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16-38.「司法国家」シェリファード(2)

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16-38.「司法国家」シェリファード(2)

※2018/3/5 誤字修正しました。

※2018/3/10 一部追記しました。

サトゥーです。裁判を題材にしたゲームやドラマはけっこうありますが、集中して見ないと伏線や登場人物の関係なんかを忘れちゃって、最後の逆転シーンでカタルシスを感じられない事があるんですよね。

◇

『――神よ。我らが崇める公正なる神よ』

ウリオン中央神殿で藍色の光に照らされながら、交神の儀式を行なっていた。

儀式の手順は今までの中央神殿と同じだ。

今回の巫女さんは、厳冬の朝みたいな雰囲気の40代女性だった。

『試練に挑まんとする正義を志す者よ』

厳格な感じがする男性の声が脳裏に響く。

これがウリオン神の声らしい。

『悪行を暴き、正義の裁きを下せ』

オレの脳裏に、シンプルな感じの装飾が施された黄金の天秤が思い浮かぶ。

昨日食堂で耳にしたウリオン神の神器、『黄金の天秤』ウリルラーブだろう。

『さすれば、汝に証を与えよう』

――おや?

今回の試練は「あまねく我が名を民が崇めたなら」といった文言が出なかった。

『民が崇める必要はないのでしょうか?』

『不正を正せ、試練に挑む者よ』

珍しく問いかけに答えがあったが、今一つ会話が成立している気がしない。

残念ながら、それ以上の答えや指示が来る事もなく、そのまま神との交信は途絶えた。

今までの二柱の神よりはマシだけど、やっぱり言葉のキャッチボールは得意じゃないみたいだ。

◇

「サトゥーさん、お疲れ様です」

ゼナさんの差し出してくれたタオルで汗を拭く。

懐から取り出した計測器が反応しているのを確認する。

――よし。実験は成功だ。

「懐中時計?」

「ああ、似たようなものだよ」

オレは「神の試練」を受託する時に、ちょっとしたアイテムの動作検証をしていたのだ。

「それで神様のオーダーはどんなだったの?」

「アリサ、もう少し言い方を……」

「ほへ? 神様からの神託はどんなだったの?」

アリサの言い直した言葉もお気に召さなかったのか、セーラが頭の痛そうな顔をしている。

「『悪行を暴き、正義の裁きを下せ』、あとは『不正を正せ』だったかな?」

「へー、今回は人気取りはいらないみたいね」

まあ、人々の信仰心や祈りが神様に必要なモノみたいだから、優先度低めでも一応拾えるようにしておこうと思う。

「それで悪行や不正に心当たりはあるの?」

「さすがに神様じゃないんだから、来たばっかりの国で心当たりなんてないよ」

オレは苦笑しながらアリサの問いに答える。

「先ほどの裁判のようなものでしょうか?」

「さすがにあんな小さな裁判では神の試練にはならないと思いますよ」

ゼナさんとセーラがそんな会話を交わす。

「とりあえず、クロに変身してエチゴヤ商会の先遣部隊と接触してくるよ」

この国にはエチゴヤ商会の支社がないので、神の試練が決まった時にエチゴヤ商会の人間を派遣しておいた。

人員の選別については支配人に任せっきりだけど、有能な彼女の選んだ人間だから、ちゃんと情報収集しておいてくれているはずだ。

「サガ帝国の勇者は後回し?」

アリサの問いで思い出した。

そういえば、サガ帝国の勇者セイギがこの国にいるんだっけ。

「別に絡む必要はないと思うよ」

勇者は勇者で正義を執行しててほしい。

なんていうか、ムダに絡むと余計なトラブルが増えそうな気がするんだよね。

オレ達はそんな話をしながらウリオン中央神殿をお暇する事にした。

「――あら? 聖堂で何かしているのかしら?」

オレがスルーしていた場所を、アリサがめざとく見つけてしまった。

あそこには勇者セイギがいるから、近寄りたくないんだよ。

「行ってみましょう!」

オレが止める間もなく、アリサが聖堂へと走っていった。

「何か催し物をしているんでしょうか?」

「聖堂ですし、神事でも行っていると思います」

オレはセーラに手を引かれ、ゼナさんと並んで聖堂へと向かう。

まあ、試練のターゲットになりそうな巨悪ネタが見つかるかもしれないし、こっそりと覗いてみようか。

◇

「すごい人ですね」

聖堂の扉を開けると、熱気と人々のざわめきが溢れてきた。

見た感じ、聖堂の奥で何かの裁判をしているようだ。

「あれがウリオン神の神器『黄金の天秤』ウリルラーブのようですね」

セーラが人垣の向こうに見える黄金色の天秤を指し示した。

「なんの裁判をしているのかしら? あの裁判官の前にいる青い鎧って勇者じゃない?」

アリサの問いに首肯する。

「もそっと近くで傍聴しましょ」

アリサが人垣の中にぐいぐいと入っていく。

相変わらず好奇心旺盛なやつだ。

「私達も行きましょう」

振り返ってどうするか問うゼナさんとセーラの視線にそう答えて首肯する。

「――俺は無実だ!」

聖堂の中を進むと、聞き耳スキルが人々のざわめきの向こうから裁判の内容を届けてくれるようになってきた。

「俺は彼女を遠くから見守っていただけだ!」

「彼女に許可もとらずにだろ!」

青い鎧を着た勇者セイギは中学生くらいの小柄な少年だ。

見た感じだと、運動部で青春の汗を流すのが好きそうな印象を受ける。

一方で、無実を訴えていた筋肉質な男性には、なんとなく見覚えがあった。

「昨日のパン屋さんの前にいた人に似ていませんか?」

「そうですか?」

セーラは覚えていないようだったが、ゼナさんの言葉で思い出した。

パン屋の前でストーカーじみた行動を取っていた百人隊長氏だ。

「でも、反対側にいる女性にはなんとなく見覚えがありますね」

セーラが勇者セイギが背後に庇っている少女を見る。

食堂にパンを届けに来ていた少女だ。

そういえば、なんとなく心配事がありそうな顔をしていたっけ。

「だから、お前はストーカーだって言っているんだ!」

勇者セイギが叫ぶ。

オレ達が会話している間に裁判が進んでいたようだ。

「すとかあ? 訳の分からん事を言いおって!」

百人隊長氏が叫ぶと、黄金の天秤が少し彼の方へと傾いた。

翻訳できている以上、ストーカーという単語はあるはずだが、彼はその単語の意味を知らないらしい。

「ストーカーも分かんないのかよ、この脳筋が!」

「愚弄するか! たとえ勇者といえど、司法国家シェリファードの一翼を守る百人隊長に無礼だろう!」

勇者の失礼な発言を百人隊長氏が非難すると、さらに黄金の天秤が傾く。

仕組みはよく分からないけど、裁判での主張のやりとりで天秤の傾きが変わるようだ。

「……ストーカー、か」

アリサが小さく呟く。

『ストーカー死すべし、慈悲はない』

眷属としての繋がりから、アリサの心の声が届く。

どうやら、ストーカーに何か個人的な恨みでもあるみたいだ。

「でも、早合点はダメね。事情を把握しなくっちゃ――」

アリサがぶんぶんと頭を左右に振る。

「ねぇねぇ、事情を聞いてもいい?」

アリサが小声で話し始めた。

その視線の先で、パン屋の娘が不安そうな顔でキョロキョロと左右を見回す。

どうやら、空間魔法で彼女と会話を始めたようだ。

「俺は彼女を遠くから見守り、彼女に言い寄る不埒な男達を説得してまわっていただけだ」

『違う、説得なんてきっと嘘。常連の人達、怪我していた』

アリサ経由でパン屋娘の声が聞こえてくる。

「俺は彼女を愛している! 彼女も俺の事を憎からず思っているはずだ」

『本当?』

『ち、違う! あの人はお得意さんなだけ』

『ちょっと困った感じの客ってとこ?』

『うん』

なんとなく事情が見えてきた。

彼女に惚れた口下手な男が、営業スマイルを勘違いして独占欲を暴走させたって感じだろう。

それにしても――。

「なんでこんな小さな事件で神前裁判をしてるんだ?」

「そりゃ、勇者様が原告側に付いたからじゃないか?」

近くの聴衆がしている会話を聞き耳スキルが拾ってきた。

オレと同じ事を疑問に思っていた人間は他にもいたらしい。

サガ帝国と距離が近い国だし、勇者のネームバリューはオレが思っている以上に大きいのだろう。

「そんなのはお前の勝手な思い込みだ!」

「そうかもしれん! だが、それでも俺は彼女の笑顔を守りたかっただけなんだ」

「「「隊長!」」」

勇者セイギが空回りしている間にも、どんどん天秤が百人隊長氏の方に傾いていく。

たぶんだけど、天秤が最大まで傾いたら決着じゃないかと思う。

このままだと、あと1~2回で勇者の敗北で終わりそうだ。

「あー、もう! 見てらんないわ!」

空間魔法で事情を聞いていたアリサが、そう叫んで法廷の中に飛び出した。

とっさに捕まえる事はできたが、熱くなったアリサが無詠唱の空間魔法で近距離転移した方が悪目立ちしそうだったので、そのまま見送ったのだ。

「――異議あり!」

アリサが勇者セイギの横に立って叫ぶ。

「なんだお前は! 神前裁判に乱入するとは神をも恐れぬ愚か者め!」

「弁護人アリサ・タチバナよ!」

裁判官に向かってアリサが堂々と叫び返す。

「こっちのへっぽこ勇者が上手く言葉にできないみたいだから代わりに言ってあげようと思ってね」

「へっぽこだと――」

反論しようとした勇者セイギがアリサを見て言葉を止めた。

異性に免疫がないのか、耳まで真っ赤に染まっている。

勇者セイギが口籠もったのを好機に、アリサがパン屋の娘といくつか言葉を交わす。

「原告の同意が貰えたわ。弁護人交代よ」

裁判長がパン屋の少女が頷くのを確認して裁判継続を認めた。

「私が確認したいのは四つ! 『はい』か『いいえ』で答えて」

アリサが自信ありげに百人隊長氏を見上げる。

「一つ、あなたはパン屋を見守っていたと言っていたわね。それは公務の一環?」

「違う! 善意からだ」

「『はい』か『いいえ』だけでいいわ。どっち?」

「いいえ、だ」

不服そうな顔で百人隊長氏が答える。

「二つ、彼女あるいはパン屋の店主から許可を貰ってから行なった?」

「善行は人知れず行う事が――」

「『はい』か『いいえ』で答えて?」

「ぐぬぬ……」

「どっち?」

「いいえ、だ」

アリサの意図が分かってきた。

百人隊長氏の余計な弁解や弁明を排除し、事実だけをピックアップして、聴衆達の頭を整理させようとしているみたいだ。

「三つ、パン屋の男性客に店に来ないように命じた事がある?」

「不埒な馬鹿者どもを――」

「『はい』か『いいえ』で」

百人隊長氏が押し黙る。

彼から漏れ出る怒気に、アリサの背後のパン屋の娘が顔を青ざめさせている。

「どうしたの? 答えたくない?」

「はい、だ」

にらみ殺さんばかりの百人隊長氏の視線なんて気にせずアリサが問い続ける。

空間魔法の「反射の守り」があるし、百戦錬磨のアリサからしたら百人隊長氏なんて張り子の虎程度の脅威しかないしね。

「次で最後、来ないように命じた客に暴力を振るった?」

「暴力など振るっておらん! いいえ、だ」

百人隊長氏が勝ち誇った顔でアリサを見下ろす。

「嘘だ! 俺がパリオン様から貰ったユニークスキル『 正義心眼 ( しんじつはいつもひとつ ) 』がそれは嘘だと告げているぞ!」

勇者が叫ぶ。

裁判長が背後に控える審議官達を振り返る。

あの審議官達はギフトの「断罪の瞳」と「看破」スキルを持っているようだ。

「被告は嘘の証言をしていません」

「勇者は嘘の証言をしていません」

なるほど、両方が正しいパターンもあるのか。

「なら、最後の質問を変えるわ」

アリサはこのパターンを予想していたのか、動揺する様子もなく質問を続ける。

不意にアリサと視線があった。

「いいえ、もっと良い方法があるわ。ご主人様、ちょっとこっちに来て」

アリサが手招きする。

『ちょっと、パン子ちゃんに言い寄って』

『人柱になれって事か?』

『まーね』

オレはアリサのリクエスト通り、パン屋娘の近くに歩み寄る。

『できれば裁判長と被告のライン上で、よろ』

『分かった』

「君、可愛いね。この裁判が終わったら、一緒に飛空艇でクルージングとしゃれ込まないかい?」

オレはパン屋娘の腰を抱き寄せ、彼女の髪を一房手に取りながら囁く。

「貴様! ウェークィに何をするか!」

百人隊長氏が一足飛びに駆け寄って、オレの襟首を掴んで食い殺さんばかりに睨み付けてきた。

彼は無意識か意識的にかは分からないけど、「威圧」スキルも発動しているようだ。

一般人がこの剣幕で睨まれたら逃げ出しても不思議じゃない。

事実、オレの背後にいる裁判長が短時間だけだけど「恐慌」状態になっていた。

「ご主人様、ありがと。実演はそこまででいいわ」

オレは縄抜けスキルや忍術スキルの助けを借りて、百人隊長氏の手元からスルリと脱出し、法廷の中から退場する。

もちろん、恥ずかしい思いと怖い思いをさせたパン屋娘に詫びてからだ。

「もう一度質問するわ。あなたは今、暴力を振るった?」

「何を見ていた! 振るっているように見えたのか?!」

「質問に答えて」

「振るっていない。いいえ、だ」

アリサはその答えににんまりして、裁判長を振り返る。

「つまり、今のが被告の言う『暴力を振るっていない注意』ってやつよ」

裁判長が神妙に頷く。

今の一連の行いで、法廷の雰囲気がアリサの方に傾いた。

それは僅かに傾きを変えた天秤からも分かる。

今度は傍らのパン屋娘に問いかけた。

「ねぇ、あなたはお客さんに言い寄られたときに、誰かに助けを求めた?」

「い、いいえ。店番をしていたら、よくある事だし……」

「まあ、そうよね」

アリサは更に言葉を続ける。

「彼は国軍兵士の公務ではなく、パン屋の主人や娘からの依頼でもなく、私的な目的でパン屋を監視し、助けも求められていないのに『パン屋の娘に言い寄った』だけの相手に、先ほどのような恐ろしげな態度で威圧した――これはこの国では普通の事かしら?」

そこでアリサは言葉を止めて、聴衆が意味を咀嚼し終わるのを待って、問いを口にした。

天秤がさらにアリサの方に傾く。

「俺はそいつに殴られた!」

「俺もだ!」

「私は小突かれただけだが、二度目はないと脅された!」

どうやら、聴衆の中に百人隊長氏から脅された経験のある人達が交ざっていたようだ。

たぶん、今までは彼が怖くて証言できなかったんだろう。

「あらら? 暴力は振るっていなかったんじゃないの?」

「あ、あれは暴力じゃない! 天誅だ!」

「じゃあ、言い方を変えましょう。来ないように命じた客に『腕力』を振るった?」

百人隊長氏は答えない。

でも、その表情から答えは明白だ。

カーンッと音がして、天秤が完全にアリサに傾いて止まった。

「天秤は示した! これより判決を下す!」

空気だった裁判長が叫ぶ。

最終的に百人隊長には求刑通り、怪我をさせた客への賠償とパン屋娘への付きまといを禁じる判決が下りた。

◇

「ありがとう、アリサちゃん」

勇者セイギがアリサに礼を告げる。

「別に礼はいらないわ。わたしはこっちのパン子――ウェークィさんをストーカー被害から助けたかっただけだから」

アリサのつれない態度が目に入らないかのように、勇者セイギが「謙虚だ」と呟く。

「君のような高潔で弁の立つ人こそ、俺の従者に相応しい! アリサちゃん! 俺の勇者パーティーに入ってくれ!」

勇者セイギがアリサを勧誘しだした。

気のせいか瞳にハートが浮かんでいそうな表情だ。

「嫌よ。従者になるつもりはないわ」

「分かった! 俺も男だ。俺のこ、恋人――いや、嫁になってくれ!」

うわ、断られたらいきなり求婚しだしたよ。

「俺は一途だ。異世界でチート・ハーレムなんていらない! 君だけを愛するから、お、俺のお嫁さんになってください!」

90度にお辞儀したスタイルで、手を真っ直ぐにアリサに差し出した。

子供の頃に見た深夜番組の交際申し込みシーンのような感じだ。

『やーん、アリサちゃん、もてもて~?』

アリサがこちらをチラリと見る。

『さあ、ご主人様、傍観しているとアリサちゃんが取られちゃうわよ~?』

心の声がダイレクトに伝わってくる。

無表情 ( ポーカーフェイス ) スキルの補助を受けつつアリサを眺める。

『あ、あれ? 無反応? も、もしかしてアリサちゃんってば必要とされてなかったり? 不良在庫の処分とか思われてたり? そ、そんな事無いわよね? ね? ご主人様、何か言ってよぉおおおおおおお』

ちょっと面白い感じだけど、これ以上放置すると後のフォローが大変になりそうなので、アリサと勇者セイギの前に足を進める。

「初めまして勇者セイギ殿。私はサトゥー・ペンドラゴン伯爵と言う。アリサは私の大事な仲間だ。悪いが、サガ帝国の勇者相手でも譲れない」

俺は敬語にならないように注意しながら、勇者セイギの視線からアリサを隠す。

『やーん、ご主人様ってばじらしプレイなんて高度なテクニック使うなんて。もう、い・け・ず』

アリサが後ろから背中を指でつんつんと 突 ( つつ ) く。

気が散るので、暴走を始めたアリサの思考をカットしておこう。

「お前よりも俺の方がアリサちゃんに相応しい!」

叫ぶ勇者セイギを、彼の従者が慌てた様子で止める。

「お待ちください、セイギ様。彼はマズいです」

「何がマズい? こいつが貴族だからか? 弱小国の伯爵がなんだっていうんだ! 俺は勇者だぞ! 偉いんだぞ!」

従者らしき美女から耳打ちされた勇者が、駄々っ子のように言い返している。

――子供かっ。

中学生なら、もう少し大人な発言をしそうなものなんだけど、相手が身内だからかな?

「違います、彼はシガ王国――サガ帝国に匹敵する大国の――」

「大国がなんだ! 俺がいなかったら魔王が倒せないんだろ? 大国が相手だって勇者パーティーの人材募集を邪魔する事なんてできないはず――」

「お忘れですか。彼はペンドラゴンです」

「それがどうした! 俺は歴史とか暗記物が苦手なんだ。異世界の貴族の名前なんて覚えているわけないだろ!」

勇者セイギの発言に、従者の女性が頭の痛そうな顔になる。

「もう一度言います。彼はペンドラゴン。魔王殺しのペンドラゴンです」

「ま、魔王殺し? 先代勇者と一緒に二体出た魔王の片方を倒したっていう、あの?」

「そうです。 あの ( ・・ ) 、ペンドラゴン、です」

そんな危険人物みたいな紹介は嫌だな。

「ペ、ペンドラゴンがなんだ! アリサちゃんは俺と来た方がいいに決まってる!」

「ごめーん、パス。わたしってばご主人様と結婚の約束してるからダメなの~」

アリサがオレの腕に抱きついて、猫のように顔を擦りつける。

勇者セイギを挑発しているというよりは、単純に自分の欲望に忠実なだけっぽい。

「し、勝負だ!」

――はあ?

叫ぶ勇者セイギをまじまじと見てしまう。

「俺の方がアリサちゃんに相応しい! だから勝負に勝ったら、アリサちゃんを寄越せ!」

そんな人を物みたいに。

「けちょんけちょんに倒されるのが好み? もしかして、マゾ?」

アリサが勇者セイギを煽る。

「セイギ様、魔王殺し殿は先代勇者ハヤト様に匹敵するレベルという噂です。今のセイギ様では正面からの戦闘では正直危ないかと」

さらに従者の女性が冷静に囁く。

「ち、違う! 殴り合いじゃない!」

従者やアリサを見回して勇者セイギが叫ぶ。

なんどか口ごもってうつむいた勇者セイギが顔を上げる。

何か名案を思いついたような顔だ。

「ここは司法国家シェリファードだ!」

そうだね。

「だから、検挙勝負だ!」

ほう?

「この国を蝕む極悪犯罪組織ドゥヂィを壊滅させた方が勝ちだ!」

「へー、巨悪か……」

――試練のターゲットに丁度、いいかも。

そんな風に考えたのがまずかったらしい。

「でも、受ける気は――」

――ないと言う前に勇者セイギが姿を消していた。

ムダに行動が早いヤツだ。

「いーじゃないの。人捜しでご主人様の右に出る人はいないでしょ?」

アリサがそう言って、パチンと下手なウィンクをする。

まあ、それもそうか。

オレはマップを開いて犯罪組織ドゥヂィを検索する。

その結果は――。

「該当なし?」

※次回更新は 3/11(日) の予定です。

※2018/3/10 「タオルで汗を拭く」シーンの直後に数行追加しました。

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