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16-41.「司法国家」シェリファード(5)

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16-41.「司法国家」シェリファード(5)

※2018/3/25 誤字修正しました。

サトゥーです。自分にとっての正しい事が、万人にとって正しいとは限りません。独善はわりと暴走しやすい気がするんですよね。

◇

「では、このリストにある者達が犯罪組織ドゥヂィなる架空の組織を作り出し、悪事を働いていたと主張するのだね?」

中央司法局の長官がリストを見てため息を吐く。

準備を終えた翌日、オレはウリオン神殿の神殿長や巫女の権力を背景に、中央司法局へと乗り込んでいた。

なお、このリストには長官の名前はない。

「物証がある者は半数程度ですが――」

「その物証とは?」

「それは神前裁判の場で」

オレが長官にそう告げると、リストに名前が載っていた取り巻き達が罵詈雑言を撒き散らした。

まあ、聞き流していたので何を言っていたのか分からなかったけどさ。

「いいではないですか、長官。神や他の議員達の前で我らの潔白を証明すればいいのです」

そう口を挟んだのは、リストの一番上に名前が書かれたイケメン副長官だ。

意外な発言者に、長官が訝しげな視線を向けた。

「 潔白は ( ・・・ ) 『 黄金の天秤 ( ・・・・・ ) 』 が保証してくれます ( ・・・・・・・・・ ) 」

副長官の自信ありげな言葉に、取り巻き達が一斉に口を開く。

「そ、そうだ! 神前裁判に参加する議員達は皆、我らの同胞、司法資格を持つ紳士淑女達だ!」

「きっと、我らの潔白を信じてくれるはず!」

「そうとも! 天秤は常に我らのもとにある!」

きっと彼らも天秤のルールをよく知っているのだろう。

「ペンドラゴン卿、神前裁判をするのは了承しよう。だが、この裁判で君が負けた場合、一国の中枢を担う者達を侮辱した罪を償ってもらう事になるが、それは分かっているのかね?」

「ええ、もちろんです。国家予算に匹敵する罰金でも、魔王を倒した魔剣デモンスレイヤーでも、望みの品を賠償に差し出しましょう」

まずい、少し詐術スキルが暴走気味だ。

魔剣デモンスレイヤーなんて存在しないので、後で作っておかないとね。

「良かろう――」

長官がオレの顔をしばらく見つめた後に首肯する。

この辺りまでは昨晩の内に打ち合わせたとおりの流れだ。

「――ブーパ副長官やお前達もそれでいいな?」

「はい、全ては公正なる法の下に」

長官の念押しに、副長官が皮肉げに答えた。

◇

『アリサ、こっちは裁判を了承させた。そっちのゲストは準備できそうかい?』

『もっちの、ロンよ! なるはやで準備させてるわ』

空間魔法の「遠話」でアリサと話す。

アポイントなしの訪問だったが、アリサの魅力でクリアしてくれたようだ。

『早すぎてもマズイから、タイミング合わせよろしくね』

『おっけー、時計合わせして「誤差なし」ってやる?』

アリサが何かのネタを振ってきたが、特に思い出せなかったので「そうだね」と適当な返事をして、次の相手に通話対象を移す。

『サトゥーさん、こちらの設置もシスティーナ殿下のゴーレム達が手伝ってくれたので、時間までに間に合いそうです』

『ありがとうございます、セーラさん』

広場で映像を放映する設備は設置完了したようだ。

時間までは名画や世界の絶景を順番に表示するようになっている。

裁判の中継をする頃には、人も沢山集まっている事だろう。

『サトゥーさん、ごめんなさい。設営はまだ途中です』

ゼナさんに進捗を確認したら、そんな答えが返ってきた。

『どうかされましたか?』

『はい、初日にお会いした獣人さんが暴漢に追われていたので、それを助けていたので……』

弱者が虐げられているのを見過ごせないゼナさんらしい。

追いかけていたのは、初日に裁判に負けた店主ではなく、同じ店で働いていた人族の男達だったそうだ。

男達はゼナさんが制圧して、衛兵に突き出したそうだ。

『こちらはなんとか時間までに間に合わせます』

『そんなに気負わなくて大丈夫ですよ。すぐに補充の人員を送ります』

人員の調整はこっちの役目だ。

オレは恐縮するゼナさんに問題ない旨を伝え、孤島宮殿のヒカルにヘルプを頼む。

『シガ王国の方を空けちゃっていいの?』

『大丈夫だよ。ここしばらく怪しい動向もないし、監視用のゴーレムやエチゴヤのメンバーもいるしね』

ヒカルにはアリサ達と同じバックドア監視用アイテムを装備させてから、郊外の飛空艇へとユニット配置で移動させ、ゼナさんの設営ヘルプを依頼しておいた。

――ちゅい?

胸元のポケットから顔を出したチュー太を見て、シガ王国の監視ネットワークを形成する賢者鼠達がこっちに来ているのを思い出した。

まあ、漫画やゲームじゃあるまいし、フラグを立てた途端に破滅が始まるような事はないだろう。

◇

「――以上の容疑により、犯罪組織ドゥヂィ事件の容疑者として告発する」

神前裁判の場で告発文を読み上げると、リストに名前の載っていた者達以外からも野次や罵声が上がった。

裁判長がハンドベルのような物を振って「静粛に!」と叫んでいるが、ほとんどの者が口を閉じない。

「静粛に」

オレは風魔法の「広域沈黙」を用いて行儀の悪い者達を黙らせる。

元々は対魔術部隊用の軍用魔法だけあって効果は抜群だ。

元々は「 強制 ( ギアス ) 」スキルを使う案もあったのだが、こっちだと命令に逆らった者が悶絶死しかねないので取りやめた。

オレは裁判長や神殿長、巫女などの事件に無関係の人材の沈黙をキャンセルする。

目配せをすると、声が出る事に気付いた神殿長が口を開いた。

「神前裁判を穢されてウリオン神もお怒りのようですね」

神殿長の宣言に、会場の人達が青い顔になる。

つい最近、天罰によって強大な鼬帝国が一夜のうちに滅亡したのは記憶に新しい。

オレの魔王殺しが伝わっていなくても、鼬帝国の滅亡くらいはサガ帝国あたりから伝わっているだろうからね。

「発言したい者は挙手し、裁判長である私の指名後に発言するように」

裁判長が言わずもがなの事を再宣言したところで、全員の「広域沈黙」を解除する。

「神の名を騙る異国の者に 与 ( くみ ) するか! この売国奴――」

途端に、野次係のおじさんが唾を飛ばしながら罵詈雑言を上げ始めたので、風魔法の「呼吸困難」で少し静かにしてもらう。

これは「窒息」の魔法をアレンジした非殺傷用のオリジナル魔法だ。

安静にしている限りは普通に呼吸できるので、こういう困った人を黙らせるのに向いている。

「静粛に。神の御前である。もう一度忠告する――」

裁判長が先程の注意事項を述べ、ようやくまともな裁判がスタートした。

◇

「――告発内容は分かった。だが、すべて君達が見聞きしただけの噂ばかりではないか。それでは流言飛語と変わらぬ。 卿 ( けい ) は確たる物証をお持ちかな?」

副長官が丁寧な口調で反論する。

冷静な態度が影響したのか、「黄金の天秤」は彼の方に大きく傾いていた。

うん、予定通り。

「ペンドラゴン卿、法廷に物証の提出を」

「承知いたしました。これをご覧下さい――《映像投射》」

オレは懐から取り出したキラキラした謎オブジェクトを取り出して、それっぽい 合い言葉 ( コマンド・ワード ) を唱える。

この謎オブジェクトはアルアという特殊な樹液で作られた宝石を加工したモノで、魔力を流すとキラキラした光がオブジェクトの表面を往来して非常に綺麗なのだ。

ちなみに、このオブジェクトは新進気鋭の芸術家、タマ先生の最新作だったりする。

タイトルは「群れ踊る水飴」だったはずだ。

そんな事を考えながらも、空中にスクリーンを作り出して、昨日録画した映像を表示する。

ついでに、その映像に登場する人達が犯した罪やその事件に関係する証拠をオンスクリーン・ウィンドウに重ねて表示してみた。

「「「おぉおおおお」」」

聴衆が驚いている隙に、次々とウィンドウを増やして録画情報を表示していく。

「あの事件はお前が元凶だったのか!」

「叔父上を害した主犯と繋がっていたのか、貴様!」

「違う、あの映像は何かの間違いだ!」

「そういえば、貴様の屋敷からあいつが出てくるのを見たぞ!」

神前裁判の大広間が喧々囂々の喧噪に包まれた。

いつもなら静粛を求める裁判長も、次々に表示される映像のインパクトに圧倒されているようだ。

まあ、録画機器がフルー帝国時代の希少な発掘品しかないような世界で、近未来的な上映会を開いたら、こんな反応も当然かもしれない。

そして、「黄金の天秤」も聴衆達の深層心理の変化を汲み取ってオレの方に傾いている。

このままなら、裁判の勝利はほぼ確実だ。

でも、それだと ウリオン神の試練の ( ・・・・・・・・・ ) 条件を満たせない ( ・・・・・・・・ ) 。

傾ききった「黄金の天秤」から鐘の音が響く。

その音に喧噪が幾ばくかボリュームを落とす。

「諸君、静粛に――」

狼狽える裁判長に代わって副長官が人々に静粛を求める。

オレは映像を表示したまま、音声をミュートする。

当然、お構いなしに騒ぎ続ける人がいたので、無詠唱の「呼吸困難」で強制的に黙らせておく。

副長官がさっぱりした殉教者のような顔で、傾ききった天秤を指さして言葉を続けた。

「――事、ここに至っては言い逃れもできぬようだ。法の番人を自負していた矜持に従って、全ての罪を認め、刑に服しようではないか」

副長官が周りに呼びかける。

多くの者達は絶望に染まった顔で地面を見つめるが、往生際の悪い者達は起死回生の手段を探すようにギョロギョロした目で周囲を見回している。

そんな副長官を訝しげな目で睨み付けるのは長官だ。

彼には潔すぎる副長官が怪しく感じるのだろう。

そんな長官がオレに視線を移した。

予定通り過ぎる流れに、何か腑に落ちないモノを覚えているのかもしれない。

「異議ある者は名乗り出よ。なければ判決を下す」

裁判長がよく通る声で告げる。

「では――」

判決を述べようとした裁判長の言葉を、扉が乱暴に開かれる音が遮った。

「――異議あり!」

扉の前には青い鎧を纏った少年の姿があった。

※ちょっと〆切りがやばいので短めです。