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16-45.ピアロォーク王国、奉納試合

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16-45.ピアロォーク王国、奉納試合

※2018/5/5 誤字修正しました。

サトゥーです。スポーツ観戦は好きですが血が飛び散るような格闘技の観戦は苦手です。血が嫌と言うよりは見ていて痛くなる感じが嫌なんですよね。血が出ない柔道なんかの試合は好きなんですけどね。

◇

「大きな闘技場ですね、ご主人様」

リザが貴賓席から黄土色の石でできた闘技場を見回す。

この闘技場はフルー帝国時代の魔法技術を使って作られた歴史ある建造物らしい。

ピアロォーク王国に到着したオレとリザは、まっすぐにザイクーオン中央神殿へと向かったのだが、神殿でただ一人だけ神託スキルを持つザイクーオンの巫女が、闘技場のトーナメントに出場中のため、儀式は彼女の試合が終わってからという事になったのだ。

その為、オレとリザは時間を潰すついでに、人で賑わう闘技場へとやってきていた。

「おっき~?」

「とっても豚さんなのです」

タマとポチの二人がぴょこりと現れた。

飛空艇のゲート経由でオレ達の貴賓席までタマの忍術で移動してきたらしい。

時間からして、お昼休みにやってきたようだ。

『「ガルレオンの戦士」の強さを見せてやれ!』

『ガルレオン神殿の信徒連中なんかに負けるな! 「ザイクーオンの聖戦士」こそ最強だと証明してぇえええ!』

観客達の声援が聞こえてきた。

今回の大会は神事も兼ねた奉納試合らしく、ペアで戦う戦士達は皆神様の名前を冠したチーム名と聖印の入ったマントや鎧を身につけていた。

お布施を兼ねた公認の賭博でもあるらしく、聖印の描かれた賭け札を持つ者が多い。

「次の試合に出る選手達が入場してきたようですね」

ガルレオンは両手持ちの巨大戦斧を持った巨漢の男性と長剣を持った老人の二人組だ。どちらもレベル30台中盤で盾は持っていない。

ザイクーオン側は片手半剣と小盾を持つ美青年神殿騎士と金棒のような長柄メイスと丸盾を持つ女神官の二人組だ。神殿騎士はレベル29、女神官がレベル40というアンバランスな構成をしている。

「神官の方はなかなかやるようですね」

リザの視線が女神官を向く。

「きんにく~?」

「むきむきなのです」

タマとポチがアリサから教わったボディビルのポーズをしながら主張する。

ぷにぷにの身体をした二人がやってもムキムキにはならない。

そんな二人が言うように、女神官は筋骨隆々で世紀末覇者にでもなれそうな屈強な姿をしていた。

女性に対して褒め言葉になるか分からないが、「巌」という言葉が似合いそうな頼もしさがある。

詳細情報によるとノロォーク王国の出身のようだし、迷宮都市に滞在しているミーティア王女あたりに尋ねたら知っているかもしれないね。

「――ですが、本当にあの女神官が件の巫女なのでしょうか?」

「ああ、そのようだね」

リザが腑に落ちないと言いたげな顔だ。

巫女衣装ではなく正神官の衣装を身に纏っているが、彼女に「神託」スキルがある事はAR表示で確認済みだ。

セーラを始めとして、これまで会った巫女にいなかったタイプだから意外だったのだろう。

『いと尊きザイクーオンの御名において、聖戦士セヌマに恩寵あらん事を』

巌の巫女が神殿騎士に聖印を切りながら、なにやら言葉をかけるのを聞き耳スキルが拾ってきた。

神殿騎士の金色のサークレットから黄色い光が溢れる。

あれは――カリナ嬢のラカによる「超強化」状態と同じだ。

「はじまた~」

「戦斧使いが神官、長剣老人が神殿騎士と戦うようですね」

「連携しないのです?」

どうやら、ペア戦なのに一対一の戦いを二箇所で行うらしい。

人間離れした速さで突進した神殿騎士が、先に長剣老人と戦闘を始めた。

「ぼうせんいっぽ~」

「お爺ちゃん、頑張れなのです!」

「神殿騎士の攻撃は鋭く重いですが、老練さがありませんね。あれではそのうち隙を突かれて――」

リザの言葉が途中で途切れる。

彼女が危惧していた通りに、長剣老人の攻撃が神殿騎士の無防備な脇腹に叩き込まれたからだ。

もっとも、リザが言葉を途切れさせたのはそちらではなく、その結果だろう。

「カリナみたい~?」

「黄色い光の小盾が出たのですよ」

タマとポチが言うように、神殿騎士の体表に現れた黄色い光の小盾が、長剣老人の攻撃を受け止めてみせたのだ。

AR表示によると神殿騎士の付けている金色のサークレットは、ザイクーオン神の神器「ザイクカーン」という品らしい。

あの神器のお陰で、格上の長剣老人と互角以上に打ち合えているようだ。

「ぬぅおおおおおお!」

少し遅れて巌の巫女に駆け寄った戦斧男が、その勢いのままに大ぶりの戦斧を叩き付ける。

戦斧男が「剛力」、巌の巫女が「身体強化」スキルを使っているようだ。

「隙だらけ~?」

「斧の下に潜り込んでアキレスハンターするのです!」

タマとポチが拳を振り上げて巌の巫女を応援する。

オレ達の視線の先では、丸盾で戦斧を受け流した巌の巫女がメイスで戦斧男の腕を打つ。

「地味ですが手堅い攻撃ですね」

「じわじわ~」

「斧の動きがギコギコになってきたのです」

痛みで一瞬だけ動きが鈍った瞬間に、巌の巫女がメイスで戦斧男の側頭部を狙う。

腕を犠牲に戦斧男がメイスを防ぎ、反撃とばかりに戦斧男の蹴りが放たれた。

その蹴りを巌の巫女が足を盾にして防ぐ。

「格闘戦なのです!」

「カリナと違う~?」

「カリナ様は足を止めずに動き続けますが、彼らは筋肉に鎧われた身体で打ち合う感じですね」

こっちの二人が戦うのを見ていると、なんとなくプロレスを思い出す。

痛そうな応酬が続いた後、勝利をもぎ取ったのは巌の巫女の方だ。

男前に鼻血を拭いた巌の巫女が、キリリとした顔で仲間の方を見る。

「神殿騎士の方が不利になっていますね」

「無駄多い~?」

「お爺ちゃんの動きが素敵に無敵なのです」

神殿騎士は魔力が尽きかけているし、息も上がっているようだが無傷のままだ。

一方で長剣老人は平然とした顔で神殿騎士の猛攻を捌いているものの、AR表示によるとそれなりに消耗している事がわかる。

長剣老人が鎧の上に着たサーコートのそこかしこが出血で赤く染まっているしね。

「きしゅ~」

「避けちゃったのです!」

後ろから駆け寄った巌の巫女のメイス攻撃を、長剣老人がぬるりと避ける。

神殿騎士が長剣老人の横合いから斬りかかるが、その隙は罠だったらしく、神殿騎士の攻撃が受け流されて巌の巫女の眼前に誘導された。

首を反らして神殿騎士の片手半剣を避けた巌の巫女が、長剣老人に背中を蹴られてよろめいた神殿騎士を受け止める。

「危ない~」

「ピンチなのです!」

神殿騎士の背を狙った長剣老人の突きを、巌の巫女が神殿騎士と身体を入れ替えて防ぐ。

ぞふりと刺さった長剣を、巌の巫女が筋肉の力で締め付ける。

神殿騎士の剣が長剣老人を襲った。

長剣を手放した老人が、手甲で神殿騎士の剣を受け止める。

あの手甲は防御系の魔法道具のようだ。

『手出し無用!』

長剣を投げ捨てた巌の巫女が加勢しようとするのを、神殿騎士が制止する。

そして、そのまま勝負を決めようと、神殿騎士が体重を掛けて剣を老人の方へと押し込んだ。

「あうち」

「へっぽこなのです」

「しかたありません。あれは避けられないでしょう」

額がぶつかりそうな距離まで接近したところで、老人の兜飾りが爆発して小さな散弾を撃ち出したのだ。

距離が近すぎたせいか、超強化による黄色い光の盾でも全てを防ぎきれず、何発かの散弾を喰らって神殿騎士がよろめいた。

神殿騎士から剣を奪った老人が、元の所有者に向けて剣を振り下ろす。

「たっくる~」

「ナイスアシストなのです」

肩から老人に体当たりした巌の巫女が、反動で距離を取って長柄メイスを老人に向けて叩き込む。

老人は数合打ち合ってみせたが、巌の巫女の豪打に耐えきれず剣を手放してしまい、そのまま降参に追い込まれて決着した。

戦闘が終わると、巌の巫女が神殿騎士の傷を癒やそうと詠唱を始める。

「失敗~?」

「ふぁんぶるなのです」

どうやら、回復魔法の発動に失敗したようだ。

巌の巫女がすまなさそうな顔で神殿騎士に詫びるが、神殿騎士は怒気も露わに巌の巫女を押しのけて控え室へと消えた。

自分で決着を付けようとして負けかけたのでバツが悪かったのだろう。

◇

次の試合は「カリオンの魔法戦士」と「テニオンの愛戦士」の戦いだった。

名前には興味が引かれたものの今ひとつ見所がなかったので、闘技場に来る途中の屋台で買ったほかほかの芋料理を皆で食べながら観戦する。

タマとポチの二人は学校でお昼ご飯を食べてから遊びに来ているはずなのに、まだまだ食欲は健在らしい。

はぐはぐと芋を囓る二人を愛でながら、オレも芋を囓ってみる。

シンプルな塩味だ。この国は少し寒いから温かい蒸かし芋が好まれるのだろう。

あまり美味しいお芋じゃなかったので、十字に切り込みを入れてバターを挟む。

あつあつの芋で溶けたバターの良い匂いが、貴賓席のブースにふわりと広がった。

「とれびあ~ん~?」

「ぜったいぜったい美味しいヤツなのです」

尻尾をふりふり差し出してきた獣娘達のお芋にもバターを載せる。

「でりしゃす~」

「しゃわせ~なのです」

「美味です」

そこまで美味しいモノでもないと思うが、三人は極上の料理を口にしたかのように幸せそうだ。

オレはバター乗せ芋を味わいつつ、試合を観戦する。

なんとなく、北海道の雪まつりで食べた「じゃがバター」を思い出す。

結局最後まで見所がないままに「カリオンの魔法戦士」が勝利していた。

「次は『パリオンの獣戦士』と『ヘラルオンの太陽剣士』の戦いみたいだ」

オレは聞き耳スキルが拾ってきた情報を獣娘達に伝える。

「ルスス~?」

「フィフィもいるのです」

闘技場に入ってきた「パリオンの獣戦士」――虎耳族のルススと狼耳族のフィフィを見たタマが耳と尻尾をピンッと立て、ポチが尻尾をぶんぶん振り回して闘技場を指さした。

この闘技場に彼女達がいるのはメニュー情報で知っていたけど、サガ帝国の所属で前勇者ハヤトの従者だった彼女達が、この国の闘技試合に出ているとは思わなかった。

まあ、戦闘狂の彼女達なら違和感がないけどさ。

試合開始と共に一方的な展開で「パリオンの獣戦士」達の勝利となった。

レベル差が圧倒的だし、なにより勇者ハヤトと一緒に過酷な戦場を駆け抜け続けた彼女達の戦場経験は他の追随を許さないだろうからね。

「ルスス強い~」

「フィフィもすごく強かったのです」

「太陽剣士達も弱くはありませんが、さすがに格が違いますね」

獣娘達はできれば自分たちが代わりに戦いたいと言いたげな顔で爛々と瞳を輝かせる。

休憩時間は持ち込みのコンソメスープで暖を取り、しばらくして準決勝が始まるまで、タマとポチから学校のできごとを教えてもらった。

◇

「次は『パリオンの獣戦士』と『ザイクーオンの聖戦士』の戦いのようですね」

ルススとフィフィは連戦だが、どちらかというと「ザイクーオンの聖戦士」側の方が疲労している感じだ。

さっきはワンサイドゲームだったしね。

『いと尊きザイクーオンの御名において、聖戦士セヌマに恩寵あらん事を』

巌の巫女が先ほどと同じ儀式で神殿騎士を「超強化」状態にする。

さっきと違って、神殿騎士は大剣を使うようだ。

『パリオンの勇者の、そのまた従者が何する者ぞ!』

神殿騎士が超高速でルススに迫る。

『我が名は聖戦士セヌマ! 貴様を倒した者の名だ!』

大振りの大剣をルススが掌で受け止めてみせた。

防御力をアップする「金剛」スキルを使いながらだと思うけど、なかなか無茶な事をする。

『だれが、あたしを倒したって?』

ルススが神殿騎士の大剣を握りしめながら、獰猛な笑みを浮かべた。

神殿騎士が必死に大剣を引き剥がそうと頑張っている。

『おとといきやがれ』

大剣を離されてたたらを踏む神殿騎士の腹を、ルススが軽く蹴り飛ばす。

瞬動で先ほどの神殿騎士以上の速さで迫ったルススの追撃を、巌の巫女が長柄メイスのカウンターで防いだ。

『やるじゃん――』

ルススが巌の巫女を称賛する。

『――だけど、少し足りない』

くるりとルススが手首をひねると、巌の巫女の手から長柄メイスが弾き飛ばされた。

『うぉおおおおお!』

巌の巫女ごと斬り捨てそうな軌道で、神殿騎士が大剣を振り下ろす。

『気合いはいいけどさ――』

ルススが巌の巫女を蹴り飛ばして大剣の軌道から避けさせ、そのまま軽く剣を一閃させると、神殿騎士の大剣が彼の手から離れて飛んでいく。

どうやら、あの一瞬で神殿騎士の手首を斬ったようだ。

「ぷらら~ん?」

「千切れそうなのです」

タマが揺れる手首を目で追い、ポチが痛そうに手で顔を覆った。

「――なぜ?」

そう呟いたリザの視線は巌の巫女の方を向いていた。

彼女は地面を転がっていく長柄メイスを無視して、膝をつく神殿騎士の方に向けて神聖魔法の詠唱を始めたようだ。

ルススは追撃もせずにその様子を眺めている。

フィフィは開始位置のまま動く気はなさそうだ。

巌の巫女の使った魔法は中級の回復魔法だったらしく、神殿騎士の手首を再結合してみせた。

『――続ける?』

『いいえ、私達の負けです』

問いかけるルススに、巌の巫女が首を横に振る。

『おい! 俺はまだ戦える! ザイクーオンの聖戦士たるセヌマ様が――』

神殿騎士は巌の巫女の言葉に異を唱えたが、その発言の途中で瞬動で急接近したフィフィに一撃で昏倒させられて地面を転がった。

「巫女の出番は終わったみたいだし、ルススとフィフィに挨拶したら神殿に行こうか。タマとポチも挨拶に行くかい?」

「あい!」

「はいなのです!」

もう一つの準決勝は「ウリオンの法士」と「カリオンの魔法戦士」だったが、前の試合を見た限りではあまり面白そうじゃなかったので、オレ達は後ろ髪引かれる事もなく控え室の方へと移動を開始した。

※次回更新は1日遅れの 5/7(月) になる予定です。