴族様ならうちのような庶民用の宿じゃなくって、内壁の向こう側にある高級宿の方がいいんじゃないかい?」

「いえ、明日にはお城の方にお伺いする予定なので――」

たぶん一泊だけだし、多少高級度が高いよりも思い出のある宿の方がいいしね。

部屋へ案内してくれるマーサちゃんに続いて階段に向かったのだが、なぜかポチとタマがついてこない。

「――ポチ、タマ。こっちだよ」

「にゅ~?」

「厩舎じゃないのです?」

なんだか、しょぼんとした顔でやってくる。

後で聞いた所によると、厩舎の藁で作ったベッドでポヨンポヨンと飛び跳ねたかったそうだ。

「女中さんも同じ部屋でいいの?」

「は、はい!」

マーサちゃんの言葉に、ルルが反射的に肯定する。

「あはは、ルルも私達と同じ貴族よ」

ルルの代わりにアリサが笑いながら訂正する。

「うそー! 貴族なのに御者をしていたの?」

「いつもは専門の使用人がいるんだけど、今日は懐かしいから手綱を取っていたんだよ」

「へー、そうなんだー」

納得したマーサちゃんがルルに「間違えてごめんね」と詫びていた。

部屋にダミーの荷物を預けたオレ達は、ミーア達が待つ「なんでも屋」へと向かった。

「お久しぶりです、サトゥーさん――いえ、ペンドラゴン伯爵閣下」

なんでも屋のナディーさんが、そう言って宮廷の侍女のような礼をする。

博識な彼女はそういった礼儀作法にも精通しているようだ。

「サトゥー」

「お久しぶりです、店長」

なんでも屋の店長であるエルフのユサラトーヤ氏が、ソファの上で小さく会釈した。

「感謝」

店長がお土産と手紙の束を持ち上げて礼を告げた。

どちらも、アーゼさんの所に遊びに行った時に、ボルエナンの森にいる彼の親族や友人から預かってきた品々だ。

ナディーさんに椅子を勧められて、皆でお茶をする。

なお、お茶菓子はオレのお手製の品だ。

しばし、談笑していると勢いよく扉を開けて武官っぽい服装をした少年が飛び込んできた。

「こちらに、ペンドラゴン閣下はおられるか!」

見覚えのある顔だ。

少年武官が「黒髪に外国人風の顔立ち――間違いない」と小声で呟いた後、オレに向かって敬礼をする。

「お久しぶりです――」

おっとマズい。

「――いえ、直接お会いするのは初めてですね」

オレは「 無表情 ( ポーカーフェイス ) 」スキル先生の助けを借りて失態を誤魔化し、ソファーから立ち上がって少年武官の方に向かう。

「はじめまして、ユーケル・マリエンテール殿」

そう、この少年武官はゼナさんの弟君だ。

クロとしては面識があるが、サトゥーとしては今日が初対面だったのだ。

「かねがね貴公の姉君から、話を聞いていたので初めて会った気がせず失礼いたしました」

オレはそう言ってから、フルネームで自己紹介をした。

「セーリュー伯爵より、ペンドラゴン閣下の出迎えをせよと命を受けました。ご同行いただけますでしょうか?」

「ええ、もちろんです」

緊張気味のゼナさんの弟に首肯し、仲間達に向き直る。

「それじゃ、ちょっと伯爵様に挨拶してくるよ」

「お供します」

「お任せ~?」

「ポチがいれば百人力なのです」

「マスターの護衛をすると宣言します」

「護衛はなくて大丈夫だよ」

前衛陣がすぐに同行を申し出てきたが、危険はないだろうから護衛は不要だと告げる。

ちょっと寂しそうだけど、彼女達には別に頼みたいことがあったので、そちらの作業を頼んでおく。

「わたしも行こうか? 従者の一人もいないと外聞が悪いわよ?」

「それなら、私が行きます」

アリサの言うことももっともだったので、ルルとアリサを連れていく事にした。

ミーアも行きたそうだったが、久々の店長との再会なんだからとそのまま「なんでも屋」に残るように言った。

「さて、行こうか」

オレはなんでも屋の外に用意されていたオープンタイプの馬車に乗り込み、騎馬のユーケル少年に出発を促した。

さて、セーリュー伯爵のお城で、どんな事が待っているのやら。

遠話でゼナさんに話を聞いた感じだと、なんとなく言い難くしていたから、ユーケル少年の縁談かゼナさん自身に厄介ごとが舞い込んできたんだと思う。

まあ、最近は無駄に権力や資金が転がり込んできているから、大抵の事はなんとかなると思うし、友人であるゼナさんやその家族のためなら、それらを使うのに躊躇いはない。

できれば、シンプルに片付く問題だといいんだけどさ。

オレは間近に見えるようになったセーリュー伯爵の城を見上げて、小さく呟いた。

※次回更新は 2/18(日) の予定です。

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※2/10発売のドラゴンエイジ3月号からデスマ外伝「アリサ王女の異世界奮闘記」のコミカライズ版がスタートします! 活動報告の記事にスクリーンショットを何枚か上げておいたので宜しかったらごらんくださいな~