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16-43.四人の勇者(1)

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16-43.四人の勇者(1)

※2018/4/16 誤字修正しました。

※今回はサトゥー視点ではありません。「三人称」視点です。

「あら? 珍しくセーラが私を頼ってきたと思ったら、あなたの差し金だったの?」

王城の離宮に部屋を与えられていたサガ帝国メリーエスト皇妹の部屋で、客を出迎えたのは彼女の友人にして、オーユゴック公爵の孫娘「天破の魔女」リーングランデだった。

「すみません、だまし討ちのような事をして」

「サトゥーさん、謝る必要はありません。私が面会を望んだ時点で、姉様が気付いていたのは間違いありませんから」

詫びる「魔王殺し」サトゥー・ペンドラゴン伯爵の横で、リーングランデの妹にしてテニオン神殿の元「神託の巫女」セーラがいらだたしげに吐き捨てる。

あいかわらず、セーラは姉へのコンプレックスが強いようだ。

「サトゥーがメリーに会いにきたって事は、メリーや私を嫁にする決心が付いたって事?」

「いえ――」

「違います!」

サトゥーの言葉を遮って、セーラが強い否定の言葉で姉の冗談を斬り捨てた。

リーングランデはそんな妹の態度に不快感を示すどころか、意にも介していないような平静な様子だ。それがまたセーラの苛立ちを誘う。

もっとも、リーングランデの内心は「嫉妬するセーラ、可愛い」と言いたげなニマニマしたモノだった。

「それで、ペンドラゴン伯爵の御用向きは何かしら?」

姉妹喧嘩を呆れた顔で眺めていたメリーエストが、話を進めようとサトゥーに声をかける。

「ハヤト様の次に召喚されたサガ帝国の勇者 達 ( ・ ) についてお伺いしたいのです」

「大陸西方に出かけているはずのあなたが、お忍びで帰国してまで知りたいような事なの?」

メリーエストがサトゥーの真意を推し量るように尋ね返す。

「はい、赴いた国で勇者セイギ殿にお会いしたのですが、彼の話だと他にも勇者がいるという事だったので、メリーエスト様にお話を伺いたく思いまして」

「セイギ殿には尋ねなかったの?」

「もちろん、尋ねましたが、彼の情報は少々主観的すぎまして……」

「まあ、そうでしょうね。従者達には?」

「どうも、従者殿達に警戒されてしまったようで」

サトゥーが恥ずかしそうに頭を掻く。

こういう仕草をすると、大人びた雰囲気の彼も年相応に見えるとメリーエストは思う。

「私にもサガ帝国の皇族としての守秘義務があるの。それは分かっているかしら?」

「はい、それはもちろん。彼らのユニークスキルなどまで教えてほしいとは申しません。私は彼らの人となりやメリーエスト様が感じられた印象をお伺いしたいのです」

サトゥーの返答に、メリーエストがしばし黙考する。

「いいでしょう。将来の夫となるかもしれない相手からの願いです。サガ帝国の利益に反しない程度で良ければお教えいたしましょう」

「ありがとうございます、メリーエスト様」

メリーエストはサトゥーにイスを勧める。

立ったまま喧嘩する姉妹は放置のようだ。

「何から話せばよろしいかしら?」

「では、勇者達の印象を」

「ずいぶん、抽象的な注文ね。まあいいわ」

メリーエストが形の良い足を組み替える。

足首の美しさに見惚れるモノは、残念ながらこの部屋にはいないようだ。

「今はまだ若さゆえの未熟さが目立つけれど、四人の勇者達は総じて『正義を愛する善き存在』というのが私の印象ね」

その発言が意外だったのか、サトゥーがその言葉の真意を探るようにメリーエストの瞳を見つめる。

姉と喧嘩をしていたセーラが、その様子を警戒したのか、姉を放置してサトゥーの横に腰掛ける。

妙にサトゥーとの距離が近いが、サトゥーの方はまるでその事に気付いていないようだ。

「信じられない?」

「いいえ、私が会った勇者セイギもメリーエスト様の評価に相応しい少年でした」

サトゥーの真面目な返答に、メリーエストが吹き出す。

おそらく、サトゥーと勇者セイギの間に2歳くらいしか差がないのに、大人びた発言をする事がおかしかったのだろう。

「ごめんなさい、ペンドラゴン卿を貶めるつもりはないの」

気色ばんだセーラに、メリーエストが素早く謝罪の言葉を述べる。

「今回召喚された勇者が四人なのは知っている?」

「はい、なんでも集団召喚されたとか」

メリーエストの質問にサトゥーが首肯する。

「知っていたのね。とても珍しいけれど、集団召喚自体は過去にもあったわ。大抵は勇者が一人で、周りの子達は巻き込まれただけの被害者の場合が多いのだけれど、今回は全員が勇者という非常に珍しい召喚だったの」

「一人だけ、勇者らしからぬ子もいたけどね」

「リーン、相手はまだ成人前の子供よ。あのハヤトだって、召喚したての頃は浮ついたところのあるお子様だったもの」

勇者ハヤトの召喚時ならば、メリーエストも同じくらい若かったはずだが、サトゥーはそれに突っ込まず、大人しく彼女の語る昔話に耳を傾けた。

やがて、その話も終わり、本題へと戻る。

「ごめんなさい、関係ない話ばかり――」

「いえ、大変興味深いお話でした」

謝るメリーエストに、サトゥーは気分を害した風もなくそう返した。

「まずは、勇者メイコ。あなたも会った事があるんだったかしら? 知っての通り、問題児よ。平和な国で育ったはずなのに、戦闘センスは抜群。それに初期レベルも高かった。召喚当時ならば、あのハヤトよりも強いと断言できるわ」

メリーエスト嬢の言葉にサトゥーは耳を傾ける。

◇◇◆◇◆◆

時を少し遡る――神々の天罰が始まった頃の事。

「――何百年も前に勇者様が封印した『北の果ての魔獣』が復活するなんて!」

「嘆く暇があったら、防衛準備を急げ! 城喰象はもうすぐあの山を越えるぞ!」

「 大怪魚 ( トヴケゼェーラ ) の侵入を阻む、始皇帝の山壁も、結界破りの城喰象には無意味なのか……」

サガ帝国の北端の都市を守る城壁塔の一つで、年若い士官が古参兵に怒鳴られている。

聞く耳を持たない士官の視線は、北方に聳える急峻な山脈へと向けられたままだ。

「将軍閣下、城喰象が食い破った結界から、北海の 大怪魚 ( トヴケゼェーラ ) 達が侵入してくるって事はありませんよね?」

「心配するな、ポリーケスト第三皇女殿下が率いる魔法師団が結界の修復補強に向かっている。前勇者の従者メリーエスト皇女に並ぶ、氷の魔女なら上手くやってくれるさ」

白い髭をしごきながら、将軍が鷹揚に頷く。

やがて、山脈の上にオーロラを思わせる光の波紋が現れ、やがて収まる。

「来たか……」

「皇女殿下は結界の修復に成功したようですね」

「ああ、できればそのついでに倒してほしかったが……」

「城喰象は分厚い岩の身体と強靱な魔法障壁を持つと伝承にあります。いくら皇女殿下でも、個人が倒す事は不可能でしょう」

将軍の視線が、城壁塔の先端で直立する黒髪の少女を捉えた。

「勇者以外は、か?」

「はい――」

将軍の言葉に頷く参謀の顔には、勇者という存在への信頼と年若い少女メイコへの不安が混ざっていた。

その言葉を否定する者もいないまま、山向こうから姿を現した城喰象がサガ帝国の防衛ラインを突破して、北端都市へと迫る。

「――あれが城喰象か」

岩の外皮を持つ城喰象が、九メートル級の軍用ゴーレムを易々と蹴散らしながら進んでくる。

その外皮は勇者の聖鎧を思わせるような蒼い煌めきを持っていた。

「そろそろ射程圏内です。魔法使い達や大型魔力砲での攻撃が始まる頃です」

帝都から派遣してもらった宮廷魔法使い達の放つ上級の火魔法や風魔法も、大型魔力砲の砲撃も、城喰象の魔力障壁を越えた後に霧散する。

「どういう事だ?」

将軍達には知るよしも無かったが、城喰象の皮膚が持つアダマンタイトの結晶が、魔力障壁で威力を減じた魔法を散らしてしまっていた。

無人の野を行くかのように進んでいた城喰象の歩みが止まる。

「勇者だ! 勇者メイコ様が戦っておられるぞ!」

城喰象の鼻による剛打も、吹雪のブレスも、勇者メイコは易々と回避していく。

彼女のユニークスキル「 無敵の機動 ( あたることなし ) 」の力だ。

そして同じくパリオン神から与えられた「 最強の刀 ( きれぬものなし ) 」の力で城喰象の足を斬り裂くが、体格の違いがその与えるダメージを制限していた。

「な、なんだ、あれは?!」

距離を取った勇者メイコが、青い輝きをほとぼしらせる。

そして、その青い輝きが剣の延長に集束していく。

「おぉおおおお」

将軍の見る先で、巨大な光の剣が城喰象を袈裟懸けに斬りつけ、大きなダメージを与えた。

一刀両断にする事はできなかったが、勇者メイコは諦める事なく斬りつけ続け、最後には城喰象を倒してみせた。

「これが勇者の力……」

「先代勇者ハヤト様の力も凄かったが、勇者メイコ殿の力も勝るとも劣らん。パリオン神の遣わされる勇者様がおられる限り、サガ帝国は安泰だ」

勇者を称賛する歓呼の声に紛れて将軍が言う。

その視線の先では、力を使いすぎて気絶した勇者メイコを、彼女の従者達が介護していた。

どうやら、無茶が過ぎたようだ。

この事件の直後、彼女は神託に導かれて鼬帝国へと赴く事になる。

◆◆◇◆◇◇

「自分の限界を知らないのが困りものだけど、勇者メイコの戦闘能力は四人の中で突出しているわね」

「ハヤトと違って、足を止めずに避けながら倒していくスタイルだから、彼女と共に戦場を駆けられる従者がいないのが欠点かしら」

共に前線で戦える従者がいない欠点を補うために、鼬帝国への遠征では一時的にリーングランデ嬢が同行していたようだ。

「ルススとフィフィなら適任だったんだけど、あの二人は勇者メイコと合わなくて、サガ帝国を飛び出していってしまったわ」

サガ帝国を出た勇者ハヤトの従者ルススとフィフィは、国が荒れる大陸西方の国々を巡っているそうだ。

「まあ、勇者メイコはそんなとこかしら?」

「そうね。次は勇者セイギの事を話しましょう」

メリーエストがカップを傾け、喉を潤す。

「勇者セイギは戦いにあまり向かないわね。どちらかというと勇者メイコや勇者ユウキと組むと真価を発揮するタイプかしら?」

◇◇◆◇◆◆

それはサトゥー達が試練としてサニア王国を訪れた頃とほぼ同じ時期――。

「見つけた! 南南西に巣がある。地系の魔物の大集団、少なくとも4桁くらいはいる」

「それは多いですね……サニア王国が近いですし、砂魔蠍の巣でしょう」

勇者セイギの報告を聞いた文官従者が、地図を見ながら対象を推測する。

あいかわらず彼の索敵能力は凄い、と文官従者は思う。

上級の風魔法使いや土魔法使いが大勢いたとしても、ここまでの索敵能力はない。

「南南西って、向こうに見える砂嵐のあたり?」

「砂嵐? 見えないぞ?」

「ジェマは目が良いですからね。遠見筒を使えば見えると思いますよ」

文官従者は伝声管で艦橋に進路を伝え、勇者セイギの調査結果を目視確認に向かう。

「さすがはセイギですね。あの距離から地下に隠れた魔物の巣を見つけるなんて」

「ツェーリス、モリュが何か言いたそう」

兎人の従者ジェマが、文官従者ツェーリスに声を掛ける。

宮廷魔法使いのローブを着込んだ従者モリュが、フードをことさらに引き下げながら挙動不審に文官従者を見る。

「モリュ、何かしら?」

「あの、その、たいしたことじゃ、その――」

「大した事じゃなくても構いません。あなたが気になった事なら、砂漠の砂の色の違いや雲の形がお昼のパンみたいな形だという話でも構わないから言ってください」

扱いにくい人材ながら、従者モリュの魔法知識を文官従者は信頼していた。

「け、結界が、ひう、開いてる。他も、他は綻びだらけだけど、そこだけ綺麗な隙間が、ある」

どもりながら言う従者モリュの報告を脳内で整理する。

「誰かが侵入したのかしら? 伝承だと神話の時代に封じた『陸王』というすごい魔物がいたはずなのだけれど……セイギ、前に勇者メイコが倒した城喰象の気配は覚えていますね?」

「ああ、覚えてる、けど?」

「それなら、あれよりも強い相手がいないか捜してみてください」

「いないよ?」

即答する勇者セイギに「もう一度やってください」と怖い笑顔でリクエストする。

「わ、分かったよ――」

勇者セイギの身体を青い光が流れる。

「んー、やっぱいない――あれ、違った。なんかいる。レトルトパックに入った激辛カレーみたいな感じ。よくわかんないけど、たぶん、めちゃめちゃヤバイのだ」

「封印された『陸王』でしょうか?」

「ツェーリス、艦橋から報告、サニア王国の砂船が岩陰にいるってさ」

文官従者は少し考えた後に、サニア王国の人間が封印の定期的な確認に来ているのだろうと当たりを付ける。

「無意味にサニア王国と揉める必要はないでしょう。サガ帝国にはセイギが見つけたモノを報告するだけにしましょう」

「えー、倒さないの? パリオンから貰った『 断罪の剣 ( せいぎはかつ ) 』なら倒せるってば。経験値稼ぎしようよ」

中級魔族を一撃で倒してから、勇者セイギはユニークスキルの力を過信しているきらいがある。

「サニア王国の人間がおらず、相手が一体だけでいるならそれもありですが、場所が悪すぎます」

それ以前に、勇者セイギ単独では神話の時代からいる伝説級の魔物には勝てないだろうという予想が、文官従者にはあった。

「周りにたくさんの砂魔蠍がいるからな」

「はい、勇者メイコや勇者ユウキならともかく、セイギには無理です」

「俺があの二人より弱っちいって事?」

従者達の会話に、勇者セイギが口を尖らせた。

「違います。相性の問題です」

文官従者がフォローする。

「単独の強敵相手なら、勇者ユウキよりもセイギの方が簡単に倒せるでしょう。ですが、今回は数が多すぎます」

ここであえて勇者メイコの名を挙げないだけの分別が、文官従者にはあった。

「陸王退治は魔物掃除のついでに勇者ユウキにしていただきましょう」

周りのザコはともかく、勇者ユウキの攻撃で伝説級の魔物を倒せるとは文官従者も思っていない。

おそらくは、勇者ユウキが失敗して、四人の勇者の力を結集して戦う事になる。

文官従者はそう予想し、戦いに不向きなセイギが漁夫の利を得られるような方法を模索し始めた。

「ちえー、ユウキばっかずっけー」

「セイギの力は雑兵を倒す為のものじゃありません。あなたの力は魔王を退治するための力ですよ」

不服を言う勇者セイギを、胸元に抱きしめてうやむやにする。

女性経験のない思春期の彼に、その柔らかさに抵抗する 術 ( すべ ) はなかった。

◆◆◇◆◇◇

「まあ、空気が読めないところはあるけど、天罰騒動では一番役に立ってくれていたのよ」

彼のお陰で、無理な偵察で斥候が消耗する事もなく、魔物のスタンピードを押さえる兵力を適切に測れたお陰で、戦力の過不足が起こる事なく効率的な派兵ができたのだ。

「セイギほどじゃないけどユウキも珍しいタイプの勇者よ」

「珍しい、ですか?」

「ええ、魔法使い型の勇者なの」

リーングランデ嬢とメリーエストが三人目の勇者の話に移ろうとした時、部屋に甘い香りがするワゴンを押したメイド達が入室してきた。

「ペンドラゴン卿のお土産でございます」

メリーエストの侍女がそう言って、メイド達にお茶とお菓子の給仕を行わせる。

「せっかくのサトゥーのお菓子ですもの。勇者達の話は後回しにして食べましょう」

「あら? お姉様はお菓子よりお酒の方がお好きでは?」

鼻歌を歌いそうなリーングランデ嬢に、セーラのイヤミがチクリと刺さる。

「サトゥーの持ってくるお菓子は甘いだけの砂糖菓子と違って 好きよ ( ・・・ ) ?」

好きという単語に、いかにも意味ありげな発音を乗せて、リーングランデ嬢が妹をからかう。

「せっかくの美味しいお菓子の話題が未熟な勇者達のお話というのも味気ないですわね。せっかくですし、セーラ殿とペンドラゴン卿の馴れ初めを教えていただけるかしら?」

ケーキを一口食べて頬を押さえたメリーエストが、さらに甘い話のトッピングを求めて、セーラとサトゥーに話を振った。

無表情スキルが支える平静な顔の陰で、サトゥーはどうやって窮地を切り抜けようか、灰色の脳細胞をフル回転させる。

わくわくと彼を見つめる 三対の瞳 ( ・・・・ ) が、彼に逃げ場はないと告げていた。

※次回更新は 4/22(日) の予定です。