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16-36.セーリュー伯爵の養女(2)

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16-36.セーリュー伯爵の養女(2)

※2018/2/20 誤字修正しました。

※2018/2/24 一部修正しました。

サトゥーです。ニュースやフィクションでは養女や養子という縁組をよく見かけますが、近しい人の話で聞いた事がありません。さほど頻繁に行われる事はないのでしょうね。

◇

「――ペンドラゴン卿」

城門近くで馬車に馬を寄せたユーケル君が話しかけてきた。

「あなたは本当に姉上の事を――」

「マリエンテール卿」

ユーケル君の問いかけを、同行していた別の騎士が遮る。

なんだか、オレとユーケル君に会話をさせたくないかのようだ。

ここは空気を読まず、オレの方からユーケル君に話しかけよう。

「マリエ――」

「ペンドラゴン卿!」

そんなオレの言葉を、タイミング悪く別の声が遮った。

「――伯爵閣下」

よりによって相手はセーリュー伯爵だ。

さすがに彼からの呼びかけをスルーして、ユーケル君に話しかけるわけにもいかない。

階級だけは並んでいるけど、都市核を支配する彼の方がオレよりも立場が上だ。

どこかに出かけていたらしく、セーリュー伯爵が立派な白馬にまたがっている。

「ご無沙汰しております。セーリュー伯爵」

「相変わらず、活躍しているようだな、ペンドラゴン伯爵」

騎乗していた馬から降りたセーリュー伯爵が、妙にフレンドリーな感じにオレをハグした後、10年来の友人のような態度で城へと招いてくれた。

ここまで友好的だと、何か裏があるんじゃないかと邪推してしまう。

こんなセーリュー伯爵の姿は珍しいらしく、オレ達の姿を見た使用人や官僚達が驚いた顔で頭を下げていた。

「――まずは礼を言う。貴公の助力のお陰で、年明けには本格的な迷宮運営が始められそうだ」

城の奥にある応接間に腰を落ち着けるなり、セーリュー伯爵がそう口にした。

彼の部下を迷宮都市セリビーラの探索者ギルドで研修させる手伝いをした件だろう。

「たいした事はしていません。閣下の部下が努力の末に得た成果です」

「閣下は止めてくれ。大臣職を務める貴公も閣下と呼ばれる身だと忘れているのではないか? 俺の事は気安くロスと呼んでくれればいい」

ロスワード・セーリュー伯爵が無理な注文を付ける。

「ではロスワード様、と」

「まだまだよそよそしいがやむを得まい。サトゥー殿と呼んでも構わんか?」

セーリュー伯爵に首肯する。

「サトゥー殿、貴公への報酬として約束した亜人奴隷2000は迷宮関連設備の増改築に従事させているが、いつでも譲渡可能だ。人数が人数ゆえ、譲渡期間は半月ほどを見込んでほしいと事務方の文官から言われている」

「では奴隷達の運搬用の飛空艇を手配しておきます。年内には船を回してもらえると思いますので、早めにムーノ侯爵領から代理人を派遣します」

この辺はムーノ侯爵領のニナ執政官に丸投げしよう。

領内の全都市および全街を魔物達から奪還したムーノ侯爵領では、オレが太守を務めるブライトン市を始め、人口不足な土地が多いので重宝してもらえるだろう。

自活できるようになった辺りで全員解放するつもりだ。

「亜人の運搬に飛空艇か? ムーノ侯爵領まで歩かせればよいではないか」

「移動で消耗する分もバカにできませんから」

呆れた感じのセーリュー伯爵に、オレは偽悪的な答えを返す。

レベル一桁が多い亜人奴隷達を2000人もムーノ侯爵領まで歩かせたら、どれくらい犠牲者が出るのか予測するのも嫌だ。

「あの時約束した亜人差別禁止令も出してあるぞ」

セーリュー伯爵がどこか得意そうに言う。

でも、その割に門前宿とかの対応が以前のままだった気がする。

「ふむ、不満そうな顔からして、未だ差別が残っていると言いたげだな」

なんとなく不出来な子供を諭す教師のような目だ。

「むろん、布告を出しただけではないぞ? 市内巡回の衛士達に、亜人への不当な暴力を見かけたら逮捕するように指示してある」

すでに処罰どころか、処刑された市民すらいるらしい。

「だが、市民の差別意識は根強い。本当の意味で亜人差別がなくなるのは当分先の事だろう」

それもそうか。

為政者が差別を禁止しただけで差別がなくなるなら苦労はない。

厳罰で挑んでも、為政者の目が届かない場所で陰湿な感じにシフトするだけだろう。

学校からいじめがなくならないのと同じような理屈だ。

それでも、為政者側が禁止するのは差別解消への第一歩として必要な事だ。

それが「悪い事」で、「割に合わない事」だと長い時間をかけて学習してもらうしか、解消への道はないと思う。

後は、亜人達が自分たちに利益のある存在だと認識してもらうのも有効だね。

「もう一つの報酬の――」

セーリュー伯爵が話題を変えた。

今度はオーナ嬢やゼナさんをオレの嫁や妾にすると言っていた件の確認だろう。

「縁談の件だ」

やっぱりか。

「俺の娘のオーナを夫人に、マリエンテール家のゼナを妾にというあの話だが、いつ受け入れられる」

ストレートに来たな。

「その件ですが――」

返答に窮しているオレをセーリュー伯爵が制した。

「やはり、望まぬか」

――おや?

「宰相や陛下から釘を刺された。 貴公が望まぬ婚姻 ( ・・・・・・・・ ) を押しつけるなと」

おお、宰相&陛下グッジョブだ。

「嫁入りの件は白紙撤回させてほしい」

「はい、承知いたしました」

セーリュー伯爵の申し出を快諾する。

ふう、これで肩の荷が一つ下りた。

「だが、報酬の一つをただ取り下げるのでは、口さがない王都の門閥貴族どもに吝嗇家の汚名を着させられてしまう」

安堵するオレの耳にセーリュー伯爵の言葉が耳に届いた。

「代わりに迷宮から産出する魔核のムーノ侯爵領への輸出量を増やそう」

セーリュー伯爵がそう言って指を三つ立てた。

「俺の裁量枠から、予定の三倍を融通すると約束しよう。後で書類を用意させる。ムーノ侯爵に届けてくれ」

この時はあまり分かっていなかったが、後でエチゴヤ商会の支配人に確認したところ、国への上納量に匹敵する量との事だった。

「ゼナの弟とは話したか?」

「いえ、先ほどお会いしたのが初めてです」

クロとしては結構話したけど、サトゥーとしては挨拶くらいしかしてないんだよね。

「サトゥー殿ほどではないが、なかなか見込みのある騎士だぞ」

セーリュー伯爵がユーケル君の自慢を始めた。

上級魔族戦での活躍や迷宮ハザードの防衛の功績で、ユーケル君の 陞爵 ( しょうしゃく ) 推挙が決まったらしい。

それも、士爵の上の階級である准男爵ではなく――。

「男爵ですか。それはすごいですね」

「うむ。俺の代で男爵に陞爵するヤツは初めてだし、士爵から一足飛びに男爵になるような偉業をなしたヤツは、祖父の代まで遡ってもおらん」

元の世界と違って、土地を与えられないこの世界の貴族だと、永代貴族を陞爵するのは領主の固定費が大幅に増える事になるからね。

「――白銀騎士エアー」

思わせぶりな口調で、セーリュー伯爵がその名を告げる。

「上級魔族を討伐した空を飛ぶ騎士がそう名乗ったそうだ」

「勇者ナナシ様の黄金騎士団と何か関係があるのでしょうか?」

オレは 無表情 ( ポーカーフェイス ) スキルの助けを借りて、セーリュー伯爵のかまかけをスルーする。

「俺もそう思う。聖剣クラウソラスと見まがう空飛ぶ聖剣を使っていた」

セーリュー伯爵もあの戦いを見ていたらしい。

「あの戦いを見た者の一人が言っていたのだ。白銀騎士エアーと似た戦い方をする娘が我が領にいる、と」

セーリュー伯爵は白銀騎士エアーの正体が、ゼナさんだと気がついている気がする。

ゼナさんは隠し事が苦手だから、彼が尋問したらすぐにバレそうだ。

まあ、バレてもそんなに困らないけどさ。

「どうだ、サトゥー殿。白銀騎士エアーと似た戦い方をする者に心当たりはないか?」

「残念ですが、私は白銀騎士エアー殿の戦いを見ていたわけではありませんので」

「そうであったな。詮ない事を口にした。話を戻そう――」

オレの言い訳に、セーリュー伯爵があっさりと引く。

白銀騎士エアーの正体をはっきりさせたいわけじゃないみたいだ。

「今宵はマリエンテール卿の 陞爵 ( しょうしゃく ) を祝う舞踏会を開く。サトゥー殿にもぜひ参加してもらいたい。むろん、貴公の部下も共に招こう」

セーリュー伯爵によると、獣娘達を含む仲間達の参加もOKらしいが、好奇の視線に晒させるのもかわいそうだ。

一応、全員に確認して、参加を希望したアリサだけを舞踏会に呼ぶ事にした。

一度宿に戻る予定だったのに、セーリュー伯爵と迷宮の管理を自前ですべきか否かで議論している内に、舞踏会の時間になってしまった。

◇

「ふーん、セーリュー伯爵のお城に入るのは初めてだけど、王城と違って本当に戦争用のお城よね」

アリサと一緒に舞踏会場へ向かう。

多くの参加者達は既に入場しているらしく、廊下には忙しそうに往来する使用人達を除けば、オレ達しかいない。

「「「ペンドラゴン伯爵様だわ!」」」

会場に入った途端、黄色い悲鳴が巻き起こった。

オレの所へ、次々に伯爵領の美少女貴族達が集まってくる。

まるで、有名な歌手か俳優にでもなったかのようだ。

「伯爵様! 冒険のお話を聞かせてください」

「伯爵様! 私、婚約者はおりません!」

「伯爵様! 私の家はセーリュー市一の多産で有名です!」

オレを囲む美少女貴族達が口々にアピールする。

多産がアピールポイントになるのはシガ王国では一般的らしい。

王都に比べると野暮ったいドレスが多いモノの、胸の谷間を強調する美女が多いので眼福だ。

「嫌になるくらいモテモテね。ミーアを連れてくるんだったわ――こら、そこ! ご主人様に気安く触らない!」

アリサが美少女貴族達の波からオレを守ろうとするが、多勢に無勢すぎる。

――ん?

視線に気がついて顔を向けると、執事の男性がこちらを注視していた。

「どったの?」

アリサに気を取られている間に、執事はなんでもないかのように視線をそらして、奥の扉を開き領主一族の登場を告知する。

「ありゃ? どうしてゼナたんがあっちから出てくるの?」

アリサが言うように、領主一族と一緒にマリエンテール姉弟が奥から出てきた。

「ユーケル君の 陞爵 ( しょうしゃく ) 祝いだからじゃないか?」

オレの言葉を肯定するように、セーリュー伯爵がユーケル君の活躍を称賛し、男爵への 陞爵 ( しょうしゃく ) 推挙を発表した。

それを聞いた途端、オレの周りに集まっていた美少女達の半数がそちらに興味を移す。

「また、マリエンテール卿には我が娘、オーナを嫁に与える」

セーリュー伯爵の発言に、会場の人々がどよめく。

ユーケル君とオーナ嬢は恥ずかしそうに微笑み合っている。

ゼナさんも嬉しそうだが笑顔に力がない。

「なんだか、ゼナたん無理してるみたいね」

「そうだね」

アリサの囁きに同意する。

ゼナさんなら、ひまわりのような笑顔で喜びそうな感じなのに。

「静まれ。まだ話は終わっておらん――」

セーリュー伯爵が人々を黙らせる。

「続いて、長男バドワードの第二夫人を告げる!」

あれ?

なんだか、危機感知が働いている。

「マリエンテール卿の姉、ゼナをバドワードの第二夫人として迎える」

――マジか。

さっきの発表以上のどよめきが会場を満たした。

「ご主人様、聞いていた?」

「いや初耳だ」

アリサが小声で尋ねてきた。

昨晩、ゼナさんと遠話で喋った時にそんな話題はなかったし、その話を隠している雰囲気もなかった。

たぶん、今日突然、セーリュー伯爵からその話が出たのだろう。

ゼナさんは目を伏せていて、その表情が見えない。

「もー、ほんと、良い子ちゃんなんだから……」

アリサが嘆息する。

「しゃーないわねー」

後ろ頭をかいたアリサが、オレの横で空間魔法を使う。

『ゼナたん。その婚約はゼナたんも望んでいるの?』

アリサの遠話の声が、眷属としての繋がり経由で伝わってくる。

『……はい』

口元を覆ったゼナさんが小さく答える。

『主家に逆らえない的な?』

『……違い、ます』

ゼナさんの声が固い。

『なるほど、何か理由があるわけね――って、考えるまでもないか』

アリサが嘆息する。

『弟の恋路や出世の邪魔をしたくないわけね』

ゼナさんは沈黙したままだ。

つまり、答えは肯。

『主家に押しつけられた婚約を断ったら、どっちもダメになっちゃうから?』

『……ユーケルとオーナ様はずっとお互いの恋心を秘めるしかなかったんです。でも、それがようやく叶いそうなのに――』

ゼナさんの声に涙の気配が滲む。

アリサがこちらをチラリと見上げた。

何かを期待するような瞳だ。

オレはアリサの頭をくしゃりと撫でてから、バドワード殿とゼナさんを囲む輪の方に足を踏み出した。

『……サトゥーさん』

人垣の向こうでゼナさんが顔を上げた。

涙に潤んだ瞳がオレを見る。

「おお、サトゥー殿! 魔王殺し殿も我が伯爵家の新たな一員の誕生を祝福して――」

セーリュー伯爵は笑顔だが、目は鋭いままだ。

たぶん、オレが何をやろうとしているか察しているのだろう。

バドワード殿とゼナさんの前に空白地帯ができた。

「初めてお目に掛かる。私はセーリュー伯爵の嫡子、バドワード・セーリューと言う」

「はじめまして、バドワード殿。私はシガ王国観光大臣、ムーノ侯爵領のサトゥー・ペンドラゴン伯爵だ」

オレは意図して丁寧語を止める。

挨拶を終えたオレはゼナさんへと手を差し伸べた。

「サトゥー、さん?」

オレが差し出した手を、ゼナさんが期待に満ちた目で見つめる。

「ペンドラゴン卿、何を――」

バドワード殿が訝しげな声を上げた。

「ゼナさん」

オレの呼びかけに、ゼナさんが手を伸ばす。

なぜか、ゼナさんの横にいるバドワード殿ではなく、少し離れた場所にいたユーケル君がオレからゼナさんの姿を隠すような位置へと飛び出してきた。

悪いけど、もう遅い。

「失礼、ゼナさん」

オレはゼナさんの手を素早く掴むと、彼女の手を引き寄せる。

飛び出してきたユーケル君とぶつかりそうになったので、オレはダンスのように身体をくるりと回して彼女を横抱きにしたまま彼から距離を取った。

舞踏会場の女性陣から黄色い悲鳴が上がり、男性陣の間からどよめきが湧き上がった。

「な、なんのつもり――」

問い質そうとするユーケル君を、セーリュー伯爵が腕を伸ばして制した。

なんとなく、彼の筋書きに乗せられた気がしないでもないけど、あのままゼナさんを見捨てるという選択肢はないので文句を言う気はない。

「訳を聞こう」

セーリュー伯爵が静かに問う。

「彼女は私がいただきます」

ゼナさんがバドワード殿との婚約を、本心から望むなら友人として祝福したけどさ。

セーリュー伯爵領の利益の為に、ゼナさん自身ではなく、白銀騎士エアーとしてのゼナさんの力だけを求めるのを見過ごす事はできない。

「つまり、我が嫡子の婚約者を奪うと言うのだな?」

セーリュー伯爵の内心の声が聞こえてきそうだ。

「ええ、その通りです」

オレは彼の目を見て頷く。

「戯れ言ではすまぬぞ? 互いの立場が分かっての事か?」

つまり、ゼナさん以上の何かを寄越せ、彼はそう言っているのだろう。

オレは真摯な瞳で彼を見据える。

「 隣人として ( ・・・・・ ) 約束いたしましょう」

竜の谷の支配者として。

「セーリュー伯爵領を脅かすモノが現れた場合、それがいかなる存在であろうと一度だけ排除し、損害の復旧に尽力いたしましょう」

無制限にしちゃって、セーリュー伯爵が周辺諸国や近隣領主に戦争をふっかけ始めても困るしね。

「いかなる存在でも? それは相手が上級魔族でも――たとえ相手が魔王でも、という事か?」

それこそが、彼の求める言葉だったに違いない。

セーリュー伯爵がニヤリと笑う。

魔王が復活するのは迷宮か迷宮周辺である場合が多い。

今までは対岸の火事だった魔王災害も、自領の領都に迷宮ができた現状では身近なモノに感じるようになったのだろう。

まあ、こんな約束をしなくても、魔王が暴れてたら退治に来るんだけどさ。

「たとえ相手が魔王でも、です。魔王殺しの称号にかけて誓いましょう――■■ 契約 ( コンストラクト ) 」

オレは契約スキルを用いて誓いを立てる。

「それでは足りぬ。二つ条件を追加する」

さすがは政治家。

こっちが引くと、ぐいぐいねじ込んでくるね。

「そんな顔をするな。大した条件ではない」

本当かな?

「一つはゼナ・マリエンテールを娶るときは妾ではなく、正式な夫人として娶れ。序列は問わん」

意外な条件だ。

「マリエンテール家が男爵に 陞爵 ( しょうしゃく ) しても、少々家格が足りぬであろう。二つ目はゼナを娶る際には我がセーリュー伯爵家の養女となってもらう」

なるほど、そこにつながる訳か。

彼はどうしてもオレと縁故を結びたいようだ。

「分かりました。その二つの条件を呑みましょう」

「では――契約成立だ」

セーリュー伯爵がそう宣言すると、先ほどの契約スキルが正式に発動した。

それと同時に、貴族達の間から拍手が上がり、その拍手に釣られるように他の人達も拍手で祝福してくれた。

どうやら、セーリュー伯爵が事前に言い含めたサクラがいるようだ。

意味が分からないという顔をしていたユーケル君が、セーリュー伯爵に耳打ちされて狐につままれたような顔になっている。

その反面、バドワード殿は面白くなさそうな感じだが、特に慌ててはいない。

たぶん、バドワード殿はセーリュー伯爵の共謀者で、ユーケル君の方は陰謀に踊らされていただけらしい。

「サトゥーさん」

「はい――」

耳元でささやくゼナさんの方を振り向くと、唇に温かい感触が伝わってきた。

――はい?

振り向いた瞬間に、ゼナさんにキスをされたようだ。

初々しい中学生のようなキスだ。

歯がぶつかる軽い痛みがなんだか懐かしい。

『今回のは見逃してあげるわ』

微妙にふてくされた感じのアリサの声が、眷属間の繋がりを通して伝わってくる。

オレは空いている手でアリサの頭を撫でながら、キスを終えて真っ赤になって固まっているゼナさんを床に下ろした。

ゼナさんを祝福しに集まっていたイオナ嬢を始めとした貴族令嬢達の輪にゼナさんを送り出す。

それと入れ替わりにセーリュー伯爵がやってくる。

「――今回の一件はユーケル 陞爵 ( しょうしゃく ) の余興だったと周知しておいてやる。他の貴族どもに塩を送ってやる義理はないからな」

ニヤリと笑うセーリュー伯爵の満足そうな顔が憎たらしい。

だけど、まあ、その心遣いには感謝しておこう。

主家であるムーノ侯爵は当然として、オーユゴック公爵やシガ国王も心配ないけど、他にも同じような策略を仕掛けてくる貴族が現れないとも限らないしね。

セーリュー伯爵がオレの前から去った後、アリサが声を掛けてきた。

「ねぇ、ご主人様、気がついている?」

「ああ……」

アリサの問いに首肯する。

友人達に囲まれたゼナさんには称号が増えていた。

――サトゥーの婚約者。

まあ、あの状況じゃね……。

オレはログを確認する。

>「略奪」スキルを得た。

>称号「略奪者」を得た。

>称号「愛の狩人」を得た。

>称号「心の友」を得た。

少々不本意な称号やスキルが増えていた。

まあ、最後の称号をしばらくは交流欄の称号に設定しておこうかな。

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